2023年12月27日水曜日

純正律基礎講座

純正律基礎講座
推奨CD
 コーラスで純正律が聞ける、現在入手可能なCDをいくつか紹介しておきましょう。

レーヴィ・マデトヤ男声合唱曲全集
(株)ワーナーミュージック・ジャパン
WPCS-6117/8
ヘルシンキ大学男声合唱団(Yilioppilaskunnam Laulayat)の純正律による名演が光る
特に後半に平易なハーモニーによる親しみ易い曲が多いのでオススメ
2枚組で140分近い収録時間でありながら\2,500-足らずの低価格が魅力


オフィチウム
ポリドール株式会社
POCC-1022
ヒリヤード・アンサンブルのグレゴリオ聖歌とヤン・ガルバレクのサックスのコラボレーション
玉木宏樹氏が推奨しているCDの一つ
個人的には、純正律のコーラスよりもピタゴラス律のサックスの印象が強く、 余り純正律を楽しむというCDではないと思う
https://www.niji.or.jp/home/ss1996/tech/cent.htm

純正律基礎講座

純正律基礎講座

 こちらのページでは「純正律」という概念を少しでも解かりやすく解説していこうと考えております。 皆様の御意見、御感想をお待ちしております。こちらまでどうぞ。


はじめに
 皆さんは他人の声に自分の声を重ねて快感を感じた事はあるでしょうか。 年がら年中楽器に合わせて歌っているという人でなければ、大抵何度か経験があるのではないかと思います。
 その感覚の表現は人によって違うと思われますが、私の言葉では
「空間に一本芯の通ったかのような充実感」
「緊張感とリラックスとが共存した奇妙な感覚」
「一緒に声を出している他者との間に見えない繋がりを感じる一体感」
といった所でしょうか。
 そういった感覚が純正律ハーモニーと呼ばれる感覚です。
 ただ、そうした感覚はいつも味わえる訳ではないのが残念です。 特にピアノ、キーボード等で指定した音の通り歌ってもそうしたハーモニーは決して生まれません。それはなぜでしょう? そうした理論面での解説を以下に行って行きます。
協和について
 楽典等に掲載されている事ですが、一般に周波数比率がより単純な整数で表せる音程関係程よく協和します。
 例えばオクターブ。これは1:2の比率で表せるのですが、最も単純な比率で表現されるこの音程関係は、 御存知のように同じ音と見なされる程の協和とされています。以下に協和音程の周波数比率を示します。
和音オクターブ完全五度完全四度長三度短三度長六度短六度
周波数比率1:22:33:4 4:55:63:55:8

 以上は西洋音楽における協和音程ですが、いずれも両辺が小さな整数の比率で表せる事が判ると思います。
 さて、ではなぜこうした比率の音同士が綺麗に協和するのでしょう。それはどうやら人の声等に含まれる倍音が影響しているようです。 雑感のページでも言及していますが、 互いの音の倍音列において一致する周波数の音が増幅される事によって、前述したハーモニー感という物が感じられるようです。

 この辺りで具体的な音を出して純正律ハーモニーを体感できるようにすればいいのですが・・・。 それは今後の課題という事で(^^;)
 尚、作曲家/ヴァイオリニスト玉木宏樹ホームぺージには、 純正律と平均律の聴き比べができるページがあります。参考までに。


平均律
 ところで、先に「ピアノ、キーボード等で指定した音の通り歌ってもハーモニーは生まれない。」と書きましたが、 それはなぜでしょう。それはそれらの楽器の音程を決定している平均律という調律に原因があります。
 平均律とはオクターブを12等分に分割するという調律法で、これによりどの半音の音程幅も同一となるので、 どのような転調も可能となります。ではこの調律による音程関係はどのようになるでしょうか。

完全五度
 たとえばドとソの完全五度を考えてみましょう。純正律においては周波数比率は2:3ですので、 ソはドの1.5倍の周波数という事になります。
 平均律についてはまず半音の周波数比率について考えてみましょう。半音はオクターブ(1:2)を比率として12等分した幅です。 つまり、半音分の比率を12回積算するとオクターブである2となります。よって

(半音の幅)12=2

(半音の幅)=12√2=1.059463094・・・

 ところで、ドとソの間には半音の幅がいくつあるでしょうか。ピアノの鍵盤を想像してみて下さい。

フラット フラット ファ ファシャープ
以上のように7つあります。それぞれの半音上下同士の周波数比率はいずれも1:12√2となるので、 ドとソの周波数比率は

1:(12√2)7=1.498307077・・・

という訳で純正律の周波数比率とは一致しない事が判ります。 まあ、12√2という無理数が出てきた時点で少数や分数という整数の比率で表せるはずがない事は自明ですが。
 尚、他の音程関係についても平均律の周波数比率を求めておきます。

和音周波数比率(純正律)周波数比率(平均律)
オクターブ1:21:2
完全五度2:3
1:1.5
1:1.498307077・・・
完全四度3:4
1:1.333333333・・・
1:1.334839854・・・
長三度4:5
1:1.25
1:1.25992105・・・
短三度5:6
1:1.2
1:1.189207115・・・
長六度3:5
1:1.666666666・・・
1:1.681792831・・・
短六度5:8
1:1.6
1:1.587401052・・・

 以上のように音程関係が単純な整数比にはならないので純正なハーモニーを形成する事はありえません。


実際の演奏

 これまでを踏まえると、ことハーモニーという意味においては私達は間違った音を取って歌っているという事になります。 実際、ハーモニーを作る合唱団やコーラスグループは一人一人がハーモニー感覚を持ち、 お互いの音を聞き合ってその都度自分の音程を修正しながら歌う事によって、上記のような誤差を解消しているのです。
 とはいえ、これは大変難しい事です。私達Single Singersでもまだまだ音感を作る段階で、曲中での修正は困難を極めます。 現実に曲によっては転調が激し過ぎてメンバーの音感だけでは修正しきれないために音取り方法の再考を迫られた事もありました。 (年表参照)
 それは、音取り時に「この音の通りに歌えばハモる」という純正律の理論値による音程で各パートの旋律を作り、 音取りをする事によってあらかじめ各メンバーの音程の誤差を少なくしてハモらせようという荒技です。 実は実用純正律理論のページはそうした音取りテープ作成時の和音解釈法として作成しています。


セント理論

 さて、ここまでくると「具体的に純正律と平均律の誤差がどの位あるのか?」という事が疑問になるでしょう。 それについては平均律の項で一応比率としては求めましたが、あれではいくらなんでも感覚的に理解できる訳がありません。 私自身も「純正律と平均律に誤差がある」事を知って以来9年間、その差を理解しようと苦心してきました。

 こうした表現の困難さの理由としては、純正律が比率で表現され、 さらには実用純正律理論のページにみるように積算の積み重ねによって音程の決定が行われている事が、 私達が感じている音の高さの認識法とかけ離れている事にあります。 また、音程幅が相対比率で表現されるという事は、 音がどのような大きな周波数や小さな周波数にあろうとも一律の表現が可能でなくてはならないという事が大きな障害となりました。
 ところで、では私達の認識法とはどういったものでしょうか。通常、私達は半音の幅を2つ重ねたものが全音と考え、 長三度の上に短三度を足した幅を完全五度というように音程幅を足したり、引いたりといった加減法で認識しているのではないでしょうか。
 12等分された平均律の場合、半音上下の音に対する比率が常に一定であるため半音の音程幅を1単位とすると、 こうした"加減法による認識"は常に正しくなります。

 半音の音程幅を1と考えるとその他の音程幅は以下のように表せます。

オクターブ完全五度完全四度長三度短三度長二度長六度短六度
12
これらを加減した値が常に私達の感覚と一致する事は容易に想像がつくと思います。
 では、純正律の周波数比率をこの平均律のような方法で表現してみてはどうでしょう。 元々平均律の1単位である半音の音程幅も"2の12乗根"という周波数比率を置き換えた物ですから、 不可能ではない筈です。以下に展開して行きましょう。

 ある音とそのオクターブ上の音との間を12等分したのが平均律の音程だから総ての音程は

a×2y/12Hz aはAのHz数、A=440Hzならa=440
yは任意の音名に当たる数値、Aの五度上のEなら+7、五度下のDなら-7
で表せる。

ここで、2音の音程の比率は
y/12
で表せるので、純正律の完全五度(比率3/2)の平均律との誤差は
3/2=2y/12
のyの値を出せば解る事になる。

y=12×log2(3/2)=12×log10(3/2)/log102=7.019550009・・・

平均律の場合はy=7だから、誤差は半音の1.955%となる。 平均律の半音の100分の2にも満たないという非常に小さな誤差である事が解かると思います。

 他の音程関係についても同様の計算によって求めました。そして、この結果を意識しながら練習していたので、 「半音の何%上下」という言い方が身についてしまいました。
 そんなある日、Harmonyに掲載されているYAMAHA HD-81の広告の写真の中で表示されていた数値と私の求めた数値が一致している事に気づき、 自分の理論に自信を持つと同時に、理論の実践のために購入を決意しました。 そして、そのHD-81の説明書を見て初めて、私の考え出した理論がセント理論という事を認識しました。
 以下に代表的な和音の平均律との誤差を示します。

和音周波数比率数値(cent)誤差(cent)
完全五度2:3701.955+1.955
完全四度3:4498.045-1.955
長三度4:5386.314-13.686
短三度5:6315.641+15.641
長六度3:5884.359-15.641
短六度5:8813.686+13.686
長二度(広)8:9203.910+3.910
長二度(狭)9:10182.404-17.596
短二度15:16111.731+11.731
増一度24:2570.672-29.328

 これらの数値は本項の冒頭で挙げた、数値化した平均律の音程幅と同様に加減法による理解が可能です。
(例)長二度(広)+長二度(狭)=長三度
203.910+182.404=386.314
(200+3.910)+(200-17.596)=(400-13.686)

 このように純正律の周波数比率を数値化する事に成功したので、 それまで私の頭の中で漠然と浮遊していた様々な音程を体系的にまとめる事が可能となり、 実用純正律理論として日の目を見る事になりました。


あとがき
 いかがでしたでしょうか?これらは私が純正律について10年かけて考えた事を順を追って解説しています。 まだまだ不完全な説明で課題は多いのですが、純正律という概念が少しでも理解できた、 もしくは実用純正律理論のページを理解する一助となれば幸いです。

 余談ですが、本稿をはじめ実験室の各ページの執筆にあたってもっとも厄介だったのは、 私のパソコンでは「へいきんりつ」と打つとキチンと「平均律」に変換されるのに、 「じゅんせいりつ」と打っても「純正律」とは変換してくれなかった事でした(^^;)


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