名探偵ポワロ 「カーテン~ポワロ最後の事件~」 あらすじと感想
海外ドラマ【名探偵ポワロ】ファイナルシーズンの最終回、つまりはこれが正真正銘の最終回は「カーテン~ポワロ最後の事件~」(Curtain: Poirot's Last Case)です。カーテン=人生の幕引きというタイトルに相応しく、何とも感慨深い最終回でございました。以下早速、あらすじを語らせていただきます。後半はネタバレをしておりますので、結末を知りたくない方はくれぐれもご注意くださいますように。
まず驚いたのは、この「カーテン」に登場したポワロがすっかり弱っていたことです。どうやら心臓を患っているのか、車いす生活を余儀なくされていました。
長年ポワロに仕えてきた執事のジョージが後に明かしたところによると、ポワロは、それまで世話をしてくれた、ジョージを解雇して、新たにカーティスという世話係を雇ったそうです。体力はあってもおつむの方は鈍そうなカーティスを、なぜあのポワロが雇ったのか。
そしてポワロは今回、昔殺人事件があったというスタイルズ荘に親友のヘイスティングズ大尉を呼び出します。おばさんは存じ上げませんが、ここは「スタイルズ荘の怪事件(The Mysterious Affair at Styles)」というポワロがデビューした作品の舞台となっていたようです。
この忌まわしい場所で、またしても殺人が起きる!
弱ってはいても断固とした口調でそう語るポワロには、もう犯人の目星がついているようでしたが、何せ体が不自由なため、ヘイスティングズに情報収集を頼みたいというのです。
いかにもこのシリーズらしく、スタイルズ荘には皆それぞれに怪しそうな面々がずらりと顔を並べています。最後ですから、分かる範囲で全員紹介してみますね。
まずはアーサー・ヘイスティングズとその娘のジュディスでしょうか。ヘイスティングズは妻を亡くしていたそうで、奔放なジュディスをかなり持て余していたようです。ジュディスは今、Dr.ジョン・フランクリンの秘書を務めており、どうやら彼に雇い主以上の感情を抱いているように見えました。その一方でジュディスは、女たらしで有名なアラートンとも親しくしているようで、それもまたヘイスティングズを悩ませています。
そのジョンは今、アルカロイドを含むというカラバル豆を研究しているそうです。ジョンにはバーバラという、こちらも自由奔放な妻がいますが、健康状態が優れないと訴えている割に、男性関係はお盛んなようです。ジュディス曰く、バーバラはジョンの研究にはまったく興味が無いようです。
そのバーバラが秘かに交際しているらしいのが、ウィリアム(ビル)・ボイド・キャリントン卿です。こちらがまたかなりの女好きらしく、バーバラ付きのナース=クレイヴンにも食指を動かしていたようです。
このスタイルズ荘を管理しているのは、ラトレル夫妻です。夫のジョージは感じのよい男性でしたが、妻のデイジーはかなりの締まり屋のようで、それがジョージの反感を買ってしまい、ついにはそのジョージに狙撃されてしまいます。でも命は無事だったようです。
またこの「カーテン」では最初から最後までショパンの「雨だれ」(再放送で確認済みです)がBGMとして実に静かに、そして効果的に使われていました。それを実際にドラマの中で弾いていたのが、エリザベス・コールという女性です。
このエリザベスも過去に不幸な殺人事件を経験していたそうです。なんでも、乱暴を働く父を見かねた姉のマーガレットが、その父=マシュー・リッチフィールドを殺害したのだそうです。おそらく、冒頭シーンで処刑された女性が、このマーガレットではなかったでしょうか。
そのエリザベスが好感を抱いていたのが、スティーブン・ノートンです。厳しい母親に育てられたため、その文感受性が豊かだとの言葉通り、実にそつなく誰とも親しくしていたようです。
と、こういったメンバーの中、最初に遺体で発見されたのはバーバラです。その遺体から夫のジョンが研究していたアルカロイド系毒物が検出されたことから、ジョン、もしくは、ジョンとの不倫関係が疑われるジュディスが怪しいと思われましたが、ほかならぬポワロ自身が法廷で、バーバラはうつ病のため自殺したと証言します。
もちろんポワロはこれを信じていた訳ではありません。法廷で宣誓をしなかったので、嘘をついても偽証罪には問われないとはポワロ自身の発言です。
そして次はノートンです。ノートンは自分の部屋でその手に銃を握りしめ、眉間が打ちぬかれた状態で死亡していました。部屋は密室だったため、たとえ撃ちぬかれたのがこめかみではなくても、これは当然自殺と判断されたものと推察されます。
と同時にポワロもまた亡くなってしまいました。全てのピースは揃った~あとはそれを繋げるだけだと語っていたポワロは、そのつなげる役目をヘイスティングズに託して旅立ってしまったのです。
ポワロの死から4カ月後、ポワロからヘイスティングズに手紙が届けられました。そこにポワロは全ての真相を書き記していたのです。以下ネタバレです。
まず、ポワロが「殺人鬼」として忌み嫌い、なんとしてもその悪事を暴こうとしていた「犯人」は、スティーブン・ノートンでした。ポワロ曰く、ノートンは
「心理的殺人教唆」
という世にも恐ろしい、しかし法ではなかなか裁けない罪を何度も犯してきたのだそうです。実際に手は下さなくても、他人に取り入ってその心をもてあそび、彼らを殺人に駆り立ててしまうとは、最も卑劣で許しがたい犯罪です。
最初にスタイルズ荘のオーナー・ジョージがその妻デイジーを狙撃したのも、ジョージにわざとデイジーの機嫌を損ねさせるようノートンが仕掛けました。ノートンは、おそらくは見栄っ張りなところのあるジョージなら、客が
喉が渇いた
と言えば、これを満足させるために酒をおごると言いだすだろうと見越していたというのです。
それなのに、これ見よがしに夫をなじるデイジーに、プライドをひどく傷つけられたジョージは我慢がならず、つい引き金を引いてしまいます。
そして実はヘイスティングズも、ノートンに唆されて「殺人者」になるところをポワロに救われたのでした。ノートンは、さんざんアラートンの悪口をヘイスティングズに吹き込んだ上で、わざとジュディスとアラートンが逢引している現場を見つけさせ、その怒りを煽ったのです。
ヘイスティングズはアラートンから貰った、量を間違えると死に至るという催眠剤を、アラートンのアスピリンの中に紛れ込ませてアラートンを殺そうとしました。
これをポワロが「鍵穴」から覗いていたというのには参っちゃいましたね。なんとポワロは決して歩けなくはなかったのだそうですよ。執事のジョージを解雇したのは、彼を騙すことは不可能だったからなのだとか。しかも、ここに来て、ポワロのトレードマークだった髭が、実は「付け髭」だったことを白状するポワロの、なんとチャーミングなことか。
ヘイスティングズにホットチョコレートを振る舞ったのも、その中に催眠剤を混入し、一晩眠らせてヘイスティングズに理性を取り戻させようとしたのだそうです。期待通り、ヘイスティングズは翌朝自らを反省し、アラートン殺害を思いとどまったそうです。
が、そのヘイスティングズこそ、故意ではなかったにせよ、バーバラを死に至らしめた犯人だとはこれまた驚きでございました。バーバラは、何とかしてビル・キャリントンと結婚しようと企んでいたらしく、そのためには夫のジョンが邪魔だったそうなのです。
そこでバーバラはあらかじめポワロに、ジョンが、研究材料の毒物で人体実験をするのではないかと心配だ、などとうそぶいて伏線を敷き、ジョンのコーヒーにその毒を入れていたのが、ヘイスティングズが偶然、そのコーヒーが載ったテーブルの位置を変えてしまったため、バーバラは自分でその毒入りコーヒーを口にしてしまったというのがからくりです。
ポワロが嘘の証言をしたのも、ヘイスティングズや娘のジュディスを守ろうとしたからなのです。やはりジュディスは、アラートンではなくジョンと不倫をしていたのですね。実際このふたりは、後に結婚したようですが。
でもノートンは、この結末に大いに不満だったようです。今度こそ、自分が書いたシナリオ通りに事を運ばせたいと執念を燃やすノートンに気づいたポワロは、ついにその手を汚す決意をします。
今回ポワロが何度か十字架を手に取り、あまつさえ、
「Forgive me」
我を許したまえ
と神に祈っていたようなのがどうにも気になって仕方なかったのですけれど、それがこの事を暗示していたのです。
I will excute you! おまえを処刑してやる!
そう、ノートンの眉間を撃ったのは誰あろう、エルキュール・ポワロその人だったのです。これもまたドラマの中で何度か繰り返された言葉、
この世に存在する価値の無い害虫のような人間は殺されて然るべき
が暗示していた通りです。
ポワロは、ノートンを部屋に呼び、再び睡眠剤入りのホットチョコレートを振る舞いました。どんなに賢かろうと、ポワロには到底及ばないノートンはこれで眠らされ、ポワロに殺されてしまいます。もちろんポワロの事ですから、密室を作ることなど朝飯前です。
ただ1つだけ気になるのは、これもすべてノートンの筋書きだったのではないかということ。ポワロはヘイスティングズに、アラートンのようなクズのために殺人を犯し=一生を棒に振ってよいのかと言っていたけれど、ポワロもまた、人生の最後に、その手で「殺人」を犯してしまって本当に良かったのでしょうか。
ノートンもまた、ポワロという世にも冷静で賢い人間の心をもてあそび、
母親からも忌み嫌われた自分
に対して、実際に殺すほどの憎しみを植え付けたことに、もしかしたら満足していたのではなかろうか、と思うとなんともやり切れない思いでいっぱいになりました。愛憎は紙一重と言いますからね。
それでもポワロは自分が早晩死ぬことを悟っていたから、
「これ以上不幸な人間を出さないため」
神に代わってノートンを成敗したのでしょうが。
ピアノを弾いていたエリザベスだけでなく、アラートンもこのノートンが不幸に陥れた人間の関係者だったようです。
ずっと姉を信じていたと語っていたエリザベスには、ポワロから真相を聞いたヘイスティングズが
「姉に父を殺すよう仕向けたのはノートンだった」
と伝えてくれたのがせめてもの救いでした。また、アラートンに睡眠剤を都合してくれたのが、やはりノートンに唆された妻のコンスタンスにヒ素を盛られて殺されたレオナルド・エサリントンだったようです。
最後まで親友のヘイスティングズを思いやり、時には優しく揶揄しながら、最後の手紙を書いたであろうポワロの姿が目に浮かびます。自分の行いに対する裁きは神の手にゆだねると書いたポワロの手紙はこう締めくくられておりました:
Ah, Hastings, my dear friend, they were good days.
Yes, they have been good days.
Hercule Poirot
ああヘイスティングズ、親愛なる友よ。一緒に過ごした日々は素晴らしかった。
そう、本当に素晴らしい日々だった。
エルキュール・ポワロ
いかにも最終回に相応しいエンディングでした。なんとこの名探偵ポワロは25年間~四半世紀も続いたそうです。そのような作品を最後に少しでも語らせていただけたのは大変光栄でございました。
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