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https://www.tokyo-np.co.jp/article/211171
気候変動対策、市区町村の仕事なの? むしろ「最もふさわしい」と専門家が語るわけ
東京都杉並区の岸本聡子区長が7月、記者会見で気候変動対策などに取り組む意欲を語ったところ、Twitterに「区長の仕事なの?」といった感想がありました。地球規模の課題である温暖化に対して、市区町村レベルで何ができるのか、疑問を抱く人たちはいそうです。
ところが、持続可能な都市づくりを研究する専門家に取材すると、市区町村について「最もふさわしい決定権者かなと思っています」という答えが返ってきました。どういうことなのでしょうか。(デジタル編集部・福岡範行)
◆国や企業が目立つけれど
それもそのはずです。日本で年間10億トンを超えるCO2がどこから出ているのかを調べると、発電所などのエネルギー転換部門や、工場などの産業部門からが6割を超えます。これらの企業に直接、働き掛ける政策としては、どんな発電所を推進するかという国の政策や、CO2を出す量に応じて課税する「炭素税」などがあります。市区町村レベルでは難しい政策分野です。
けれど、CO2が多く出る理由を考えていくと、市区町村のできること、役割が大きくなっていくというのです。
◆ライフスタイルを考える
浅川さんは「そもそも大きな工場や発電所が排出するのは、サービスや商品を供給するから。(サービスや商品を使う)需要側へのアプローチがない限り、温暖化問題は解決しないんじゃないか」と説明します。
つまり、CO2を誰が直接、出したのかではなくて、どの商品やサービスのために出たのかで捉え直し、対策を考えるというアプローチです。ある商品の生産から廃棄までに出てくるCO2を全て足し合わせ、最終的な消費者に紐付ける「カーボンフットプリント」の考え方です。対策では、CO2をたくさん出すことにつながる商品やサービスを避けて、あまり出さないものに変えたり、使い捨てや無駄遣いをやめるなど、利用を減らせる商品やサービスは減らしたりして、生活のあり方を変えていきます。
カーボンフットプリントで考えると、温室効果ガスの6割は、住居や食などの家計消費によって出ています。その内訳は地域差があります。例えば「移動」で出る量は、自家用車の利用が多い地域では多めになり、電車移動が多い東京都区部では少なめになります。対策として車を使わないで済むライフスタイルに変えていこうと考えるときにも、こうした地域事情が大きく影響していきます。
だから、浅川さんは、カーボンフットプリントの観点で脱炭素型のライフスタイルを実現していこうと考えたとき、市区町村といった自治体が「最もふさわしい政策決定権者かな」と感じています。
◆都市計画、福祉、農業…
具体的には、自治体は、どんな対策がとれるのでしょうか。
例えば、都市計画では、住まいや店、公共施設などが近くに集まるコンパクトシティの実現が挙げられます。道路や建物で土地を覆う範囲が少なくて済み、緑地を増やしやすくなったり、車などでの移動が少なくなったりして、脱炭素につながります。歩く人が過ごしやすいウォーカブルシティを実現できれば、車を運転しなくなった高齢者にとっても住みやすくなります。高齢者が歩き回りやすい街にすることは、引きこもり予防という高齢者福祉ともつながる政策です。
食の分野では、牛肉をはじめとした肉を食べる量を減らすことが、温室効果ガスの排出を減らすことになります。肉を食べ過ぎず、野菜を多く取ろうという啓発は、自治体が健康増進に向けて努力してきた分野です。
また、食材を遠くから運んでくることもCO2が出る要因になりますから、地産地消を広げていくことも脱炭素につながります。地域の農業活性化に関わる話です。
浅川さんは「みなさんに認識いただきたいのは『首長さん非常に大事です』ということ」とも語ります。先ほど挙げた具体例のように、脱炭素の政策は環境分野の担当部署で収まる話ではなく、都市計画や福祉、農業など自治体内の部局を超えた連携が必要です。縦割り打破には、自治体のトップである首長の意思が大きく影響します。
◆「我慢比べでは長続きしない」
ライフスタイルの変更は住民の意識を変えるだけでは実現しない、と考えることも大切です。例えば、車の移動が少ない生活に変えやすいかどうかは、公共交通の充実度などの影響を大きく受けます。国や自治体、企業が、ライフスタイルを変えやすい環境づくりをできるかどうかが重要です。
少ない冷暖房で快適に過ごせる上、暮らしに必要な電気は太陽光発電でまかなえるといった「ゼロエネルギー住宅」を普及させる際も、できるだけ手ごろな価格にした方が広がりやすいです。肉の消費を減らすことも、肉食好きの人たちが満足するような大豆ミートが増えれば、やりやすいでしょう。
浅川さんは、本当は肉を食べたいのに無理して食べないようにするといった「我慢比べで脱炭素のライフスタイルをしてしまうと、長続きしない」と指摘します。
◆慣習や文化も踏まえながら
長続きするために、浅川さんは「地域ごとの慣習や文化も丁寧にみていかないといけない」とも語ります。
例えば、この土地は豚の名産地で、どうしても豚肉の消費量が多いといった場合、「豚肉の部分は減らせないけれど、その代わりここの分野は減らそう」といった議論をすることは、できます。
脱炭素にふさわしい画一的なライフスタイルがあって、金太郎あめのようにどの地域もその生活をしなさい、ということではなくて、地域の慣習や文化を踏まえて、住む人たちが大切にしたいことはできるだけ守りながら、その土地にあったライフスタイルのあり方を探ることが大切です。そのときには、無作為抽出を活用して選ばれた住民たちで熟議する「気候市民会議」など市民参加型の取り組みが、力になります。
住民たちの声をくみ取りやすいのは、自治体です。自治体は、地域が目指すライフスタイルの実現のために、国や企業に働き掛ける調整役を担うこともできます。浅川さんは「市民に身近な自治体が一番、適任だ」と考えています。
◆雇用対策でも
脱炭素型社会への転換に伴う雇用への悪影響を抑える観点でも、地域からの動きが重要だと考える専門家もいます。長年、NPO法人「気候ネットワーク」で気候変動対策に取り組んできた平田
脱炭素型への転換では、化石燃料に関連する産業などは失われていくことになる一方で、再生可能エネルギーなどの成長していく産業もあります。その中で、どんな地域づくりを目指すのか、予想される悪影響にどう対策をしていくのか、自治体や企業、労働組合などのさまざまな関係者が話し合い、協力していく必要があります。地域の動きを支える国の支援も必要ですが、平田さんは「国の旗振りがないと厳しいが、待っていられない」と考え、複数の地域に足を運びながら、地元が抱える課題の解決を目指して意見交換を重ねています。
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