~要求課題or必要課題~魚を与える!? or 魚の釣り方を教える!?【ローカルイベント学vol.4】
「授人以魚 不如授人以漁」
という中国語があります。
書き下し文は、「人に授けるに魚を以ってするは、人に授けるに漁を以ってするに如かず」です。
直訳は、「人に魚を与えることは、魚の取り方を教えるのに及ばない」となります。
分かりやすく言うと、「貧しい人に魚を与えれば、その人は、その一日は食料に困らないだろう。しかし、魚の捕り方を教えれば、その人は一生食うに困らない。」となります。
想像してみてください。ここにお腹を空かせている他人がいます。
彼を本当の意味で助けるのにはどうしたら良いか?
物を与えることもできる。物を得る方法も心得ている。
きっと、あなたは彼に「物を得る方法」を教える方が「将来にわたって良い結果が得られる!」と思うのではないでしょうか。
そんな考えをまちづくりやビジネスに生かすことができます。
本noteでは、ローカルイベント学の文脈で説明していきたいと思います。
あなたは、飢えている人が目の前にいるときに、「魚を与えるか or 魚の釣り方を教えるか」どうしますか?
講座のケースで考える
各地域でまちづくりのために講座を開講することは一般的によくあります。
例えば「魚を与える」ケースの講座例はこのようなものです。
●有名な講師を呼んで講演をしてもらう。
●講師からの一方通行的なレクチャーを行う。
●講師やリーダーが毎回の学習内容を考え、指導する。
反対に、「魚の釣り方を教える」ケースの講座例はこのようなものです。
●有名な講師から、教え方を教わる。
●講師からレクチャーを受けて、自分たちでイベントを企画・実践する。
●講師やリーダーが考えるのではなく、学習者同士で毎回の学習内容を考え、教え合ったり学び合ったりする。
「魚を与える」タイプと「魚の釣り方を教える」タイプの学習のどちらが優れているという話ではありません。その学習が要求課題か必要課題によっても異なってきます。
要求課題と必要課題
(1)要求課題
積極的に学びたい・解決したいと思っている課題のことを「要求課題」と言います。
学ぶことを求めている内容・ニーズであり、「個人の要望」に基づく課題となります。
イメージしやすい例でいうと、英語、ヨガ、料理などです。
この要求課題を扱う場合、往々にして「魚を与える」タイプの講座となりがちです。なぜなら、要求課題を扱う場合、「できるだけたくさんの人に参加してほしい」と考えているからです(アウトプット評価を重視)。しかし、よくよく考えてみれば、「魚の釣り方」も身に着けることができるはずです。
例えば、英語の場合。講師が学習プログラムを考えて指導するスタイルが多いですが、受講者どうしで復習も兼ねて分からないことを相談し合う日を設けたり、受講者同士で英会話を練習する日を設けるなどは簡単にできるはずです。さらには、英会話を通じて在住外国人と交流イベントを行ったり、小学校の学習支援に行ったり、自分たちで体験イベントを開催して新たな入会を呼び掛けるなど、本当は色々できるものです。
ヨガでも料理でも同じです。
では、なぜ、受動的な活動ばかりとなってしまうのでしょうか?
講座は一定期間行われますが、「講座は自主活動の助走」と捉えることが必要です。サークル化して継続的に英語を学んでいく場合、その立上げ機会となった講座において、どこまで「魚の釣り方」を学習していたかが分かれ目となります。個人で学習を継続していく場合も同様です。
別のテーマで、「予算が講師謝金5回分しかない」生涯学習センターや公民館の講座のケースで具体的に考えてみましょう。
普通の「魚を与える」タイプの講座では、講師に5回来てもらい終了です。
一方、「魚の釣り方を教える」タイプの講座は、例えば、以下のように組んでみてはどうでしょうか?(例:男の料理教室)
(2)必要課題
自発的には学びたいとは思っていなくても、避けて通ることができない社会的問題や地域で問題となって いることを「必要課題」といいます。
学びの対象者に学んで欲しい内容、あるいは、学ぶべき内容を指しています。「社会の要請」に基づく課題となります。
イメージしやすい例でいうと、子育て、消費生活、環境保全などです。
この必要課題を扱う場合、受講者は、相当の高い「動機」を持って参加されます。しかし、その受講者に対して「魚を与える」タイプの講座だけをしていてはもったいないです。なぜなら、社会や地域には問題が蔓延しており、問題解決に向けた主体的な動きをできるだけ作っていく必要があるからです。そのポテンシャルを大いに秘めた受講者には、思い切って「魚を与える」タイプの講座を企画してみるといいと思います。
例えば、私は、講師謝金3回分の予算で、全21回のワークショップを行ったことがあります。「私たちの地域からはじめる国際協力プロジェクト」と題して、専門家や学生サークルから学んだり、ユニセフの展示を見学したり、NGOから国際協力プログラムの説明を受けるなどして、自分たちで1週間の展示会・体験会を企画・実践しました。終了後には、ふりかえりの時間をしっかり確保し、次のイベント開催の目標も作って閉講となりました。
11年経った今でもその活動は続いています。
最初に貰える魚、あとで釣り上げる魚
先ほど簡単に説明した「国際協力プロジェクト」の例ですと、最初に貰えることが明確な魚は以下の通りです。
●専門家や学生サークルから学べること
●ユニセフの展示を見学できること
●NGOから国際協力プログラムの説明を受けること
しかし、「魚の釣り方」を学んで自分たちで釣った魚は以下の通りです。
●10万円の寄付を達成
●イベント来場者1000人以上に国際協力の必要性を啓発
●メンバー加入希望10数名
●イベントの成功体験
●仲間との関係 等々
自分の努力によって得た食べ物がとびきり美味しいことと同様、国際協力を受動的に学んだことよりも、国際協力を能動的に発信する中で得られた学びの方がより満足度も高いものでした。
講座をデザインするときに、本noteで伝えたい大事なポイントは以下の通りです。
❶最初に貰える魚を明確にする。できるだけ美味しく、栄養になる魚を選ぶ。
❷あとで釣り上げる魚の種類を想定しておく。その品質は受講者(及び学習支援者)の努力次第。
講座ビジネスの場合
講座のビジネスの場合、魚を与え続ける方が売上が持続的に確保できます。あるいは、魚の釣り方を教える場合には、より高額な参加料を貰う必要があるかもしれません。例えば、自社の専門的なノウハウを伝授する際に、合わせて資格も付与する「資格ビジネス」と呼ばれる事業モデルの場合、「魚を与える」=資格、「魚の釣り方を教える」=ノウハウとなり、巧みに組み合わさっています。
資格ビジネスモデルでは、漁場がまだまだ豊富にある場合、自社と資格取得者がパートナーシップを結んで一緒にたくさんの魚を釣り上げる場合もありますし、資格取得者が自己の営業の範囲で漁場を見つけて魚を釣る場合もあります。
ビジネスの場合、「さらに高いレベルを学びたい」「次は別のものを学びたい」「再度くり返し学びたい」などというニーズをうまく調整しながら魚を与えることがコツとされていると思います。
あるいは、魚の釣り方を一通り教えた後、より高品質な魚を与え、次はその高品質な魚の釣り方を教えるといったサイクルを持った断続的な講座のビジネスモデルもあります。
「魚の釣り方」にいくつもの学習要素があり、毎月や毎週伝授し続ける継続的な講座のビジネスモデルもあります。
ビジネスにおいても、まちづくりにおいても、魚を与えることと魚の釣り方を教えるバランスをとるのはなかなか難しいものですが、本noteを基に改めて考えていただければ幸いです。
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