万葉集 最初の巻頭歌 「籠もよみ籠持ち」雄略天皇作長歌
万葉集 最初の歌は、「籠もよ み籠持ち ふくしもよ みぶくし持ち 」で始まる作者雄略天皇と記される長歌です。
万葉集にいくつかある伝承歌の一首である巻頭歌の内容を解説します。
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籠もよ み籠持ち ふくしもよ みぶくし持ち この岡に 菜摘ます児 家告らせ 名告らさね そらみつ 大和の国は おしなべて 我こそ居れ しきなべて 我こそいませ 我こそば 告らめ 家をも名をも(巻1・1)
読み:こもよ みこもち ふくしもよ みぶくしもち このおか
作者と出典
雄略天皇 万葉集 巻1・11
現代語訳
籠も良い籠をもち、ふくしもよいふくしを持ち、この丘で菜をお摘みの娘さんよ。家を聞きたいので名乗っておくれ。
この大和の国は、ことごとく、私の収めている国である。隅々まで私が治めている国だ。
私こそが名乗ろう、家も名前も。
万葉集の原文
篭毛與 美篭母乳 布久思毛與 美夫君志持 此岳尓 菜採須兒 家吉閑名 告<紗>根 虚見津 山跡乃國者 押奈戸手 吾許曽居 師<吉>名倍手 吾己曽座 我<許>背齒 告目 家呼毛名雄母
語句と文法の解説
籠 | 竹製の容器 |
もよ | 感動を表す助詞 |
み籠 | 「み」は接頭語 美称 |
ふくし | 菜をよりとるためのへら、竹の道具 |
摘ます | 「す」は敬語の助動詞 |
児 | 「こ」は少女に対して用いられる呼び方 |
家聞かな | 家のあr化を打ち明けてもらいたいの意味 「な」は話し手の意思や願望を表す助詞 |
そらみつ | 枕詞 「大和」にかかる |
大和 | 奈良盆地の東南部 転じて大和の国 |
おしなべて | 意味は「おしなびかせて」 天皇の威力の盛んなこと |
しきなべて | 基本形「しく」 「したがえる、領有する」の意味 |
われこそいませ | 「います」は尊敬語なので、作者は天皇以外の人となる |
われこそば | 「ば」は「われこそは」と同じ。「こそ+は」で「は」が「が」の濁音となる例がある |
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解説と鑑賞
万葉集の一番最初にある歌が、雄略天皇が作者とされるこの歌。短歌ではなくて、長歌と呼ばれるものになります。
作者は天皇ではなく伝承歌です。
万葉集の伝承歌とは
伝承歌とは、土地に伝えられる伝説やはるか昔から語り伝えられた話を作品に仕立てたものです。
万葉集の最初に置かれた意味
お祝いの歌であり、「天皇の歌」でもあり、縁起のよいこの歌は、編纂者によって万葉集の最初に置かれることとなりました。
「籠もよ み籠持ちの」の巻頭歌の意味
歌の意味は、上にある通り
籠も良い籠をもち、ふくしもよいふくしを持ち、この丘で菜をお摘みの娘さんよ。家を聞きたいので名乗っておくれ。この大和の国は、ことごとく、私の収めている国である。隅々まで私が治めている国だ。私こそが名乗ろう、家も名前も。
というもので、丘で摘み草をしている娘に、求婚をする天皇の言葉を述べたものです。
「名乗る」は求婚
「名乗る」を示す「告る」は「のる」と読み、単に名前を言うのみではなく、人に名前や家を告げることは、求婚をするということを表しました。
「児」は親しみを表す呼び名
「児」というのは、男性から女性に向けて親しみをこめて呼ぶ語で、万葉集には、有名な安見児や手児奈の名前や、「もみじ葉の過ぎにし児」などの表現が見られます。
われもはや安見児得たり皆人の得かてにすとふ安見児得たり 「万葉集」意味と解説
巻頭歌の構成
まずは、「名乗っておくれ」と呼びかけた天皇が、相手の答えに応じるかのように、自らが「名乗ろう」と鏡のように対比があり、「児」という目的語から「我=天皇」に主語を移しています。
相手の少女の名前や素性が判明する代わりに、この歌を歌うのが、「大和の国は おしなべて 我こそ居れ」で、天皇その人であることが、歌が進むにつれてわかってきます。
そして、「我こそば 告らめ」で、求婚のクライマックスとなるのです。
巻頭歌の詞書
「泊瀬朝倉宮に天の下治めたまふ天皇の代」(はつせあさくらのみやにあめのしたをさめたふ すめらみことのみよ」大泊瀬稚武天皇(おほはつせわかたけのすめらみこと)の詞書が歌の前についています。
朝倉宮に住む雄略天皇の作品という意味ですが、作者は別にいるとされています。
この歌の作者について
この歌の作者については、上のように記されてはいても、雄略天皇ではないというのが、共通の見解で、「雄略天皇作」というのは、編纂者の意図したものだというのです。
内容はいかにも、天皇の詠んだものにふさわしいもので、雄略天皇の人柄ともあっていたようですが、敬語の「ます」が使われていることなどからも、伝承歌、お祝いの歌と取るのがふさわしいのです。
伝承歌というのは、一般に皆に朗唱で文字通り歌われた歌で、万葉集には、労働歌をふくめ、そのような歌が他にも多くあります。
内容は求婚の歌ですが、農耕作業において、子孫を豊かにする結婚と豊作を重ねて詠われたものとされています。
歌の調子
「籠もよ み籠持ち ふくしもよ みぶくし持ち」の部分は、歌の最初にあり、歌を詠みあげて文字通り謡うときの、調子を作るための部分です。
万葉集の時代の「歌」の多くは、読み上げられるときに、舞や動作を伴いました。
そのように「歌いやすい」ことも、歌の大切な条件でもあったのです。
枕詞「そらみつ」について
「そらみつ」は4文字の枕詞で、大和を導く言葉ですが、語源ははっきりとはわからないものの「空見る(そらからみる)大和の国」が起源だという節があります。
この部分は、4文字となりますが、歌の最後の結句が、5文字、3文字、7文字で終わる長歌は、時代の古いものに多く見られます。
万葉集のいかにも縁起の良い天皇の求婚の歌、時代のおおらかさを感じさせます。
皆で歌われた謡いの歌ですので、声に出して読んでみて、繰り返しの言葉の調子の良さを味わってみてください。
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