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https://www3.nhk.or.jp/news/special/international_news_navi/articles/qa/2022/07/28/23900.html
ロシアによるウクライナ侵攻 どうやって終わらせるべきか?
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まってからおよそ5か月。東部を中心に激しい攻防が続き、ウクライナ情勢の行方は見通せないままです。
こうした中、最近、「ウクライナにロシアとの交渉を促すべき」という立場を示す『和平派』、「ウクライナの徹底抗戦を支援すべき」という立場を示す『正義派』という言葉も使われるようになり、両者の間で議論が活発化しています。
長期化するウクライナ情勢のいわば"出口戦略"をどう描くべきなのか。
異なる立場の2人の日本人研究者に話を聞きました。
(聞き手 国際部 北井元気)
「和平派」の立場をとる東京大学の和田春樹 名誉教授は?
長年にわたってロシア史を研究してきた東京大学の和田春樹名誉教授。いわゆる『和平派』としての立場をとっています。
和田教授は、ロシアによる軍事侵攻が始まってまもない3月15日、国内の研究者たちと連名で「ロシア軍とウクライナ軍は戦闘を停止し、正式に停戦会談を開始しなければならない」という内容の声明をオンライン上で発表しました。
さらに5月9日にも韓国の研究者と共同で両国軍の戦闘行動の停止と停戦会談を進めるよう訴える声明を出しました。
Q ここまでの経過をどう見ていますか?
そもそも今回の軍事侵攻が始まってまもなく、ウクライナとロシアの間では停戦に向けた話し合いが始められました。開戦5日目の2月28日のことです。
朝鮮戦争で停戦協議が始まったのは開戦から1年後であったことを考えると、異例のことです。戦争をやめてほしいという思いがウクライナにあったし、ロシア側も条件が合えば、軍事作戦を進めなくてもいいという態度であったと言えると思います。
しかし、首都キーウ近郊のブチャで大量の市民が殺害されているのが見つかったことをきっかけに、希望は砕けてしまいました。
欧米各国は戦争犯罪だとして一斉に非難、ロシアに対して新たな制裁を科しました。新たな兵器が提供されることになりました。
実は、その直前の3月27日、ポーランドの首都ワルシャワで、アメリカのバイデン大統領が演説を行っています。プーチンと戦うことは、復活した専制国家に対する民主主義国家の戦いだという内容でした。
こうしてこの戦争は「アメリカの新しい戦争」になってしまったのです。
戦争の目的はロシアを弱めることですが、アメリカ兵は参戦せず、戦うのはウクライナ人だけです。アメリカは兵器を供与し、制裁や情報宣伝戦を進めています。
この戦争はアメリカの親を悲しませることがないので、いつまでも続けることができるいわば夢の戦争なのです。こうなると簡単には止まりません。
ロシアも戦争をやってきた国です。ウクライナ東部を確保しようという方針をとってきていて、そこを押し戻すのは簡単ではありません。
いまは戦線がこう着状態になってきていて、ヨーロッパ内でも意見が分かれてきています。徹底抗戦派に対して停戦を求める声が出てきているのも当然だと思います。
Q なぜ停戦が必要なのでしょうか?
戦争というものに対するアプローチとしては2つあります。
1つが、一方を正義、他方を不正義として、正義の側を勝利させる。そのためにあらゆる援助をするという道。第二次大戦で日本やドイツに対して行ったような形です。
もう1つが、一日も早く戦争をやめるよう求める、即時停戦してくれという道です。
しかし、けんかをしている人がいれば、どちらが先に殴ったかを見定めて、殴った方を打ちのめせということにはなりません。なんとか止めるというのがまずやるべきことです。
当事者でない人が言うべきことは、よく話し合ってくれと言うのが本源的に当たり前のことだと思います。
こうした主張に対してはロシアの肩をもっているとか、正義に反するといった批判もありますが、そうではありません。戦争に対して正義を実現するということは並大抵のことではないのです。
朝鮮戦争は開戦3年後に停戦はしましたが、今日まで70年間も、平和体制は構築されず、軍事的な対じが続いています。それでも戦争が続くより停戦をした方がよかったというのが韓国と北朝鮮の人の気持ちでしょう。
停戦をするということは絶対的な前提で、正義、幸福、平和は停戦して初めて追求できるのです。
停戦の際に正義を実現することは非常に難しいですが、その後のそれぞれの国の市民の努力によって実現できると信じるべきだと考えます。停戦というのは、その正義に至るプロセスです。
歴史の中で多くの戦争を見てきましたが、戦争が続けば続くほど、多くの人が死に、生活と記憶と文化が破壊されます。
戦争が起こらないようにするのが一番ですが、起こったらすぐに止めて、そのあとは話し合いをして、回復のための努力をする。気の遠くなるような話ですが、戦争を続けるよりそのほうがよいのです。
Q 国際法の秩序が壊れることを懸念する指摘もあります。
国連の安保理決議や総会決議というものは必ずしも絶対的な正義が貫かれているとは言えません。
国際法というものは、侵略の戦争を許しません。しかし、国際的な法律が常に守られていて、違反すれば罰が与えられるという枠組みができているかといえばそうではありません。あくまでも努力目標です。
国連の正義というものは非常に柔軟にできていて、意見が対立しても組織が壊れないよう、絶対的な正義がないような仕組みにしています。
法律的な解釈で今回の問題に対処しようとするのは幻想です。
Q 戦争を始めたプーチン大統領の責任についてはどのように考えていますか?
ウクライナとロシアの停戦が行われれば、これを支持する世界各国の会議が開かれ、二度とこういうことがないようにロシアに約束させなければなりません。
徹底的にロシアをたたきのめそうとすれば、果てしない全面戦争になります。ロシアという国に対して反省を求めることはあったとしても、敗戦国のように降伏を求めて終わらせてはいけません。
共産主義は崩壊しましたが、だからといって冷戦におけるアメリカの勝利という形式を持ち込むべきではないのです。
復しゅう主義が起こるような屈辱を与えれば、ベルサイユ条約に不満を持って出てきたヒトラーのようになりかねないからです。
プーチン大統領に対してはいいかげんにしてくれというところはもちろんありますが、ロシアには彼が出てこざるを得ない状況があったのも事実で、プーチン大統領がソ連崩壊後の混乱を克服して、ロシア国家を強くしたのです。
しかし、今度の戦争が契機になって、プーチン大統領を退陣させなければならなくなるのであれば、プーチン大統領に責任をとらせるのはロシア人であるべきです。
今回の戦争が起こるまでに問題があったことは間違いありません。
ロシアに言い分があってそれが正しいということではありません。ソ連という国に変化が起こり、新しい体制が生まれ、ウクライナが独立し、そこに新しい問題があったということです。
350年以上、今のロシアとウクライナの相当な部分が1つの国であったものが、2つに分かれたのです。その間にある問題をどう処理していくかについては慎重な態度が必要でした。
処理しにくい問題もあります。独立したウクライナの中にロシア人がいて、ウクライナという国自体がモザイク的な作りになっているのです。日本とは違います。
ウクライナという国が抱える複雑な問題が戦争によって出てきたということをこの機会によく考え、次にこういうことが起こらないよう、努力で解決するところは解決し、解決しないところは対立しても戦争にならないようにするにはどうすればいいか、努力しなければなりません。
戦争というものはミスの積み重ねで起こるものです。
人々の間の意見の食い違いを調整して、最大限の正義や幸福を目指して努力していく。失敗したらやり直すということを積み重ねていかなければなりません。
「正義派」の立場をとる防衛研究所の山添博史 主任研究官は?
ロシアの安全保障に詳しい防衛研究所の山添博史主任研究官です。
山添研究官は、ロシアがウクライナに軍事侵攻したことにはなんの正当性もなく、ロシアが撤退した上で、クリミア半島や東部地域を含むすべてのウクライナの領土が回復されるべきだと話します。
その上で、ウクライナが国境の回復に向けてロシアを追い返すことを目指し、支援を求めるかぎりは、各国はできるかぎり協力しなければならないとしていて、いわゆる『正義派』の立場をとっています。
Q すぐに停戦するべきだという主張についてはどう考えますか?
この難しい問題は、ウクライナが決めることです。
停戦が効力を発揮すれば戦闘は停止しますが、その間、ウクライナが支配できない場所ではウクライナの人権も富も失われる日々が続きます。
さらに今回の軍事侵攻で明らかになったのは、占領地での戦闘に関わらない市民の殺害や、戦争犯罪の横行です。ロシア側の領土への強制的な連行もありました。戦闘が停止しても、ロシア軍が占領している場所では深刻な人権侵害が続くことが想定されます。
つまり、停戦をするということはそれを認めることになります。
また、仮にウクライナ軍と親ロシア派の武装勢力との間の紛争を解決しようと2014年と2015年に結ばれた「ミンスク合意」のような停戦合意が成り立ったとしても、あとでロシア側が今回のように合意内容への不満を理由に新たな軍事侵攻を起こす可能性もあります。
ウクライナがロシアと同一になることを目指しているわけですから、それが果たされるまであくまでも停戦は一時的なもので、ロシアは軍の態勢を整えて軍事侵攻を再開することも想定せざるを得ません。
しっかりした現実の裏づけがない停戦は平和に直結しないのです。
Q 戦闘が長引けば犠牲者が増えるという主張についてはどのように考えますか?
戦闘が続けば犠牲者が出ますが、戦闘をやめても犠牲者が出ます。それがいま、ロシアが突きつけている非常に厳しい現実です。
それを認識しているからこそ、先日、ウクライナのゼレンスキー大統領は、東洋大学でのオンラインの演説をした際、「武器を置くことはできない。武器を置けば私たちが消えてしまう」と訴えたのだと思います。
いまはまだウクライナ側も戦う力があると信じていて、これはロシアも同様ですが、ウクライナが戦う選択を取っている以上、外部からやめるべきとはなかなか言えません。
仲介を求めるということがウクライナかロシアから出てくるのであれば、国際社会が仲介を担うということができるかもしれませんが、それに至らない状況下では、仲介のしようがありません。
ロシアにウクライナから撤退しなさいと呼びかけるならともかく、それが果たされない状況でウクライナに戦争をやめなさいということは無理があります。
事態を憂慮し早期の解決を求めるのは大切なことですが、このような事態ではどの選択肢も厳しく困難で、その中で将来への禍根がより小さい道を考えるしかありません。
Q 欧州では食料価格などの高騰で一部の国では停戦を求める世論も高まっています。
燃料も食料も供給不足で価格が高騰していることは間違いありませんが、ロシアが退かないかぎり、ロシアに対する経済制裁や食料供給にかかわる問題の原因が解決されません。
この状態を早く終わらせるためには、ロシアが退くところまで追い込むしかないので、いまの状況で停戦和平というのはウクライナ国外の問題の解決にもなりません。
一方で、支援諸国においてウクライナへの軍事支援や経済支援を続けることに意味があるのか、これ以上資源を投入し続けられるのかという世論の疑いが大きくなれば、ウクライナに対する支援というのは鈍ってくることになる可能性があります。
そうなればウクライナの戦力は弱まり、ウクライナが目的を達するまで戦闘が長引くか、ロシアがウクライナを屈服させて占領地で人権侵害と抵抗活動が続くか、いずれにしても事態は悪化します。
Q ロシアを「負け」に追い込むことは、なぜ重要なのでしょうか。
ロシアはウクライナが主権国家ではないと勝手に解釈し、国際規範を無視して戦争を始めているので、これは国際関係の基本的なルールの大きな違反ということになります。それを許容したままでは国際関係の基礎が大きく損なわれてしまいます。
国際規範に対する重大な違反は罰せられるべきで、違法な暴力の行使で政治目的を達成することはできないということを示さなければいけません。これはロシアだけでなく、今後そういうことを考える国や政権が現れた場合に対する教訓としても必要なことです。
Q 国際法にはそもそも限界があるという指摘もあります。
たしかに国際法や国際機関、規範が国際関係の多くを保障してきたものの、できないことも実際にはあります。
主権国家を上回る権威を作り、それにすべての国が従うという国際関係や社会の作り方というのはこれまでも試みられて来ましたが、完全には実現していません。
仮に主権国家を上回る力を目指そうとした場合、誰が運営するのかをめぐって大戦争になりますので、その大戦争をしないためにいま力を持っている国が責任をもって規範を守る、というのが国際関係の歴史です。国際関係の重大問題を最終的に決められるのは、主権国家が持つ力だというのがこれまでの人類社会の到達点です。
その中で有力な力をもつのが、国際連合の安全保障理事会で常任理事国となっている、アメリカ、ロシア、イギリス、フランス、中国です。
もちろんほかにも力のある国はありますが、これらの国々が規範を守る以上のことがなかなかできないわけです。その役割を担ってきた国のひとつがロシアでした。
しかし今回のことでロシアは自らを含む国際社会が築いてきたその規範を破ってしまったので、それを守る役割をしっかり果たす本来のロシアに戻ってもらうことが国際規範への損害を最も少なくする方法です。
Q ロシアの行動をただすことは、日本にとってどのような意味があるのでしょうか。
日本も力による現状変更を許容できない立場にあり、非常に重要な話です。もしロシアのような目立つ国が、他国の主権のもとにある権利を力ずくで奪っても罰されないことになると、他の国も不当な力の行使をしても成功するという誤った考えを促進してしまいます。
例を挙げれば、先日も日本の領土の尖閣諸島に対する中国船の接近がありました。中国は尖閣諸島が中国領であると主張していますが、合意を形成する努力ではなくて、海警局の船や海軍の艦艇を領海やその周辺に送り込んで力を行使する事によってその状況を変えようとしているように見えます。
ほかにも、北朝鮮の核・ミサイル開発、南シナ海における領有権問題、台湾海峡問題など、力によって現状を変更する恐れのある危険な状況は各地で見られます。
そのようなことを許容すれば、話し合いでは基本的な権利が守られず、力を持ったものがそれを奪って得をしてしまい、他者はそれに屈服して権利を差し出すか、より強い力を使えるように争うという、非常に危険な世界になってしまいます。
それでは現在のような経済活動が行える余地が大幅に小さくなり、日本にとってもちろん安全ではなく、コストがかかる世界です。できるかぎり力による現状変更が利益にならないよう、国際社会を運営していくべきです。
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