なかきよの(よみ人しらず)
なかきよの(よみ人しらず)
(冬の)長い夜、ぐっすりと眠る深い夢の中であっても、みんな(良い朝を迎えてすっきりと)目を覚ます。
(厄を流してくれる)舟が、波を越える際に奏でる音がなんとも心地良いものだよ。
■ 解説
「なかきよの(長き夜の)」は(冬の)長い夜の、「とおのねふりの(遠の睡りの)」は深い眠り("遠"は時間的、あるいは空間的に隔たっている状態を示しますので、今回は夢としています)、「みなめさめ(皆目覚め)」はみんな目が覚める、「なみのりふねの(波乗り船の)」は波を乗る船の、「おとのよきかな(音の良きかな)」は音の素晴らしさだなぁ("かな"は詠嘆)、をそれぞれ意味します。
とりあえず当サイトではこのように訳していますが、この詩にはいくつもの解釈があり、確定しているものはありません。
なお、この詩は回文歌で逆さに読んでも同じ言葉になります。
元々は厄を流す船であったため、今回はこのように訳していますが、七福神が宝を乗せてやってくるイメージが根付いた江戸時代以降の宝船をイメージした場合、「波を渡ってやってくる宝船からは(波を越えるたびに宝のシャンシャンと鳴り響く)いい音が聞こえてきて、(冬の)長い夜の深い眠りだってみんな目覚めてしまうよ。」と言った訳も付けられそうです。
なお、「なかきよ」を"長き世"、「ふね」を"不音"といった風に掛けているということですが、ここでは説明しません。
■ この詩が詠まれた背景
この詩は宝物や七福神などが乗った宝船の絵と、この詩が書かれた紙を枕の下に敷いて寝ることで、良い初夢が見られるという風習において使われる和歌です。
現在ではほとんど廃れていますが、少なくとも室町時代において明(現在の中国)の書籍にその記述があることから、その頃には一般的であった風習であることが分かっています。
ちなみに、室町時代において紙は非常に高価なものでした。
Wikipediaによると引合紙5束が1900文したそうです。
当時は1日に支払われる労賃がだいたい100文程度で、1900文もあればお米が2俵(60㎏)買える金額だそうです。
(1日6合(1㎏ちょっと)食べたとしても、2か月は生活できることになります。)
■ 豆知識
作者は分かっていません。
江戸時代に書かれた辞典である和訓栞には、聖徳太子が秦河勝(はたのかわかつ)の悪夢を消すための呪歌と記載されています。
宝船の帆に「獏(バク)」の字が書かれているものもあります。
これは中国の伝説上の動物である獏が悪夢を食べてくれるという話に由来するものです。
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