2022年11月21日月曜日

Tchernevaの提唱するJob Guaranteeを調べてみた|ゆたちん|note

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Tchernevaの提唱するJob Guaranteeを調べてみた|ゆたちん|note


Tchernevaの提唱するJob Guaranteeを調べてみた

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2022年11月20日(日):新規投稿

前言

この記事を書こうと思ったキッカケ

JGP vs BI
 連日、JGP(Job Guarantee Program)(*)とBI(Basic Income)(*)の議論がネット上で繰り広げられていますが、JGPを肯定する側も否定する側も、多くの方が、自分の考えるJGP像を創り上げた上で話をしています。

 もちろん、中には的確にJGPとは何かを抑えた上で話をされている方もいらっしゃいますが、少数という印象です。

 かくいう私もJGP像を創り上げてる方に当てはまります。今後、支持する方にも批判するに方も、「JGPではこう言ってます」というベースを提供したい、というのが動機になります。なお「JGPでは」にあたる底本は、Tchernevaの『The Case for a Job Guarantee』となります。

JGP像を創り上げてしまう理由
 一つには「日本語に訳された本がない」になると思います。関連するMMT(*)については数冊日本語に訳され、日本人が書いた本も出ております(独自解釈すぎて困るものもあります)。

 しかし、JGPについてはMMTの本の中で軽く触れられる程度で、一冊丸ごとJGPというものは日本語では見たことがありません。

 結果、断片情報から各々JGP像を創り上げネット上で議論することになっている状態だと、私は感じています。

注意事項(保険・予防線(笑))

 今回、初めて英語で政治・経済の本を読みました。常用単語でも政治経済で語る文脈で使われると意味が変わる言葉、俗語、そもそも反論対象となる主流派経済学をある程度抑えていないと理解できないものなど、難しい点が多々ありました。

 自分視点でJGPのポイントとなると思われるところを抜き出して再構成しました。しかし、まだ未熟者の為、大事なポイントを落としている、解釈し間違えてる、構成の仕方に疑問あり、と思われる箇所もあると思います。

 私の翻訳スキルが不足して意訳が難しいことより、「要約」ならぬ「要訳」させてもらいました。但し、抜き出した文章によっては、その短さ故、直訳・意訳になってるものもあります。

 従いまして、ひっかかる点があれば、コメントなどでご質問・ご提案等頂ければ、と思います。

 そして、一番最悪で起きてほしくないのですが、この記事により更にJGPについてネット上での話が混乱しましたら、申し訳ございません。

この記事の構成

 引用英文→要訳→私のなりの説明となってます。

 要訳の右下には、引用した箇所の各章のタイトルと小見出しを記載しました。Kindle版である為ページ数や行数を書けないのはご容赦下さい。

 英文の引用と要訳してますので、文字数が凄いことになっています。長いので、日を分けて読まれることをお勧め致します。また、記載した英文が引用している出典は訳しておりません。

 英語が不得意な方は日本語箇所だけ拾い読みして頂ければ、と思います。

 経済初心者の方につきましては、本文の後に用語解説も付けました。(*)がついたものになります。事前あるいは本文を読みながら戻ってもらいながら確認してみてください。なお、こちらも、私の解釈となりますため、解説内容が間違っていたらコメント等頂けますと幸いです。

 参考文献はWebサイトも含めて用語解説の後に掲載しました。(**)がついたものになります。

 前置きが長くなりましたが、ここから中身のスタートです。


JGPとは(お時間ない方用)

 「5万字も読めない」という方は、こちらの概要だけでもお読み頂けると幸いです。自分が抜粋した中で、「これがJGPかな」というのを集めてまとめてみました。

JGPとは
 国や地域の枠を超え、最終的には地球上のすべてを守ることになる政策です。その「すべて」とは、環境・人・地域・経済・社会を指します。気候変動と不安定な経済は不可分であり、経済を解決するには環境も解決せねばならない、という前提に基づきます。
 我々の生活は公助なしでは成立しません。パンデミックの時に一夜で2.2兆ドルの対策予算を策定し、銀行の不良資産数兆ドルを購入する時にバーナンキが「税金じゃなくコンピュータに打ち込んだだけ」と回答したように、増税することなく政府は支出することができます。従って予算は増税することなく国が支出します。但し、運営は各地方自治体や地域グループにて行います。
 給与額は、JGP施行前時点(現在)の全国平均の2倍になるような時給価格、もちろん基本的な社会保険を追加した金額になり、状況に応じて2,3年ごとに改定を行います。また、JGP業務ごとに給与額に差をつけると内紛が起きる為、全て固定額となります。JGPにてまともな給与水準を決めることで、JGP関係なく社会全体の最低賃金を適正化する効果もあります。
 環境も人も社会も守るため、JGPで就ける職種は条件があります。公共分野にて社会や環境にとって有意義であり、既存職と競合しないものとなります。競合回避は、民間部門や今働いている方をJGPで雇用した人を追い出さないようにする為です。具体的には、各自治体や地域が必要とする職をリストアップして準備する、あるいは、JGP就業希望者に合わせた上記条件を満たす職を創りだします。
 上記職種内容を希望する労働年齢に達した人であれば、過去の職歴・収監歴などに関係なく、全員が雇用機会を得られます。希望者のみとなる為、失業者全員に強制労働させることはありません。もちろん、刑務所にいた方にも雇用機会が与えられることで、「職に就けないことによる再犯」を防ぐ、社会安全保障効果も期待できます。
 このようにまともな給与額と労働環境を創出することで、ブラック経営者とブラック雇用・就業習慣を潰しにいく効果も生み出します。
 長期離職となった場合、採用時に相当不利になる大きな職歴の穴となります。解雇されたとしても、JGPによって雇用実績を作れることで、JGPでの仕事を終え、民間景気が回復して民間に再就業する時に、少なくとも長期離職が原因で書類で弾かれる、ということはなくなります。しかも、JGPの他の仕事、あるいはJGP以外の職に就くとしても、職業訓練などを受けられるので、雇用されやすくなります。安定雇用機会を提供することで、技術革新による大量失業が生まれても、その人の生活、ひいては社会・経済上における有効需要減を緩和します。
 社会全体に視点を移すと、JGPは「雇用のバッファー・ストック」として機能することで、雇用の不安定、生活費の不安定、失業と生活費損失による消費減少から来る企業の売上不信という不安定、それによる有効需要と供給の不安定を解消することになります。結果、失業・価格・インフレ・デフレに対して緩衝もしくは安定化装置として機能します。
 JGPが個人・家族・地域・社会・環境に対して安定装置として機能できることで、「インフレを防ぐ為に多少の国民の失業などの犠牲はやむを得ないから、失業問題については見過ごす」という棄民政策の最先鋒の一つであるNAIRUを真っ向から否定します。
 ただお金さえ渡せば全て解決する、という考え方も否定します。お金だけ渡しても、社会的孤立、将来への不安払拭、はお金だけでは解決できません。また、将来不安があると心理的に消費抑制に働きます。更に、生きていく土台となる地域・環境破壊などの問題は手を付けないことになります。社会的土台を築く仕事を通じて収入を得て、少なくとも長期離職による将来への就業不安を無くすことで、人も環境も地域も社会も経済も安定した基盤を得ることができるようになります。

 次からは「何故JGPはそういうものなのか」という詳細(引用・要約・私なりの説明)になります。

JGPは地球規模に関わる話

In the big battle to save the planet, implementing the Job Guarantee is a comparatively small but critical component.

地球を守るという壮大な戦いに比べると、Job Guaranteeを実施することは小さいかもしれないが、致命的に重大なことである。

6 The Job Guarantee, the Green New Deal, and Beyond
Industrial Mobilization and the Job Guarantee

While the Job Guarantee proposal presented here has been pitched as a nation-specific policy, it could form the basis of a Global Marshall Plan that tackles the twin threats of environmental and economic insecurity. No workfare, no "bullshit jobs," no compulsory work, no digging holes. A global Green New Deal with a green Job Guarantee.

Job Guaranteeは国に特化した政策として提案されてきたものだが、環境と経済両方の不安定さに取り組む地球規模の復興計画の基礎地となりえる。Job Guaranteeは、勤労福祉制度でもなく、「でたらめな仕事」でもなく、強制労働でもなく、穴掘りでもない。地球規模のGreen New DealはGreen Job Guaranteeと共にある。

6 The Job Guarantee, the Green New Deal, and Beyond
Conclusion: The Missing Global Employment Policy

 いきなり壮大な話になりますが、JGPの話は一国の経済や労働制度の話に留まらないようです。JGPは環境保護が大前提であり、それはすなわち地球を気候変動から守ることになるから、だそうです。
 なお、「穴掘り」とは、ケインズが提唱した「不況の時は穴掘って埋める無意味な仕事でもいいから、公共事業として人を雇え」のことだと推測されます。

 まとめると、JGPは地球上のすべてを守ることになりえる、ということになりそうです。

米国での支持率

When the Job Guarantee reentered the political discourse in the US in 2018, a number of surveys tried to gauge its popularity. A Hill-HarrisX poll from October 2019 found that a whopping 78 percent of voters supported the Job Guarantee, including
71 percent of Republicans,
87 percent of Democrats,
81 percent of Independents,
78 percent of leaning Conservative, and
52 percent of strongly Conservative voters.
*"Majority of Voters Support a Federal Jobs Guarantee Program," The Hill, October 30, 2019.

米国でのJGPの支持率は、Hill-HarrisX pollという調査機関によると、2019年10月時点において投票した人の78%が賛同しており、内訳は下記の通りとなります。
共和党の71%
民主党の87%
独立党の81%
保守寄りの78%
強烈な保守層の52%

6 The Job Guarantee, the Green New Deal, and Beyond

 参考程度の情報ですが、あくまでも、調査機関の調査で回答した人の中での数ですが、2019年時点での米国では8割近くがJGPに賛同しているようです。

 後に触れますが、やはり解雇の数が激しい米国では、国が職と給与を保証する制度は多くの方々に歓迎されている、ということなのでしょう。

公助と地方自治

公助

While folklore tells us that there are no guarantees in life, in fact guarantees are everywhere. Most are provided courtesy of the public sector. Some are universal, while others are conditional. Public education, public libraries, public safety, public defenders are just a few universal guarantees.

人生に保証はないと言われるが、実際は公助によって至る所に保証はある。公の教育関連や警察などの安全保障はそのごく一部の例。

3 The Job Guarantee: A New Social Contract and Macroeconomic Model
Guarantees All Around: Public Options and Price Supports

With price support, it guarantees that the price of a good or service never falls below a certain level (e.g., bank deposits or some agricultural commodities).

政府補助によって、価格が保たれている。

3 The Job Guarantee: A New Social Contract and Macroeconomic Model
Guarantees All Around: Public Options and Price Supports

Federal subsidies to industries are in the hundreds of billions of dollars.

連邦政府の各産業に対する補助金は数兆ドルになる。

4 But How Will You Pay for It?
Real versus Financial Costs and Benefits

 どこかの国の宰相は、かつて、パンデミックという非常事態に「自助・共助・公助」という順番で話をしました。私はあの時呆れかえりました。そして「この人じゃだめだ」という予想通り、某政党党首の言葉を借りれば「国民がその気になって総理大臣を首にした」となります。

 あの場違いな宰相はさておいて、我々の生活は公助なしでは成立せず、むしろ公助で支えてもらっているおかげで生活が成立しています

 これを前提にして、JGPの予算は誰が出すの?という話に続きます。

JGPの予算

The public was baited into accepting austerity with the myth that the federal government could run out of funding.

財政破綻はありえるから緊縮しよう、という話に大衆はなびく。

Preface

Almost overnight, the US government passed an unprecedented $2.2 trillion package to tackle the pandemic, with additional spending on the way according to bipartisan consensus.

米国政府はパンデミック対策として2.2兆ドルの法案を一夜で通した。

Preface

Tomorrow, when politicians ask "but how will the government pay for this program," the answer should always be "the way we paid for the pandemic."

JGPの予算はどこから出すの?と聞かれたら、パンデミックの時と同じ、と答えればよい。

Preface

After Congress had appropriated a budget in September 2008 and authorized the Fed to purchase hundreds of billions of dollars of non-performing bank assets, Bernanke clarified: "It's not tax-payer money … we simply use the computer to mark up the size of the account."
*Ben S. Bernanke, Interview with CBS program 60 Minutes, March 15, 2009.

2008年、利払いすらできない銀行の数兆ドルもする資産を国が購入することになった時、バーナンキは「これは納税者のお金じゃなくて、数字をコンピュータに打ち込んだだけに過ぎない」と明言した。

4 But How Will You Pay for It?
Monetary Systems and the Power of the Public Purse の項より

 この辺はMMTの話になりえますが、JGPの予算を出す為に増税する必要は全くなく、パンデミックや不良債権処理の時と同様に「税金じゃなくてコンピュータに打ち込むだけ」と回答して終わりです。

 これを踏まえた上で、国は予算拠出のみ関与し、実運営は各自治体という話に続きます。

国は予算のみを出す 

During Nixon's New Federalism, through a set of policies that were expanded and accelerated by Reagan, the federal government transferred many of its responsibilities for social programs to states. This devolution was adopted on the pretext of allowing for greater state autonomy and flexibility. But, as we will discuss in the next chapter, it turned out to be excessively burdensome to states, which are not monetarily sovereign and do not have the fiscal power of the federal government to support such programs.

ニクソンの新連邦主義はレーガンの時に拡張され、「州の自治と臨機応変な対応が可能となる」という口実で社会保障の責務を各州に移譲したが、各自治体には予算の権限も資金もないので、負担になって終わった。

3 The Job Guarantee: A New Social Contract and Macroeconomic Model
Prevention, Not Just Cure

The program is federally funded but locally administered in a decentralized manner.

JGPは国が一括管理するのではなく、国は支出のみ行い、運営は各自治体にて行われる。

5 What, Where, and How: Jobs, Design, and Implementation
Program Features

The program is better administered in a decentralized manner. Municipalities in cooperation with community groups could conduct assessment surveys, cataloguing community needs and available resources as they design the community jobs banks.

国が統括して行うのではなく、各自治体が地域グループと連携して、その地域に必要で就業可能な仕事を調査して蓄えておく。

5 What, Where, and How: Jobs, Design, and Implementation
Administration and Participatory Democracy

政府はお金だけ出して口は出しません
 ニクソン・レーガンの例にもあるように、予算権限のない各自治体に、予算も含めた責任移譲はできません。従って、JGPの予算については、国が支出を行います。

JGPは中央集権の逆を行きます
 一方JGPの実運営については、各自治体や採用する人に応じて仕事を決める(詳細後述)ので、国の人員だけでそれを全て適切に行うことも不可能となり、実際の運用は各自治体とその地域グループが連携して行う、となります。

 適切に行うことは不可能、という点につきましては、私の個人的な経験則に基づく推測を含めて説明いたします。中央政府と各地域には物理的な距離があり、各地域の実態把握は各地域でないと伝言ゲームになってしまいます。従って、中央政府が全ての地域のニーズを把握し就業準備をするのは難しい、と考えられます。

 よくネット上で「JGPは国が管理監督までするんじゃないか?国が公務員の数を増やさねばならないだろ!」と疑問を呈される方が散見されますが、こういう理由で国は管理監督「は」しません。しかも公務員でもありません。

 続いて、どのような仕事に就けるのか、という話に続きます。職種内容については、ネットでよく反対派からあがる話もあり、少し長めですが、頑張って読んでみてください。

JGPで就ける仕事内容

The Job Guarantee is a public option for jobs.

Job Guaranteeでは、公共側の仕事を選ぶことになる。

Introduction

About a fifth of all jobs are created not for monetary gain, per se, but in order to meet some specific public purpose. Roads must be maintained, schools must be staffed, food and drugs must be inspected, security and justice must be provided.

世の中にある全職種の1/5は営利追及職ではなく、公共の福祉に特化したものである。道路整備、学校の職員、食料や医薬品検査、警察や司法はなくてはならない仕事。

2 A Steep Price for a Broken Status Quo

With the exception of some youth apprenticeship projects, the Job Guarantee would not normally create jobs in the private sector. The focus is on public service employment, so as not to compete with private sector activities…

Apprenticeship制度とは別に、JGは基本的に民間部門ではなく公共サービスでの仕事・雇用創出するため、民間部門とは競合しない。

5 What, Where, and How: Jobs, Design, and Implementation
Program Features

Only the public sector can offer an employment guarantee. It is neither possible nor desirable to oblige firms to do so. Firm hiring is pro-cyclical, while the Job Guarantee is countercyclical. Also the private sector does not create jobs that fit the skills and needs of jobseekers. There, Hiring works the other way around – workers are fitted to private firms' job needs. The Job Guarantee creates more vacancies than jobseekers, thus matching employment opportunities to people's abilities.

公的部門だけが雇用を保証できる。民間部門は求職者に合った仕事を創り出すことはできず、労働者側は民間部門の要求に合わせねばならない。Job Guaranteeでは、それが逆転する。労働者のできる範囲よりも広範な仕事を創り出すことができる、そして、雇用側が労働者に合わせられるのだ。

5 What, Where, and How: Jobs, Design, and Implementation
Program Features

Grants are approved contingent on Creation of employment opportunities for unemployed people; No displacement effect of existing workers; and Useful activities performed, measured by their social and environmental impact.

Job Guaranteeの職務内容は下記条件を満たす必要がある。
 1)失業者に対して雇用機会を創出する
 2)既存の労働者を追い出さない
 3)社会や環境面の影響から考えて有用な活動である

5 What, Where, and How: Jobs, Design, and Implementation
Administration and Participatory Democracy

Despite the glum resignation tech change seems to invite, technology is not the enemy. Jobs are disappearing not because the robots are marching in, but because management, in pursuit of aggressive cost cutting, has pitted workers against machines. Indeed, given the looming environmental problems, technology will be a critical factor in solving them and solving them fast. Does that mean that we cannot find useful things for humans to do? Not at all. Is there a limit to the many ways in which we can serve each other and our communities? Probably not. This is why this Job Guarantee proposal is conceived as a National Care Act. Technological change notwithstanding, we can create many jobs for people that are socially useful. And technology can be embraced as a way of improving our standard of living, not as a force that threatens it.

テクノロジーが原因で人員削減されるのではなく、コストカット狂信者たる経営層が従業員を機械に立ち向かわせているのが原因で人員削減されるのである。環境問題をいち早く解決するためには、テクノロジーは必須であり、人間が社会の中で互助しあえる有効な手段はいくらでも見つけられる。技術革新と雇用創出は両立できるので、テクノロジーは生活を脅かすものではなく、生活水準を改善してくれるものとして受け入れることができる。

5 What, Where, and How: Jobs, Design, and Implementation
On Technology

JGPの職種は公共分野かつ創り出される
 職種は公共分野になります。理由は、JGPは環境保全が大前提であることと、民間には予算制約がある(通貨偽造したら犯罪になります)ので、労働者に合わせた雇用を創り出すことはできないからです。また、公共側に雇用を創り出すため、民間と競合することはありません。

 よくネット上で「JGPで仕事創り出したら民間企業に脅威じゃないか!」という人がいますが、こういう理由により、職種内容で民間部門に圧力かけることはありません。但し、後述しますが、JGPの目的の一つに「ブラック経営を潰す」があり、賃金・待遇・環境においては、ブラック民間企業に大いに脅威となります。

JGPの職種はその人に合わせた職と事前に各自治体で準備した職
 また、「JGPの仕事内容がはっきりしないからJGPはダメだ」とよく言う人がいます。今迄の仕事の在り方と真逆で、雇用創出のプロセスが通常と逆になり、その人のできることに合わせて仕事を創出しますから、最初からどんな仕事があるのかが明確になるわけがないのです。

 同時に、前項目の「国は予算のみを出す」にあるように「各自治体と地域グループで連携して必要な仕事を洗い出す」ことにもなります。このように、予め各自治体が準備している仕事「も」ありますから、全自治体の仕事内容を全て把握するのも個人では難しいです。もちろん、各自治体がJGP職業一覧、とネットで公開してくれれば把握できますが。

JGPの職にも成立条件はある
 完全雇用と環境保全の面から、既存の労働者を追い出す・社会や環境破壊につながるものは、JGPの職務内容として条件を満たしておりません。従って、「自分より優秀な人が入ってきたら人員過剰で追い出される」ということもありません。例えば海洋汚染が伴うような、環境に犠牲を払う仕事はJGPとして認められないようです。

テクノロジーはあなたを追い出さない
 環境保全の面から無機的な機械や技術の仕事はないのかな?と私は当初考えておりました。しかし、JGPにおいては、テクノロジーはむしろ環境問題を解決するのに必要とされ受け入れられるものであるようです。

 そして、仕事がテクノロジーに代替されたとしても、人間ができることは無数にある上、その人に合った雇用を創出します。従って、テクノロジーと完全雇用を両立できるという考えのもと、民間と競合しないなどの条件はありますが、テクノロジー系の仕事もありえる、と推測しています。

 よくBI支持者の方が「将来は仕事をAIやロボットに奪われるから、お金を給付しなければならない」と、テクノロジーを引き合いにしてBIを正当化しようとしてますが、残念ながらそのテクノロジー自体は人間が開発して保守しなければなりません。かつ、人間ができることは無数にあるため、JGPの仕事をAIやロボットに奪われて、JGPの仕事さえも失業する、ということはないようです。

JGPで就ける仕事内容のまとめ
この項目、長いので、JGP職の特色をまとめてみました。
・公共分野で民間と競合しない
・その人に合わせて雇用が創り出される
・各地域にて必要な仕事も洗い出すので、予め用意された職の選択肢もある
・働いている人を追い出さない
・社会や環境にとって有意義な仕事

JGPの3大保護要素

環境・人・地域

The Job Guarantee is organized as a National Care Act that prioritizes care for the environment, care for the people, and care for the communities.

Job Guaranteeは、環境、人、地域への配慮を優先した国による保護政策として構成される。

Introduction

The Job Guarantee is conceived as a national care plan that prioritizes care for the environment, care for the people, and care for the community.

Job Guaranteeは、環境、人、地域への配慮を優先した国による保護政策として着想されている。

5 What, Where, and How: Jobs, Design, and Implementation
Types of Jobs: A "National Care Act"

Rebuilding the environment also means rebuilding communities.

環境再生、即ち、地域再生。

5 What, Where, and How: Jobs, Design, and Implementation
Care for the Community

Industrial policy is not the same thing as full employment policy, though it may temporarily produce full employment during the mobilization phase of the green transformation. The second aspect of the Green New Deal thus ensures that, through a mixture of policy measures, this industrial strategy results in economic security for all. The Job Guarantee is one of those measures. It is the safety net that is especially needed by people who are most vulnerable to the ravages of climate change and most susceptible to mass layoffs in the transition process.

グリーン・トランスポーテーション(*)への移行期間に、一時的に完全雇用を達成したとしても、産業政策は完全雇用政策と一致しないため、グリーン・ニューディールは政策を織り交ぜながら、産業戦略が全ての人にとって確実に経済の安全保障となるようにする。Job Guaranteeはそのうちの一政策であり、気候変動や大量解雇の影響を受けやすい方へのセーフティ・ネットとなる。

6 The Job Guarantee, the Green New Deal, and Beyond
Industrial Mobilization and the Job Guarantee

配慮すべき3要素
 「環境・人・地域を配慮する」という、動詞を一つ変えただけ(organizeとconceive)のほぼ同じ文章が2回書かれております。また、環境再生に力を入れることが、地域再生につながる、ともあります。JGPがその三要素を強く意識して、特に環境再生を強調していることが読み取れます。

 民間である以上、仮に完全雇用を一時的に達成したとしても、予算制約により継続して雇用し続けるのは難しいため、JGは気候や経済の変動により被害を受ける方々の生活を守ることになります。

 どれか一つ成立させるのではなく、全て一斉に守る対象とするのがJGP、となります。続いて、環境保護をしながら、経済や社会にどのような恩恵をもたらすのか、という話になります。

経済や社会への恩恵としてのJGP

Such a program would deliver overwhelming benefits – economic, social, and environmental.

JGPは経済、社会、環境に圧倒的な利益をもたらす

1 A Public Option for Good Jobs

A federally funded Job Guarantee not only produces the highest primary, secondary, and induced employment effects, it also frees states from engaging in an arms race to retain businesses and attract firms from other states.

政府がJGに支出することで、資金調達市場、流通市場、雇用促進効果を最も効果的に生み出すだけでなく、各州が事業継続や他の州から企業を誘致するなどの苦しい競争をせずに済む。

4 But How Will You Pay for It?
Real versus Financial Costs and Benefits

Consider mass incarceration in the US. The average annual cost per inmate in 2015 was over $33,000. That is the equivalent of one living-wage job with benefits per adult for a household with two working adults and two children. In many states the cost per inmate is much higher, sometimes twice the national average. At the same time, the barriers to employment for individuals with a criminal record are very high, while the link between unemployment and recidivism is well established. Total public spending on incarceration has been soaring without reducing recidivism. Yet job programs for former inmates have proven to drastically reduce rates of reoffending. Simultaneously, dismally paid prison labor is used to perform essential public functions(e.g., California pays inmates $2/day and $1/hour to fight its raging wildfires), displacing regular public sector employees.

米国における多くの収監者のことを考えてみると、平均年間コストは囚人一人当たり、2015年では3万3千ドルを超えたが、この価格は、二人の労働者と二人の子どもがいる家計を抱える成人が福利厚生付の生活費を稼げる仕事の給与と同額である。多くの州で、囚人一人当たりの費用はもっと高くかかり、米国平均の2倍になるところが散見される。同時に、犯罪歴のある人が就業するには非常に壁が高く、失業と再犯は強く関連する。収監にかかる公共の総支出は再犯率を下げなかった為、急上昇してきた。元収監者の為の雇用制度は再犯率を抜本的に改善してきた。同時に、至極低給与の刑務作業は、必要不可欠な公的機能を果たし(カリフォルニアでは刑務作業者に1日2ドルと時間当たり1ドルで燃え広がる自然火災に当たらせている)、公的の正規部門の職員を追い出している。

4 But How Will You Pay for It?
Real versus Financial Costs and Benefits

The program is productive because it eliminates the negative return from joblessness, and because it stabilizes the economy better than unemployment.

Job Guaranteeは生産性がある。失業による不利益を排除する上、失業を生み出すよりも経済が安定化するからだ。

5 What, Where, and How: Jobs, Design, and Implementation
On Make-Work and False Choices

JGPによる利益を受けるのは失業者だけではない
 政府がJGPに支出することで、経済・社会に圧倒的な利益をもたらすことについて、下記の項目を挙げています。
・JGPに支出することで、経済的な取引が活発になり、雇用が促進される
・事業継続や他州との誘致合戦に頭を悩まさずに済む
・収監費用低減、再犯率抑制、正規公務員数低下の抑制
・失業によって被る消費減などの経済的不利益をなくせる
・職と収入があることで消費活動への影響も少なくて済む


更生保護就業支援
 後述しますが、JGPは希望する人に雇用の機会を提供するものです。これは、元収容者にも適用されます。無論、何かしらの理由で刑務所を出てこれない方にまで提供はないでしょうけど。

 引用にある通り、収監一人当たりの年コストは相当の費用を要します。元収監者に再雇用の壁が厚いことで、再犯率が上がり、本人にも社会にも脅威を増やすのはよく聞く話だと思います。
 しかも収監されている人については、給与とは言えない程の低給与が支給される刑務作業で公共の仕事を担うこともあり、正規公務員の職を縮小させている場合もあるようです。
 「JGPで就ける仕事内容」にて紹介しましたJGPの特徴の中に、「働いている人を追い出さない」という項目があります。現状では、刑務作業により正規公務員が本来担うべき仕事が縮小され、正規公務員を「追い出し」ているようです。

 この話は賛否両論あるとは思いますが、日本でも、法務省による「更生保護における就労支援(**)」があり、そこでJGPが役割を担えるのではないか、と推測しております。そして、再犯率の原因は明確なのですから、それを抑制する仕組みは必要だと私は考えます。

不可分な2つの問題

The Green New Deal and the Job Guarantee aim to resolve two seemingly distinct, but in fact organically inseparable, existential problems – those of climate change and economic insecurity.

グリーン・ニューディールとJob Guaranteeは気候変動と経済の不安定性という、一見関係がないように見えて実は分割しえない2つの問題を解決することを目的とする。

Introduction

The Green New Deal is an ambitious policy agenda designed to transform the economy and deliver a habitable planet to future generations.

グリーン・ニューディールとは、経済の在り方を変え将来世代に住みよい星を残すという政策である。

Introduction

If your community has been battered by extreme weather disasters or environmental hazards, the program will help staff the cleanup and rebuilding efforts and the region's revitalized fire and flood prevention programs.

気候変動や環境破壊によって住んでる地域が破壊されても、Job Guaranteeを通じて復旧や予防対策を行う。

1 A Public Option for Good Jobs

 グリーン・ニューディールとJGPは気候変動と不安定な経済は不可分であるという立場で両者を解決する政策であり、気候変動への取り組みを通じて不安定な経済も解消しよう、という政策です。前段で述べました「環境・人・地域が保護対象」ということです。
 JGPで就ける職務内容に「社会や環境にとって有意義な仕事」とあるように、ただの雇用保証ではなく、気候変動や環境問題を強く意識した政策になります。
 ここまでで、JGPが立ち向かう二つの要素として、気候変動や環境について引用しました。不安定な経済については分量が多い為、章を分けます。

不安定な経済に立ち向かう

The Job Guarantee deals with two very specific aspects of economic insecurity: unemployment (intermittent or long-term), and poorly paid employment (precarious and unequal).

Job Guaranteeは、間欠的・長期的失業と不公平でおぼつかない低給の仕事に立ち向かう。

Introduction

 この章では、不安定な経済への処方箋として、「職を希望するすべての人に雇用を提供する」、「失業と長期離職」、「JGP職の給与と福利厚生」、「就業バッファー・ストック」について引用しながら、経済の不安定性に対して、JGPがどのように安定化させるのかを見ていきます。前章にある「JGPが経済や社会への恩恵をもたらす」という点について、深化させた内容になります。

JGPを希望する全ての人に

It is a public policy that provides an employment opportunity on standby to anyone looking for work, no matter their personal circumstances or the state of the economy.

Job Guaranteeは個人や経済の状況を問わず、求職者にいつでも雇用を提供する政策である。

Introduction

The guarantee part of the proposal is the promise, the assurance, that a basic job offer will always be available to those who seek it.

Job Guaranteeの「Guarantee」とは、求職者にいつでも雇用を提供するという確約である。

Introduction

When economic conditions are favorable, unemployment and poverty are often believed to be the result of poor initiative (jobseekers have not upgraded their skills), or some other individual moral failing (substance abuse, criminal record, "bad choices" of one kind or another).

経済状況が好ましい時に失業していたり困窮していたりすると、自己研鑽に努めなかった、あるいは犯罪に手を染めた、と大方思われてしまう。

Introduction

What if we devised a system that – rain or shine, "moral failings" or not – guaranteed job opportunities to anyone who wanted to work, irrespective of their experience, training, or personal situation?

経済状況、犯罪歴がどうあろうが、過去の職歴や身上と無関係に、求職者なら誰しも雇用機会を得られるシステムをつくりませんか?

Introduction

With the Job Guarantee, you could find local work in a community project that mattered to you. You could say "no" to an abusive employer if you had a living-wage alternative.

Job Guaranteeがあれば、各地域の中で関心のある仕事をみつけられるし、生活費を心配しなくてよくなることで、ブラック経営者に「No」をつきつけられる。

1 A Public Option for Good Jobs

As a public option, it guarantees universal but voluntary access to a basic public service employment opportunity to anyone who wants one.

自ら手を上げた人で、公共の仕事をしたい人であれば誰にでも、公共側がその雇用を保証する。

3 The Job Guarantee: A New Social Contract and Macroeconomic Model
Guarantees All Around: Public Options and Price Supports

The program is voluntary and inclusive. It is open to anyone of legal working age who wants to work, irrespective of labor market status, race, sex, color, or creed. It is not a replacement for traditional public works or essential government services.

Job Guarantee Programはみずから手を上げることを必要とし、かつ、手を上げた人を受け入れる制度である。法的に働くことができる年齢であれば、労働市場、人種、性別、肌の色、宗派問わず誰にでも門戸を開放する。但し、今働いている公共部門や政府の仕事を、この制度で雇用された人で置き換えることはしない。

5 What, Where, and How: Jobs, Design, and Implementation
Program Features

希望者なら誰でも
 法的に労働可能年齢の条件はありますが、希望者すべてに雇用機会を提供するのがJGPです。但し、公的サービスかつ環境を守る仕事となります。そして、公的サービスの仕事であるが故、民間部門を圧迫することはありません。また、公的サービスの中でも既存の公共側の仕事と被らないため、既存の公的サービスをJGPが奪う、あるいは、そこで働く人を追い払う、ということもありません。

Basic Jobについて
 「basic job」とありますが、こちらは今の私では判定がつきません。考えられる「basic」の可能性が2つあるからです。
 一つは、JGPの性質として、民間や公共、あるいは他のJGPに移れるため、「あなたが抜けたら困る。もっと長く働いてもらわないと。」という性質の仕事は準備できない、という比較的訓練期間が短くて済むという意味の「basic」なのか。
 もう一つは、刑務作業としての鎮火業務にある通り「社会や環境の土台」となる意味の「basic」なのか。

 この点についてはネットでもJGPに対する批判として挙げられる「民間の調子が良くてそちらの雇用に応募する時に、JGPでのbasicな仕事が評価されることはない。」というお馴染みのセリフがあります。
 確かに民間部門や公共の公務員に移るにはそれ相応の経験や資格がないと、少なくとも日本では難しい場合が多いことが見受けられます。
 但し、後述しますが、日米ともに離職期間の長さは採用に大いに不利に働く為、JGPによる確実な雇用はその点でのマイナスを補います。
 また、民間の経済が悪くて解雇された場合のセーフティ・ネットということは、元々、民間での経験は積んでいる為、ズブの素人を雇うよりは採用される可能性は高まるでしょう。もちろん、解雇前と似たような職種、に限定されるかもしれませんが。
 新卒からJGPの職に就いた場合はどうなるか?については、この本は米国で書かれたものなので、日本で適用するにはある程度日本向けに追加・修正が必要な個所かもしれません。
 等々を考えてみると、現時点では私にはこの「basic」が何を意味しているのかは、本を読んでも確定ができませんでした。

強制はしません
 こちらもよくネット上で「JGPは失業者を無理やり働かせる懲役だ」とか言い出す方が散見されます。残念ながら「voluntary」という言葉が使われている通り、希望者のみです。何らかの事情で働けなくなり失業された方(生活保護や障碍者年金受給等)を無理やり強制労働に就かせることもありません。
 しかも環境を守る公共サービスに限りますから、職務内容がどうしても自分に合わなければ応募しない、ということも可能です。

雇用側が応募者に合わせる
 「JGPで就ける仕事内容」にあります通り、通常の雇用は応募する側が会社に合わせますが、JGPは応募者に合わせた職を創り出す故、希望者全員雇用も可能だと考えられます。但し、JGPの前提にある「環境、人、地域の保護」を満たす公共の仕事、そして、既存の雇用と競合しない、等の条件はあります。

 まとめると、職務内容は公共側の仕事で、既存職の方を追い出すことなく、「環境・人・地域の保護」になり、労働年齢に達しているという条件を満たした上で、JGPを希望する方であれば、犯罪歴、人種、過去の職務経歴等に関係なく雇用機会を得られる、になるでしょうか。

失業

The for-profit sector creates the vast majority of employment opportunities, but it is not in the business of hiring everyone who wants to work. As noted, firms hire staff when their sales and profits justify it, but there are many other reasons(apart from deficient sales) why they never employ all of the unemployed.

営利追及企業は大量採用することがあるが、希望者全員を採用する訳ではない。会社の売り上げが上がれば採用するが、売り上げ不振は別にして、失業者は絶対雇わない理由が多くある。

2 A Steep Price for a Broken Status Quo
The Labor Market: A Catch-22 for Many

Firms do not like to hire unemployed people, and especially the long-term unemployed. They prefer to hire people who are already working or have smaller gaps in their work experience. For the unemployed, this is a catch-22.

企業は特に長期離職者を雇いたがらない。現職か職歴の空白が小さい人を雇いたがるので、長期失業者にとっては現職になりたいけれどなれない、という、にっちもさっちも行かない状況に置かれる。

2 A Steep Price for a Broken Status Quo
The Labor Market: A Catch-22 for Many

Furthermore, firms are reluctant to hire long-term unemployed people because they consider nine months of unemployment to be equivalent to four years of lost work experience.
* Stefan Eriksson and Dan-Olof Rooth, "Do Employers Use Unemployment as a Sorting Criterion when Hiring? Evidence from a Field Experiment," American Economic Review, 104(3), 2014: 1014-39.

更に、長期離職者を企業が雇いたがらないのは、9か月離職は4年分の離職と同じと考えているからである。

2 A Steep Price for a Broken Status Quo
The Labor Market: A Catch-22 for Many

The mark of unemployment is their main obstacle to securing a good job. Firms try to avoid the "risk" of hiring and training them, which produces a modern paradox: an economy in which millions are seeking work, while firms fret over finding qualified workers. This paradox is made worse by the fact that, as the economy grows, firms tighten their hiring criteria.

失業状態になると良い職に就きにくくなる。企業は失業者の育成コストを回避するので、大量の失業者がいる経済状況においては、企業は雇う条件を満たす求職者を探すのに難航する。にもかかわらず、経済状況が良くなると、それはそれで採用基準を高めてしまい、更に失業者が採用されにくくなる。

2 A Steep Price for a Broken Status Quo
The Labor Market: A Catch-22 for Many

Not only are they hired last and fired first – and so unable to build up sufficient work experience, gain job tenure, or grow their incomes.

長期失業者は採用されにくく解雇されやすいため、職歴や収入を伸ばすことができなくなる。

2 A Steep Price for a Broken Status Quo
The Labor Market: A Catch-22 for Many

For those left behind in the transition, the living-wage Job Guarantee would be a crucial safety net.

世の中が変わる時に取り残された人にとって、生活費を稼ぐことができるJob Guaranteeは極めて重要なセーフティ・ネットとなる。

6 The Job Guarantee, the Green New Deal, and Beyond
Industrial Mobilization and the Job Guarantee

長期離職者は採用されにくい現実
 企業は様々な理由により、長期離職者を忌避します。私もこのnoteを書いている時点で、コロナ禍もあり、3年近くの長期離職になりました。ネットに登録した転職サイトでは、ちらほらスカウトが来ますが、「ここ3年離職している」と話をすると急に断る、一切連絡来なくなる、など非常に目に見えてわかりやすいです。
 この結果、本当にこの本に書かれている通り、職に就かねばならないのに離職期間が邪魔をしていつまでも就業できない、という状況になりました。

 そして、この離職、特に長期離職については、社会の中で誰からも救われない傾向にあることで、益々「希望者に雇用機会を確約する」JGPの重要性が際立ってきます。

 日本においては、特に氷河期世代でまともな待遇の職に就けなかった方々を救う唯一の方法ではないか、と個人的には考えております。氷河期も含め、世の中の変革期には、今まで就いていた仕事が縮小・廃止になってしまった、ということはあります。そういう時代の流れに対してもJGPがあることで、生活費を稼いで食いつなぎ、民間が回復すれば次の雇用につないでいくことができるのです。
 Job Guaranteeは長期離職や時代の変革が引き起こす悲劇をなくす役割も持ちます

JGP職の支給額と福利厚生

The job component in the Job Guarantee aims to change all that by establishing a decent, living-wage job as a standard for all jobs in the economy, while paving the way for the transformation of public policy, the nature of the work experience, and the meaning of work itself.

Job Guaranteeは、Job Guarantee内の職だけでなく、全職業賃金水準が生活していける適正価格にすることを目標としていて、同時に公共政策の変化・働くことの本質・働くことの意義を変えていく地盤を固めていく。

Introduction

The base wage-benefit package is fixed to establish a price anchor and a firm floor to all wages. The proposed wage is $15 per hour to hasten the national push for doubling the federal minimum wage. Because $15 may well not be enough to maintain living standards in just a few years, the program would have a statutory wage/benefit review every few years to adjust the figure as needed. Benefits include Social Security, health insurance and professionalized childcare, and paid leave (as the US is the only major country without such leave).

基本給と福利厚生を固定することで、価格のアンカーと堅実な最低賃金を確立する。国の最低賃金を2倍にすぐ押し上げる為、時給15ドルが提示価格となる。2,3年もしないうちに時給15ドルでは生活維持するのは難しくなるだろうから、この制度ではJob Guarantee職の法定賃金と福利厚生の見直しを2,3年ごとに行い、必要額を調整する。福利厚生には、社会保険、健康保険、育児手当、有給が含まれる(米国は有給がない唯一の大国であるが)。

5 What, Where, and How: Jobs, Design, and Implementation
Program Features

The aspect that unites all Job Guarantees is the human rights framework and the focus on jobs with dignity and a minimum standard.

Job Guaranteeの共通項は人権の枠組み・人間の尊厳・最低賃金基準を備えた仕事に焦点を当てることである。

5 What, Where, and How: Jobs, Design, and Implementation
Differences from Other Proposals

The proposal presented here favors a fixed living wage with basic benefits, as opposed to tiered wages. A tiered wage structure caused much political wrangling during the New Deal era and ultimately undermined support for many projects.

Job Guaranteeが提言しているのは、段階的に賃金を上げるのとは違い、基礎的な福利厚生と生活費(支給額)を固定させることである。段階的賃金システムでは、ニューディール時代にかなり政治闘争を引き起こし、結果、ひどいことに多くの計画への支援に支障をきたしたからだ。

5 What, Where, and How: Jobs, Design, and Implementation
Differences from Other Proposals

The goal here is to firmly secure the living-wage floor.

目標は確実に生きていける生活費を確保することである。

5 What, Where, and How: Jobs, Design, and Implementation
Differences from Other Proposals

生活していける適切な最低価格
 ネット上にて「JGPでは最低賃金しかもらえない。これでは生活できない。最低賃金で酷使するブラック企業と一緒じゃないか。」という人がいます。残念ながら、ブラック企業どころか、現時点の全国平均の2倍になるような賃金設定にしているので、「最低賃金」という言葉から多くの人が想像するような至極薄給ではありません。この本が出版された2020年時点では、15ドルが時給提示価格となっており、この記事を書いている2022年11月半ば時点で日本円で2100円くらいとなります。

価格改定あり
 しかも米国においてはインフレ傾向であることを踏まえているのか、2,3年で適正価格ではなくなるので、2,3年ごとに福利厚生も含め、価格見直しを行い、適正価格にする、とまであります。
 更にそこに健康保険や社会保険などの基礎的な福利厚生がついてきます。労働時間については言及されておりませんが、少なくとも支給額等については「JGPのどこがブラック労働だ?」と。

社会に生きる全員の最低賃金価格を引き上げる
 その上、JGPにて適切な最低賃金価格を設定することで、JGP以外の職に就いている方々の最低賃金も適正価格に引き上げる目的もあります。これは、「経済や社会への恩恵」をも、もたらしています。

 このように、JGPで支給される最低賃金とは、人権や、人としての尊厳を踏まえた上で、「確実に生活できる」最低賃金という意味であり、日本でよく言われる「この最低賃金では生活が厳しい」という意味の最低賃金ではありません。

賃金価格を固定化する理由
 但し、価格は2,3年ごとに改定がありますが、改定までは価格は固定のようです。詳細はわからないのですが、ニューディールを過去行った時に、段階的な賃金を設定しようとして、他人と差をつけた結果、相当揉めたからだと推測しております。その結果、内紛が起こり、本来支出すべきところに十分支出されないという、悪い結果になったからだそうです。

 まとめると、JGPの待遇は、
・JGP施行前時点の全国平均の2倍になるような時給価格と基本的な福利厚生がついてくる
・2,3年ごとに状況に応じた価格改定が行われる
・JGPでの賃金は内紛防止の為固定化される
・確実に生活できる適切な賃金設定を行うことで、JGP職以外のすべての職の賃金設定も適切にもっていこうとする

となるようです。

就業バッファー・ストック

Even after the Green New Deal has fulfilled its mission, a market economy would still require a Job Guarantee. This is because the program serves as an ongoing shock absorber and a powerful tool for economic stabilization, which is perhaps its most critical macroeconomics feature.

グリーン・ニューディールが達成された後だとしても、Job Guaranteeは緩衝材・経済安定化装置としての役割を担い続ける。

Introduction

The drumbeat of the economy, expanding in good times and shrinking in bad, along with outsourcing and technological change, creates ongoing job losses.

経済状況の良し悪し、アウトソース、技術革新の波に飲まれながら、失業は発生し続けてきた。

1 A Public Option for Good Jobs

The Job Guarantee office is there to help you transition to better-paid employment opportunities in the private or public sectors.

Job Guaranteeでは、民間や公務員の方が好待遇であれば、そちらに移れるように支援する。

1 A Public Option for Good Jobs

When the economy recovers and firms resume hiring, workers would transition from the Job Guarantee program into private sector employment.

経済が回復して企業が採用を再開すれば、Job Guaranteeで働いてる労働者は民間部門に移るであろう。

3 The Job Guarantee: A New Social Contract and Macroeconomic Model
Price Supports, Buffer Stocks, and Living Wages

Governments around the world have employed a range of methods for setting and stabilizing commodity prices. Often this was done via so-called buffer stock programs, where the government would purchase the surplus production of the commodity (say corn) at a predetermined price when demand suddenly fell, and then release it for sale from storage once demand for the commodity recovered.

各国政府はバッファー・ストック・プログラムによって、価格決定と安定化を行ってきた。需要が急激に落ちた時は決定価格で買いつけて蓄えておき、需要が回復したら蓄えから決定価格で放出する。

3 The Job Guarantee: A New Social Contract and Macroeconomic Model
Price Supports, Buffer Stocks, and Living Wages

The Job Guarantee would act as an employment buffer stock scheme with the added benefit that it stabilizes the wage floor, overall prices, and the economy as a whole.

Job Guaranteeは雇用のバッファー・ストック政策として機能する。しかも(生活するに必要な)最低賃金、全品目の価格、経済全体を安定化させるという恩恵付きで。

3 The Job Guarantee: A New Social Contract and Macroeconomic Model
Price Supports, Buffer Stocks, and Living Wages

A commodity can be stored and sold at a later time, but an unemployed person cannot "store" their abilities for resale tomorrow.

品物は蓄えて売ることができるが、失業者は採用需要が活発になった時まで能力を蓄えて採用に結びつけることはできない。

3 The Job Guarantee: A New Social Contract and Macroeconomic Model
Setting the Most Important Price

An employment buffer stock would stabilize the price of a most essential resource in the economy (labor), which is an input of production for any other commodity, thus stabilizing their prices as well. Furthermore, spending on the Job Guarantee program itself would offset deflationary pressures (when it expands in recessions) and inflationary pressures (when it shrinks in expansions). Thus, it would be a superior inflation control mechanism than unemployment.

就業バッファー・ストック機能により、景気後退でJob Guaranteeによる雇用が増えることでデフレを防ぎ、景気拡大でJob Guaranteeによる雇用が縮小するとインフレを防ぐ。その結果、人件費を安定化させることができる。Job Guaranteeは失業より遥かに優れたインフレ制御安定装置となる。

3 The Job Guarantee: A New Social Contract and Macroeconomic Model
Better Control of Inflation and Government Spending

It (Job Guarantee) frustrates the explosive nature of mass layoffs. Without a Job Guarantee, any policy to tackle unemployment (stimulus, tax cuts, income support) always arrives too little and too late while the avalanche of job losses is well underway. But when the Job Guarantee provides employment opportunities to the newly unemployed on standby, it tempers the human yo-yo effect discussed in Chapter 2.

失業が雪崩のように発生している時では、刺激策・減税・収入補助はいつも遅すぎる失業対策となってしまうが、Job Guaranteeによって大量解雇を防ぐことで、ヨーヨー効果(*)を緩和する。

3 The Job Guarantee: A New Social Contract and Macroeconomic Model
Prevention, Not Just Cure

While the Job Guarantee establishes the wage-benefit floor private employers have to meet, it would also serve as a job-placement program. It would allow people to transition from unemployment to employment, and from the Job Guarantee to other private, public, or non-profit work. It would train and prepare them for other employment opportunities via on-the-job training, credentialing, education and other wraparound services.

Job Guaranteeによって、民間が賃金をJob Guaranteeに合わせねばならなくなるので、Job Guaranteeは転職プログラムとなりえる。Job Guaranteeで働きながらOJTを受け、資格を取得し、教区などを受けながら、失業者から就業者へ、そして民間・公共・非営利に再就職することも可能である。

3 The Job Guarantee: A New Social Contract and Macroeconomic Model
Other Benefits: Transition, Pre-distribution, and the Safety Net

The Job Guarantee provides training, education, credentialing, and apprenticeship opportunities to allow people to transition out of the program into other forms of paid work.

Job Guaranteeでは、職業訓練・職業教育・資格・Apprenticeship制度の機会を設けることで、その職が終了しても他の職種に移れるようになる。

5 What, Where, and How: Jobs, Design, and Implementation
Program Features

The private sector would not hire everyone, even when every effort has been made to transition as many people as possible out of the public program. The Job Guarantee would continue to provide an ongoing employment safety net for the rest.

Job Guaranteeから可能な限り多くの人が民間に移れるように努力したとしても、民間部門がその全員を雇用することはないので、民間に採用されなかった方々への雇用保証は継続することになる。

3 The Job Guarantee: A New Social Contract and Macroeconomic Model
Other Benefits: Transition, Pre-distribution, and the Safety Net

状況に応じてJGPに行くことも民間に行くのも止めません
 経済状況には必ず悪化・回復の両方の波があり(日本はなかなか回復しませんが)、JGPは緩衝あるいは安定装置として機能します。
 しかもJGPの職にずっと専従させることもなく、経済状況の回復時にJGP以外の雇用状況が回復すれば「民間などに行くのも可」となります。
 JGPでは、職業訓練なども受けられるので、状況に応じて民間や公務員に戻るもよし、他のJGP職に就くもよし、となるようです。

職歴の備蓄により長期離職を防ぐ
 モノなどは備蓄して、状況に応じて政府が予め決まった金額で放出しますが、職業能力は備蓄ができません。この場合の「備蓄」とは職歴と言ってもいいと思います。なぜなら、離職期間が長く空くと、民間企業はそれは職歴の備蓄ではなく、損失、とみるからです。従って、JGPにて就業することで、「雇用のバッファー・ストック」として職歴を備蓄することができます

経済的な安定装置としても機能する
 「経済や社会への恩恵」として、収入を失わないことにより、消費減退による物価下落も防ぐことができます。即ち、物価・人件費に変動がないよう安定化させることで、デフレ・インフレを抑える制御安定装置になるようです。
 但し、今回のウクライナ紛争のように、有事によるインフレ等の場合は別になると思いますが。

JGPの提供する3大社会的土台

The Job Guarantee offers the basis for a new social contract by establishing a new labor standard, ousting unemployment as a macroeconomic stabilizer, and preventing its social and economic costs.

Job Guaranteeは社会契約となる土台を、以下の方法によって提供するものである。
・新たな労働基準を確立する
・マクロ経済における安定装置としての失業を追放する
・社会的経済的負担を抑える

6 The Job Guarantee, the Green New Deal, and Beyond
Industrial Mobilization and the Job Guarantee

 この章では、「JGPの3大保護要素(環境・人・地域)」に続いて、「3大社会的土台」と題して、「不安な経済に立ち向かう」にあたり、社会的な土台をJGPが築く面について記載していきます。

新しい労働基準

The Job Guarantee ensures that, while we work to protect the environment and transform the economy, we have a policy that protects working people and transforms the work experience itself.

Job Guaranteeは環境保護と経済の在り方を変えながら、労働者を守りつつ労働の在り方そのものを変える。

Introduction

Today, many nations rely on export-led growth for job creation and engage in race-to-the-bottom labor practices to win what is essentially an unwinnable job-creation war.

現在、多くの国にて、雇用創出の為に輸出主導に頼り、実質の勝者なんて誰もいない雇用創出戦争に勝つ為に、低賃金労働で争うレースに執心している。

6 The Job Guarantee, the Green New Deal, and Beyond
Conclusion: The Missing Global Employment Policy

Since the Job Guarantee provides a fixed base wage, it also serves as a price support policy, not only for workers in the program, but also for all workers in the economy. This is because it acts as an alternative to the most undesirable private sector jobs – those with poor pay, abuse, harassment, wage theft, dangerous workplaces, and other problems – thereby establishing the minimum required pay and working conditions for all employers to meet.

Job Guaranteeによって固定給(生活するのに十分な)を得ることにより、働く人すべてにとって、価格安定政策になる。激務薄給などの民間ブラック職場で働く従業員がそこを離れて、生活に必要な最低賃金とすべての労働者に合った労働環境を打ち立てることになる。

3 The Job Guarantee: A New Social Contract and Macroeconomic Model
Guarantees All Around: Public Options and Price Supports

One of the aims of the Job Guarantee is to rethink what constitutes a dignified labor standard – i.e., the minimum acceptable living pay, benefits, working hours and conditions for any working person – and institute this as a program feature. Another is to put an end to the business practice of paying starvation wages.

Job Guaranteeの目的の一つは、あらゆる人にとって生活に必要な最低限の給与価格、福利厚生、労働時間、労働状況等の人間の尊厳に配慮した労働基準の立て直しを再検討して、Job Guaranteeの内容として確立することである。もう一つは、食べていけないような低賃金しか払わないというブラック商習慣に終止符を打つことである。

3 The Job Guarantee: A New Social Contract and Macroeconomic Model
The Labor Standard and the New Social Contract

We transport ourselves, feed and clothe ourselves, entertain ourselves, and educate and heal ourselves. But many of these jobs are undervalued and underpaid. How can we do for service jobs what we once did for manufacturing jobs? Minimum wage and work safety laws are not enough.

交通、飲食、服飾、娯楽、学習、癒しなどの職の多くが低評価を受け低賃金にさせられている。そのようなサービス業の評価及び賃金が、製造業と同等になるようにするには、(現行の)最低賃金と労働基準法では不十分である。

3 The Job Guarantee: A New Social Contract and Macroeconomic Model
Boon to the Service Sector

Most service sector jobs cannot be outsourced easily.

殆どのサービス業は簡単にアウトソースできない。

3 The Job Guarantee: A New Social Contract and Macroeconomic Model
Boon to the Service Sector

Schools, grocery stores, restaurants, transportation, home repair services, health clinics, dialysis centers, retirement homes, golf courses, and theaters cannot be shipped abroad. Nor are they being radically automated. The primary threat hanging over workers in this sector is not outsourcing or automation, but downsizing, pay cuts, harassment, benefit loss, or other difficult working conditions employers create in the race to cut costs. A worker has no power to say "no" to a bad job unless they are guaranteed the option of a good job with decent pay.

学校、食料品店、レストラン、交通、家の修繕、透析検査所、老人ホーム、ゴルフ場、映画館は海外に輸出できない上、完全に機械化することも無理である。このような部門で働く方々にとっても最も脅威なのは、アウトソーシングや機械化ではなく、事業縮小、賃金カット、嫌がらせ、福利厚生カット、その他雇用主がコストカットレースで作り出した劣悪な労働条件である。まともな給与とまともな仕事を確保できて、初めて劣悪な仕事に対して「No」と言うことができる。

3 The Job Guarantee: A New Social Contract and Macroeconomic Model
Boon to the Service Sector

One major goal of the Job Guarantee is to disrupt those businesses that can only be successful by paying poverty wages.

Job Guaranteeの主な目的の一つは、ブラック経営でうまくいっているビジネスを邪魔することである。

5 What, Where, and How: Jobs, Design, and Implementation
On the Program's "Disruptive" Effects

 Job Guaranteeは「環境・人・地域」を保護します。その中の「人」を保護するために新たな労働基準を打ち立てます。その為に、ブラック経営商習慣を潰しにかかります

 コロナ禍やウクライナ紛争により、日本では、生産拠点の国内回帰が始まってますが、この本が書かれた2020年くらい(コロナ禍開始前)までは、より安い人件費の国に自国の労働を移すコストカットレースが活発化し、労働条件はどんどん悪化していきました。非正規従業員の割合が増加していったことをみれば、悪化していることは納得頂けると思います。

 サービス業は、全てではないですが、低賃金国へのアウトソースができない為、アウトソーシングよりも、雇用主によるコストカットレースにて従業員給与や労働条件が脅かされております。
 彼らを守るには、現行の最低賃金と労働基準法では、サービス業より高い評価と賃金を得ている製造業と同等にすることはできません。

 Job Guaranteeでは、前段でも書かれた通り、全国平均の2倍の時給を出します。極貧薄給のブラック労働環境に対して「No」をつきつけて、その経営者から解雇されても、JGPによる人間の尊厳が守られた職と環境で食べていけるようにします。

 逃げられたら困る経営者は給与や労働環境をを適正にするしかなくなります。このようにして、新たな労働基準を打ち立て、ブラック労働環境を撲滅し、労働者の尊厳を守ります。

打倒NAIRU(*)

Without an employment safety net, the goal of a useful and remunerative job for all was abandoned and the new zombie full employment concept – the NAIRU – was born.

(第二次世界大戦後)雇用のセーフティ・ネットがなかったため、実益を得られる職を全ての人に、という目標は破棄され、NAIRUというゾンビのような完全雇用の観念が生まれてしまった。

6 The Job Guarantee, the Green New Deal, and Beyond
Industrial Mobilization and the Job Guarantee

At bottom, the Job Guarantee is a policy of care, one that fundamentally rejects the notion that people in economic distress, communities in disrepair, and an environment in peril are the unfortunate but unavoidable collateral damage of a market economy.

Job Guaranteeは保護政策である為、経済的に苦しくなること・住んでる地域が毀損すること・危機的環境の中で過ごすことは、可哀そうだけど、市場経済においては避けることができない巻き添え事故だから仕方ない、という考えは根底から否定する。

Introduction

Hiring the involuntarily unemployed serves an important public purpose of its own – one that has been neglected largely because unemployment has been accepted as unavoidable and, even worse, as necessary for economic stability.

非自発的失業者を雇用することは、公共が担うべき重要なことなのに、失業は避けられないどころか、経済を安定化するには必須だとして、失業問題は放置され続けてきた。

2 A Steep Price for a Broken Status Quo

Unemployment is sanctioned by government policy. The NAIRU has been used to rationalize policy responses that permit the deliberate slowing down of the economy and the increase of joblessness to tame inflationary pressures, thus reinforcing the existence of much economic hardship.

失業は政府の方針で許容される。インフレを抑制する為に、意図的に経済を鈍化させ失業率を増やし、経済的に厳しい状況を強めることを、NAIRUは政策として正当化してきた。

2 A Steep Price for a Broken Status Quo
How "Natural" is Unemployment?

Just like we do not talk about the "optimal level" of homelessness or illiteracy, the notion of "optimal unemployment" would not survive long if economists took full account of its social and economic costs.

住む家がないことや読み書き能力のなさの「適切なレベル」について話題をすることがないように、経済学者が社会的経済的なコストについて熟慮するのならば、「適切な失業者」という考えが長く残存することはない。

2 A Steep Price for a Broken Status Quo
Unemployment is Expensive

Even central banks with a dual mandate prioritize fighting inflation over fighting unemployment. And if the policy priorities were reversed, there is little reason to believe they could pin the unemployment rate at the "desirable" level, much less create conditions where anyone who sought work could find it.

物価安定と雇用最大化を課されている中央銀行でさえも、失業対策よりインフレ対策を優先してしまっているが、その優先順位が逆になれば、失業率が望ましいレベルであると信仰する理由はほぼなくなり、むしろ求職者全員が雇用される状況を創り出すことになる。

2 A Steep Price for a Broken Status Quo
A Broken Status Quo: Policy Responses

Fiscal policy hasn't done a good job of tackling unemployment either, even though it has more tools at its disposal. It was demoted in the post-Reagan era and paired with deregulation, wage suppression, and trickle-down policies that masqueraded as sound economic policy. The result was the greatest transfer of wealth to the top and the slowest payroll employment recovery rates in the postwar era.

金融政策は、裁量権の多さをもつ手段であるにも関わらず、失業対策についてはいい仕事を全くしてこなかった。それどころか、「健全な経済政策」という嘘で塗りたくられた規制緩和・賃下げ・トリクルダウンと組み合わされて、レーガン時代の後はさらに悪化した。結果は、富が富裕層に集まり、戦後最低の賃金上昇率となった。

2 A Steep Price for a Broken Status Quo
A Broken Status Quo: Policy Responses

Without the Job Guarantee, all countercyclical policies (however weak or strong) by necessity continue to use unemployment to soften economic fluctuations.

Job Guaranteeがないと、全ての反循環政策(*)は、弱かれ強かれ、必然的に経済の振れ幅を少なくする為に失業者を利用し続けることになる。

3 The Job Guarantee: A New Social Contract and Macroeconomic Model
Automatic Stabilizers: Guaranteed Employment or Guaranteed Unemployment?

The Job Guarantee absolves the policy maker from having to choose between unemployment and inflation.

Job Guaranteeがあれば、議員は失業とインフレの間をとる、ということをせずに済む。

3 The Job Guarantee: A New Social Contract and Macroeconomic Model
Automatic Stabilizers: Guaranteed Employment or Guaranteed Unemployment?

NAIRUという棄民政策
 NAIRUという考えを最初に聞いた時は衝撃的でした。政府はインフレを抑えるためであれば、多少の犠牲もやむを得ない、と失業者を生み出すことを正当化する、なんと恐ろしくて政府の責任放棄を擁護する考えがあったのだ、と。

NAIRUの矛盾と残虐性
 仮にNAIRUが正しいのであれば、失業者はインフレ抑制に寄与しているのですから、何らかの形で失業者に報いるべきですが、それは全くみられません。特に、長期離職者は民間も公共も雇わないです。

 そういうことまで考えると、NAIRUという理論は出鱈目もいいところで、政府の政策が失敗して失業者が出ることを擁護するために、でっちあげた話なのでは?と疑問を呈さずにはいられません。

 日本政府がコロナ等で苦しんでいる状況で消費税を10%にしたまま「コロナ禍なのに税収が上がった」と鬼畜のような考えをもつのは、主流派経済学がインフレに対してあまりにも過敏すぎであり、インフレを抑えることが絶対正義であり、インフレが起こらなければある程度の国民の人命や生活はないがしろにしていい、という考えのもとに減税もしなければ増税ばかりを主張するのかな、という仮説が私は浮かびます。

JGPはNAIRUを覆しにいきます
 JGPはそんな棄民政策・政府の責任放棄であるNAIRUにも立ち向かいます。政府が失業対策にとりくまず、むしろ失業者を一定程度生むことを称賛するのであれば、JGPは失業者を減らし、その人の生命・生活を保ちつつ、物価や経済変動を安定化させにいきます。

失業による社会的損失

For survivors and their families, unemployment is extremely costly. But it brings large costs to the wider economy as well.

失業となっても生き抜く人や家族にとって、失業は極度に高くつくだけでなく、より広範囲な経済においても大きな負担となる。

2 A Steep Price for a Broken Status Quo
Unemployment is Expensive

Joblessness, it turns out, is its own catch-22 – creating the difficult personal and health conditions that prevent a person from escaping it. This paradox is made worse by the fact that unemployment drastically and permanently reduces a person's social capital and participation, cutting them off from social networks and relations that are, for many, the bridge to re-employment. The isolation that unemployment brings is compounded by other well-documented scarring effects, such as permanent decline in wellbeing, which linger even after a person has been reemployed. One study found that, of the total costs of unemployment, the nonmonetary costs are between 85 and 93 percent, overwhelming the costs of a permanent loss of income. This suggests that policies which mainly focus on providing income to the unemployed would be inadequate.

失業によってにっちもさっちもいかなくなると、健康や健康以外の状況が悪化することから逃れられない。多くの人にとって再就職の架け橋となりえる社会的つながりから切り離されることで、決定的かつ永続的に、失業者の資本と社会参加の機会を減らされる、という事実によって、失業者の状況は悪化する。失業による隔絶は、たとえ再就職できたとしても、幸福度が下がり続けるというトラウマによって更に悪化する。ある研究によると、失業時の総損失中、お金以外の損失が85から93%を占め、収入が入ってこないという損失を圧倒する。これは、失業者にお金を渡すことのみ注力する政策は不適切である、ということを示す。

2 A Steep Price for a Broken Status Quo
Unemployment is Expensive

Unemployment Insurance (UI) and Temporary Assistance to Needy Families (TANF), for example, help put a floor on collapsing demand, but they do not deal with the psychological effects of uncertain job prospects. Families who count on small and short-lived unemployment benefits cut their spending much more drastically than families who know that a living-wage job option is just around the corner.

失業保険や困窮家庭への一時補助は、需要減退を防いだとしても、次の仕事が見つからないという心理的不安は癒さない。しかも、少額かつ短期間の失業補償頼みの家庭では、「生活を維持できるだけの給与をもらえる仕事をすぐ選べる」と安心している家庭よりも、各段に消費を抑える。

3 The Job Guarantee: A New Social Contract and Macroeconomic Model
Prevention, Not Just Cure

The Job Guarantee also prevents people from slipping unwittingly into long-term unemployment, reducing the resulting individual scarring effects and economic problems.

Job Guaranteeがあれば、非自発的長期離職になることを防ぐ上、長期離職という職務経歴上の傷と経済困窮度を減らすことになる。

3 The Job Guarantee: A New Social Contract and Macroeconomic Model
Prevention, Not Just Cure

The claim that the Job Guarantee would be unproductive is also upside-down. Employing someone is not less productive than keeping them unemployed.
雇用する方が失業させるより生産性があるので、Job Guaranteeは生産性がない、というのは真逆の主張である。

5 What, Where, and How: Jobs, Design, and Implementation
On Productivity

お金を渡すだけの政策では解決には至らない
 引用文中の「ある研究」が不明ですが、失業した時はお金の損失よりも更に多くの損失があり、それは例えば、社会とのつながりを失うことで次の就職につながりにくくなることや、解雇のトラウマにより、再就職ができたとしても幸福度合いが下がり続け、健康度合いも悪化するのだそうです。従いまして、JGPは、お金だけ渡せば解決すると考える政策に反対しています。

お金と職の両方が必要
 更に、一定期間しかもらえない失業保険では、将来不安により、消費倹約傾向になり、それが経済に影響を与えることになります。JGPによって、収入源確保による安心感だけでなく、離職期間をゼロあるいは少なくすることで、経済が回復してきた時にも、民間などでの就業機会を得られやすくなる、という安心感を得られます。その安心感により、個人や家庭の消費レベル、即ち、生活レベルの落ち込み度合いを少なくし、社会全体として消費減退を防ぐことにつながります。

JGPがもたらす生産性
 JGPで就ける仕事に生産性はない、という批判もネット上で散見されます。まず、環境を立て直す、ということは、社会や地域を立て直す、即ち生きていく環境の土台を立て直すことになります。土台がなければ、あらゆる経済活動ができません。より多くのお金を発生させることが生産性、というネオリベ思考になる人もネット上でよく見かけますが(現実、こういう考えの人が圧倒的)、その「よりお金を発生させる」仕事は社会的インフラという土台の上に成立しています
 JGPは環境や地域を立て直したり保護したりする仕事です。結果、JGPの仕事は生産性のある、あるいは、生産性を生み出す仕事、となります。そして消費減退も抑えるという効果も含め、失業者を放置するよりも、こういう仕事に就いてもらう方が、社会全体としての生産性も上がることになります。

 社会的孤立・将来不安の払拭・消費減退・環境などの社会的土台崩壊は、お金を渡しただけでは解決しません。生活にかかる収入と職の両方を得ることで、初めて環境・地域・人、更に全ての職の安定基盤を確立することができるのです。


結語

 全て読んでみて個人的に印象だったのが、環境(社会的土台)、大量失業、離職期間の3つでした。
 環境は当然のことながら、米国では国全体を脅かすほどの大量失業が頻繁に発生し、そのことによる悲劇をやわらげたいのかな、と推測しました。2022年11月20日現在においても、Amazonが雇用を減らし、イーロン・マスクに買収されたTwitter社の従業員が大量解雇されている、という報道が入ってきております。
 そのような、お金持ち企業であるはずの大手・有名企業が維持しない雇用を頻繁に発生させていたのなら、最初の方で参考資料でお見せしたJGPの支持率が高い理由もよくわかりますし、経営者が人を簡単に解雇する社会において、かつ、長期離職に陥ってしまい社会全体も不安定になる状況では、支持率が高いどころか、必須なのではないか、と思います。

 日本のネット上にて、JGPは批判にさらされます。米国の状況に照らして書かれたものですから、日本に適用する時は細かい有給休暇や介護保険の追加など、細かいところも含めて日本用にカスタマイズする必要がありますが、大枠の「環境・人・地域を守る」という点については、国問わず共通すると思います。

 完成させるのに読むのは全部で1週間くらい、引用書き起こして訳して分類してnoteに寄稿するのに2週間、全部で3週間かかりましたが、いかがだったでしょうか。
 冒頭に書きました通り、まだ政治経済についても未熟ですし、ましてや英語で書かれた政治経済の本を初めて紹介してみたのですが、今後ネット上問わずJGPについて議論する時にお役に立てれば何よりです。
 長文にお付き合い頂きありがとうございました。

用語解説

JGP(Job Guarantee Program):政府が雇用保障を行う。詳細はこの記事、あるいは、Tchernevaの『The Case for a Job Guarantee』をご確認ください。

BI(Basic Income):政府が何らかの形で国民に無償でお金を給付する制度。ネット上で議論する限り、人によって金額、期間、対象等定義が相違しており、生活保護や年金もBIだ、と言う方もいて、私は何がBIなのかわからないです。

MMT(Modern Monetary Theory):こちらも連日喧々諤々の議論がなされておりますので、詳細につきましては、本であればまず、ステファニー・ケルトンの『財政赤字の神話』を読まれることをお勧めします。簡単にかいつまむ(不足あり)と、「政府は財源確保の為に税金を集める必要はなく、実物経済資源上限やインフレ率に注意しながら、かつ、インフレしない範囲で通貨発行できる(※無尽蔵に発行できない)ので、入ってきた税と見比べて黒字・赤字と騒がなくてよく、財政支出は『国の借金』ではなく『政府が今迄いくら支出してきたかの記録』にすぎない。」という話です。

Green New Deal:フランクリン・ルーズベルトは米国の経済立て直しの為に国が積極的に市場に介入して経済を立て直しました。この時の政策がニューディールと呼ばれます。グリーン・ニューディールは、当時のニューディールを踏まえて、政府が積極的に環境保護に投資する、というものです。

Marshall Plan:第二次世界大戦後に荒廃した欧州を復興させる計画。Tchernevaは本の中で「Global Marshall Plan」という表現により、その復興計画が欧州だけでなく地球規模、と言いたかったのだ、と私は解釈しました。

Apprenticeship制度:米国にて行われている、高度人材獲得制度。高度人材を希望してもすぐ採用できるわけではないので、自社で育てた方が早い、という前提に基づき、政府が各企業の年収よりも安め(とは言っても家族を養えるのに問題ない金額)の人件費を負担し、企業側は人件費をかけることなく(ここはもしかしたら、ゼロではなく低負担かもしれません)OJTにて高度人材を育成できる制度。双方合意であれば、そのままその会社の従業員として雇用されます。
個人的には、環境保全や民間に雇用を創り出すという、形を変えた雇用保証の気がしてます。従いまして、次はこのことについて調べてnoteに書こうかと考えております。

Green Transportation:旅行・輸送・交通移動の際に、環境に負荷をかけないで実現するという政策。

ヨーヨー効果:景気の悪い時には急激に失業率は高くなるが、景気が回復する時には失業率の回復はゆっくりであること。ヨーヨーは落とす時は急激に落ちるが、戻す時はゆっくりであることに例えていると推測される。

NAIRU(Non-Accelerating Inflation Rate of Unemployment):インフレを起こさない程度の失業率、という意味になる。完全雇用(希望者は全員就業する)を達成すると、消費量が増え、供給が減り、インフレを起こすから、インフレを起こさない一定程度の失業率は必要である、という考え。棄民政策の最先鋒の一つ、と言ってよいと私か考えています。長期離職者がインフレ抑制に寄与してくれているのならば、長期離職者の再雇用をしやすいようにしろよ、と言いたくなります。

反循環政策:経済活動が活発な時には増税などで抑制し、停滞している時には補助金や減税などでバランスをとろうとする政策。

参考文献

法務省による更生保護における就労支援:
https://www.moj.go.jp/hogo1/soumu/hogo02_00030.html

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