統一教会問題に迫るジャーナリスト・鈴木エイトの人生を変えた映画は『デッドゾーン』
一本の映画が誰かの人生に大きな影響を与えてしまうことがある。鑑賞後、強烈な何かに突き動かされたことで夢や仕事が決まったり、あるいは主人公と自分自身を重ねることで生きる指針となったり。このシリーズではさまざまな人にとっての「人生を変えた映画」を紹介していく。一回目に登場するのは長年にわたり統一教会の問題を取材し続けるジャーナリストの鈴木エイトさん。肉薄しながらカルト教団の裏側の実態を明るみにしてきた彼の大きな支えとなった映画とは、いったい。
『デッドゾーン』
さまざまな名作ホラーやSF映画を手掛けた鬼才、デヴィッド・クローネンバーグによるサスペンス作品。原作はスティーブン・キングの同名小説。触れた人の未来を見ることができる特殊能力に目覚めた主人公の孤独な戦いを描く。DVD ¥2,090(キングレコード)
私のモチベーションはこの映画で培われたのかもしれない
私の人生を変えるような強いインパクトがあった映画として真っ先に脳裏に浮かんだのが『デッドゾーン』(1983米/監督:デヴィッド・クローネンバーグ)だ。初めて観たのは学生時代。それから幾度となく観てきた。主人公の教員ジョニー・スミスを演じたのはクリストファー・ウォーケン。自動車事故により昏睡状態となったジョニーは5年後、奇跡的に目を覚ます。将来を誓い合った恋人は他の男性と結婚。傷心のジョニーは、事故の影響で人の身体に触れるとその人の過去や未来などが見えてしまうという特殊能力を身に付けていた。
未解決事件の犯人を突き止め、教え子の事故を予知し命を救うジョニーだったが、依然として孤独の中にいた。ある日、元恋人が応援する新人政治家と握手した際、この人物が将来合衆国大統領となり世界を破滅に導く核戦争の釦を押す未来を見てしまう。世界を救うことを決意したジョニーは新人政治家の演説会に向かう。ライフル銃で狙撃し暗殺することを決意したのだ。
誰からも理解されないことは判っている。只の殺人者とみられることも厭わず暗殺計画を実行に移す。だが、壇上に居合わせた子どもを盾にした政治家を撃てず狙撃は失敗、自らが撃たれる羽目に。しかし「クソ 誰に頼まれた?」と迫ってきた政治家に胸ぐらを掴まれた際に、この人物が失脚する未来を観たジョニー。人知れず未来を変え世界を救ったヒーローは、状況が理解できないままの元恋人の腕の中で満ち足りた表情を浮かべたまま息絶える。
「誰から理解されなくても自分の信念に従って行動を起こす」
今思えばジョニーの姿に自分を重ね合わせてきた気がする。私は既に過去のことと思われていた統一教会問題を2002年から20年以上追い続け、稀代のカルト教団と国の中枢を司る政治家が癒着していた実態を10数年に渡り追及してきた。誰もやっておらず、誰もやろうとしなかったことを一人で続け、気が付けば自分一人が疑惑を追っていた。2022年7月8日に起きた安倍晋三元首相銃撃事件をきっかけに、統一教会問題が現在進行形であり政界が蝕まれていることを多くの人が知った。そして私が行ってきたことを多くの人が知るようになった。
「殆どの人が興味すら持たなかった重大な社会事案を一人で追及してきた」
ジョニーと同様に単なるヒロイズムではない。誰かがやらねばならなかったこと、やるべきことをできる人がやっただけである。それだけにジョニーと自分の姿を重ね合わせてしまうのだ。
「誰かがやらなければならないのであれば、自分がやる」
私のモチベーションはこの映画で培われたのかもしれない。次に私には何ができるのか。ジョニーが現代の日本社会にいたら何をするだろう。その思いを馳せる。
(文・鈴木エイト)
Profile
鈴木エイト(すずき・えいと)
ジャーナリスト
滋賀県生まれ。日本大学卒業。2009年創刊のニュースサイト「やや日刊カルト新聞」で副代表、主筆を歴任。2011年よりジャーナリスト活動を始め、「週刊朝日」「AERA」「東洋経済」「ダイヤモンド」などに寄稿。長年に渡り統一教会による被害の実態を取材。昨年の統一教会問題以降、さまざまなワイドショーにも出演。著書に『自民党の統一教会汚染 追跡3000日』(小学館)がある。
Twitter:@cult_and_fraud
0 件のコメント:
コメントを投稿