万葉集 現代語訳 巻十六3860・3861・3862
筑前国の志賀の海人の歌十首①※「筑前国」国名。福岡県北部。
※「志賀」福岡市東区の志賀島。博多湾の出入り口にある島。現在は地続き。
3860 大君(おおきみ)の遣(つか)はさなくにさかしらに行きし荒雄(あらお)ら沖に袖振る
※「大君」天皇。
※「さかしらに」差し出がましく。おせっかいに。
※「荒雄ら」〈荒雄〉志賀島の漁師の名。〈ら〉親しみをあらわす。
帝の命(めい)を受けたわけでも
ないのに差し出がましくも
みずから出かけた荒雄は沖で
別れの袖を振っている
3861 荒雄(あらお)らを来(こ)むか来(こ)じかと飯(いい)盛(も)りて門(かど)に出で立ち待てど来まさず
※「来むか来じか」〈む〉推量。〈か〉疑問。〈じ〉打消推量。
※「来まさず」〈まさ〉尊敬・未然形。
荒雄は帰って来るか来ぬかと
ご飯を盛って供えして
門に出で立ち待っているけど
帰っておいでになりません
3862 志賀(しが)の山いたくな伐(き)りそ荒雄らがよすがの山と見つつ偲(しの)はむ
※「いたく」ひどく。はなはだしく。
※「な伐りそ」〈な~そ〉禁止。
※「よすが」心を託すたよりとなるもの。心を寄せる縁となるもの。拠り所。
志賀の島では山の樹木を
伐採し過ぎないでくれ
荒雄にゆかりの山と思って
眺めて偲んでいたいから
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