2023年7月7日金曜日

Marianne Huotari – kukkameri Magazine

Marianne Huotari – kukkameri Magazine

Marianne Huotari

Photo by Chikako Harada

マリアンネ・フオタリ

セラミックアーティスト、テキスタイルデザイナー

第1回<前編>

宝石のように小さな輝きを放ちながら

壮大なスケールに挑むアーティスト

大学でテキスタイルデザインを学び、その経験を生かしながら、セラミックアートの世界へ飛び込んだマリアンネ・フオタリさん。何百、何千ものセラミックのパーツを組み合わせて、布を紡ぐように作品を作っています。2023年4月、個展の開催に合わせて来日したマリアンネさんに話を聞きました。

2023年4月に東京で開催された個展「Infinite Bloom」より。Photo by Hanna

――日本では6回目となる個展ですね。どのようにしてテーマを決めているのですか。

M  日本で初めての個展を開催したのは、2018年。スパイラル(東京・青山のアートスペース)で開催しました。ドワネル(東京・外苑前のギャラリーショップ)では、2020年から個展をするようになり、今回で4回目になります。今回のテーマは「Infinite Bloom」。私は、よく花をモチーフに作品を制作していますが、花の惹かれるところは、刹那的な美しさとともに、風に煽られても美しい力強さ。花はいつか枯れるもの。その美しい姿を永遠に残したいという思いがあり、作品にしています。

――作品全体を見ると、優しい色使いなど、世界観が統一されているのがよくわかりますが、近くで見ると、花1つ1つ、花びら1枚1枚に表情があり、個性がありますね。

M  近くで見たときに驚きがあることを大切にしています。ディテールにこだわるのは、結果的に全体の見た目が大きく変わってくると思うから。ディテールが詰まっているところに価値が出る、ダイヤモンドのように輝くものになると信じています。私は元々ジュエリーデザイナーとしてキャリアをスタートさせたので、ディテールにこだわるのはそういった背景もあるかもしれません。

Photo by Erico Ori

私は常にディテールにフォーカスしています。
どうやったらこの小さな世界の中に美しいものを閉じ込められるか、
考えているのです。

――個展会場でお会いしたときに、「実は花を育てるのは苦手」と話されていましたが、部屋に花を飾るなど、普段、花からインスピレーションを得ることはありますか。

M  花を見るのは好きですが、野生の花が一番美しいと感じています。パートナーは花を育てるのが得意で、うちには彼の友人からもらった蘭の花があり、上手に育てていますね。比較的サボテンは育てやすいと思いますが、実はそのサボテンも1つ、私はダメにしてしまいました。ですから、私はセラミックで花のガーデンを育てていかなければならないのです。

――個展では、フルーツや花瓶の陶作品も展示されていました。それらについてもお聞かせください。

M  花の作品と同じで、生きものの一瞬を切り取り、セラミックで表現したいと思っています。実は私はフルーツのアレルギーがあって、普段の生活では関わりをもてないんです。ある意味、禁断の果実のよう。だからこそ、美しいフルーツのきらめきをセラミックに閉じ込めたいのです。

Photo by Erico Ori

――儚いもの、美しいものを永遠に残したいという気持ちは、いつからお持ちなのでしょうか。子ども時代の影響などはありますか。

M  私はありがたいことに、とてもいい子ども時代を過ごしました。両親ときょうだい2人の家族5人で、夏の間は、両親の故郷であるフィンランド北東部、ロシアの国境近くの大自然の中で過ごしました。一番近いお店が50kmも離れているような、本当に自然以外に何もないような場所。湖で釣りをしたり、泳いだり、森でベリー摘みやハイキングをしたりして、自然に対する親近感やリスペクトが養われました。そうそう、よく叔母にはこう言われたものです。「あなたたちは、口の中に蚊が入った状態で生まれたのよ」って(笑)。フィンランド北部は、あまりにも蚊が多いのです。まるで蚊の音楽が聞こえてくるかのよう。

――花やフルーツ以外にもさまざまなモチーフ、スケールで作品を作られていますね。中でもフィンランド伝統のラグ「リュイユ」*をセラミックで作るシリーズは、非常にユニークです。どのようにして、その作風に行き着いたのでしょうか。

*リュイユ:フィンランド伝統の織物。毛足が長いウールを用い、もともとは防寒具として寝具に使われていたが、装飾品として壁掛けや敷物に使われるようになった。

初めて作ったリュイユの作品「Kaiku」。Kaikuは、フィンランド語でやまびこという意味。(2016年)

M  私は大学でテキスタイルを学んでいて、2014年に卒業。2016年にリュイユのコンペティションに参加し、優勝しました。そのときすでにセラミックの作品も作り始めていて、リュイユの羊毛を見ていたら、セラミックでリュイユを作ることを思いついたのです。テキスタイルは、太陽の光を浴びればダメージを受けるし、破けることもあり、損傷しやすいもの。一方のセラミックは硬くて頑丈でありながら、柔らかく見せることもできます。一度作れば、その美しさが永遠に保てるというのに惹かれました。

セラミックで作るときも、伝統的なリュイユと同じ工程を意識しています。羊の毛を刈って、糸を紡いで、染めて、編む。それと同じように、セラミックで1つ1つパーツを作り、それぞれ釉薬を塗って、窯で焼成し、できあがったパーツを縫い合わせていきます。

セラミックでリュイユを作るのは、
軽やかな気持ちを持ち続けたいから。
パーツが動くことで、動きが出たり、音が出たり。
リュイユが本来持っている軽さを表現したいのです。

――そもそもテキスタイルの道へ進んだのはなぜですか?

M  とても自然な流れでした。子どもの頃からクラフトが好きでしたし、クリエイティブな道へ進むこと以外考えたこともなかったです。あとは、母が織物の経験があったのも影響しています。私の周りにはいつもいろいろな素材がありました。小さい頃は、ジャガイモでスタンプを作ったりして遊んでいましました。

――マリアンネさんにとって「リュイユ」とは?

M  私たちにとって遺産だと思います。フィンランドに限らず、スカンジナビアの国々にとって。かつては実用的なものでしたが、現代では、壁に飾るなどよりアート的な存在になっています。1960年代がリュイユの黄金期ですが、近年、リュイユに注目するアーティストが増え、再びリュイユの流行がやってきているように感じます。その中でも、セラミックで作る私のリュイユは、モダンなもの。さらに新しい形に進化させたいと思っています。

リュイユ作品「Juhlista juopuneet」(2021年)。3点のシリーズ作品「Juhlien jälkeen(パーティの後)」の1つ。Photo by Anna Autio

リュイユの歴史を紡いでいくのはとても大切なことで、
受け継いでいきたい。
でもそれと同時に、昔のしきたりを更新し、
進化させたいとも思っています。

――セラミック作品で、一番好きな行程はどこですか?

M  一番アーティスティックな部分、パーツを縫い合わせていく工程です。私がメカニカルパートと呼んでいる、パーツを作る工程は、アシスタントにも作ってもらっています。そうしなければ、自分が作りたいというイメージに手が追いつきません。

M  正直、アシスタントはもっとほしいくらいで、縫うパートも一部お願いしたいと思うのですが、そうすると「変化の自由」が失われてしまいます。思いつくままに変えていきたいので、自由なところは、手放さず持っていたいのです。大事なのは、常にパーツの準備ができているということ。パーツがなくなる心配がなければ、制作の流れはスムーズになります。

左/パーツは、形や色別にストックされている。右/それぞれ質感や色が異なり、1つ1つぶら下げて窯に入れる。

――変化の自由を大切にしているとのことですが、最初のスケッチから完成までの間に、イメージはどんどん変わっていくのでしょうか。

M  実際のところ、スケッチはあまりしません。小さなパーツさえそろっていれば、スケッチなどしなくてもかまわないのです。例えば、スカルプチャーを作る場合、まず金網のフレームを用意します。それから、いろいろな形と色のパーツを見れば、パーツの方が訴えてくるのです。自分はどこにいきたいと。先ほどの、常に自由でありたいという意味では、途中で色を変えることもありますし、パーツの形を変えることもあります。これまでにない新しいパターンで作ることを大事にしています。

展覧会のための作品だけでなく、クライアントから依頼される「コミッションワーク」もあります。その際は、しっかりスケッチをして、お客さんに確認をとってから作っていきます。

コミッションワーク「Fontti」(2022年)。エスプラナーディにほど近い、ホテル「Scandic Helsinki Hub」のロビーに飾られている。

<後編>では、フィンランドの製陶所「アラビア」のアート・デパートメント・ソサエティの一員になったお話や、同じアート・デパートメント・ソサエティの出身である石本藤雄さんから影響を受けたこと、テキスタイルデザインの仕事、日本のブランドのコラボレーションなどについてお聞きします。

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