2023年3月30日木曜日

映画『森のムラブリ インドシナ最後の狩猟民』予告編


ムラブリ 文字も暦も持たない狩猟採集民から言語学者が教わったこと 単行本 – 2023/2/24 

就活から逃げ出した言語学徒の青年は、美しい言語を話す少数民族・ムラブリと出会った。文字のないムラブリ語を研究し、自由を愛するムラブリと暮らすうち、日本で培った常識は剥がれ、身体感覚までもが変わっていく……。
言葉とはなにか? そして幸福、自由とはなにか? ムラブリ語研究をとおしてたどり着いた答えとは……?
人間と言葉の新たな可能性を拓く、斬新極まる言語学ノンフィクション。

★高野秀行(ノンフィクション作家、『語学の天才まで1億光年』著者)
「不思議な本。ただ面白いだけでなく、別の世界にトリップしたような感覚に襲われる。」

★川添愛(作家・言語学者、『言語学バーリ・トゥード』著者)
「生きる力を削がれた現代人のために、言語学者に何ができるのか。その答えがここにある。」

【ムラブリとは】
タイやラオスの山岳地帯に暮らす少数民族。人口は500名前後と推測される。
「ムラ」は「人」、「ブリ」は「森」を指すため、「森の人」を意味する。タイ国内では「黄色い葉の精霊」とも呼ばれる。
かつては森のなかで狩猟採集をしながら遊動生活をしていたが、定住化が進んでいる。
ムラブリ語には文字がなく、話者数の減少にともない、消滅の危機にある「危機言語」に指定されている。言語学的に希少な特徴が複数確認されている。

【ムラブリ(語)の不思議】
・あいさつがない?
・「上」は悪く、「下」は良い?
・暦も年齢もない?
・過去と未来が一緒?
・意図的に方言をつくった?
・数を数えるのは宴会芸? etc……

【内容の一部抜粋】
・初調査は突然の「帰れ」で終了
・お金がなさすぎて、ムラブリにおごってもらう
・5年かけて、ムラブリの「家族」になる
・人食い伝説によって分断されたムラブリのグループに100年越しに再会してもらい、その様子を映画にする
・ムラブリ語を話せるようになったことで、身体もムラブリ化していく
・日本でムラブリのように暮らしてみる etc……

【著者略歴】
伊藤雄馬(いとう・ゆうま)
言語学者、横浜市立大学客員研究員。
1986年、島根県生まれ。2010年、富山大学人文学部卒業。2016年、京都大学大学院文学研究科研究指導認定退学。日本学術振興会特別研究員(PD)、富山国際大学現代社会学部講師、東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所共同研究員などを経て、2020年より独立研究に入る。
学部生時代からタイ・ラオスを中心に言語文化を調査研究している。ムラブリ語が母語の次に得意。
2022年公開のドキュメンタリー映画『森のムラブリ』(監督:金子遊)に出演し、現地コーディネーター、字幕翻訳を担当。本作が初の著書。

「ムラブリ」書評 国家支配を嫌い山に逃れた人々|好書好日
https://book.asahi.com/article/14869112

「ムラブリ」書評 国家支配を嫌い山に逃れた人々

評者: 柄谷行人 / 朝⽇新聞掲載:2023年03月25日

ムラブリ 文字も暦も持たない狩猟採集民から言語学者が教わったこと 著者:伊藤 雄馬 出版社:集英社インターナショナル ジャンル:社会・時事

ISBN: 9784797674255 
発売⽇: 2023/02/24 
サイズ: 19cm/255p

言葉とは、自由とはなにか? インドシナ最後の狩猟採集民・ムラブリ。タイとラオスの山奥に住む彼らの言語は消滅の危機にある。ムラブリ語に青春をささげた言語学者が、人間と言葉の…

「ムラブリ」 [著]伊藤雄馬

 「森の人」を意味するムラブリは、タイやラオスの山岳地帯で狩猟採集生活を営む、500人前後の少数民族である。彼らは裸足で森に暮らし、畑仕事もしない。現在、定住化がかなり進みつつあるものの、遊動生活の名残を濃厚にとどめている。たとえば、彼らは雇用には向かないし、そもそも金銭を得ることに関心がない。森にある資源で衣食住をまかなう術(すべ)を知っているからだ。相互の人間関係は淡泊で、互いに干渉しない。感情表現や自己主張も希薄だ。徹底した個人主義だが、収穫物は平等に分け合う。ゆえに、富が集中せず、権力も発生しない仕組みになっている。
 実は彼らは、遺伝学などから、もともと農耕民だったと考えられている。本書の著者は、スコットが『ゾミア 脱国家の世界史』で述べた仮説に従って、ムラブリを、平地から山に追われた「負け組」ではなく、国家の支配を嫌って山岳部に逃れた人たちの子孫だと考えている。著者は学生時代に言語学者を目指し、研究対象に、文字も文法書も持たないムラブリを選んだ。その習得には、ムラブリから直接に学ぶほかなかった。その結果、「世界で唯一のムラブリ語研究者」となったわけである。が、それだけではすまなかった。
 この間の著者の経験を語った本書は、言語学や人類学の問題にとどまりえなかった。このような探究が、自身の生活を決定的に変えたからだ。彼はもともと違和感をもっていた日本での生活が嫌になり、さらに大学の教職も棄(す)てて、「環境と調和しつつお互いに活性化していけるテクノロジー」を求めることにした、という。現在は、日本で、実家が所有する山を拠点にして働きながら、人の家に泊めてもらったり、野宿したりして暮らしている。すなわち、彼自身がムラブリとなった。そして、自分の意志でそうなったというよりも、そこに「なにかしらの存在が動いている」のを感じている。
    ◇
いとう・ゆうま 1986年生まれ。言語学者、横浜市立大客員研究員。タイ・ラオスを中心に言語文化を調査研究。

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