N極・S極だけをもつ磁石「磁気モノポール」の発見、高密度集積化の限界突破へ
N極またはS極だけをもつ磁石(磁気モノポール)を普通の磁石と白金を組み合わせた簡単な構造で作ることができることを理論的に示した、というリリースが首都大学東京から出ています。これは大学院理工学研究科 多々良源准教授と竹内祥人研究員が行ったものです。
(PDFファイル)N極・S極だけをもつ磁石・磁気モノポールの発見
リリースによると、モノポールを磁石と白金の接合という簡単な構造で作ることができれば、情報機器中でN極だけをもつ磁石を作ることが可能になり、資源の埋蔵に問題のあるレアアース金属を利用せずに高密度デバイスを作成できる可能性がある、とのこと。また、モノポールを操作し、流れを作れば、磁場と電場を対等に操作することができるようになり、これまでの動作原理を超えた新しい情報伝達や情報記録が可能になると期待されるそうです。
磁石(上層)と白金(下層)の接合構造で発生する磁気モノポール流とモノポールがつくる電流
相対論的効果(スピン軌道相互作用)と磁石中の磁化の運動から生成される磁気モノポール(スピンダンピングモノポール)の概念図
一体これの何がすごいのかというのを理解するために、まずWikipediaの「磁気単極子」の以下の解説を読みましょう。
磁石にはN極、S極の二つの磁極が必ず存在し、この組み合わせを磁気双極子という。N極のみ、およびS極のみを持つ磁石、磁気単極子(モノポール)は現在まで観測されておらず、存在しないと考えられている。例えば両端がそれぞれN極とS極になっている棒磁石があったとして、これを真ん中で二つに折ったとしても、同じく両端がそれぞれN極とS極になっている棒磁石が二つできるだけの事であり、N極とS極のみを単純に取り出す事はできない。電磁石を考えれば、この事は容易に理解できる。電磁石は電流を流したコイルであり、これを二つに分割しても、巻き数が半分になった電磁石が二つ生まれるだけである。永久磁石についても、それを構成する物質の原子が電磁石と同じ働きをしているものであり、原理としては同じである。マクスウェルの方程式により代表される古典電磁気学はこの前提のもとに構成されている。
つまり磁石をどんどん小さく切っていっても、N極とS極はわかれませんよ、というのが昔の考え方。ところが、「そうではないのではないか?」という理論が登場します。
その一方で、電気については、プラスとマイナスのふたつが存在し、これらは単独で取り出す事が可能である。これは電気の根元がプラスの陽子とマイナスの電子に由来しているからである。そして、古典電磁気学は電気と磁気の関係について対称であり、この関係を逆にする事が可能である。普通は、コイルを流れる電気によって磁力を発生する、言い換えれば円周上を周回する電子の運動によって磁界が生じる。これを、磁気単極子が円周上を周回する事によって電界が生じるというモデルに置き換える事ができるのである。つまり、マクスウエルの方程式は磁気単極子の存在を許すように容易に改変出来る。さらに1931年にディラックは量子力学でも磁気単極子を考えることが可能であり、しかもそれが可能になるための条件から磁荷の最小単位が定まることを示して磁気単極子が一躍注目をあびた。
これについては、リリースの以下の文章がさらにわかりやすいです。
電子のように電気の源となる電荷を持ち自由に動き回る粒子が存在するのだから、磁気の源である磁荷を持った粒子も同じように存在するはず、と考える事は至極当たり前である。
これには根本的な問題があり、なんと「重力以外の自然界に存在する根源的な力を統一させる大統一理論では、磁気モノポールの生成には宇宙誕生初期に相当する巨大なエネルギーが必要である事が示されており、当然ながら現在地球上でそれを生み出す術はない」とのこと。しかし、今回の発見は「磁石中では重い元素が持っている相対論的な効果を用いる事で、実験室で磁気モノポールを生成する事が可能となる事を明らかにしたもので、物質中の自然法則を大きく発展させた」ものとなっています。
で、具体的に何が可能になるかというと、以下のような感じです。
つまり、電磁気学の完成した19 世紀以来初めて我々は電気と磁気とを対等に扱う事が可能になるのである。磁気モノポールを活用したこの技術は、既存の方法では近い将来限界をむかえるデバイスの高密度集積化や省エネルギー化、新たな情報通信技術の開発等に関する活路を切り開く可能性を秘めている。
なお、この成果は日本物理学会が発行する英文誌Journal of the Physical Society of Japan (JPSJ)の 2012年3月号に注目論文(Editors' Choice)として掲載される予定、とのことです。
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