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https://www.gqjapan.jp/culture/article/20220630-yamazoe-taku-interview
日本共産党・山添拓さんに訊く。政治はLGBTQ+をめぐる状況をどう変えていけるのか?
創設から100年が経つ日本共産党は、その長い党の歴史で、一貫して弱者の側に立ち、平和と民主主義を唱えてきた。その日本共産党の若きホープといえるのが山添拓さんだ。山添さんはLGBTQ+についてどのような問題意識をもっているのか。共産主義とはいったい何で、社会をどのように良くしようとしているのか。クイアマガジン『Over』編集長の宇田川しいが訊いた。
同性婚と憲法改正を絡めるのは、古い家族観に囚われた人の"為にする議論"
──山添さんのことは、LGBTQ+関連のイベントや、デモなどで以前からよくお見かけしています。こうした問題に関心をもたれたきっかけは何ですか?
山添拓:2016年、東京レインボープライドに初めて行ったんですよ。ちょうど参院選への出馬を決めた頃のことで、周囲からも性的マイノリティの問題について知っておくべきだから、と勧められたのがきっかけです。それで、行ってみたらすごく楽しかった。心の壁を感じない、フラットな空間だなと思いました。パレードをしていても、渋谷の街の空気がとてもあたたかくて。
──沿道から声援が聞こえたり、手を振ってくれる人もいますしね。
山添:私たち日本共産党もデモやパレードをしますけど、それと比べると周囲の反応があたたかいな、と(笑)。盛り上がりというか、その熱量に感動しましたね。
──山添さんは弁護士でもいらっしゃいますが、法律家としてLGBTQ+の置かれた状況について思うことはありますか?
山添:同性婚を民法上どうするか、ということは課題ですよね。ただ、根本は憲法です。日本の憲法というのは、「個人の尊重」ということが中心に据えられています。それをどう実現し、充実させるか。個人の尊重を阻害するような法制度は基本的には許されません。そういう意味で、性同一性や性的指向によって生きづらさを抱える、というのは大きな社会問題です。その社会問題の大元に法律があり、それが憲法と整合していないわけです。
──保守派の人たちは、憲法24条の「両性の合意のみに基づいて」という文言をもち出して、憲法改正しないと同性婚はできないんだ、と正反対のことを言っています。
山添:そう言っている人たちは、憲法を変えて、本当に同性婚を認める気でいるのでしょうか? 保守派が「憲法を変えないと同性婚はできない」と主張するのは"為にする議論"だと思います。「両性の合意のみ」というのは、結婚を親が認めるかどうか関係なく、本人たちで決められる、ということに意味がある。つまり、戦前の家制度から脱却したということ。「両性の合意のみ」という文言の肝はそこです。
──また、保守派のなかには同性同士では子どもが生まれないから結婚の必要はない、という人もいます。
山添:じゃあ、子どものいない男女カップルはどうなのか、ということになります。憲法は結婚に子どもを産むための関係であることを求めていません。子どもをもうける、もうけない、あるいは何人もうけるのか。これも、当人たちの選択であって、個人の尊厳、尊重に関わります。生殖しないから結婚として認めない、というのは、古い家族観に基づいた考えです。
──戦後なくなった家制度の価値観ですよね。
山添:古い家族観であり、すでに棄てられた家族観ですよね。同性婚に反対する主張の本質は、古い家族観に戻したい、家制度を復活させたいということだと思います。「家族はこうあるべき」という考えがあるから、同性婚もそうですし、選択的夫婦別姓にも反対する。
家族の多様性を認めないことによって、自民党内部にも無理が生じてきている
──「選択的」ですからね。みんながそうしろ、といっているわけではないのに認めない。
山添:与党のなかにも「婚姻の自由をもっと認めていくべきだ」という考えの人はいて、与党内部でも齟齬をきたしているんじゃないでしょうか。そうした議員の質問を聞いていると、かなり無理をしてるなぁ、と感じることもありますよ。たとえば、今、政府は選択的夫婦別姓を認めないために、旧姓の通称使用を認める、という立場です。ただ、通称使用を認めて、パスポートが通称併記になっていても海外では認められない。
──パスポートに旧姓を文字で記載はできても、国際規格に合わないためにICチップにデータを記録できないようですね。このため、海外でトラブルになった事例もあります。
山添:そうした問題を解消するために、「日本の立場をもっと世界にひろめるべきだ」というような提案をするわけですよ。
──そっちか……という(笑)。失笑しかありません。
山添:そんな質問をせざるを得ないくらいに無理をきたしている。選択的夫婦別姓を認めさえすれば解決するのに。
──自民党を支持する勢力のなかで、復古主義的な考えをもつ集団が力をもっていて、そこに気を遣っているのでしょうね。そのために自家中毒を起こしているような。
山添:でも、公には言いたくない。先日も国会の最終日に請願の審査がありました。各党が態度を示して、一致したものだけを採択する。そのなかで、選択的夫婦別姓を求める請願がかなりの件数あったんです。自民党だけが会派として保留、つまり採択しない、と。しかし、その理由は語らないんです。
──議事録が残るような場所では復古主義的な主張をしないんですね。
山添:今の政府は、「国民のなかにはさまざまな意見がある」くらいしか言えません。
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親子の姓が違っても、絆が弱まるということはない
──きちんと理由を言わないのは卑怯です。
山添:同性婚にしろ、選択的夫婦別姓にしろ、家族の問題をどうするかについて、自民党にとやかく言われる筋合いはありません。自民党や支持者が「家族はこうあるべき」と考えて、そうした家族をつくるのは、それはそれで自由ですが。
──自分たちの考えに合致しない家族のあり方は認めない、というのはおかしいですね。
山添:私は親が離婚していて、母親と2人暮らしでしたが、母親が旧姓に戻っていたので私とは姓が違いました。こうした例は、今や当たり前にありますよ。
──選択的夫婦別姓の問題で、「子どもはどうするのか、親と子どもの姓が違ったら家族の絆が弱まる」と主張する人もいます。でも、実際に山添さんがそうであったように、親子で姓が違うという例は無数に存在している。姓が違うから家族の絆が弱いんだ、などという勝手なジャッジメントを下すのは失礼極まりないと思います。
山添:私自身も、今、パートナーと法律婚ではなく事実婚で、別姓です。さまざまな家族のあり方がすでに現実として存在しているわけです。にもかかわらず、「こうでなければならない」と古い家族観を今さらもち出して押し付けようとする。ひとことで言って、時代遅れです。
──山添さんが事実婚を選択されているのは、やはり夫婦別姓の実現のためですか?
山添:そうですね。ただ、戸籍制度のもとでの法律婚がすべてではない、という考えもあります。同じ戸籍に入ることが大事なのではなく、多様なパートナーシップがあっていいと思うんです。
──保守派は戸籍にこだわりますね。
山添:それについても、無戸籍の児童の問題というのが今はあるわけです。その時に、戸籍がなくてもその子が学校に通えるようにしたり、医療を受けられるようにしたりと、現実的な対応をする必要があります。「とにかく戸籍を守る」というのは、おかしな話です。
過去の間違いを認めて謝罪し、ジェンダー平等を綱領に
──日本共産党として、LGBTQ+の問題や同性婚についてはどのような政策を掲げていますか?
山添:私たち日本共産党は、2020年の党大会で党の綱領を変え、「ジェンダー平等」を書き込んでいます。それ以前、2019年の参院選でもジェンダー平等について訴えました。そのなかで、性的マイノリティの権利を回復し、同性婚を実現することについても言っています。同性婚についての札幌地裁の判決は画期的だったと思いますが、そのなかで、「同性愛は精神疾患ではない」ということを強調しています。これは大事なことです。日本共産党もかつて、同性愛は性的退廃だと言ったことがありますが……。
──今、話しづらいことを話していただきました。LGBTQ+の問題について共産党に反対の人は、しばしば「共産党はかつて同性愛者を退廃的だと言って差別していたじゃないか」と非難します。しかし、2020年には日本共産党委員長の志位和夫さんが、「同性愛を性的退廃としたことは、当時の党の認識が間違っていた」とはっきり言っています。個人的には、きちんと誤りを認められるという点で信頼できると感じました。
山添:はい、2020年の綱領改定の議論のなかで、誤りであったことを認めて謝罪しました。
──そもそも、同性愛者が退廃的だとかいうのは、かなり昔の議論だと思いますが、共産党は歴史が長いので、反対派が過去の問題を現代の視点からほじくり返そうとすれば、いろいろできてしまう、ということはあるでしょうね。
山添:事実認識として誤りであり、人を傷つけたわけですから、きちんと謝罪する必要がありました。また、おっしゃるように攻撃の材料にもされてきました。日本共産党は今年でちょうど創設から100年。長い歴史があるので、そのなかで「過去にこういうことを言っていたじゃないか」と攻撃される材料がとくに多いということもあります。
共産主義とは、自由と民主主義を引き継いだうえで、資本主義の次に来るもの
──共産党には強烈なアンチがいて、デマを飛ばして攻撃したりもします。共産党が政権を取ったら独裁体制になるとか、自由がなくなるとか。
山添:中国やロシアを見てそう思うのかもしれませんけどね。でも、ロシアに関しては、ソビエト連邦が崩壊してもう30年ですよ。まあ、ソ連も、あれが社会主義だとは私たちは考えていませんが、ソ連が解体して30年経っても「ロシアは共産党だ」と言われる。
──中国だって鄧小平が改革開放と言い始めたのは1978年ですからね。とっくに社会主義でもなんでもなく開発独裁とでもいうべき体制です。それなのに、中国やロシアと日本共産党を一緒くたにするというのは、現状認識があまりにもおかしい。もうすこし情報をアップデートしてもらわないと……。
山添:そうした誤解を解くためには、私たちが今、なにをやっているのか、なにを国会のなかで論じ、社会に訴えているのか、ということを知ってもらうのが大事です。同時に、「日本共産党」と名乗っているわけですから、私たちが目指している共産主義とはなにか、ということをきちんと理解してもらうことも重要だと思うんです。
──それは大切ですね。では、共産主義についてまったく知らない人に、わかりやすく説明するとどうなりますか?
山添:共産主義というのは、資本主義の次に来るものだと位置付けています。今、資本主義が貧困と格差をひろげ、また、利益を優先するために気候危機にまともに対応しないなど、さまざまな問題が起きてきている。こうした状況で、資本主義が未来永劫続く、と考えるほうが無理があります。資本主義が最善のシステムではないなら、その次がある、というのが日本共産党の考えです。もちろん、それは自由と民主主義を引き継いだうえでの、次の段階ということです。それが共産主義なのだ、と。
声を上げて問題を可視化する。小さな成功体験を重ねる重要性
──アメリカでは、民主社会主義を標榜するバーニー・サンダース上院議員が一定の支持を集めたり、貧困や格差の問題が注目されたりしています。それも、「資本主義の次」ということが意識されていると思うのですが、日本では、なかなかそういった議論が盛り上がりません。
山添:アメリカのあるアンケートでは、若い人たちの58%が「社会主義の方がいい」と答えたそうです。資本主義の限界を身近に感じ、それを吸い上げる政治的なムーブメントがあるということでしょうね。アメリカでは最低賃金を引き上げる運動や、大学の学費を引き下げる運動のように、とりわけ、若い世代が生きづらさを打開する運動が政治の焦点としてあります。日本は、そうした若い世代の動きを封じようとしている。
2021年に約200カ国が参加し、英国のグラスゴーで開催された「気候変動枠組条約締約国会議=COP26」の会場で、高校生が手紙を渡そうとしたのに、岸田首相は無視しました。国会に陳情に来たり、デモをしたりしている若者はいるのに、まともに相手にしようとしない。そうした声を拾い上げ、大きなムーブメントにしていくことは必要です。たたかって、一歩前進させた、という共通の成功体験を積み重ねることが必要だと思います。
──若い世代のなかには、「デモなんかしても意味はないんじゃないか」という人もいます。
山添:声を上げること自体に意味があると思います。声を上げるということは、すなわち問題を可視化するということです。こういう声がある、とメディアに取り上げられ、永田町でも話題になる。永田町で話題になるというのは、大きな意味があります。可視化できたら、それ自体が成功体験だと思うんです。自民党の杉田水脈議員がLGBTQ+に対して差別発言をした時に、自民党本部の前に大勢の人が集まった。あの光景は素晴らしいと思いました。あのような成功体験を積み重ねることが大切ですね。
──杉田議員に対しては、不十分とはいえ、自民党もそれなりに対応をせざるを得なかったですからね。
山添:同性婚を実現するには法改正が必要で、そのためには国会の構成を変えないといけない。ただ、自民党政治のなかでも法律を変えてきた事例はあるわけです。数のうえでの力関係というのは、世論によって覆すことができる。そうした一歩前進を、どう実現するかですね。
──参院選ではLGBTQ+についてどんなことを訴えていきますか?
山添:今、ウクライナ侵略の危機に乗じて、国会では大軍拡の大合唱です。また、物価の上昇が続くなか、暮らしと経済をどう立て直すかも大きな課題です。男女の賃金格差の開示義務化がようやく実現しますが、格差を是正し、ジェンダー平等の土台を築くことも大事です。そうして個人が資質や能力を差別なく発揮できてこそ、経済も回復、成長に向かうからです。
これらの問題はLGBTQ+の問題と無関係ではありません。より本質的には、ジェンダーやセクシュアリティの平等というのは個人のあり方の問題です。「個人をあるがままに尊重する社会にすべき」という視点は、あらゆる問題、あらゆる局面で貫くべきものだと思います。戦争になった時に、いちばんひどい目に遭うのは子どもやマイノリティです。戦争であれ、災害であれ、新型コロナウイルスのような問題であれ、つねに個を尊重するという視点をもっていないと、少数者にしわ寄せがいくことになります。逆に個人が尊重され個々人が自分らしく活躍できる社会は、「やさしく強い」といえます。多様性や個人の尊厳は、つねに政治のベースに置くべきです。
PROFILE
山添 拓
1984年、京都府向日市生まれの政治家。京都府立堀川高校卒、東大法学部卒、早大大学院法務研究科修了。2011年弁護士登録、解雇・残業代不払い、過労死問題等に取り組む。自由法曹団、日本労働弁護団、青年法律家協会所属。明日の自由を守る若手弁護士の会会員。2016年参議院議員初当選(東京選挙区)。予算委員会理事、憲法審査会委員、法務委員など歴任。日本共産党常任幹部会員でありジェンダー平等委員会副責任者を務める。
文・宇田川しい
写真・竹之内祐幸
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