対談「静かな日には、別の世界の息づかいが聞こえてくる」(オカシオ=コルテス × チョムスキー) | 那須里山舎
アメリカ史上最年少の女性下院議員アレクサンドリア・オカシオ=コルテスと共闘する「サンライズ運動」を軸としたエッセイ集『グリーン・ニューディールを勝ち取れ』、そして93歳の知識人ノーム・チョムスキーとグリーンニューディール研究の世界的第一人者ロバート・ポーリンが気候危機解決の道を語った『気候危機とグローバル・グリーンニューディール』。この2冊の本の和訳を刊行した那須里山舎から、今回はオカシオ=コルテス議員とチョムスキーが行った特別対談の全文和訳をお届けする。本対談は2021年10月31日にオンラインで行われた。聞き手はThe Laura Flanders Showのローラ・フランダースだ。
静かな日には、別の世界の息づかいが聞こえてくる
フランダース 今の時代は可能性に満ちています。そこには恐ろしい可能性もあれば、心躍る可能性もあります。そのような歴史の局面について議論するために、今日はノーム・チョムスキー教授とアレクサンドリア・オカシオ=コルテス議員をお呼びしています。チョムスキー教授はマサチューセッツ工科大学名誉教授であり、著作家・公共知識人です。オカシオ=コルテス議員はニューヨーク市ブロンクス区出身の民主党議員です。私の記憶が正しければ、お二人が対面するのは今回が初めてですよね。
チョムスキー 「ほぼ」対面、「仮想の・仮の」(virtually)対面という感じです。それは大きな一歩ですが、実際にぜひお会いしたいとも思っています。議員のお仕事に、私はいつも深い尊敬を抱きつつ注目してきました。今回、ほぼ対面できて光栄です。
オカシオ=コルテス こちらこそ、唯一無二の存在であるチョムスキー教授とこうしてお話できるのは名誉なことですし、私にとって一つの達成です。パンデミックを乗り越えた後で、改めて面と向かってお話できる機会を楽しみにしています。
フランダース ぜひ実現したいですし、その際には私も参加したいものです。それでは、まずはチョムスキー教授に質問です。度々ご指摘されてきたことですが、アメリカには「禁じられた思考」が本当にたくさんあります。他方で、例えば本日のニューヨーク・タイムズ紙には「労働者には実権がある」「経済には何らかの計画が必要な場合もある」「特に環境や医療がそうだが、すべてを市場に委ねるのは必ずしも最善ではない」という論調の記事がありました。時代の変化を感じるのですが、チョムスキー教授はどう思いますか。
チョムスキー まず確認しておきたいことがあります。ここ45年間、私たちは「新自由主義」というラベルのついた社会経済制度を生き抜いてきました。新自由主義にはもちろん正式な定義があります。あなたが述べたような、市場への依拠などを含む定義です。しかし、この定義はほぼ完全な詐欺だと言って良いでしょう。新自由主義の実態を表していないからです。市場へ依拠したことなどない制度ですからね。いわゆる「自由貿易協定」も、実は極端な保護貿易主義に基づいています。私たちは現在、医薬品への事実上の独占体制を目の当たりにしていますが、これなどが好例です。ここ45年間の制度の正体は、多くの経済学者が指摘するように、「救済経済」(ベイルアウト・エコノミー)なのです。それは一方的な階級闘争であるとも言えます。貧しい者たちには市場を、富める者たちには保護をというわけです。
フランダース とはいえ、最近ではこうした問題が話題になるわけですから、そこには時代の変化があるような気もします。これについて、オカシオ=コルテス議員のご意見もぜひ伺いたいところです。以前にも議員とはインタビューをしたことがあります。若者による政治パネルを組織して、選挙を戦っていた頃のことですね。あれから今に至るまで、政治の可能性が大きく変わったと思います。私は救いようがない楽観主義者ですが、そんな私でさえも、当時のオカシオ=コルテス候補がまさかあの強力なジョー・クローリーに一発で勝利するとは思ってもみませんでした。そんな下馬評を見事に打ち破って、あなたは選挙に勝利しましたし、他にも似たような動きはそこかしこに見られます。これは、政治の水門がついに開かれたと言えるのでしょうか。
オカシオ=コルテス たしかに、水門が開かれたと言えると思います。選挙政治の場だけでなく、選挙の域を越えるレベルで運動が組織されています。最近のストライキが好例です。これほどの規模のストライキは久々ですよね。政界の権力層(エスタブリッシュメント)や資本主義制度は、いわば「裸の王様」状態に陥っています。既存の制度という水槽の中で泳がされてきた人々が、自分たちが今浸かっている水を名指す方法を獲得したからです。代案に思いをめぐらすことによって、新鮮な空気を吸えるようにもなります。とはいえ、私が選挙に勝った後も、メディアは私の勝利だけでなく私たちの地域社会の実態をなんとか矮小化しようと、大規模な協力体制を敷いています。例えば、勝利宣言からわずか数日後に、アンドリュー・クオモ前知事が「これは単なるまぐれだ」と言ったりしました。民主党議員も一人残らず選挙結果を軽視しようと努めていました。それでも、勢いは止まりませんでした。たしかに、もし私が選挙に勝利しただけならば、「大したことではない」という主張もある程度は妥当だったでしょう。ところが、実際はどうだったかと言えば、選挙が終わった後も、多くの人々が制度を名指しで批判し、以前ならばタブーとされていた議論を政治の場で行うようになりました。
チョムスキー それはここ40年間一方的であり続けた階級闘争が、ついに互角になった印です。つまり、人々は鉄槌を黙って受け入れるのではなく、実際に政治に参加するようになったのです。現在、私たちは実に大規模なストライキの渦中にいます。アメリカの歴史上でも最大規模のストライキです。労働者たちは「腐臭と抑圧に満ちた職場には戻らないし、極端に不安定で惨めな境遇ももう受け入れないぞ」と言い切りました。それは既存の経済社会において一大勢力となっています。こうしたストライキ運動は、多方面で展開されています。例えば、教員ストが挙げられますね。重要なストでした。労働組合が存在しない共和党支配の州(レッド・ステート)において、一般の人々は教員に惜しみない応援を行いました。私はアリゾナ州に住んでいますが、決して急進派とは言えないこの州においてさえ、庭という庭に教員を応援する看板が掲げられました。単なる賃上げではなく(もちろん、賃上げは当然行われるべきですが)、子どもたちの現状を改善し、ここ45年間攻撃を受け続けてきた公立学校や公共教育を救済せよという呼びかけがなされました。
フランダース 同じ動きは医療においても見られますよね。オカシオ=コルテス議員の選挙区だけでなく、アメリカ全国においてこうした運動が盛り上がっています。これについて、議員はどう見ておられますか。また、こうした運動からは何が期待できるでしょうか。例えば、産業労働組合は、産業経済だからこそ成立したわけですよね。他方で、現在のアメリカはいわば「ベゾス経済」「アマゾン経済」になっています。サービス業が主流ですが、この部門に従事する人々は、産業労働者のような形ではほとんど組織化されていません。
オカシオ=コルテス これは入り組んだ議論です。というのも、これは明確な資本主義批判であるだけでなく、白人至上主義の批判でもあります。それは単に白いフッドを被った差別主義者たちの集まりを批判するという意味ではなく、アメリカの発展に白人至上主義がどう関わってきたのかを制度として理解するということです。では、これは労働運動とどうつながってくるのでしょうか。エッセンシャルワークにおける労働力人口の大半は、女性や有色人種の女性によって占められています。ファストフード店の店員や看護師、保育士や教師といった職業です。資本家階級はこれを「労働者不足」と呼んでいますが、実態は「尊厳ある仕事の不足」です。そうした不足もまた、多人種な労働者階級に属する人々、特に女性や有色人種の女性が支配的な職種においてみられます。そのため、この2つの制度への理解を紡ぎ合わせることによって、私たちは目の前にある問題に光を当てられるようになり、さらにはそれへの解決策を見出せるようにもなるのです。
フランダース チョムスキー教授とは1990年代初頭にもお話しましたが、こうした議論に対して当時は目を覆いたくなるような悲惨な反発があり、左派さえもこの問題を「面倒くさいアイデンティティ・ポリティクス」として一蹴していました。対して、現代においてはオカシオ=コルテス議員がつい先ほど述べたとおり、白人至上主義がもつ権力と向き合わない限り必要な社会変革も実現できないだろうという見解が広く共有されてきています。この問題についても、時代の変化が起こっているとお考えですか。
チョムスキー まず、白人至上主義がアメリカの歴史にいかに深く根付いているかを今一度確認しておきましょう。これは一朝一夕に払拭できるようなものではありませんが、それでも[近年の運動は]ここに大きな風穴を開けることに成功しています。主流においてすらも、例えばニューヨーク・タイムズ紙は「1619プロジェクト」を連載しています。これは数年前には考えられなかったような企画です。これもまた、一般的な意識の高まりに端を発する変革です。言うまでもなく、この企画に対してもまた直ちに強力な反発がありました。それは当然と言えば当然の反応です。白人至上主義はアメリカの歴史と文化にそれだけ深く根付いているからです。そこから自由になるのは決して簡単なことではありません。それでも、大きな進歩があったこともまた事実です。これからもたくさんの対立が起こるでしょう。この闘争は、決して楽ではありません。
フランダース 楽ではない闘争と言えば、お二人はもうひとつの重要な闘争、地球上における人類の存続をかけた闘争にも尽力されています。それは決して大げさな表現ではありません。オカシオ=コルテス議員による最初の法案は、グリーンニューディール決議案でした。そこでは10ヵ年で全国規模の動員が計画され、すでに何年かが経過しています。チョムスキー教授の最新の著作には『崖っぷち―新自由主義、パンデミック、そして高まる変革の必要性』という題がついていますね。崖からの転落を防ぐために必要な時間は、私たちにはまだ残されているのでしょうか。それとも、すでに手遅れでしょうか。
チョムスキー 手遅れな状態はすぐそこまで迫っています。オカシオ=コルテス議員によって再び提出された決議案は人類の生存にとって必要不可欠ですが、これをさらに推し進めるにあたってどのような展望を思い描いておられるのか、議員にぜひ伺いたいところです。この決議案に近い何らかの政策が実施されない限り、人類には終焉が待ち構えています。そう言い切って良いほど、状況は単純です。
フランダース オカシオ=コルテス議員、変革の実現はどれくらい現実的でしょうか。私たちの世代が生きているうちに実現されたら良いなどと言いたくもなりますが、実際にはそれでも遅すぎるわけですよね。
オカシオ=コルテス 可決されたとはいえ、これはまだ決議であり、連邦議会の意思表明にすぎません。法的拘束力もありません。しかし、この青写真が広く採用されているという現状には希望が見出せます。これが公表され、下院へ提出され、一般公開された後、アメリカ全国で社会運動が起こり、メディアはこうした動きを報じませんでしたが、地方自治体や州政府は地域規模でグリーンニューディールの目標を採用し始めました。とはいえ、相手方の力をあなどってはいけません。連邦議会はかなりのところまで巨額の献金、影の献金、ウォール街や特別利益団体からの献金によって牛耳られています。それほど知られていないことですが、ウォール街経由で連邦議会へ流れるこのカネは、オイルマネー[すなわち化石燃料企業からの献金]なのです。さらに言うと、私たちの行動範囲は選挙政治の枠内には限定されていません。この枠組みの外縁まで活動範囲を拡大し、その外へと取り組みを広げることが大切です。それは労働運動かもしれませんし、あるいは別の草の根運動かもしれません。集団行動がある勢いにまで達すると、支配階級はもはやこれを無視できなくなります。権力の正統性が脅かされるからです。
フランダース この問題について、チョムスキー教授はどうお考えですか。連邦議会が巨大献金によって牛耳られているという、教授やオカシオ=コルテス議員が巧みに指摘する現状がある中で、画期的な変革はどこから沸き起こるものなのでしょうか。
チョムスキー 政治の中心にあるのはいつも[一般の人々による]社会運動と政治参加です。連邦議会にはそれが非常に弱々しい形でしか反映されていませんが、それでも反映されているという事実は変わりません。政治参加と社会運動が政治の中核であるという点を如実に示す例もいくつか存在します。オカシオ=コルテス議員は謙遜して言及を控えていましたが、代わりに挙げさせていただくと、気候危機に関する活動を牽引している「サンライズ運動」はその好例です。この運動は市民的不服従を実行し、議事堂に人を送り込み、ナンシー・ペロシのオフィスを占拠しました。通常ならば、こうした活動家たちは国会議事堂の警備員によって放り出されていたでしょう。しかし、今回は事情が異なりました。連邦議会から議員が駆けつけたからです。それがオカシオ=コルテス議員でした。こうして、活動家たちは放り出されずに運動を継続し、これはバイデンの気候対策計画につながりました。優れているとは言えないものの、今までで一番良い計画ではあります。オカシオ=コルテス議員の指摘を裏付ける好例です。議員を味方につけた民衆運動は、結果を残すものなのです。これは昔からある古い教訓ですが、今一度噛み締める価値があります。元祖ニューディールも然りです。それもまた完璧とは言いがたい構想でしたが、アメリカ社会を大きく改善しました。では、ニューディールはどう実現されたのか。答えは、積極果敢な労働運動、産業別組合会議(CIO)による組織的活動、座り込みのストライキ、そしてその味方をしてくれた政権という組み合わせのおかげです。こうした組み合わせの重要性はいくら強調しても足りません。
フランダース チョムスキー教授がここで言及した行動を、オカシオ=コルテス議員は当選直後に実践しましたよね。それに、議員は折に触れて「アウトサイダーとしての視点と新鮮さの維持も、私の仕事の一環です」とも発言しています。これはどれくらい実現できていますか。また、進歩派の政治構想について、現段階ではどのような展望をお持ちでしょうか。
オカシオ=コルテス 今月[2021年10月]の初めの出来事は、連邦議会の進歩派党員集会の歴史上稀に見る、抜本的な変革の一事でした。私が当選した直後の2年間では、私と他の3名の女性議員のみが集会に参加していました。そこを何とかさらに5名増員し、前回の会期では10名に届こうかという程度でしたが、その後民主党本部から独立できるくらいにまで成長しました。最近の駆け引きで進歩派党員集会は95名の会員を獲得し、さらに勢いを強めました。法案の可決に必要な人数は218名ですが、今の段階ですでに会員たちは最大人数のための最大利益が実現されるような政策群を求めて、投票を保留にしました。こうして、労働条件、医療、育児、教育、そして気候危機対策まで、多岐にわたる分野が優先的に扱われました。それは民主党本部からすると衝撃的な展開だったと思います。マスメディアにとってもショックな出来事だったのでしょう―これをどう報じて良いかわからなくなっていたからです。
フランダース 結びに、お二人の将来展望をお聞かせください。チョムスキー教授は、多くの社会問題がこの先どう解決されていくとお考えですか。
チョムスキー 私は年をとっているので、1930年代の頃の記憶が残っています。私の家族は移民一世であり、労働者階級に属し、失業率も高かったですが、希望に満ちていました。今とは大違いです。絶対的に見れば今よりもはるかに生活は苦しかったですが、心理的には今と大きく異なり、互いに協力して頑張ればこの惨めな状況も改善できるという気運がありました。私たちには仲間がいる、能力もある、労働運動もある、政治組織もある、集団の一員として、他の人たちと連係し、どちらかと言えば自分たちの側についている政権と一緒に動ける、だから一丸となって戦い、この状況を抜け出そうというわけです。この人たちの態度は正しく、すべての問題を解決したわけではなかったものの、歴史をとおして多くの進歩を生み出してきました。1960年前後も好例です。ノースカロライナ州グリーンズボロで、黒人の若者が数名食堂で座り込みをしました。人種隔離された食堂です。もちろん、若者たちは直ちに逮捕され、食堂から放り出されました。それで終わる可能性ももちろんあったわけですが、明くる日にはさらに多くの若者たちが同じことをしました。ほどなくして北部から賛同者が加勢し、南部でも労働者たちが学生非暴力調整委員会の「自由バス」に乗って運動を広げ、黒人の農民たちに向けて、有権者登録をして自分の人生を自分で決めるように促しました。こうして、巨大な運動が立ち上がりました。歴史を動かすのはいつもこうした人々です。名前すら記憶されない、無名の存在です。しかし、この人たちこそが歴史を前に進めてきたのであり、この人たちこそ私たちの手本なのです。古き良き友人のハワード・ジンがこの点をうまく表現しています。ジンはこう言いました。私たちは無数にいる無名の人たちこそを称えるべきだ。なぜなら、この人たちの仕事こそが、歴史的な出来事の基盤をいつも作ってきたからだ。この人たちこそ真に手本とすべき存在であり、栄誉と敬意の対象となるべきなのだと。
フランダース オカシオ=コルテス議員からも、未来がもつ可能性についてお聞かせいただけますか。
オカシオ=コルテス アルンダティ・ロイが書いた言葉ですが、別の世界は単に実現可能であるだけでなく、すでに存在してもいるのです。この別世界の到来をそこここに垣間見るとき、私は希望に満たされます。ブロンクスは一人当たりの労働者協同組合の数では世界のトップです。私たちの区には、百万人規模の新しい経済社会がすでに存在しているわけです。他にも、例えば大量投獄に関する議論や、奴隷制度廃止運動もそうですし、監獄制度の廃止をめぐる論争もあります。そもそも、現在のような規模で反社会的な行動を人々がとらなくて済むような、新しい社会に向けた再編成や、既存の反社会的な制度が廃止された先にある社会の実現についても考える必要があります。こうした議論は机上の空論などではなく、実際に地域社会の人々が積極的に実験を行い、解決策を模索しています。私は自分の仕事を、解決策の発案ではなく、既存の解決策をいかにスケールアップして社会を変革していくかという部分に見出しています。そうした仕事には、今の社会に蔓延するシニシズムを打ち砕く力があります。シニシズムは特に左派にとっては天敵です。というのも、それは自分の手で自分を痛めつけるような道具だからです。対して、希望は行動につながり、行動はさらなる希望を生み出します。運動を広げつつ前へ進むための道もそこにあるのです。
原典:AOC & Noam Chomsky: The Way Forward (The Laura Flanders Show)
訳・早川健治
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