2023年10月21日土曜日

なぜ「怖い」は「快楽」なのか、人がわざわざスリルを求めてしまう背景とは(ナショナル ジオグラフィック日本版) - Yahoo!ニュース

なぜ「怖い」は「快楽」なのか、人がわざわざスリルを求めてしまう背景とは(ナショナル ジオグラフィック日本版) - Yahoo!ニュース

なぜ「怖い」は「快楽」なのか、人がわざわざスリルを求めてしまう背景とは

恐怖が快楽に変わる生物学的、心理学的な理由を専門家が解説

 2023年、米テネシー州チャタヌーガのとあるホテルに一泊する権利を得るため、1300人以上が抽選に応募した。彼らの目当ては、1927年に恋人に首を切られて殺されたアナリーサ・ネザリーの亡霊が出ると噂される部屋に泊まることだ。 ギャラリー:絶対に「出る」 世界の心霊スポット20選  この抽選の人気ぶりには、自分からわざわざ怖い思いをしたいという、多くの人々に共有されている情熱の一端が垣間見える。人間が自ら怖い思いをするのを好むことには、心理的にも身体的にもそれなりの理由がある。  生物学的な恐怖反応は非常に複雑であり、扁桃体から前頭葉まで、さまざまな脳領域に影響を与える神経伝達物質とホルモンが関係していると、米スタンフォード大学医学部の精神医学・行動科学の臨床教授で、不安障害部門長を務めるエライアス・アブジャーデ氏は言う。この複雑な反応が、ストレスのような不快な感情と、安心感のような快い感情の両方を引き起こす。  われわれの体は、恐ろしいものに対して、闘うか逃げるための準備をするよう進化してきた。具体的には、瞳孔を広げてものがよく見えるようにしたり、気管支を広げて酸素を多く取り込めるようにしたり、血液やブドウ糖を重要な器官や骨格筋に送り込んだりするのだと氏は説明する。  恐怖が全身に及ぼす影響はときに爽快に感じられ、恐怖の対象が消え去ったときには、満足や勝利の感覚を覚えることさえある。恐怖にはなぜそれほどの中毒性があるのだろうか。

スリルの生物学

 アドレナリン、ドーパミンコルチゾールは、人間が脅威を感じたときに放出する3つの重要な物質だ。  危険を察知すると、アドレナリンの放出によってわれわれの「闘争・逃走反応」が引き起こされる。これによって心拍数、血圧、呼吸数などが高まるのだと、米スタンフォード大学医学部の精神医学・行動科学の教授で、スタンフォード・ストレス・アンド・ヘルスセンター所長のデビッド・スピーゲル氏は言う。「それが『ランナーズハイ』のような高揚感をもたらします。活力とエネルギーがみなぎるように感じるのです」  ストレスホルモンであるコルチゾールは、体のさまざまな機能を調節するために常時放出されている。しかし、何らかの状況や経験を乗り越えようと緊張したときには、その量が一気に増えることもある。  コルチゾールは、まずアドレナリンなどの「闘争・逃走」ホルモンが一気に放出された後も警戒が維持されるのを助ける。また、緊急事態の最中に、肝臓からエネルギーとなるブドウ糖(グルコース)が放出されるのを促す。  コルチゾールのレベルが慢性的に高い状態は、「体にとって良いことではありません」とスピーゲル氏は言う。「それは、必要のないときでも体が常に戦闘状態にあるということだからです」  アドレナリンとコルチゾールは、どちらもストレスと関係がある。ストレスは、胸痛、頭痛や震え、疲労、筋肉の緊張といった身体的な症状のほか、いらつき、パニック発作、悲しみといった感情的な症状を引き起こす。  ドーパミンは、より全般的に良い気分をもたらす神経伝達物質だ。これは喜びや、報酬の期待や経験などに関連しており、そこには「恐怖を乗り越える、レースで勝利する、他者から尊敬や承認を受ける」といったことも含まれるとスピーゲル氏は言う。  しかし、恐怖の対象が目の前から消えて初めてドーパミンが放出されるわけではない。報酬への期待感があれば放出されると、スピーゲル氏は言う。薬物依存症の患者は、目当ての薬がまだ手元になくとも、それを追い求めている最中に、ドーパミンによって高揚感を経験する。

https://news.yahoo.co.jp/articles/27568edbe75bae4ed5387f7722fa155ffd595b62?page=2

なぜ「怖い」は「快楽」なのか、人がわざわざスリルを求めてしまう背景とは

 お化け屋敷であれジェットコースターであれ、それが本当は安全なものだとわかっていれば、恐怖はワクワクするスリルのように感じられると、アブジャーデ氏は言う。 「ある種の体験はわれわれに、自分は実際に危険な状況を乗り越えて生き延びられるという錯覚を与えます。脅威に立ち向かうことは、勝利のようにも感じられます。事実、恐れているものに立ち向かうのは必ずしも悪いことではありません」  恐ろしいものに立ち向かったときに何も悪いことが起こらなかったという経験は、そうした対象に対する恐怖の意識を薄れさせる場合もあるが、これにはマイナスの側面もある。 「一部の人たちは、恐怖との遭遇体験によって喜びや安堵を感じて、そうすべきでないときに危険を冒してしまいます」とスピーゲル氏は指摘する。健全な人であれば、リスクを承知でスキーへ行き、注意深く行動する。スリルを追い求める人は、安全だとわかっている範囲を超えてスピードを出すことがある。「危険に直面したとき、人はリスクがどの程度かを考えます。そして、そのリスクを乗り越えて生き延びたときに、達成感を味わうのです」  お化け屋敷やホラー映画のような娯楽は、10代などの若い世代をターゲットにしていることが多いが、実はそこにも理由がある。 「その年代の若者は、死というものを真剣に理解しようとしている最中です。つまり自分は何を恐れるのか、自分はどれだけ勇敢になれるのかと自問しているのです」と、南カリフォルニア大学ドーンサイフ校の人類学教授で、幽霊が出てくる物語についての講義を担当するトック・トンプソン氏は言う。氏によると、恐怖に立ち向かうことは、多くの文化において大人になる過程の一部とみなされているという。 「そうした行為は社交的な活動の場で、主に若者たちによって行われます。お化け屋敷には本当におばけがいるのかを確かめることによって、彼らは自分自身を試しているのです」

https://news.yahoo.co.jp/articles/27568edbe75bae4ed5387f7722fa155ffd595b62?page=3

なぜ「怖い」は「快楽」なのか、人がわざわざスリルを求めてしまう背景とは

 人間が感じる恐怖の中には、進化の過程で「あらかじめプログラムされた」ものも含まれていると、米ハーバード大学の神経学・精神医学准教授アリス・フラハティ氏は言う。われわれの祖先は、恐ろしい刺激を避けることを学び、そのおかげで彼らは生き延びて、恐怖の本能をわれわれに伝えた。 「子どもたちは、大きな音、クモ、ヘビ、血、急接近してくる物体などを恐れることをわざわざ学ぶ必要はありません」。そういった生得的な恐怖は「遺伝子に組み込まれて」いると氏は言う。  ただし、それ以外の恐怖の大半は、経験を通して発達する。たとえば、子どもの頃にかまれたせいで生涯にわたってイヌに恐怖を感じたり、一度刺されてアレルギー反応が起きたせいでハチを怖がるようになったりするなど、一人ひとりが学ぶそうした恐怖は、子どもたち自身と同じように多種多様だ。  そうした恐怖の刺激に関する研究によると、それが本物でなくとも人は恐怖を感じるが、リアリティーが増すことで恐怖はさらに強くなるという。 「本物のヘビは仮想現実(VR)のものよりも恐ろしいでしょうし、そのVRのヘビは、粒子の荒い画像よりも恐ろしいでしょう」とアブジャーデ氏は言う。  また、恐怖の感じ方はジェンダーによっても差があることがわかっていると、フラハティ氏は言う。「男性は女性よりもホラー映画を好むという説はよく聞かれますが、男性は捕食者として、女性は犠牲者として映画に感情移入していること示す、非常に信頼性の高い証拠があります」  われわれの恐怖心は多種多様であり、だからこそ米フロリダ州デイドシティにある「スクリーム・ア・ゲドン」のようなホラー遊園地では、さまざまな仕掛けを用意しているのだと、同園でマーケティング主任を務めるジョン・ピアンキ氏は言う。ピエロや魔女のほか、刑務所や実験室のセットなど取りそろえたこの遊園地では、来場者の大半がカップルや友人同士のグループだという。 「ここに来る人たちが経験する恐怖が、暗い路地で何か恐ろしい目に遭うときに感じる恐怖と同じだとは思いません」とピアンキ氏は言う。遊園地での体験は「不安を煽る」ように演出されているものの、そこにはほっと一息つける瞬間も含まれているという。「人々は最初はゆっくりと、グループで固まって入ってきますが、怖い部分が終わるやいなや、大声で叫んだり、笑ったりしながら出てくるのです」

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