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https://econ101.jp/white-paper-mmt/
ウォーレン・モズラー「 ホワイトペーパー:現代貨幣理論(MMT)」(2022年3月28日)
このホワイトペーパー [1] の目的は、MMTの基礎となる原理を公に表現することである。
*MMTとは何か
MMTはまず、連邦準備銀行(FRB)による金融オペレーションと会計処理を記述するところから始まった。これらは、銀行、企業、個人が保有する勘定の数字を変える操作(debits and credits) [2] として考えるのが最適である。
現在MMTとして一般的になったものは、1992年にウォーレン・モズラー(筆者)が独自に考案したものである。1996年、モズラーはインターネット上のディスカッション・グループを通じて、自身の考えを学者たちに紹介した。その後の研究よって、アバ・ラーナー、ゲオルク・クナップ、ミッチェル・イネス、アダム・スミス、元ニューヨーク連銀総裁のビアズリー・ラムルなど、金融に関するMMTの理解や洞察について同様の考えを持つ人々の著作が発見されている。しかし、MMTは金融経済について唯一無二の分析を行っており、独自の学派と見なすのが一番適切だ。
参照:
・https://www.scribd.com/document/35432615/Soft-Currency-Economics
・http://moslereconomics.com/mandatory-readings/what-is-money/
*今日のMMTの意義は何か
MMTの理解の上に立つと、それまでは実行不可能だと考えられていた政策オプションが議論の俎上に上がってくる。
*MMTは何が違うのか
シーケンス:順序
政府が納税手段として要求するものを供給する主体は米国政府とその機関(agents)だけだということを明確に認めているのはMMTだけである。
つまり単純に、通貨はそれ自体公的独占物である。
米国政府が課す税は、米ドルによって支払われるものとして課される。
税を支払ったり米国債を購入したりするために必要な米ドルは、米国政府とその機関に由来するもの以外に存在しない。
経済全体としては、政府に対し商品やサービス、資産を売らなければ(あるいは米国政府から借入〔=実質的には金融資産の売却〕をしなければ)、税の支払いも米国債の購入も出来ない。
上記から派生する論点:
1. まず最初に政府とその機関が支出(または貸付)を行う必要があり、そうすることによって初めて税が支払われたり米国債が購入されることが可能になる。
これは、主流派経済学のモデルや「米国政府は支出に必要な米ドルを課税によって調達する必要があり、課税で調達しない分は中国のような国から借金をしなければならず、孫の代まで負債を残すことになる」というようなレトリックとは正反対の順番だ。
よってMMTは、米国政府が支出するためにドルを調達する必要があるのではなく、反対に、納税者が税を支払ったり米国債を購入できるようにするために米国政府のドルが必要なのであって、このことが〔ドルを〕動かす力(driving force)であることを明確に認識している。
2. 政策によって民間支出や民間借入のクラウディングアウトが起こるとか、金利が上昇するとか、連邦政府の資金調達とか、政府の支払能力といった諸問題は、まず最初に支出し、次に借入を行う米国のような政府には当てはまらない。
支払はどのように処理されるのか?
実務上米国政府は以下のように支出している。
財務省はFRBに対し、受取人の銀行の勘定の数字を増やす(credit)よう指示する。その勘定はFRBの帳簿上にあるものだ。 <原注:このFRB加盟銀行の勘定は準備金勘定(reserve accounts)と呼ばれており、その勘定の残高は準備預金(reserves)と呼ばれる。>
公債の償還はどのように処理されるのか?
米国財務省証券(米国債)が満期になるとき、FRB は証券勘定の数字を減らし(debit)然るべき準備預金勘定の数字を増やす(credit)。 公的債務の金利は証券勘定に対して発生し、FRB は準備預金勘定の数字を増やす(credit)ことによって金利を支払う。
以上の取引の際には、納税者も将来世代も一切登場していない。
失業の原因
MMTは、課税は必然的に失業(=有給の仕事を探す人々)を引き起こすものであり、これは米国政府が課税によって失業する人々を雇用するためであるはずだと認識する。
MMT「マネー物語」 :自身を表現せんとする国家
1. 米国政府は、米ドルを支払い手段とする納税義務を課す。
2. その結果、納税に必要な米ドルを得るために、商品、サービス、資産が売りに出される。
3. こうして国家はそれらの財やサービスを購入することが可能になる。
4. 税はこうして初めて支払われることが可能になる。
5. 人々が平均して、税の支払いに必要な金額以上の収入を得たいと望む場合には、そのドルを稼ぐのに十分な量の商品やサービス、資産が売りに出される。
6. 貯蓄として欲求されるドルは、税額を超える国家支出(つまり赤字支出)が提供する。
7. このような余剰のドルを国家が先ず支出すると、その次に、財務省証券(短期、中期、長期)の購入が成立するようになる。財務省証券が購入されると、国家が既に支出で生み出したドルが含まれている勘定の数字が同時に減らされる。
<原注:国家支出の額(ドル)から既に支払った税額を差し引いた残りは、「公的負債」(public debt)の額に等しい。>
8. 米国政府による支払いは、FRB加盟銀行の準備預金勘定に加えられる。
9. 証券(米国債)が購入されると、FRB は準備金預金勘定の数字を減らし(debit)、同じくFRB にある証券勘定の数字を増やす(credit)。
金利:
MMTは、正の金利政策は金利の支払いを要請するものであり、それは「すでにお金を持っている人へのベーシックインカム 」と見なせると認識する。
MMTの認識は以下の通りである。政府が正味(プラス)の利払いを行っている場合、金利の上昇は、利子所得の経路と先渡し価格の設定(forward pricing)の経路という2種類の経路を通じて、拡張的、インフレ的(かつ逆進的)なバイアス(bias)をもたらしうる。つまり、金利の引き上げというFRBの「金融引き締め」は、総支出を増加させ物価上昇を助長するということである。これは、需要を減らしてインフレーションを低下させるという、宣伝、意図されている効果とは正反対である。
同様に、金利の引き下げは経済から利子所得を除去するのだから、需要を減らしインフレーションを低下させるが、これも宣伝、意図されている効果とは逆である。
さらに、先渡し価格の設定(forward pricing)はFRBの政策金利の直接的な関数であるから、プラス金利政策の期間構造の下において、先渡し価格(forward price)の水準はその時の政策金利に対応して継続的に上昇する。これは学問的なインフレーションの定義である。
MMTは、恒久的な0%政策金利が、変動相場制の分析の基準ケース(base case) [3] だと考える。
政策金利が恒久的に0%であれば、資産価格はリスク調整後の評価を反映するのみであり「資産価格インフレ」という用語でイメージされる「継続的加速」は生じないというのがMMTの理解である。
時としてこうしたMMTの金利に関する見解は、中央銀行や大多数の学者の見解とは真っ向から対立することがある。われわれからすれば「主流派」の見解は、せいぜい固定為替相場制に適用できる程度のものであり、とにかく今日の変動為替相場制には適用できるものではない。
参照:
・http://moslereconomics.com/wp-content/graphs/2009/07/natural-rate-is-zero.PDF
・http://moslereconomics.com/wp-content/uploads/2007/12/Exchange-Rate-Policy-and-Full-Employment.htm
インフレーション:
物価水準の源泉を認識しているのはMMTだけである:通貨はそれ自体が公的独占なのだから、独占者は必然的に「価格設定者」である。
市場の力が決めるのは相対諸価格である。通貨の絶対価値に関する情報は、国家の諸政策や制度構造を通じて国家からもたらされる以外にない。
したがって:
物価水準は必然的に、政府の機関(agent)が支出する際に支払う価格、そして、政府が融資する際に需要される担保の関数である。
参照:
・http://www.levyinstitute.org/pubs/wp_864.pdf
・https://docs.google.com/document/d/1sySbx6EHOAYpAjE4FGnYApdZNyY6rh79KzajZxSU884/edit
就業保証(ジョブ・ギャランティー)
失業が残存している状態は、政府が税債務によって失業させた人々をすべて雇用していないことの結果である。つまり独占者である政府が供給を制限している。この供給とは政府の純支出を指している。
現在の政策は、失業を反(景気)循環的なバッファストックとして活用することで物価の安定を目指そうとしている。そうではなく、政府が失業のバッファストックではなく、雇用のバッファストックを利用することによって物価の安定を促進するという、別の政策オプションがあるのだ。
我々の就業保証とは、一定の賃金で働く意思と能力のある人になら誰にでもフルタイムの仕事を提供することであり、これは米国政府が雇用のバッファストック政策を用いることの提唱である。現時点の提案は時給15ドルだ。この賃金は、通貨の価値尺度財(ニュメレール)となる。この価値尺度財は、独占者によって設定された価格であり、通貨の価値を定義するということになるが、他の諸価格はここから制度構造の影響を受けつつ相対的な価値を表現するものとなる。
この就業保証は、失業を用いる現在の政策よりも効果的に物価の安定を促進する形で機能する。就業保証があれば、失業した場合の民間雇用への移動もより容易になる。というのも民間の雇用主は失業中の人を雇うことを好まないからである。
この就業保証が提供するのは完全雇用の一つの形でもある。そして同時に「ボトムアップ」の形で最低限の給与と福利厚生を導入する手段にもなる。 民間部門の雇用主は就業保証部門の労働者を求めて競争することになるからだ。
参照:
・"The 7 Deadly Innocent Frauds of Economic Policy"(『経済政策における命取りに無邪気な7つの欺瞞』)
原文:
Warren Mosler, White Paper: Modern Monetary Theory (MMT) , March 28, 2022.
〔訳注:本論文は、これまで何度か改訂されており、今回の翻訳は2022年3月28日付のバージョンとなる。今後再び改訂があれば、これに併せて当翻訳も修正することとする。〕
〔追記:2022年12月18日付で原文に改訂があったので、訳文を修正した。変更箇所は、原文「THE MMT 'MONEY STORY'- A STATE DESIRING TO PROVISION ITSELF:」のセクションの7番が注釈に変更され、ナンバリングが修正されている。本翻訳記事の更新日:2022年12月19日〕
訳:sorata311、ヘッドホン、goethe_chan、nyun
↑1 | 訳注:ホワイトペーパーとは、複雑な問題について読者に簡潔に伝え、その問題に対する著者の考え方を提示する報告書や手引書のことをいう。 |
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↑2 | 訳注:一般的にdebit/creditは、口座の引落/振込、または借方/貸方への記帳と訳されるが、後述されるようにdebitとは(勘定の)数字を減らすこと、creditは逆に増やすことであるとモズラーは言っている。MMTでは、一連のオペレーションをスコアボード上の数字を書き換えるようなものであると述べている。 |
↑3 | 訳注:基準ケース分析とは、通常、最も可能性の高い、あるいは望ましい仮定と入力値のセットで経済モデルを実行した結果を指す。著者に確認したところ、「すべてのモデルには'起点'(starting point)が必要だ。この起点のことを私は基準ケース(base case)だと言っている。最初の立場(initial position)と呼んでもいい。」との回答があった。 |
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