2023年6月21日水曜日

マルクスの物象化論[新版] (シリーズ「危機の時代と思想」) 佐々木隆治















2023年6月21日水曜日

マルクスの物象化論[新版] (シリーズ「危機の時代と思想」) 佐々木隆治


上位レビュー、対象国: 日本




石村

5つ星のうち5.0 マルクス理論の核心を掴み、資本主義を分析していくために2021年8月9日に日本でレビュー済み

しばらく在庫切れになっていた本書が新版となって復活。増補改訂版に補論4「物象化論と『資本論』第一部の理論構造」が追加されました。

今回の改版で一番大きいのは、版組が横書きから縦書きに変更になった点でしょう。これでグッと読みやすくなった感じがします。装丁も一新されスタイリッシュに。背表紙もいい感じなので、本棚映えも(笑)。造本もしっかりしていて、紙もいいものを使っているので、書籍電子化の流れが進む現在において、紙の書籍を持つ良さを感じさせてくれます。

本書は補論を除き2011年初版刊行時のテキストが基本的にそのまま使われていますが、今回新版入手にあたって一読してみて、その内容がまったく色あせていないことを改めて感じました。むしろ、増補改訂版が出た3年前に比べても資本主義の本性がさらに露骨に現れる場面が多くなって来ているいま、本書で展開されている内容はいっそうの現実味や実感をもって理解できることでしょう。

新版で追加された補論4では、資本論第一部(第一巻)の理論的骨組みが展開されています。新版あとがきでも言及されていますが、「階級闘争の意義が強調されている」のが特徴です。生産過程・再生産過程の物象化が進むなかで、労働者による抵抗の契機をどこに見出していけるのか、『資本論』全体の議論との関連を掴むにはもってこいの一編となっています。

現実がひどくなるにつれて、世界的にも資本への抵抗運動がますます活発になって来ており、若年層を中心としたZ世代による運動も広がりを見せています。世界中で資本と闘う運動と呼応しながら資本主義に抗っていくためにはどうすればよいのか。抵抗のための思考を深めていくためにも、資本主義の根幹を捉える本書の理論は大きな力となると思います。

一方、資本主義はマルクスが『資本論』を執筆した当時から大きく外観を変えています。デジタル化や金融化が進む近年においてはなおさらです。そうした表象部分における変化に惑わされることなく、資本主義の本質をしっかりと把握し、そしてそこから表象に立ち返って分析すること。現代の複雑な情勢を分析するためにも、マルクス理論の核心理解がいままで以上に求められているのです。

斎藤氏の『人新世の「資本論」』が大ベストセラーとなっていますが、その中で展開されている内容の理論的基礎は本書で展開されている「素材の思想」です。本書の「素材の思想」を新MEGAの抜粋ノートを使って発展させたのが斎藤氏の『大洪水の前に』であり、その理論に基づいて現状分析を行い、将来社会の展望を描いたのが『人新世の「資本論」』。『人新世』のなかでマルクスを物足りなく感じた方は『大洪水の前に』、さらには本書を読むのがオススメです。『人新世』で展開されている内容に対する理解も深まることでしょうし、マルクス理論が持つ射程の広さ、現状分析に対する有効性についても実感できるのではないでしょうか。

価格だけ見ると少し高めに感じてしまうかもしれないですが、価格相応の、あるいはそれ以上の内容を持っています。思考が行き詰まった時に立ち返ることのできる理論書として、ぜひ手元に一冊置いてみませんか。
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マルクスの物象化論[新版] (シリーズ「危機の時代と思想」) 単行本 – 2021/7/31
佐々木 隆治 (著)
4.2 5つ星のうち4.2 8個の評価


単行本
¥5,500
獲得ポイント: 165pt
その他のオプションは¥5,149から



精緻かつ独創的なテクスト解釈で高く評価されたマルクス研究の名著、最新の研究成果を反映した「補論」を加え、[新版]として刊行。
資本主義社会を根底で規定する論理、「物象化」とは何か?
詳細なテクスト解釈と新MEGA研究の最新成果をもとに、マルクスの「新しい唯物論」を「哲学」ではなく「批判的・実践的」構えとして捉える新解釈を打ち出し、マルクスがその生涯を捧げた経済学批判プロジェクトの核心的概念「物象化」を解明する。そこから見えてきたのは、気候危機の時代に抗するための「素材の思想」としてのマルクスにほかならない。

『カール・マルクス』(ちくま新書)、『マルクス 資本論』(角川選書)などの入門書を執筆し、正確でわかりやすい解説に定評のある著者による、マルクス理論の核心に迫る本格的論考。

緻密なテクスト解釈を通じて、「素材の思想」としてマルクスを読み、「物質代謝」という概念に着目することの意義を示してくれた本。安易な批判を向けるのではなく、マルクスを丁寧に読み、困難に寄り添うことこそが、その現代的意義を明らかにするのである。(honto「哲学読書室」)――斎藤幸平 大阪市立大学准教授

過去の党哲学的な折衷から自由な若い世代による内在的マルクス研究の展開……
著者の若々しさと妥協をさけようとする強い意志を感じさせる。(『社会思想史研究』書評)――田畑稔(『唯物論研究』編集長)

MEGA研究の最新の成果を反映させる形で、マルクスの物象化論体系にこれまでにない具体的で明晰な解明を提示している。(『季刊経済理論』書評)
――吉原直毅(マサチューセッツ大学教授)


既存社会主義の崩壊後二十余年を経て、ようやく出るべくして出た書……グローバル資本主義を根底から覆すための基礎理論を提供している。(『図書新聞』書評)
――表三郎(予備学校講師)

【目次】
序論

第I部 「実践的・批判的」構えとしての「新しい唯物論」
第1章 マルクスの「唯物論」にかんする諸説
第2章 マルクスにおける「新しい唯物論」
第3章 哲学批判と「実践的・批判的」構えとしての「新しい唯物論」

第II部 物象化論の「実践的・批判的」意義
第4章 物象化論の理論構成
補論1 物象化論と『資本論』第一部第一篇の理論構造
第5章 物象化と疎外
第6章 物象化と所有
第7章 価値の主体化としての資本と素材的世界
補論2 マルクスの賃労働論
補論3 マルクスにおける労働を基礎とする社会把握
補論4 物象化論と『資本論』第一部の理論構造
むすびにかえて

結 論 素材の思想家としてのマルクス
あとがき
増補改訂版あとがき
新版あとがき
人名・著作索引

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