2020年5月22日金曜日

ポズナー ラディカル・マーケット 既得権と独占を壊せ!自由な社会の作り方 安田洋祐 2019/12/20


既得権と独占を壊せ!自由な社会の作り方 | 政策 | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準
2019/12/20
https://toyokeizai.net/articles/-/319184
安田洋祐★

参考:
ヘンリー・ジョージ(1839~1897)
ヴィックリー(1914~1996)
Vickrey, William. 1996. 15 Fatal Fallacies of Financial Fundamentalism
https://nam-students.blogspot.com/2019/11/vickrey-william-1996-15-fatal-fallacies.html
ポズナー&ワイル ラディカル・マーケット

本書はヴィックリー(1914~1996)に捧げられている
ただしヴィックリーが換骨奪胎されているので
本書を読んでもヴィックリーについてはわからない
以下はヴィックリーについて述べる

ヴィックリーはノーベル賞を取った唯一のポストケインズ派経済学者(byラヴォア)
ただし受賞理由はオークション理論への貢献だ
1961年のオークション論文は2位価格オークションを復活させた

COUNTERSPECULATION, AUCTIONS, AND COMPETITIVE SEALED TENDERS . 
William Vickrey. Columbia University. 1961
(本書では「投機への対抗措置、オークション、競争的封入入札」と訳される

二位価格は正直な評価を引き出しやすいらしい
川越敏司『マーケット・デザイン 』2010に分かりやすい解説がある(ゲーテの事例を紹介)
ちなみに岡本英男が論考しているヴィックリー1996年論考がMMTに近い

Fatal Fallacies of Financial Fundamentalism
Vickrey, William. 1996. 15 

ただし1961年のオークション論文、ノーベル賞受賞論文でも冒頭でラーナー(MMT開祖)に触れている

  • The Economics of Control: Principles of welfare economics, 1944. A.P.Lerner
ラーナー『統制の経済学』邦訳1961

タイトルにあるcounterspeculation=対抗投機,反対投機,をラーナーのように国家ではなく
市場取引方法に内在させようとしたのがヴィックリーだ
(ヴィックリーはよく誤解されるが制度学派コースが新自由主義者と誤解されるのに似ている)
本書はヴィックリーへのヘンリー・ジョージの影響を詳述している部分が貴重だ(Ch.1)
ヘンリー・ジョージはゲゼルの自由土地のアイデアに影響を与えた
マルクスはジョージをブルジョワ的だと批判したが
持たざる者は持った時の対処をあらかじめ知っておくべきだろう
MMTerレイが土地ではなく住居空間体積に課税せよと言っているのはジョージを反面教師に
しいるのかも知れない


参考:
ラヴォア『ポストケインズ派経済学入門』2008/7

ラディカル・マーケット 脱・私有財産の世紀: 公正な社会への資本主義と民主主義改革 (日本語) 単行本 – 2019/12/20
https://www.amazon.co.jp/dp/B0828FG9SB/
エリック・A・ポズナー (著), E・グレン・ワイル (著), 安田 洋祐 (翻訳), 遠藤 真美 (翻訳)★★

目次:
序文 オークションが自由をもたらす
序 章 自由主義の秩序の危機
第1章 財産は独占である――所有権を部分共有して、競争的な使用の市場を創造する
第2章 ラディカル・デモクラシー――歩み寄りの精神を育む
第3章 移民労働力の市場を創造する――国際秩序の重心を労働に移す
第4章 機関投資家による支配を解く――企業支配のラディカル・マーケット
第5章 労働としてのデータ――デジタル経済への個人の貢献を評価する
結論 問題を根底まで突き詰める
エピローグ 市場はなくなるのか

謝辞
日本語版解説
原注
索引


[ヴィックリーの]論文は1961年に発表された。タイトルは「投機への対抗措置、オークション、競争的封入入札」というもので、すぐに忘れられるだろうと思われた。しかし、10年後に再発見される。ヴィックリーの論文は、社会の問題を解決するオークションの力を示した最初の研究であり、「メカニズムデザイン」と呼ばれる経済学の領域を切り拓くことにつながって、1996年にノーベル賞を受賞した。


正義の経済学―規範的法律学への挑戦 (日本語) 単行本 – 1991/6/1




ティロール絶賛
ヴィックリーに言及

本書はヴィックリーの思い出に捧げるものだ。
序文より


        1988 モーリス・アレ 市場と資源の効率的利用に関する理論 
        1991 ロナルド・コース 取引費用経済学
ゲーム理論___________________________________
1994                   人間行動・制度     I    I
ハーサニ/ナッシュ
/ゼルテン                  行動ゲーム理論 I
      \                         実験ゲーム理論 I 
       \インセンティブ・制度設計               I    I
        \                          I    I
        /\___情報の非対称性
               I    I
       /  \  1996マーリーズ/ヴィックリー
      I    I
      /    \ 2001アカロフスペンススティグリッツ I    I
     /      \              I       I    I
    /        \             I 行動経済学実験経済学
 対立と協力        \            I 2002       I
 2005         /\           I カーネマン/スミス  I
 オーマン/シェリング  /  \          I I          I
            /    \         I I          I
  マーケット・デザイン  メカニズム・デザイン   I I          I
       /  \     2007       I I 経済ガバナンスの理論
      /    \  ハーヴィッツ/マスキン/ I I 2009
サーチ理論       \ マイヤーソン  \    I I オストロム
 2010        \         \   I I ウィリアムソン
 ダイアモンド/      \         \  I I
 モーテンセン/ピサリデス  \         \ I I
マッチング理論         \         \I I
 2012        オークション理論   契約理論 I
 ロス/シャープレイ   (未受賞)      2014 I
             ミルグロム     ティロール I
                        2016 行動経済学 ナッジ理論
                ハートホルムストローム 2017
                             リチャード・セイラー

ティロール絶賛
ヴィックリーに言及

 市場原理主義者の系譜は、20世紀半ばの保守派の偶像にして、ノーベル賞経済学者であるフリードリヒ・ハイエク、ミルトン・フリードマン、ジョージ・スティグラーらへと続いている。こうした面々は、私有財産に基づく理想化された市場観をスミスから承継し、そこにリバタリアン的な経済学と政治学を援用した。市場原理主義者は、ヘンリー・ジョージのようにスミスのラディカルな精神をひく経済学者を無視している。ジョージの思想は進歩主義時代の到来を後押しし、古今を通じて最も広く読まれている経済学者だろうが、ジョージのビジョンは冷戦期の左派と右派の闘争の中に埋もれていった。ジョージはスミスの保守的な信奉者たちよりも格差を問題視し、私有財産は真に自由な市場を実現する障害になるおそれがあると見ていた。この問題を克服するために、土地の共有制へとつながる税体系を提案している。

ウィリアム・S・ヴィックリーの記念碑的な論文
「ジョージ主義」経済学者の中で最も重要な人物は、20世紀半ばの大学教授、ウィリアム・スペンサー・ヴィックリーである(図P・1を参照)。本書はヴィックリーの思い出に捧げるものだ。ヴィックリーは経済学者のマスター・ヨーダだった。分別がなく、脳天気で、引きこもりで、いつもぼうっとしていて、えてして不可解な振る舞いをするが、世界を変えてしまうような洞察の持ち主だった。列車の駅からローラースケートで講義に向かい、ランチの後は食べこぼしでシャツがシミだらけ。研究ワークショップの最中にうたた寝しているかと思えば、ぱっと目を覚まして「この論文には……ヘンリー・ジョージの地価税論が有効だろう」とコメントしたり。ヴィックリーがジョージの構想に何度も言及するものだから、ある同僚はその熱意に感嘆して、「いまでは神にもそう説いているのではないか」と冗談を言っていた★1。また、浮世離れしていて、不遜で、人目につくことを嫌がってもいたため、優れたアイデアを学術論文にして出版することはほとんどなかった。

ヴィックリーの研究につながった着想は、われわれのものととてもよく似ていた。ヴィックリーは研究生活の大部分を、都市組織論や、大半の都市形態において資源が膨大に浪費されているという問題に投じた。とりわけラテンアメリカの都市に魅了され、都市計画や租税について政府に助言している。目立つことを何よりも嫌ったヴィックリーも、1本の論文によってとうとう日の当たる場所に出ることになるのだが、その論文を書いていたのも、ベネズエラの財政システムを設計しているときのことだった。
論文は1961年に発表された。タイトルは「投機への対抗措置、オークション、競争的封入入札」というもので、すぐに忘れられるだろうと思われた。しかし、10年後に再発見される。ヴィックリーの論文は、社会の問題を解決するオークションの力を示した最初の研究であり、「メカニズムデザイン」と呼ばれる経済学の領域を切り拓くことにつながって、1996年にノーベル賞を受賞した。
ヴィックリーのアイデアは経済理論を大きく変え、政策に影響を与えた。世界中の政府がヴィックリーのアイデアに基づくオークションを使って、電波の周波数帯を利用する権利を販売している。フェイスブック、グーグル、ビングも、ヴィックリーのオークションから派生したシステムをもとに、ウェブページ上の広告スペースを割り当てている。都市計画や混雑課金に関するヴィックリーの知見は、都市の風貌をゆっくりと変化させており、ウーバーやリフトなどの配車アプリの料金設定で重要な役割を果たしている★2。

ヴィックリーのビジョンを具体化する
しかし、こうした用途の中に、ヴィックリーを研究へと駆り立てた野心を反映したものは一つもない。ヴィックリーがノーベル賞を受賞したとき、これを「権威ある演壇(ブリー・パルピット)」として使って、世の中を大きく変えるようなジョージの思想、メカニズムデザインが持つラディカルな潜在能力を大衆に説き広めようとしていたとされる★3。だが、受賞を知った3日後、ヴィックリーは心臓発作でこの世を去った。たとえヴィックリーが生きていたとしても、大衆の心をつかむのは難しかっただろう。1996年には、世界中が好景気にわいており、国際協調という新しい時代が幕を開けるかのように見えた。成功しているものに手を加えることを誰も望んでいなかったし、ヴィックリーのアプローチを実際に導入するには、厚い壁が立ちはだかっていた。
しかしいま、経済と政治の先行きは当時のように明るくはない。そして、経済学とテクノロジーが発展したおかげで、ヴィックリーのアプローチを導入するのを阻む制限を克服できるようになっている。そこで本書は、ヴィックリーが失った「演壇」となることを試み、ヴィックリーが存命であったら世界中に広まっていたかもしれないビジョンを具体的な形にしていきたい。

★1MasonGaffney,WarmMemoriesofBillVickrey(1996), http://www.wealthandwant.com/auth/Vickrey.html.ガフニーは神はこう答えただろうとしている。「ビルよ、われわれはここでずっとそうしてきている。しかし、天国と同じように地上で私の意志が果たされるよう、民を促してくれていることに感謝する」。

Bill died, as you know by now, en route to that meeting. He drove at night, true to his principle of easing peak-hour congestion. Had he arrived, I know he would have raised his head from the doze he affected and told some unwary journeyman, "This paper would benefit from an application of Henry George's idea of taxing land values." How do I know? Because he always did. I imagine by now he has mentioned it to God, too; and God has said "Actually, Bill, that's how we've always done it here; but thank you for urging folks to have my will done on earth as it is in Heaven."


★2JuanCamiloCastillo,DanielT.Knoepfle,&E.GlenWeyl,SurgePricingSolvestheWildGooseChase(2017),
★3JannyScott,AfterThreeDaysintheSpotlight,NobelPrizeWinnerIsDead,NewYorkTimes,October12,1996.


序章

「モラル・エコノミー」という小さな共同体

かつて、ほとんどの人は、小さくて結びつきの強い共同体で暮らしていた。そこには道徳的な衝動、社会的な恥、噂話、共感といったものがあり、個人が共通善に貢献するように振る舞う最大のインセンティブになっていた。経済学者や社会学者は、こうした共同体を「モラル・エコノミー」と呼ぶときがある★23。もちろん、人間は利己的に振る舞うものだし、それは避けられないことだったが、繁栄の源とはみなされず、堕落した人間の本性がもたらす残念な結果だとされた。そうした逸脱をことあるごとに抑える役割を果たしたのが、宗教だった。農民、職人、兵士、勇敢なる騎士は善良な者たちであり、自分の良心に従い、あるいは神を喜ばせるために、昔ながらの生活様式を守っていた。商人や金融家など、「商取引」から富を蓄えた者には、19世紀になってからも、不信の目が向けられた。

今日でも、モラル・エコノミーは都市以外のところで近似的な形で繁栄し、親しい友人や家族との関係に影響を与えている。そうした社会の理想化された姿が、1946年のフランク・キャプラの古典的な映画『素晴らしき哉、人生!』に描かれている。ジェームズ・ステュアート演じるジョージ・ベイリーは、自分の利益を後回しにして生まれ故郷の小さな町のために尽くす銀行家である。ベイリーは町の人たちのことをよく知っているので、低い金利で住宅融資ができる。大恐慌が起きて、資金難に陥ると、かつてベイリーに助けられた貧しい人たちが、今度はベイリーとベイリーの銀行を窮状から救う。これに対し、貧しい人から高い家賃をしぼり取って食い物にする、強欲で道徳心のない敵役の銀行家、ポッターが体現するスミス型資本主義は、共同体に対する脅威として描かれる。モラル・エコノミーの経済効率が高いのは、ベイリーの銀行と町の間に見られる助け合いの精神があるからだ。それはモラル・エコノミーに固有の価値観でもある。


★23この区別は、偉大な社会学者エミール・デュルケームの1893年の著作TheDivisionofLabourinSociety(Simon&Schuster,1997)(邦訳デュルケーム著、田原音和訳『社会分業論』筑摩書房、2017年)と深く関連している。




第1章財産は独占である
 ──所有権を部分共有して、競争的な使用の市場を創造する
 エスピノーサのケース/通行権という障壁
資本主義と自由か、資本主義と独占か
 財産の私有化が資本主義をもたらした/産業革命における格差と非生産性/投資されることなく、使われることのない土地/私的所有が効率的な資源の配分を妨げる
中央計画、企業計画
 独占問題に対する二つのアプローチ
所有権のない市場
 競争的共同所有/ヘンリー・ジョージの「土地税」と「モノポリー」ゲーム/ジョージ主義の欠陥
「社会主義」の魂をめぐる闘争
 中国とロシアの革命/中央計画制の欠点/私的な交渉と独占問題
設計によって競争を促進する
 ヴィックリーが提示したオークションという制度/オークションの問題点とその解決策/会社の所有権を決める入札システム/資産に投資するインセンティブ
価格も税金も、自分で決める
 財産の自己申告制度/住宅の価値を評価する/税率を調整して投資を促す/「共同所有自己申告税(COST)」によって所有権を社会と保有者で共有する
COST運用の七つのポイント
 COSTはどのように機能するのか
一税二鳥
 「シグナリング」と「保有効果」が消滅する/借り入れという問題も解決される/取引の障害が減少する
公的リースを最適化する
 公的市場へのCOSTの導入/COSTはさまざまな公的資産の管理に役立つ
真の市場経済
 COSTの劇的な経済の改善効果/COSTはどのように平等化をもたらすか
仏教の最善の教えに従い、公正なコモンウェルスをつくる
 個人的に思い入れがあるものが売られないようにする/モノより経験/富の分配が社会的信頼を育む

#2

この章では、民主主義で使われている伝統的な投票システムの病理を治すためには、投票力を貯める能力と平方根関数という二つの要素が何よりも必要なものであることを示していく。このシステムを「二次の投票」(QuadraticVoting=QV)と呼ぶことにし、これが政治のラディカル・マーケットを生み出すことを、この章で明らかにする。


ペロポネソス戦争でアテナイが負けると、多数者が誤った意思決定をしたことが敗北の一因だとされ、アテナイ人はもっと穏やかな民主主義を導入した。法律を提案する委員会をはじめとする独立した機関の力が大きくなり、民会が成立させているが法律に違反する法令を無効にする権限が、民衆裁判所に与えられた。こうした機関のメンバーはすべて籤(くじ)で選ばれた。この新しいシステムでは、さまざまな集団が何度も多数決を繰り返さなければならず、やがて何を決めるにも圧倒的多数が必要とされるようになった。民主的政府が多数決の原則を制限しようと試みる伝統は、このときに始まった。




ラディカル・マーケット 脱・私有財産の世紀: 公正な社会への資本主義と民主主義改革 (日本語) 単行本 – 2019/12/20
https://www.amazon.co.jp/dp/B0828FG9SB/
エリック・A・ポズナー (著), E・グレン・ワイル (著), 安田 洋祐 (翻訳), 遠藤 真美 (翻訳)


Glen Weyl. Shortly thereafter, Weyl began working on QV with Steven Lalley and Eric Posner to further refine the ...

Posner and Weyl argue for the use of quadratic voting, or QV, for conducting voting for ballot measures ...


★★
既得権をなくす! 独占を壊す!
自由な社会をどうつくるか?
若き天才経済学者が描く、資本主義と民主主義の未来!

支配なき公正な世界のデザインとは?
富裕層による富の独占、膠着した民主主義、巨大企業によるデータ搾取……
21世紀初頭の難題を解決する、まったく新しいビジョン!

「私はずっと、テクノロジーと市場の力を用いて平等な社会を実現する方法を探してきた。本書こそが、その方法を示している」――サティア・ナデラ(第3代マイクロソフトCEO)

「深淵かつオリジナルな本書の分析は、あなたの世界観を根底から覆すだろう」――ジャン・ティロール(2014年ノーベル経済学賞受賞者)

経済の停滞、政治の腐敗、格差の拡大。この状況を是正するには、発想を自由にして抜本的な再設計を行わなくてはならない。社会を成立させるための最良の方法は市場と考えるが、最も重要な市場が今は独占されているか、存在していない。

だが、真の競争が可能な、開放的で自由な市場を創出することによって、格差を縮小し、繁栄をもたらし、社会の分断を解消できるはずだ。すなわち、オークションを要とするラディカル・マーケット(競争原理によって誰もが参加できる自由な取引市場)である。

私有財産は本質的に独占的なものである。そのため、私有財産を廃止し、財産をより高く評価する者の手に渡らせ、彼らに財産を有効活用させればよい。これを実現するのが、著者たちの主張する「共同所有自己申告税」(COST)だ。

また、現行の投票制度では、多数者が大きな影響力を持ち、少数者の利益は守られない。そして、ある問題に関する関心の強さは人によってまちまちだが、その関心の強さを票に反映することは不可能だ。著者たちの主張する「二次の投票」(QV)を導入すれば、投票者は自分の関心の強さを投票に反映することが可能となり、強い関心をもつ少数者が多数者の支配から守られる。これこそが本書で述べられる「ラディカル・デモクラシー」である。

本書は、移住の自由化への反感、機関投資家による市場の独占、巨大なプラットフォーム企業によるデータ労働の搾取といった、21世紀のさまざまな問題を解決し、繁栄と進歩を可能にするために、古い真理を疑い、物事を根底まで突き詰め、新しいアイデアを提案する「ラディカル」な提案の書である。


富裕層による富の独占、膠着した民主主義、巨大企業によるデータ搾取。21世紀初頭の難題を解決するまったく新しいビジョン!
著者について
エリック・A・ポズナー
法学者
シカゴ大学ロースクールのカークランド・アンド・エリス特別功労教授。The Twilight of Human Rights Law(未訳)、『法と社会規範』(太田勝造監訳、藤岡大助[ほか]訳、木鐸社)など著書多数。シカゴ在住。

E・グレン・ワイル
経済学者
マイクロソフト首席研究員で、イェール大学における経済学と法学の客員上級研究員。ボストン在住。

安田 洋祐(ヤスダ ヨウスケ)
経済学者
大阪大学大学院経済学研究科准教授。1980年生まれ。東京大学経済学部卒業後、米国プリンストン大学へ留学しPh.D.を取得。政策研究大学院大学助教授を経て、2014年4月から現職。専門はゲーム理論、産業組織論。編著に『学校選択制のデザイン』(NTT出版)、監訳に『レヴィット ミクロ経済学 発展編』(東洋経済新報社)など。学術研究の傍らマスメディアを通した情報発信や、政府での委員活動に取り組んでいる。大阪在住。

遠藤 真美(エンドウ マサミ)
翻訳家
主な訳書にティム・ハーフォード『50(フィフティ) いまの経済をつくったモノ』(日本経済新聞出版社)、リチャード・ボールドウィン『世界経済 大いなる収斂』(日本経済新聞出版社)、マーヴィン・キング『錬金術の終わり』(日本経済新聞出版社)、リチャード・セイラー『行動経済学の逆襲』(早川書房)、マーティン・ウルフ『シフト&ショック』(早川書房)、フェリックス・マーティン『21世紀の貨幣論』(東洋経済新報社)、ジャスティン・フォックス『合理的市場という神話』(東洋経済新報社)などがある。

著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
ポズナー,エリック・A.
シカゴ大学ロースクールのカークランド・アンド・エリス特別功労教授。シカゴ在住

ワイル,E.グレン
マイクロソフト首席研究員で、イェール大学における経済学と法学の客員上級研究員。ボストン在住

安田/洋祐
大阪大学大学院経済学研究科准教授。1980年生まれ。東京大学経済学部卒業後、米国プリンストン大学へ留学しPh.D.を取得。政策研究大学院大学助教授を経て、2014年4月から現職。専門はゲーム理論、産業組織論。学術研究の傍らマスメディアを通した情報発信や、政府での委員活動に取り組んでいる

遠藤/真美
翻訳家(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)


殿堂入りベスト10レビュアー
5つ星のうち5.0 新しいオークション資本主義!
2020年2月10日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
未来社会へのアイデアが満載の新資本主義論である。オークション資本主義である。
①オークションとは、出品商品に最高高値を付けた人に落札される仕組みである。これでは高所得者が商品を独占するのではないかと懸念される。
②しかし、そうはならないと著者は言う。出品された商品は、高所得者→中所得者→低所得者へと回り、すべての者が落札された商品を購入出来る。
③高所得者が手にした商品は、二回目には中所得者が入手する。そして三回目には低所得者に落札される。こうして落札価格は下がり、最終的には、低所得者が買えるまでに下がるのである。これはアダム・スミスが発見した市場(価格)メカニズム=市場原理と完全自由競争を前提した仕組みである。
④しかし、住宅などは、サブプライムローンが失敗したように、低所得者には負担があまりに大きい。最も高額な商品である。高級自動車などもそうである。低所得者が入手できない高額な商品である。だとすれば、住宅や自動車は所有せず、複数の人間でシェアし、所有者に低額なレンタル料(家賃)を支払う仕組みを作り、オークションに出品すれば良い。
⑤こうしたオークションの徹底によって、私有財産は否定され、必要な者同士がシェアする仕組みが未来社会における資本主義の原理となる。こうして所有と私有財産は否定され、格差社会は解消していく。しかし、そう簡単には行かない。政府の役割は重要である。
新しいアイデア満載の本署は資本主義の市場原理を徹底させることで得られるのだ。
お勧めの一冊だ。


5つ星のうち5.0 資本主義を超えるアイデア(共産主義ではない)
2020年4月12日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
まず最初に、本書は社会を良くするためのアイデアが描かれている。

ではその良い社会とは。貴重な資産が死蔵せず有効活用される。民主的な投票だが少数の意見も汲み上げる。一時滞在の移民を多く受け入れても地元の人が不利益を被らない。
こういう、従来はトレードオフと考えられてきた問題を仕組みの改変で解決しようとしている。

それぞれかなり根本的な手法であり、また既得権益を脅かすことから、実際にはなかなか実現しないだろう。しかし現在の資本主義や民主主義が決して究極の姿ではないということを再認識させてくれる。

得てしてこういう論は共産主義の焼き直しだが、本書はあくまで資本主義の延長であって、それ故の面白さと、それ故の分かりにくさを有していると思う。
ただ、例えば著作権におけるクリエイティブ・コモンズのように、どこかで始まって徐々に拡大する可能性を秘めている。決して考える価値がない訳ではない。
文句なしの星5つ。

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Mkengar
5つ星のうち4.0 思考実験の良書
2020年4月14日に日本でレビュー済み
タイトルに明示されているように、本書は、21世紀の一般的な人々からすればラディカル(急進的)だと思えるような提案が多数盛り込まれている本です。しかし思考実験としては良いきっかけを与えてくれます。彼らが提案する制度が導入されるとどんな世の中になるのだろう、という想像です。本書は所有権の部分共有による切り崩し(1章)、投票制度の改革(2章)、移民制度の改革(3章)、機関投資家の力の切り崩し(4章)、データを労働力としてみる(5章)、というような構成になっていますが、特にインパクトが大きく、著者らが特に力点を置いているのが前半の所有権の切り崩しと選挙制度の改革でしょう。

私は特に2章の投票制度について関心を持ちました。投票制度の問題は以前から議論されていて、アローの一般可能性定理やアマルティア・センが指摘したパレート最適の毒性問題があります(詳細は、たとえば『「きめ方」の論理』ちくま学芸文庫を参照のこと)。パレート最適の毒性問題を回避するための一つの方法は、「自分が関心の低い事案については投票しない(意見表明を差し控える)」ことです。これは自己抑制的という意味でアジア的な解決策と言えるのかもしれませんが、本書が提示しているQV方式と呼ばれるものはその逆で、「自分の関心が高い事案については、他人より多くの票を投ぜよ」という解決策です。私はこれを自己主張的な欧米型の解決策ととらえました(人間は自己主張しなければならないという欧米的な強迫観念が背後にあるとも言えます)。この場合、少数のその事案に高い関心がある人の意見が、多数のあまり関心がない人に勝つ可能性があるわけです。

その意味で、本書は確かにラディカルな制度提言が盛り込まれていて興味深く読みましたが、いずれも自己主張、競争、対立といった価値観が著者らの背後に見え隠れしており、そのような価値観に社会が覆われているという意味できわめて欧米的であります。つまり、逆に自己抑制、協調、和合の社会設計という選択肢についても可能性がないのだろうかと本書を読んで思いましたが、いずれにせよ頭を柔らかくする、想像力を働かせるという意味で面白い本でした。

既得権と独占を壊せ!自由な社会の作り方

若き天才経済学者が「ラディカル」に提言


リオデジャネイロの丘を覆う「ファヴェーラ」と呼ばれるスラム街。ブラジルは西側で格差がいちばん大きい国だ。リオデジャネイロが直面している問題を解決する方法はないのだろうか?(写真: Xura/PIXTA)
21世紀を生きる私たちには3つの課題がある。富裕層による富の独占、膠着した民主主義、巨大企業によるデータ搾取だ。この難問に独自の解決策を見いだそうとする野心的な理論書が刊行された。気鋭の経済学者として名を馳せるグレン・ワイル氏を共著者とする『ラディカル・マーケット  脱・私有財産の世紀』だ。
プリンストン大学留学時にワイル氏とも接点があり、今回、本書の監訳を担当した大阪大学大学院経済学研究科准教授の安田洋祐氏による「日本語版解説」を、一部加筆・編集してお届けする。

学部生ながら大学院生に教えた「天才経済学者」

本書の執筆者の一人であるグレン・ワイル氏は、筆者のプリンストン大学留学時代のオフィスメートである。と言っても、当時の私は大学院生で彼はまだ学部生。

『ラディカル・マーケット 脱・私有財産の世紀』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)
ワイル氏は学部生でありながら大学院の難解な講義を楽々と突破し、さらには大学院生たちを(ティーチング・アシスタントとして)教える、スーパーな学部生だった。
すでに大学院生用の研究スペースまでもらい、ハイレベルな学術論文を何本も完成させていた彼は、プリンストン大学を首席で卒業したあと、そのまま同大学の大学院に進学。平均で5、6年はかかる経済学の博士号(Ph.D.)を、驚くべきことにたった1年でゲットしてしまう。
この規格外の短期取得は経済学界でも大きな話題となり、「若き天才経済学者登場」「将来のノーベル賞候補」、といった噂が駆け巡った。
そんな若き俊英が、はじめて世に送り出した著作が本書『ラディカル・マーケット』である。今回、記念すべきこの本を監訳することができて、イチ友人として、またイチ経済学者として、とても光栄に思う。

既得権と独占を壊せ!自由な社会の作り方

若き天才経済学者が「ラディカル」に提言

「ラディカル」(Radical)という単語は、「過激な・急進的な」という意味と「根本的な・徹底的な」という意味の、2通りで用いられる。本書『ラディカル・マーケット 脱・私有財産の世紀』は、まさに両方のラディカルさを体現した「過激かつ根本的な市場改革の書」である。

E・グレン・ワイル/マイクロソフト首席研究員で、イェール大学における経済学と法学の客員上級研究員。ボストン在住(写真:プリンストン大学出版局)
市場が他の制度――たとえば中央集権的な計画経済――と比べて特に優れているのは、境遇が異なる多様な人々の好みや思惑が交錯するこの複雑な社会において、うまく競争を促すことができる点である。
市場はその存在自体がただちに善というわけではなく、あくまで良質な競争をもたらすという機能を果たしてこそ評価されるべきだ。
もしもその機能が果たされていないのであれば、市場のルールを作り替える必要がある。今までのルールを前提に市場を礼賛する(=市場原理主義)のではなく、損なわれた市場の機能を回復するために、過激で根本的なルール改革を目指さなければならない(=市場急進主義)。本書の立場は、このように整理できるだろう。

現代世界が直面する問題とその解決策

では、著者たちが提案する過激な改革とは、いったいどのようなものなのか? 本論にあたる第1章から第5章までの各章で、私有財産、投票制度、移民管理、企業統治、データ所有について、現状および現行制度の問題点がそれぞれ整理され、著者たちの独創的な代替案が提示されている。
どの章もそれだけで1冊の専門書になってもおかしくないくらい内容が濃く、驚かれた読者も多いに違いない。第3章から第5章では、世界が現在進行形で抱える深刻な社会・経済問題に対する処方箋が示されており、移民、ガバナンス、データ独占などの現代的な問題に関心のある方は必読だ。
本書の中心となる第1章と第2章は、資本主義および民主主義の大前提を揺るがし、思考の大転換を迫るようなラディカルな提案を読者へと突きつける。
たとえば、第2章「ラディカル・デモクラシー」では、民主主義の大原則である1人1票というルールに改革のメスが入る。具体的には、ボイスクレジットという(仮想的な)予算を各有権者に与えたうえで、それを使って票を買うことを許すという提案だ。
これによって、有権者は自分にとってより重要な問題により多くの票を投票することができるようになる。その際に、1票なら1クレジット、2票なら4クレジット、3票なら9クレジット……という具合に、票数の2乗分のボイスクレジットを支払う仕組みを著者たちは提唱し、「二次の投票」(QV)と名付けている。

既得権と独占を壊せ!自由な社会の作り方

若き天才経済学者が「ラディカル」に提言

ここで登場する「2乗する」というルールは、単なる著者たちの思い付き、というわけではもちろんない。現在までに購入した票数と追加的に1票を買い足すために必要なボイスクレジットが比例的な関係になる、という二次関数の性質がカギを握っているのだ。

エリック・A・ポズナー/シカゴ大学ロースクールのカークランド・アンド・エリス特別功労教授。『The Twilight of Human Rights Law』(未訳)、『法と社会規範』(太田勝造監訳、藤岡大助[ほか]訳、木鐸社)など著書多数。シカゴ在住(写真:プリンストン大学出版局)
そのうえで著者たちは、一定の条件の下で、QVによって公共財の最適供給が実現できることを示している。独創的なアイデアをきちんと先端研究によって補完する、という組み合わせは他の章にも通底する本書の大きな魅力である。
さて、ここからは第1章「財産は独占である」の中身と、その評価について述べたい。本書の中でも最もラディカルなこの章で著者たちが改革の矛先を向けるのは、財産の私的所有に関するルールである。
私有財産は本質的に独占的であるため廃止されるべきだ、と彼らは主張する。言うまでもなく、財産権や所有権は資本主義を根本から支える制度のひとつだ。財産を排他的に使用する権利が所有者に認められているからこそ、売買や交換を通じた幅広い取引が可能になる。
所有者が変わることによって、財産はより低い評価額の持ち主からより高い評価額の買い手へと渡っていくだろう(配分効率性)。さらに、財産を使って得られる利益が所有者のものになるからこそ、財産を有効活用するインセンティブも生まれる(投資効率性)。

私有財産制度がもたらす問題

著者たちは、現状の私有財産制度は、投資効率性においては優れているものの配分効率性を大きく損なう仕組みであると警告している。私的所有を認められた所有者は、その財産を「使用する権利」だけでなく、他者による所有を「排除する権利」まで持つため、独占者のように振る舞ってしまうからだ。
この「独占問題」によって、経済的な価値を高めるような所有権の移転が阻まれてしまう危険性があるという。
一部の地主が土地を手放さない、あるいは売却価格をつり上げようとすることによって、区画整理が必要な新たな事業計画が一向に進まない、といった事態を想定するとわかりやすいだろう。
代案として著者たちが提案するのは、「共同所有自己申告税」(COST)という独創的な課税制度だ。COSTは、1.資産評価額の自己申告、2.自己申告額に基づく資産課税、3.財産の共同所有、という3つの要素からなる。具体的には、次のような仕組みとなっている。
1. 現在保有している財産の価格を自ら決める。
2. その価格に対して一定の税率分を課税する。
3. より高い価格の買い手が現れた場合には、
3─i. 1の金額が現在の所有者に対して支払われ、
3─ⅱ. その買い手へと所有権が自動的に移転する。


既得権と独占を壊せ!自由な社会の作り方

若き天才経済学者が「ラディカル」に提言

仮に税率が10%だった場合に、COSTがどう機能するのかを想像してみよう。あなたが現在所有している土地の価格を1000万円と申告すると、毎年政府に支払う税金はその10%の100万円となる。申告額は自分で決めることができるので、たとえば価格を800万円に引き下げれば、税金は2割も安い80万円で済む。
こう考えて、土地の評価額を過小申告したくなるかもしれない。しかし、もし800万円よりも高い価格を付ける買い手が現れた場合には、土地を手放さなければならない点に注意が必要だ。
しかもその際に受け取ることができるのは、自分自身が設定した金額、つまり800万円にすぎない。あなたの本当の土地評価額が1000万円だったとすると、差し引き200万円も損をしてしまうのである。
このように、COSTにおいて自己申告額を下げると納税額を減らすことができる一方で、望まない売却を強いられるリスクが増える。このトレードオフによって、財産の所有者に正しい評価額を自己申告するようなインセンティブが芽生える、というのがCOSTの肝である。

現代によみがえるジョージ主義やハーバーガー税

実は、COSTのような仕組みの発想自体は、著者たちのオリジナルというわけではない。シカゴ大学の経済学者アーノルド・ハーバーガーが、固定資産税の新たな徴税法として同様の税制を1960年代に提唱しており、彼の名前をとって「ハーバーガー税」とも呼ばれている。
またその源流は、19世紀のアメリカの政治経済学者ヘンリー・ジョージの土地税にまで遡ることができる。ただし、適切に設計されCOSTを通じて、所有者にきちんと正直申告のインセンティブを与えることができることや、配分効率性の改善がそれによって損なわれる投資効率性と比べて十分に大きいことなどを示している点は、著者たち(特にグレン・ワイル氏と、別論文での彼の共同研究者)の大きな貢献だ。
整理すると、大胆な構想と洗練された最先端の学術研究によって、本書はジョージ主義やハーバーガー税を現代によみがえらせ、土地をはじめとするさまざまな財産に共同所有への道筋を切り拓いた、といえる。
財産の私的所有は、確かに著者たちが主張するように「独占問題」を引き起こし、現在の所有者よりも高い金額でこの財産を評価する潜在的な買い手に所有権が移転しにくくなる、という配分の非効率性を引き起こす。
ただし、この非効率性は悪い面ばかりとは限らないのではないだろうか。非効率性の正の側面として、3つの可能性に思い至ったので書き留めておきたい。

既得権と独占を壊せ!自由な社会の作り方

若き天才経済学者が「ラディカル」に提言

1つ目は、予算制約である。ある所有者にとって非常に価値がある財産であっても、租税に必要な現金が足りず、高い金額を申告することができないような状況が当てはまる。
私有財産が認められていれば、手元に現金がなくても大切な財産を守ることができるが、COSTはこの「守る権利」を所有者から奪ってしまう。経済格差の解消が大幅に進まない限り、この種の「不幸な売却」をなくすことは難しいのではないだろうか。
2つ目は、生産財市場の独占化だ。いま、2つの企業が同じビジネスを行っており、事業継続のためにはお互いが所有している財産――たとえば事業免許――が欠かせないとしよう。
ここで、ライバルの免許を獲得すれば自社による一社独占が実現できるため、高い金額で相手の免許を買い占めるインセンティブが生じる。
免許の所有権がCOSTを通じて円滑に移転することによって財産市場の独占問題は解消されるものの、その財産を必要とする生産財市場において独占化が進んでしまう危険性があるのだ。
3つ目は単純で思考コストが挙げられる。COSTにおいて申告額をいくらに設定すれば最適なのかは、税率だけでなく、自分の財産に対する他人の購買意欲に左右される。
需要が大きければ価格を上げ、小さければ下げるのが所有者にとっては望ましい。つまり、市場の動向をつぶさに観察して、戦略的・合理的な計算をする必要があるのだ。こうした調査や分析は、市井の人々に大きな負担を強いるかもしれない。

「スタグネクオリティ」を解決する卓越したアイデア

最後に、COSTや本書全体に対する監訳者の評価を述べておきたい。現在の資本主義が抱える問題として特に深刻なのは、経済成長の鈍化と格差の拡大が同時並行で起きていることだろう。著者たちが「スタグネクオリティ」と呼ぶ問題である。
こうした中で、一部の富裕層に過剰なまでに富が集中する経済格差の問題を見過ごせない、と考える経済学者も増えてきた。
ただし、著者たちのように、私有財産という資本主義のルールそのものに疑いの目を向ける主流派経済学者はまだほとんどいない。ポピュリズムや反知性主義が世界中で台頭する中で、専門家として経済の仕組みを根本から考え抜き、しかも過激な具体案を提示した著者たちの知性と勇気を何よりも称えたい。
COSTを幅広い財産に適用していくのは、少なくとも短期的には難しいかもしれない。しかし、補完的なルールをうまく組み合わせて、前述したような問題点にうまく対処していけば、実現可能な領域は十分に見つかると期待している。
ポズナー氏とワイル氏の卓越したアイデアをさらに現実的なものとするためにも、本書が多くの読者に恵まれることを願っている。
さぁ、ラディカルにいこう!

ヴィックリー・オークションまたは2位価格封印入札(2いかかくふういんにゅうさつ)は、封印入札で入札価格1位の入札者が入札価格2位の価格を支払って落札するという方式の競売である[1][2][3]ウィリアム・ヴィックリーが考案した[2]。入札価格一位が入札価格一位の価格を支払う方式と比べて、参加者各自が思う真の価値で入札する動機づけが強いとされる[4]

第二価格封印入札[5]ビックリー・オークション[6]ヴィッカリー・オークション[2]とも。

歴史編集

1870年代のイングランド切手ワインなどのオークションで、郵便を通じて入札を行う2位価格方式がとられた[3]。これはヴィックリー・オークションの前身にあたると考えられる[3]

ウィリアム・ヴィックリーは1961年の論文で2位価格封印入札オークションの均衡解の初の理論的解析を行い[7]、そのイングリッシュ・オークション英語版との等価性を証明した[3]。以後、この方式が経済学でヴィックリー・オークション(英語 Vickrey-auction)と呼ばれるようになった[7]

原理編集

競売の対象である商品に対して、入札者はそれぞれの考えで異なる価値を感じる。その商品に v という金額の価値があると思っているある入札者(購入希望者)に注目すると、その入札者にとって最適な入札価格は次のように決まる[1]

他者の入札価格のうちの最高額が M だったとする。以下のように場合分けして考える。

  • v > M の場合、この入札者は正直に自分の思う価値を入札価格として表明すれば、それが1位価格となり、2位価格 M で落札することができる。その場合、価値 v があるものを価格 M で入手することができるので、差引 v - M の得をする。M より高い範囲で v 以外の入札額にしても結果は同じであり、得や損はない。
  • v ≦ M の場合、落札しないように、M を下回る入札価格を表明することが最適な戦略である。そのために v を入札価格とすることができる。もし M を越える価格で入札すれば、落札することはできるが支払う金額が v より高いため、損をしてしまう。M より低い範囲で v 以外の入札額にしても結果は同じであり、得や損はない。

このように、ヴィックリー・オークションでは v > M と v ≦ M のいずれの場合も(つまり、いつでも)正直な入札が最適となり、不正直な入札を行うインセンティブがない[1]

出典編集

  1. a b c 小塩隆士『サピエンティア 公共経済学』52-53ページ
  2. a b c 山本哲三 編著 「コンセッションの勧め ─理論と事例から学ぶコンセッションの成功条件─、解題 コンセッションの勧め」
  3. a b c d David Lucking-Reiley Vickrey Auctions in Practice: From Nineteenth Century Philately to Twenty-first Century E-commerce
  4. ^ Vickrey Auction -- Math Fun Facts
  5. ^ オークション理論の基礎(6) 第二価格封印入札に脚光 横尾真 九州大学教授 やさしい経済学 コラム(経済・政治) 2018/3/2 2:30日本経済新聞 電子版
  6. ^ カルテルの実態調査と経済理論分析 公正取引委員会 競争政策研究センター 2008 年 3 月
  7. a b Axel Ockenfels and Axel Ockenfels The Timing of Bids in Internet Auctions: Market Design, Bidder Behavior, and Artificial Agents AI Magazine, Fall 2002, 79-88 

関連項目編集


3 件のコメント:

  1. 34歳天才経済学者が私有財産を否定する理由 | 政策 | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準
    https://toyokeizai.net/articles/-/328937?page=3

    34歳天才経済学者が私有財産を否定する理由

    データ搾取から移民までラディカルに考える

    筆者たちは本書を「ウィリアム・S・ヴィックリーの思い出に捧げる」としている。ヴィックリーとは何者だろうか。

    彼は1961年に「投機への対抗措置、オークション、競争的封入入札」という論文を発表した経済学者で、この論文は社会問題の解決に資するオークションの力を示した最初の研究とされる。

    ヴィックリーの研究によって「メカニズムデザイン」と呼ばれる経済学の領域が生まれ、彼は1996年にノーベル経済学賞を受賞した。筆者らによると、「ラディカル・マーケット」とは、市場を通した資源の配分(競争による規律が働き、すべての人に開かれた自由交換)という基本原理が十分に働くようになる制度的な取り決めであり、オークションはまさしくラディカル・マーケットだと言う。

    ラディカル・マーケットというメカニズムを創造するために、新しい税制によって私有財産を誰でも使用可能な財産とすることや、公共財の効率的市場形成についても本書では詳述される。

    なかでも移民労働力についての章では、「ビザをオークションにかける」や「個人が移住労働者の身元を引き受けるという個人間ビザ制度」というアイディアも出てくる。こうした移住システムに関するアイディアは、今後の日本にとっても、従来なかった新しい風景の見える思考実験として興味深いのではないだろうか。

    効率的な資源配分のために私有財産制をやめる

    本書で筆者らが一貫して主張するのは、私的所有は効率的な資源配分を妨げる可能性がある、ということである。工場設備であれ、家庭内のプリンターであれ、個々に私的所有されているがゆえに不稼働となっているような、非効率なモノは多数存在する。

    昨今、先進諸国の若者、いわゆるミレニアル世代のトレンドは「モノより経験」となっていることも後押しになって、車や家のシェアリングエコノミーがデジタルテクノロジーの進展とともに進んでいる。

    こうした最先端のサービスでなくとも、古くは美術館の高価な絵画は公共財になっているために、市民が時間ベースで使用(鑑賞)することが可能となっていた。筆者たちの主張は過激かもしれないが、ビジネスにおいてもサブスクリプションはトレンドであり、ヴィックリーが生み出したオークションの概念は通信インフラの電波オークションからインターネットのアドテクノロジーまで世に浸透しているのだ。

    グローバルな格差の拡大、成長の鈍化の中で資本主義に代わる選択肢が不在のなか、本書のクリエイティブで骨太なアイディアは読み手の思考方法をラディカルにすることだろう。

    塩野 誠さんの最新公開記事をメールで受け取る(著者フォロー)

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  2. https://toyokeizai.net/articles/-/328937?page=2

    34歳天才経済学者が私有財産を否定する理由

    データ搾取から移民までラディカルに考える

    ・都市全体を売りに出す(土地が有効に活用されるようにする)

    ・世の中の全ての財産を共有化して、使用権をオークションにかける(私有財産制をやめてみる)

    ・自分の財産評価を自己申告制にして税金を支払う。より高い財産評価をする人が現れたら所有権が移転する(独占の弊害を取り除く)

    ・投票権を貯められるようにする。そして、自分にとって重要な課題のときに、貯めた投票権を集中的に投票する(一人一票よりも投票者の選好の強さを反映できるようにする)

    どれも、「それは思いつかなかった!」という声が聞こえて

    きそうなクリエイティブな政策の数々である。

    都市全体を見渡せば、もっとも景観のよい丘の上にスラム街ができていることがある。これでは観光客も呼びにくい。ある人がいったん土地を私有してしまうと、別の人がその土地のより有効な活用を思いついても、それを実現できなくなる。環境問題にとても関心があって、その課題に強くコミットしたい人も、選挙ではそうでない人と同じ一票しか投票できない。

    このような事態は非効率ではないだろうか。これは、市場の失敗なのだろうか。より強い公的な介入がなければ、解決できないのだろうか。そうではなく、よりラディカルに市場の力を使うことで状況を改善できるというのがこの本の面白さだ。

    では実際どうやって、という疑問が当然わくだろうが、これらの提案には経済学の詳細なロジックが伴っている。そして、読み手が「それはうまくいかないのでは」と思った次の瞬間には、その反論が用意してあるという形で議論が進む。

    私有財産制の問題、独占の問題、投票制度の問題などについて、思考が行き詰まってしまった方々には、クリエイティブなアイディアを得るためにぜひ、一読していただきたいと思う。

    「データ労働者組合」を作ろう

    近年、GAFAなどのデジタルプラットフォームがその巨大化とともに、ビジネスだけでなく、社会に大きな影響を与えている。そうしたデジタルプラットフォーマーとビジネスや社会でどう付き合っていくべきか、誰にとっても関心のあるところだろう。

    本書によれば、フェイスブックが毎年生み出している価値のうち、プログラマーに支払われる報酬は約1%にすぎないそうだ。そして価値の大半は、「データ労働者」であるユーザから無料で得ているのだという(一方でウォルマートは生み出した価値の40%を従業員の賃金に充てている)。

    この問題をどう考えればいいだろうか。個人情報の保護を強化しよう、あるいはプラットフォーマーという優越的な地位の乱用を規制しよう、というのが従来的なやり方だろう。

    一方本書の著者らは、デジタルプラットフォーマーに供給されるデータはわれわれの「労働」であると説く。となると、われわれは、データ提供という「労働」から対価を得るために、「データ労働者組合」を作ってはどうかという。非常に興味深い概念である。

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  3. 34歳天才経済学者が私有財産を否定する理由 | 政策 | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準
    塩野 誠 : 経営共創基盤共同経営者/内閣府デジタル市場競争会議WG委員
    2020/02/10 5:40https://toyokeizai.net/articles/-/328937

    34歳天才経済学者が私有財産を否定する理由

    データ搾取から移民までラディカルに考える


    『ラディカル・マーケット 脱・私有財産の世紀』では、デジタルプラットフォーマーに供給されるデータはわれわれの「労働」なので、データ提供という「労働」から対価を得るための「データ労働者組合」が必要だといいます(写真:metamorworks/PIXTA)

    昨年12月に発売された、『ラディカル・マーケット 脱・私有財産の世紀』。本書はシカゴ大学ロースクールの教授エリック・ポズナー氏と、マイクロソフト首席研究員でもあり法学・経済学の研究者であるグレン・ワイル氏の二人が世に問うた、クリエイティブな思考実験の塊のような本だ。とくにワイル氏は、プリンストン大学を首席で卒業したのち、平均で5、6年はかかる経済学の博士号をたった1年で取得して経済学界に衝撃を与えた、34歳の若き俊英としてその名を知られた人物である。今回、経営共創基盤の塩野誠氏に、本書について解説してもらった。
    デジタル市場の未来を考える必読書

    世の大学に「経済学部」は多く、そこで学んだ方も多いことだろう。しかし、日々の社会生活の中で、自分は大学で学んだ経済学を使いながらビジネスをしている、と断言できる方はそう多くはないのではないだろうか。


    『ラディカル・マーケット 脱・私有財産の世紀』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)
    この本は、GAFAのデータ独占の問題や、移民問題、機関投資家による市場支配など、昨今話題の幅広い問題を取り上げている。一見、既存の経済学の分析範囲を超えているようにも思えるが、実はこれらの問題は経済学で考えていくことができるし、よりよい答えを導き出せると主張している。経済学を現実の問題に適用してみたいと考える人にはうってつけの本だ。

    私はいま、デジタルプラットフォームの透明性と公正性に関して検討する政府関連の会議に出ている。GAFAに代表されるデジタルプラットフォームのデータ独占や公平性・透明性がテーマだが、こうした新しい事象をそもそもどう捉えて、どんなフレームワークで考えるべきなのか、そこから考える必要もあり、考え方の指針となるようなものに関心がある

    そうした立場から、この本を大変興味深く読むことができた。経済学の考え方を使って社会制度を設計しようと考えている官僚の方々はもちろん、進歩しつづけるITやフィンテックを使って社会課題の解決に取り組もうとしている方々に本書を推薦したいと思う。

    では、本書は実際にどのような提案をしているのだろうか。本書が提案する「ラディカル(過激)な改革」の例として私が面白いと思った例は次のものだ。

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