https://news.yahoo.co.jp/articles/f0b5091bc42eb25be5ffa4eb6564d40e6057c997
「哲学のノーベル賞」バーグルエン賞に柄谷行人さん アジア初
「世界史の構造」などの著書がある哲学者の柄谷行人(からたに・こうじん)さん(81)が、今年の「バーグルエン哲学・文化賞」の受賞者に決まった。米カリフォルニア州のシンクタンク、バーグルエン研究所が8日、発表した。この賞は、同所長で慈善家のニコラス・バーグルエンさんが「哲学のノーベル賞」を目指して2016年に創設し、「急速に変化していく世界のなかでその思想が人間の自己理解の形成と進歩に大きく貢献した思想家」に毎年授与している。
柄谷さんの受賞理由は「現代哲学、哲学史、政治思想に対する極めて独創的な貢献」。そして「混迷するグローバル資本主義と民主主義国家の危機、めったに自己批判が伴うことのないナショナリズムの復活という今の時代において、その作品は特に重要である」とされた。アジア初の受賞。柄谷さんは「思いもかけなかった評価に喜んでいる。感謝しています」と話す。賞金は100万米ドル(約1億3700万円)。授賞式は来春、東京で行われる予定だ。
柄谷さんは夏目漱石論から出発し、著書「日本近代文学の起源」などで、従来の文芸批評のあり方を一新した。その後、哲学・理論的な仕事に重心を移し、「トランスクリティーク カントとマルクス」や「力と交換様式」などを刊行してきた。著作は、英語をはじめ複数の言語に翻訳されている。05年から本紙書評委員。
バーグルエン賞の過去の受賞者は、多文化の人間が共存する社会の構築を目指すカナダの哲学者チャールズ・テイラーさん(16年)▽社会的弱者に着目した独自の正義論を展開する米国の哲学者マーサ・ヌスバウムさん(18年)▽米国で弁護士として性差別撤廃訴訟を多く手がけ、リベラル派を代表する最高裁判事だった故ルース・ベイダー・ギンズバーグさん(19年)▽途上国での医療活動で知られた米国の医療人類学者で医師の故ポール・ファーマーさん(20年)▽環境保護や動物解放運動に携わる倫理学者ピーター・シンガーさん(21年)ら。(石田祐樹)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000113157.html
アジア初 日本の哲学者 柄谷行人氏、2022年バーグルエン哲学・文化賞を受賞
現代哲学と政治思想に大きく貢献した先駆的な思想家
バーグルエン研究所(米国カリフォルニア州ロサンゼルス)は本日、バーグルエン賞審査委員会が、卓越した日本の哲学者、文芸評論家である柄谷行人氏を2022年のバーグルエン哲学・文化賞の受賞者に選出したことを発表しました。同賞は、急速に変化していく世界のなかでその思想が人間の自己理解の形成と進歩に大きく貢献した思想家に毎年授与されており、賞金は100万米ドルです。アジア人初の受賞者となる柄谷氏は、哲学、文学理論、美学、言語学、経済学、政治、東洋と西洋、過去と現在を思想的に横断する稀有な思想家です。同賞審査委員会は、「柄谷氏は現代哲学、哲学史、政治思想に対する極めて独創的な貢献をした。混迷するグローバル資本主義と民主主義国家の危機、めったに自己批判が伴うことのないナショナリズムの復活という今の時代において、柄谷氏の作品は特に重要である」として、同氏を選出しました。
バーグルエン賞審査委員長のアントニオ・ダマシオ氏は次のように述べています。「柄谷行人氏は、現代における最も注目すべき哲学者の一人です。彼は互酬性と公平性という概念が思想をつなぐ鍵として大きな位置を占める見事な思想体系において、民主主義、ナショナリズム、資本主義の本質を深く掘り下げる、哲学の新しい概念を生み出しました。柄谷氏の先駆的な業績と、彼が社会、政治、文化、経済の大規模な変化によって急速に変わりゆく世界のなかで、私たちが方向性と知恵を見出し、自己理解を深めることに貢献してくれたことを称え、それを広く知らしめることを喜ばしく思います」
当初、文学や美学の研究で名を馳せた柄谷氏は、その後、政治経済学や哲学史の分野で驚くべき独創的な仕事をしましたが、そこでは文学、哲学、政治、経済学における諸問題が、異端的な探究のなかで結びつけられており、その探究にあっては、言語と数が、貨幣と美学とに結びつけられ、帝国主義と資本主義と哲学の体系は同時的に発展するのです。2003年に英語版が出版された『トランスクリティーク カントとマルクス』(Transcritique: On Kant and Marx)は、新たな視点から語り直されたイマヌエル・カントとカール・マルクスのトランスクリティカルな読解により、広く知られるようになりました。また2017年に英語版が出版された『哲学の起源』(Isonomia and the Origins of Philosophy)は、イオニアの思想および異なる社会形態の意味を強調し、哲学ならびに民主主義の唯一の起源としてのアテネを脱中心化して、影響力を持ちました。その他の英訳されている著書には、『世界史の構造』(The Structure of World History: From Modes of Production to Modes of Exchange 2014年)、『マルクス その可能性の中心』(Marx, Towards the Center of its Possibilities 2020年)、『ネーションと美学』(Nation and Aesthetics Kant and Freud 2017年)、『歴史と反復』(History and Repetition 2011年)、『隠喩としての建築』(Architecture as Metaphor; Language, Number, Money 1995年)、『日本近代文学の起源』(Origins of Modern Japanese Literature 1993年)などがあります。
驚くべきことではありませんが、柄谷氏の著作は欧米で広く知られるのに先立ってアジア全域で影響力を持ち、アジアの学者たちが、資本主義や国民国家、国際関係への対応を発展させつつ、自国の文化を批判的に分析するという難題に取り組む方法を形づくりました。地域のレベル、もしくは国のレベルでの反響が、広く普遍的に当てはまることが、やがて証明されることでしょう。
柄谷氏の学術的研究はすべて、政治への切実な取り組みと、かつての雑誌編集者としての仕事を補完するものでもあり、創造的で批判的な学問からなる幅広い知的運動を支え、かつそれによって活気づけられています。おそらく最も重要なのは、資本主義は必然的だと信じる新自由主義の考えと、それに対抗できるのは国家主義とナショナリズムだけであるという従来の右派と左派の考えの両方へのオルタナティブを明確にしたニュー・ アソシエーショニスト・ ムーブメント(NAM)の主要な創始者であることでしょう。『世界史の構造』のなかで、彼はマルクス主義の理論に取り組むとともに、正統的マルクス主義と決別し、歴史的に実践されてきた交換様式、そして可能なる交換様式を再考することで、搾取や略奪ではなく、互酬性が世界的に組織される可能性を論じました。
柄谷行人氏は1941年に兵庫県尼崎市に生まれました。東京大学経済学部を卒業後、同大学院の英文学修士課程を修了。以降、東京の法政大学で教鞭を執りながら文芸評論家として活躍し、1969年には夏目漱石を論じた評論で群像新人賞を受賞しました。その後、米国イェール大学の客員教授として日本文学を教え、そこでポール・ド・マン氏およびフレドリック・ジェームソン氏に出会い、形式主義の研究に取り組み始めました。1990年から2004年まで、米国コロンビア大学で比較文学の客員教授として定期的に教鞭を執り、近畿大学教授、カリフォルニア大学ロスアンジェルス校教授も歴任しました。
バーグルエン研究所所長 ニコラス・バーグルエンは次のように述べています。「柄谷氏のマルクス解釈においては、経済的な生産様式が他のすべてを決定する『下部構造』である、という考えは覆され、かわって、資本、国家、ネーションが混じり合って社会を形成するなかで絶えず変化していく『交換様式』が想定されています。彼は、現実から遊離した書斎の哲学者ではなく、彼が古代イオニア文化に見出したような互酬的なあり方の現代的な形態を、『アソシエーショニズム』と呼んで積極的に推進してきました」
柄谷行人氏は、哲学、社会科学、経済学、人権とグローバル ジャスティス、理論物理学などの分野で活躍する、世界最高峰の思想家を含む数百人の候補者の中から、第7回バーグルエン賞の受賞者として選出されました。過去の受賞者はピーター・シンガー氏(2021年)、ポール・ファーマー氏(2020年)、ルース・ベイダー・ギンズバーグ氏(2019年)、マーサ・ヌスバウム氏(2018年)、オノラ・オニール氏(2017年)、チャールズ・テイラー氏(2016年)です。
同賞は、2023年春に東京で開催予定のバーグルエン賞の式典で柄谷行人氏に授与されます。受賞式では、BBCワールドサービスによる柄谷氏へのインタビューが行われ、同氏の業績と思想を紹介するラジオ番組のなかで、世界中に配信される予定です。
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バーグルエン哲学・文化賞について
バーグルエン哲学・文化賞は慈善家のニコラス・バーグルエンが2016年に創設した賞で、第1回は異なる知的伝統と文明の間の理解を深め、人文、社会科学、パブリック アフェアーズ(企業の社会的・公的責任)に影響を与えたカナダの哲学者、チャールズ・テイラー氏に授与されました。2017年は、市民生活の質を高め「public discourse」(公的な議論・対話)という言葉を広めた市民哲学者としての功績によりオノラ・オニール氏に授与され、2018年は人間の能力を考察し、道徳的・政治的生活における脆弱性、恐怖、怒りを探求する枠組みが評価された公共・道徳哲学者のマーサ・ヌスバウム氏が受賞しました。2019年は、男女平等の先駆者であり法の支配を強化したライフワークが評価された、ギンズバーグ元米国連邦最高裁判事に授与されました。世界的なパンデミックに見舞われた2020年は、世界的な公衆衛生の公平性を推進した功績が認められポール・ファーマー氏が受賞しました。2021年は、動物の権利、効果的な利他主義、世界的な貧困撲滅のための倫理的枠組みを提唱した功利主義哲学者のピーター・シンガー氏が受賞しています。
今年の同賞審査委員会は、アントニオ・ダマシオ氏を筆頭に、クワメ・アンソニー・アピア氏、ユク・ホイ氏、エリフ・シャファク氏、デイヴィッド・チャーマーズ氏、シリ・ハストヴェット氏、プラタープ・バーヌ・メータ氏、ワン・ホイ氏など、国際的な作家・思想家で構成され、 多様な研究分野からの最終候補者たちの中から2022年度受賞者が選ばれました。同賞を運営しているバーグルエン研究所は、知的な深みと、国や文化を超える長期的な社会的・実際的意義を併せ持った思想を展開する思想家の推薦を歓迎しています。
バーグルエン研究所(Berggruen Institute)について
バーグルエン研究所は、21世紀の基盤となる思想の醸成と政治・経済・社会制度の形成をミッションとして活動している米国のシンクタンクです。大きく外に開かれ目的意識を持ったネットワークを活用した批判的分析によって、文化と政治の垣根を越えて最高の頭脳と最も権威ある知見を融合させることで、現代が直面している根本的な諸問題を探求しています。同研究所の目的、それは世界中の社会の進歩と方向性に永続的な影響を与えるところにあります。これまでに、バーグルエン研究所が始めたさまざまなプロジェクトは欧州の若年層の雇用計画の策定支援、中国の指導部と西側諸国のよりオープンで建設的な対話の促進、米国カリフォルニア州の投票イニシアチブ プロセスの強化を支援し、また世界中のソートリーダーの知見を集めてその考えを広く共有する新しい出版物「Noema」を創刊しました。 これらに加え、バーグルエン研究所は独立した審査員の選考に基づき、人類の進歩につながる人間の自己理解を形成する思想を持つ思想家に、毎年バーグルエン賞と賞金100万米ドルを授与しています。
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