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https://www.amazon.co.jp/封建社会-マルク・ブロック/dp/4000020927/ref=sr_1_1?__mk_ja_JP=カタカナ&crid=G2CJLGSCEWK7&keywords=ブロック+封建社会&qid=1679279324&sprefix=ブロック+封建社会%2Caps%2C204&sr=8-1
柄谷行人が『世界史の構造』で引用したのは旧訳からだったが、旧訳ではダメなのだろうか?
「《…日本では〔国家と封建制という〕二つの制度は相互に浸透することなく併存していた(13)》。
…(13)マルク・ブロック『封建社会』2、新村猛ほか訳、みすず書房、九九頁。」
旧訳より
世界史の構造
ブロック(マルク・)『封建社会2』186@^486
マルク・ブロックは、日本の封建制がヨーロッパのそれと酷似するにもかかわらず、そこに「権力を拘束しうる契約という観念」が希薄である理由を、つぎの点に見出している。《日本では、西ヨーロッパの封建体制にきわめてよく似た人的並びに土地的従属関係の体系が、西ヨーロッパにおけると同じように、それよりはるかに古い王国に相対峙して少しずつ形成されるようになった。しかし、日本では〔国家と封建制という〕二つの制度は相互に浸透することなく併存していた(13)》。
(13)マルク・ブロック『封建社会』2、新村猛ほか訳、みすず書房、九九頁。
封建社会 | マルク・ブロック, 堀米 庸三
2012年5月10日に日本でレビュー済み
西洋中世史をかじっていた頃、いろんな国の言葉で書かれた論文のなかで、どんなテーマのものであれ、たいてい「ブロックはその主著『封建社会』において既に〜」といったような文言に出くわしました。そういったことは中世史に限ったことではなく、近現代史、古代史の論文においても起きていることなのかも知れません。あまりにも有名すぎる本なのに、この堀米庸三先生(1913-75)監訳版に誰もレビューを書いていないのは、一度ちらりとでも読んだことのある人ならば、この本の持つ内容の多様さ、深さ、そのさまざまな可能性、というようなものを、書き切れるわけないだろうと諦めてしまったからかもしれない、などと僕が思ってしまっても、多くの方々に同意していただけるかも知れません。
だいたい、この本の重要性は、およそ歴史学を志す人ならば、すでに当然知っておられる可能性が大いにあります。だから僕は、そのような方々に対してではなく、「今日、授業で先生からこの本がすごいすごいって言われたけど、どの辺がどうすごいの?読んだことないし分からないんだけど。」というような方に向けて、この本の「すごさ」を、三人の歴史家の見解を引くことで、とりあえず示したいと思います。
一人目。ブロックの同僚で盟友、16世紀文化史の泰斗リュシアン・フェーブル。
【「人類の文化」叢書に『封建社会』の分厚い二巻が続けざまに出たとき、勝負は決定的に勝ちだった。偉大なフランス人歴史家の誕生したことを世界中が知っていた。否、偉大なヨーロッパ人歴史家、というほうが当たっている。・・・彼は、封建社会の変遷の叙述にあたってフランスの文書記録とデータだけで満足するような人間ではなかった。彼は、このような領域では国境は何も意味せず、イル・ド・フランスの荘園領主制とだいたい同じものがライン沿岸地方に見られるが反対にラングドック地方にはそれが見られない・・・さらにシャンパーニュの村の土地制度はとどのつまりザクセンの村の土地制度であり、ブルターニュやラングドックの村のそれではないこと、そしてこの意味するところは重大であることを知っていた。・・・我々は、マルク・ブロックが比類ない科学的装備をいかに辛抱強く身につけていったか、すでに見た[※フランス語・ドイツ語・英語・ラテン語に加え、ロシア語、フランドル語、スカンジナヴィア語、古ドイツ語、古ザクセン語をじゅうぶん習得し、あらゆる古文書・論文を読み込むと同時に、各地を歩き回りさまざまな農業技術などの実態を観察すると同時に、地理学・心理学・民俗学、農学などの高度な知識を身につけたこと]。道具(=それらの言語や知識)は親方の手の内で完全であることが明らかになった。こうして、我々の精神に深い痕跡を残した二巻の偉大な書物が誕生したのである。】(『歴史のための闘い』(長谷川輝男訳)より)
二人目。アナール第三世代の碩学、中世史家ジョルジュ・デュビー。
【私にとって決定的だったのは、一九三九年から一九四〇年にかけての『封建社会』二巻の刊行である。まず、タイトルからして衝撃的であった。私はこの題を、一種の宣言のように受け取った。社会史は経済史の単なる付属ではなく、古い社会をそれ自体として研究することが正当であり、実り多く、かつ必要なことだと断言しているかのように感じたのである。私はこの大著にとびついた。・・・『封建社会』は、私の書き方にまで影響を与えたのであった。今日そのなかの数ページを読み返してみると、その若さ、無尽蔵の豊かさ、果敢さに驚かされる。今日でもなおわれわれの研究を刺激し、われわれを前進させてくれるものがそこには見つかる。たとえば、出版当時は奇抜に思われたであろうが、十二世紀の戦士の行動をよりよく把握するには、彼らを魅了した娯楽文学や、行動規範を提供していた武勲詩や騎士道物語の証言を利用すべきであるという意見がそうだ。・・・歴史学の初学者に一冊だけ本を推薦しなくてはならないとしたら、それは『封建社会』であろう。そこに含まれたきわめて大胆な提言と、提出されている未解決の諸問題とによって、われわれが進んだ以上に遠くまで前進することを可能にしてくれるにちがいない。この本を読んだ後、私の決意は固まった。同じ道をとってみようと思ったのである。】(『歴史は続く』(松村剛訳)より)
三人目。日本におけるアナール学派紹介者の一人で、近代フランス史がご専門だった二宮宏之先生。
【実をいいますと、『封建社会』で扱っているテーマには中世史研究のかなめの部分がいろいろ含まれていて・・・個々の論点を問題にすると、ブロックの説に対する批判や異論は少なくありません。また、全体の構成についても・・・ぼく自身異を立てたいところが多々あります。しかし、ぼくがこの書物から学びたいのは、ある時代のある社会を捉えようとするときのアプローチのしかたで、ブロックの方法が唯一のものだというつもりはもちろんありませんが、独特な視点から切ってみせてくれた、ある意味でたいへん挑発的な作品であると思います。ブロックのあと、中世史研究は日々進展し、ブロックの研究も補うべきところは欠落を埋めることがそれなりにできるようになってきていると思いますが、ブロックが『封建社会』で試みた方法はいまなお新鮮で、古典であると同時に前衛的な作品として生き続けていると言ってよいでしょう。】(『マルク・ブロックを読む』より)
ここまでの引用の結果、『封建社会』という本の持つ「すごさ」の一端が、なんとなくでも分かっていただけたかも知れません。いまでも新しく、何らかのヒントを与えてくれる、とにかく恐るべき本なのです。日本を代表する西洋史学者の競演と言うべき豪華な翻訳者陣による翻訳も、格調高くみごとです(誰がどこを翻訳されたのか明記されていないので気になります)。
これほど豊かな内容ですから、通読するのはなかなか骨が折れるという方は、場合によっては、自分のテーマ、あるいは関係するキー・タームを「索引」で調べて、その部分だけを拾い読んでみても、それなりに得るものがあろうと思います。だいたいのテーマ・用語は何らかの形で載っているのではないでしょうか(ちなみに、本書の「索引」の充実ぶりは圧倒的です)。
手にとって読んでみる価値は、ぜったいにある本でしょう。
以下、参考までに目次を記載(1巻、2巻、とありますがそれは原著の区分であり、本書は原著の1巻+2巻を一冊にまとめたものです)。
――
序章 本書の目指すところ
第1巻 依存関係の形成
第1部 環境
第1篇 最後の外民族侵入
第1章 イスラム教徒とハンガリー人
第2章 ノルマン人
第3章 外民族侵入の若干の帰結と教訓
第2篇 生活条件と心的状況
第1章 物的条件と経済の調子
第2章 感じ、考える、そのしかた
第3章 集団の記憶
第4章 封建時代第二期における知的復興
第5章 法の基礎
第2部 人と人との絆
第1篇 血の絆
第1章 血族の連帯性
第2章 血縁の絆の特質と変遷
第2篇 家臣制と知行
第1章 家臣の臣従礼
第2章 知行
第3章 ヨーロッパの展望
第4章 知行はいかにして家臣の家産となったか
第5章 複数の主君を持つ家臣
第6章 家臣と主君
第7章 家臣制の逆説
第3篇 下級の社会層における依存関係
第1章 領主所領
第2章 隷属と自由
第3章 領主制の形態変化
第2巻 諸階層と人間の支配
まえがき
第1篇 諸階層
第1章 事実上の身分としての貴族
第2章 貴族の生活
第3章 騎士身分
第4章 事実上の貴族から法律上の貴族への変化
第5章 貴族身分内部における階層区分
第6章 聖職身分と職業上の諸階層
第2篇 人間の支配
第1章 裁判
第2章 伝統的諸権力 諸王国と帝国
第3章 領域君候領から城主支配権へ
第4章 無秩序と無秩序に対する戦い
第5章 国家再建への歩み 各民族固有の発展
第3篇 社会類型としての封建制とその影響
第1章 社会類型としての封建制
第2章 ヨーロッパ封建制の延長
「あとがき」(二宮宏之)
参考文献
索引
だいたい、この本の重要性は、およそ歴史学を志す人ならば、すでに当然知っておられる可能性が大いにあります。だから僕は、そのような方々に対してではなく、「今日、授業で先生からこの本がすごいすごいって言われたけど、どの辺がどうすごいの?読んだことないし分からないんだけど。」というような方に向けて、この本の「すごさ」を、三人の歴史家の見解を引くことで、とりあえず示したいと思います。
一人目。ブロックの同僚で盟友、16世紀文化史の泰斗リュシアン・フェーブル。
【「人類の文化」叢書に『封建社会』の分厚い二巻が続けざまに出たとき、勝負は決定的に勝ちだった。偉大なフランス人歴史家の誕生したことを世界中が知っていた。否、偉大なヨーロッパ人歴史家、というほうが当たっている。・・・彼は、封建社会の変遷の叙述にあたってフランスの文書記録とデータだけで満足するような人間ではなかった。彼は、このような領域では国境は何も意味せず、イル・ド・フランスの荘園領主制とだいたい同じものがライン沿岸地方に見られるが反対にラングドック地方にはそれが見られない・・・さらにシャンパーニュの村の土地制度はとどのつまりザクセンの村の土地制度であり、ブルターニュやラングドックの村のそれではないこと、そしてこの意味するところは重大であることを知っていた。・・・我々は、マルク・ブロックが比類ない科学的装備をいかに辛抱強く身につけていったか、すでに見た[※フランス語・ドイツ語・英語・ラテン語に加え、ロシア語、フランドル語、スカンジナヴィア語、古ドイツ語、古ザクセン語をじゅうぶん習得し、あらゆる古文書・論文を読み込むと同時に、各地を歩き回りさまざまな農業技術などの実態を観察すると同時に、地理学・心理学・民俗学、農学などの高度な知識を身につけたこと]。道具(=それらの言語や知識)は親方の手の内で完全であることが明らかになった。こうして、我々の精神に深い痕跡を残した二巻の偉大な書物が誕生したのである。】(『歴史のための闘い』(長谷川輝男訳)より)
二人目。アナール第三世代の碩学、中世史家ジョルジュ・デュビー。
【私にとって決定的だったのは、一九三九年から一九四〇年にかけての『封建社会』二巻の刊行である。まず、タイトルからして衝撃的であった。私はこの題を、一種の宣言のように受け取った。社会史は経済史の単なる付属ではなく、古い社会をそれ自体として研究することが正当であり、実り多く、かつ必要なことだと断言しているかのように感じたのである。私はこの大著にとびついた。・・・『封建社会』は、私の書き方にまで影響を与えたのであった。今日そのなかの数ページを読み返してみると、その若さ、無尽蔵の豊かさ、果敢さに驚かされる。今日でもなおわれわれの研究を刺激し、われわれを前進させてくれるものがそこには見つかる。たとえば、出版当時は奇抜に思われたであろうが、十二世紀の戦士の行動をよりよく把握するには、彼らを魅了した娯楽文学や、行動規範を提供していた武勲詩や騎士道物語の証言を利用すべきであるという意見がそうだ。・・・歴史学の初学者に一冊だけ本を推薦しなくてはならないとしたら、それは『封建社会』であろう。そこに含まれたきわめて大胆な提言と、提出されている未解決の諸問題とによって、われわれが進んだ以上に遠くまで前進することを可能にしてくれるにちがいない。この本を読んだ後、私の決意は固まった。同じ道をとってみようと思ったのである。】(『歴史は続く』(松村剛訳)より)
三人目。日本におけるアナール学派紹介者の一人で、近代フランス史がご専門だった二宮宏之先生。
【実をいいますと、『封建社会』で扱っているテーマには中世史研究のかなめの部分がいろいろ含まれていて・・・個々の論点を問題にすると、ブロックの説に対する批判や異論は少なくありません。また、全体の構成についても・・・ぼく自身異を立てたいところが多々あります。しかし、ぼくがこの書物から学びたいのは、ある時代のある社会を捉えようとするときのアプローチのしかたで、ブロックの方法が唯一のものだというつもりはもちろんありませんが、独特な視点から切ってみせてくれた、ある意味でたいへん挑発的な作品であると思います。ブロックのあと、中世史研究は日々進展し、ブロックの研究も補うべきところは欠落を埋めることがそれなりにできるようになってきていると思いますが、ブロックが『封建社会』で試みた方法はいまなお新鮮で、古典であると同時に前衛的な作品として生き続けていると言ってよいでしょう。】(『マルク・ブロックを読む』より)
ここまでの引用の結果、『封建社会』という本の持つ「すごさ」の一端が、なんとなくでも分かっていただけたかも知れません。いまでも新しく、何らかのヒントを与えてくれる、とにかく恐るべき本なのです。日本を代表する西洋史学者の競演と言うべき豪華な翻訳者陣による翻訳も、格調高くみごとです(誰がどこを翻訳されたのか明記されていないので気になります)。
これほど豊かな内容ですから、通読するのはなかなか骨が折れるという方は、場合によっては、自分のテーマ、あるいは関係するキー・タームを「索引」で調べて、その部分だけを拾い読んでみても、それなりに得るものがあろうと思います。だいたいのテーマ・用語は何らかの形で載っているのではないでしょうか(ちなみに、本書の「索引」の充実ぶりは圧倒的です)。
手にとって読んでみる価値は、ぜったいにある本でしょう。
以下、参考までに目次を記載(1巻、2巻、とありますがそれは原著の区分であり、本書は原著の1巻+2巻を一冊にまとめたものです)。
――
序章 本書の目指すところ
第1巻 依存関係の形成
第1部 環境
第1篇 最後の外民族侵入
第1章 イスラム教徒とハンガリー人
第2章 ノルマン人
第3章 外民族侵入の若干の帰結と教訓
第2篇 生活条件と心的状況
第1章 物的条件と経済の調子
第2章 感じ、考える、そのしかた
第3章 集団の記憶
第4章 封建時代第二期における知的復興
第5章 法の基礎
第2部 人と人との絆
第1篇 血の絆
第1章 血族の連帯性
第2章 血縁の絆の特質と変遷
第2篇 家臣制と知行
第1章 家臣の臣従礼
第2章 知行
第3章 ヨーロッパの展望
第4章 知行はいかにして家臣の家産となったか
第5章 複数の主君を持つ家臣
第6章 家臣と主君
第7章 家臣制の逆説
第3篇 下級の社会層における依存関係
第1章 領主所領
第2章 隷属と自由
第3章 領主制の形態変化
第2巻 諸階層と人間の支配
まえがき
第1篇 諸階層
第1章 事実上の身分としての貴族
第2章 貴族の生活
第3章 騎士身分
第4章 事実上の貴族から法律上の貴族への変化
第5章 貴族身分内部における階層区分
第6章 聖職身分と職業上の諸階層
第2篇 人間の支配
第1章 裁判
第2章 伝統的諸権力 諸王国と帝国
第3章 領域君候領から城主支配権へ
第4章 無秩序と無秩序に対する戦い
第5章 国家再建への歩み 各民族固有の発展
第3篇 社会類型としての封建制とその影響
第1章 社会類型としての封建制
第2章 ヨーロッパ封建制の延長
「あとがき」(二宮宏之)
参考文献
索引
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