科学忍者隊ガッチャマンの最終回
ジョー「カッツェ!」
渾身の力で投げたジョーの羽根手裏剣は、ベルク・カッツェに命中せずに壁面に当たり、歯車の回転する機器の中へ巻き込まれてゆく。
カッツェ「ハハハハハ! 悪あがきをするな、コンドルのジョー!」
地上では大地が割れ、炎が吹き出し、津波が街を襲っている。
ギャラクターの総裁Xが企てた最後の作戦は、 この宇宙から地球を消滅させるという、 恐ろしい計画であった。 ギャラクター本部に設置されたコンピューターは 規則正しく地下6400キロの核に向かって ニュートロン反応を起こすべく、 分子爆弾を投下していた。
ギャラクター本部近くまで乗り込んだ、科学忍者隊の健たち。
健「いいか? たとえ血を吐いてでも走りまくり、ジョーを捜しだし、本部への入口を見つけ出すんだ。ひょっとしたら、俺たちが顔を合せるのも、これが最後かもしれんな……」
一同「健!」「兄貴……」「健!」
健「ブレスレットは無闇に使うな。必要なときだけ、短く使え。奴らも俺たちを捜すため、電波網を張っていることを忘れるな。行け!」
ギャラクター本部では、カッツェが大きな地球儀のそば、演説の練習をしている。
カッツェ「世界の人民諸君! 今や地球はその運命を、ギャラクターの手に委ねた。私は約束しよう。私が全世界の主権を握った暁には、必ずや…… うぅむ、どうも言葉に重みが足りんな。地球上の帝王になるには、それらしく振る舞わんと。世界の人民諸君!」
敵隊員「カッツェ様、大変です!」
カッツェ「カッツェ様、大変です……、何ぃ!? 何だ、お前たちか。うるさいな、もう」
敵隊員「科学忍者隊のコンドルのジョーが逃げ出しました」
カッツェ「何、あの体でか!?」
深手を負ったジョーが、基地内を這うように進む。
ジョー (ゴッドフェニックスが来ている…… なんとかこの本部の場所を、健に教えないと……)
ギャラクター隊員たちが追って来る。ジョーは必死に、物陰に隠れてやり過ごす。
カッツェ「コンドルのジョーはまだ捕まらんのか!? 奴は科学忍者隊と連絡を取るつもりだぞ!」
敵隊員「はっ。何分、深い霧の中でありますから」
カッツェ「バカ者! それこそ、我々に有利ではないか! シラミ潰しに捜せ! 見つけ次第、殺せぇぃ!」
地上はすでに、 ニュートロン反応の初期症状を起こしていた。 近くは陥没し、マグマは吹き出し、 大気汚染物質は降下して都市を襲った。 だが、人々にはその原因が何のためか 知らされていなかった。 国際科学技術庁が、 真相の発表を控えていたからだ。
科学技術庁。
「大神礁が火を吹き出しました!」
「コンピューターの計算より早いな。これじゃ、地球全体が火に包まれる時間は、もっと早くなるかもわからんぞ」
南部博士のもとに、科学技術庁のアンダーソン長官がやって来る。
南部「はっ、長官」
アンダーソン「これ以上、真相を隠し続けることは難しいんじゃないのですか? 各国からの問合せもうるさいし」
南部「いえ、真相の発表はやめてください。パニック状態を引き起こすだけです」
アンダーソン「しかし、南部博士。我々が黙っていても、いずれはギャラクターから全世界に向かって、降伏の呼びかけがあるはずだ。そのとき、世界中の人々はどう思うだろうか?」
南部「恐らく私たちはすべての信用を失い、地球はギャラクターに支配されるでしょう」
アンダーソン「恐ろしいことだ。地球を消す方法があったとは……」
南部「まったく、恐ろしい相手です。我々科学者の研究でも、ニュートロン反応があることは突き止められても、その反応を起こす分子が何であるかは、わかっていませんでした。それをギャラクターは、いえ、総裁Xは知っていた…… もしニュートロン反応により、地殻がコアに向かって動き始めれば、一瞬にしてこの地球は消滅してしまいます。しかし、彼らが欲しいのは地球です。その地球を破壊するはずがありません。ベルク・カッツェが行動を起こす前に、本部に潜入した科学忍者隊が、何らかの手を打つはずです。彼らを信じて、待ってください」
ギャラクター隊員たちは、散開した健たちの通信を探り続ける。
「いたか?」
「ダメだ。奴らも警戒して、ブレスレットの交信をしてないようだ。未だに電波のキャッチができないんだ」
突如、大地が揺れ始める。
「またか……」「本当に大丈夫なんだろうな? 俺たちだけは助かるんだろうな?」
「俺たちはカッツェ様の言葉を信用するしかねぇんだが、正直言って最近、俺も怖くなってきたよ」
「いたぞ! 逃がすなぁ!」「いたぞ!」「追え、追えぇ!」
健が隊員たち見つかるものの、追っ手を蹴散らしつつ、本部を捜し続ける。
健 (くそぉ…… こいつらは一体、どこから出て来るんだ? 出入口はどこにあるんだ?)
敵隊員「ガッチャマンだ!」「逃がすなぁ!」
ジョー「ガッチャマン……? 健、どこにいるんだ? 健、お前に本部を知らせなきゃ…… 俺は、俺は…… 健!」
ジュン「はっ、今の声は!?」
敵隊員「いたぞ、仲間だ」「撃て、撃てぇ!」
隊員たちがジュンを発見。ジュンは隊員たちを蹴散らしつつ、ジョーの声を追って走る。
敵隊員「いたぞ!」
甚平もまた隊員に見つかり、隊員と戦いながらも本部を捜し続ける。
竜も同じく本部を捜し続ける。
竜「くそったれが、ここも違うぜ」
敵隊員「へへっ、何してんだ、お前」
隊員と鉢合せした竜が、隊員を倒しつつ捜索を続ける。
「ブレスレットを狙え!」「逃がすな!」
ジュンを追いつめた隊員の1人が銃を構えるが、それより先に、ジョーの羽根手裏剣が隊員を仕留める。
ジュン「ジョー……! ジョー!」
ジョーが力尽き、倒れる。
ジュン「ジョー、しっかりして!」
ジョー「ジュン、健を呼べ…… 本部の入口はここだ」
ジュン「こちらG3号! 健、ジョーを見つけたわ!」
その通信を、ギャラクター隊員たちが探知する。
敵隊員「かかったぞ、奴らの電波だ!」「とうとう使ったか。気長に待っていた甲斐があったってもんだ」「包囲の輪を縮めよう。一網打尽だ」
ジョーとジュンのもとに、健たちが合流する。
健「ジョー、お前って奴は……」
ジョー「わかってるよ。それ以上言うなって。これが俺の生き方だったのさ……」
健「バカ野郎! なぜ勝手な行動をしたんだ? なぜ一言、俺たちに相談してくれなかったんだ……?」
ジョー「ヘヘッ。最後の最後まで、お前には説教されっぱなしか…… ジュン」
ジュン「ジョー……」
ジョー「健と仲良くな。こんな危ねぇ仕事は早く辞めて、女の子らしい幸せをつかめよ…… 甚平」
甚平「あぁ…… なんだよ、ジョー」
ジョー「ジュンに我がまま言って、困らすんじゃねぇぞ。俺から見りゃ、お前ら2人が羨ましかったぜ。本当の姉弟のようでよ……」
甚平「わかってるよ…… わかってるから、嫌だよ。死んじゃ嫌だよ、ジョー……」
ジョー「竜……」
竜「ジョー……」
ジョー「命令違反ばかりで、すまなかった…… お前に素直に詫びることが、やっとできたぜ……」
竜「何言うんだ、ジョー…… オラ聞かねぇぞ。詫びるんだったら元気になって、オラに一発ぶん殴らせろ…… それでなきゃ、オラぁ聞かんぞ。お前の詫び言なんか、聞かねぇぞ……」
ジョー「……さぁ、行け。急がなきゃ、カッツェの奴がそろそろ動き出すぜ」
皆が涙を拭う中、健は1人、背を向けている。
ジュン「ジョー!」
竜「健! ゴッドフェニックスで、オラがジョーを運ぶ。いいな、健!?」
健「……」
ジュン「健!」
甚平「兄貴!?」
竜「健! ジョーは、オラたちと生死をともにしてきた仲間じゃ! 精一杯のことをしてやれないのかよ!?」
霧の中から、大勢の足音が近づいて来る。
健「……科学忍者隊リーダーとしての命令だ。コンドルのジョーはここに残し、全員、ギャラクター本部に突入する」
一同「えぇっ!?」
健「ジョー……」
ジョー「あぁ……」
健「許してくれ…… 死ぬときはともにと誓ってきた俺たちが、今、お前を見捨てて行かねばならない。ジョー。せめてこのブーメランを、俺の心だと思って持っていてくれ」
健が愛用のブーメランを抜き、ジョーの手に握らせる。
健「……それ以上、近寄るんじゃない! ギャラクター!!」
振り向くと、そこにはギャラクター隊員たちの大群。
健「お前たちには今、俺たちがどんな気持ちでいるか、わかりはしまい! もう、いいだろう!? これ以上の血を流して、それが一体何になる!? いたずらに肉親を失い、友と別れるだけだぞ!」
敵隊員たち「……」
健「一刻を争うときなんだ。お前たちなど、相手にできん。ジャマをするつもりなら、こっちにも覚悟があるぞ!」
竜「これだ、健!」
そばの遺跡に隠された入口から、健たちが本部へ突入する。
敵隊員「追えぇ!」
だが突然、地面が一際大きく揺れ始める。
倒れた遺跡が隊員たちを下敷きにし、地割れが隊員たちを飲み込んでゆく。
敵隊員「うわぁぁ!」「助けてくれぇぇ!」
ついに本部へ突入した健たちが、ベルク・カッツェのもとへ辿り着く。
健「カッツェ!」
カッツェ「ガ、ガッチャマン!? とうとうここまで来たか!」
健「ベルク・カッツェ、やめろ! ブラックホール作戦を、今すぐ中止するんだ」
カッツェ「良かろう。今ここで、お前たちが私に降伏するなら……」
健「カッツェぇぇ!!」
カッツェが言い終わるよりも早く、健がカッツェの首を掴み上げ、蹴りを見舞う。
健「降伏しろだと!? 誰に言ってるつもりだ!?」
カッツェ「う、うぅ……」
健「この地球がお前のものになると思っていたのか!? 貴様はそんなに俺たちを甘く見てたのか!?」
そばの地球儀を健が突き飛ばし、カッツェが下敷きとなる。
健「どうだ、地球の抱き心地は!? 満足したか!?」
カッツェ「あ…… あ……」
健「カッツェぇぇ!! 立つんだぁぁ!!」
パンチ、キックと、健の怒涛のような攻撃の連続。
カッツェはまったく抵抗できない。
健「さぁ、ベルク・カッツェ。ブラックホール作戦を中止するんだ! それとも、このまま息の根を止めてもらいたいか!?」
カッツェ「う、うぅ……」
健「どうなんだ、ベルク・カッツェぇぇ!!」
カッツェ「そこまでにしてもらおう、科学忍者隊」
健「総裁X、どこにいる!?」
カッツェ「そ、総裁、助けてください…… うぅっ……」
壁面に、総裁Xの姿が浮かび上がる。
総裁X「ハハハハハ! ハハハハハ!」
健「総裁X……」
総裁X「科学忍者隊、無駄な足掻きはするな。ブラックホール作戦は着実に進んでいる。見ろ、あれを!」
壁が展開し、機械装置が姿を現す。
総裁X「あれが、地球に分子爆弾を送っている装置だ。私の計算では、あと30分でニュートロン反応が起きる。そして地球は消えるのだ!」
カッツェ「そ、総裁!? それでは約束が違います。総裁はこの地球を、私にくださると……」
総裁X「くれてやる。粉々になり、宇宙のチリとなった地球をな。ハハハハハ!」
カッツェ「総裁……!? あなたは私を騙していたのですか!?」
すかさずジュンたちが、機械を止めにかかる。
総裁X「カッツェよ。私はある命令を受けて、この地球へやって来た。だが、私の帰るべき星が消えてしまったのだ」
健「セレクトロ星…… この前消えた、アンドロメダ星雲の中の」
総裁X「私は原因を調べに、アンドロメダに帰らねばならない。その前に、もう用のなくなったこの地球を、私の星のように消していく! カッツェよ。お前には気の毒だが、計画が変った」
カッツェ「そ、そんな…… そ、総裁……」
総裁X「さらばだ、カッツェよ。今日までよく働いてくれた。せめてもの礼を言うぞ」
カッツェ「そ、総裁…… 総裁ぃぃ──っっ!!」
カッツェが総裁Xへ走り寄るが、壁面が大爆発する。
その向こうにできた空洞から、巨大なロケットが昇っていく。
カッツェ「総裁…… 私は何のために、あなたの力でミュータントにされたのですか!? こんな結末を迎えるなら、私は人間でいたかった! 私は人間に生まれていたほうが、幸せだったのです! 総裁X様ぁぁ──っっ!!」
ロケットは地底の本部基地から、地面を突き破り、空へと飛び去って行く。
ジュン「健! どうやっても機械が止まらないのよ!」
健「みんな、持っている火薬を全部放り込め!」
一同が火薬をしかける。
爆発で機械が一時的に止まるが、すぐにまた動き出す。
健「ダメだ…… 一つの回路を遮断しても、また別の回路が動き出す」
カッツェ「フフフ…… フハハ、ハハハ……」
カッツェが涙を流しつつ、狂ったように笑いだす。
カッツェ「無駄だ、科学忍者隊。その機械は止まらん。私は総裁の言葉を信じて、制御装置を付けなかったのだ! ワハハハハ! 滅びろぉぉ! みんな、滅びろぉぉ!!」
カッツェが、総裁Xの飛び去った後の空洞へ身を投げ、眼下のマグマの海へ落ちて行く。
健「カッツェ……」
そうしている間にも、分子爆弾は刻一刻と地底へ近づいて行く。
健「よし。俺がこの中へ入る。内側からなら、なんとかなるだろう」
ジュン「やめて、健!」
健「離せ! やるだけのことはやるんだ! 俺たちは科学忍者隊だぞ」
ジュン「機械の中に入っても、歯車に潰されるだけよ。死ぬなら、ここでみんなと一緒に死にましょう。私、もう嫌…… あなたのお父さんのように、ジョーのように、離ればなれになって1人で死ぬなんて……」
健「ジュン……!」
ジュン「健!」
健「ジュン……」
機械内部で、歯車が動き続ける。
冒頭でジョーの放った羽根手裏剣が歯車で運ばれ、歯車と歯車の間に挟まり、その動きが止まる。
無駄な回転力が加わった末に、歯車が軸から外れ、制御を失った爆弾がその場で爆発。
健「うわぁぁ!?」
機械装置から、もうもうと黒煙が立ち昇り、一向に停止しなかった機械がピタリと停止している。
甚平「兄貴…… 機械が止まってる」
竜「本当かよ!?」
健「原因はわからんが、機械の中で分子爆弾が爆発したんだろう」
ジュン「マグマと衝突して威力を出す爆弾だから、内部の歯車を壊しただけで済んだのね」
竜「ふぅ…… 助かったんだ、オラたち……」
甚平「カウンターゲージは『0002』。危機一髪だったんだなぁ」
竜「0002、『2』か。ジョーの番号じゃのぉ」
健たちが本部基地から、外へ脱出する。
地割れと落石で凄まじく崩壊した光景。
竜「うわぁ! こりゃ、ひでぇわ。これじゃ、助かった奴はおらんじゃろう。甚平、足元に気をつけろよ」
甚平「わかってるよ。いつまでも、子供あつかいすんなよな」
甚平が何かにつまづく。
竜「ほぉら、言わんこっちゃない」
甚平「ちょ、ちょっとつまづいただけだよ! ……あっ!」
足元を見ると、地面に落ちた大岩の下の隙間に、健がジョーに託したブーメランがある。
甚平「兄貴……」
健は知らない。 ジョーが執念で投げた羽根手裏剣が、 地球の危機を救ったことを──
南部「科学忍者隊の目の前で、総裁Xが地球より逃亡した。同時刻、宇宙ロケットより、大気圏から宇宙に向かって飛行する、細く長い鉛筆のような光る物体を見たとの報告がありました」
声「南部博士。すると、総裁Xの正体は宇宙人だったということですか?」
南部「わかりません。光る物体はロケットで、その中に宇宙人がいたのか? ──」
記者会見の席の、南部博士。
南部「──それとも、物体自体がものを考え、人を動かす生命であったのか? あるいはコンピューターであったのか?」
記者「これで、地球は救われたんですね?」「平和が来るんですね?」
南部「それもわかりません。ギャラクターは確かに、自滅しました。しかし、みなさん! 考えてください。ギャラクターのように悪魔的な、破壊を好む心は、私たちの、あなたたちの心の片隅にも眠っているのではないでしょうか?」
記者「博士、科学忍者隊はどうしていますか?」
窓の外、青空をゴッドフェニックスが行く。
南部「彼らは今日も飛んでいます。私たちの平和を守るために……」
ゴッドフェニックスの中、健たち4人。
そして、無人のジョーの座席。
海を、陸を、大空を。科学忍者隊は今日も行く。 燦々と太陽輝く地球を守り、 ゴッドフェニックスは今日も飛ぶ。 平和な未来を呼ぶために── |
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最終更新:2014年07月10日 03:22
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