2023年4月13日木曜日

巨匠たちが油絵具に「卵黄」を混ぜた理由をついに解明! - ナゾロジー

巨匠たちが油絵具に「卵黄」を混ぜた理由をついに解明! - ナゾロジー

卵黄を加えることはメリットだらけだった

研究チームは今回、オールド・マスターたちが使用した種類の油絵具に卵黄を加えて、その性質がどのように変化するかをテストしました。

実験では、顔料と油を混ぜた普通の油絵具と、油絵具に卵黄を混ぜたものの2種類を作製。

これらの絵の具を使って実際と同じようにペイントを行い、水分量や粘度、乾燥するまでの時間、酸化度などを測定しました。

ただ詳しく分析する前に、卵黄を混ぜた絵の具には明らかな違いがすぐに表れたそうです。

通常の油絵具は粘度の低いサラサラした状態を保つのに対し、卵黄を加えた方は粘度が高まり、マヨネーズに似た質感に変わりました。

こちらが両者の粘性を比べた40秒ほどの動画です。

そして卵黄を混ぜることで油絵具には数多くのメリットがあることが判明しました。

まず、卵黄で粘性が高まったことからも分かるように、顔料の粒子同士の結合が強くなり、より硬い絵具になっています。

これは油絵に特有の、力強い厚塗りで立体感を出す技法の「インパスト画」に最適です。

また通常の油絵具では、塗った後に表面から順番に乾いていくことでシワが生じやすいのですが、卵黄を混ぜるとそれが防がれ、乾燥後のシワが出来にくくなっていました。

そのおかげで画家のイメージ通りの絵を保つことが可能となるのです。

たとえば、レオナルド・ダ・ヴィンチの油彩『カーネーションの聖母』には卵黄が使われておらず、聖母マリアの顔に無数のシワが残ってしまっています。

左:『カーネーションの聖母』(1473〜1478年頃)、右:聖母マリアの顔のアップ
左:『カーネーションの聖母』(1473〜1478年頃)、右:聖母マリアの顔のアップ / Credit: ja.wikipedia, Ophélie Ranquet et al., Nature Communications(2023)

専門家によると、この油彩はレオナルドが20歳を過ぎた頃の初期作品で、当時まだ普及し始めたばかりの油絵具を使いこなすのに苦労していた時期の一作だという。

そのため、レオナルドも「油絵具に卵黄を混ぜるとシワが出来にくくなる」ことを知らなかったのでしょう。

唯一の欠点は「乾燥までに時間がかかる」

さらに、卵黄のタンパク質が顔料粒子の周りに薄い層を形成することで、湿度の高い環境での水分の吸収を予防できることが分かりました。

これにより、高湿度にさらされても絵具を保護しやすくなります。

それだけでなく、卵黄に含まれる抗酸化物質が、酸素と油成分の反応速度を低下させることで、絵の「黄変」を防止する効果もありました。

こちらはイタリア・ルネサンス期の巨匠サンドロ・ボッティチェッリによる『キリストの哀悼』で、人物画には卵黄を混ぜた油絵具が使われています。

ただ前景の草むらと背景の石には通常の油絵具が使われており、巨匠たちもケースバイケースで卵黄入り絵具を使い分けていたようです。

『キリストの哀悼』(1490〜1492年頃)
『キリストの哀悼』(1490〜1492年頃) / Credit: Ophélie Ranquet et al., Nature Communications(2023)

一方で、卵黄を混ぜると絵具が乾燥するのに時間がかかるという欠点も見つかりました。

そのため、絵具を塗り直したり、塗り重ねるには時間がかかったと考えられます。

それでも研究主任のオフェリエ・ランケ(Ophélie Ranquet)氏は「非常に少量の卵黄でも油絵具の特性を驚くほどに変化させ、芸術家にとって有益な効果が数多く得られたでしょう」と話しています。

本研究には参加していない米シカゴ美術館(The Art Institute of Chicago)のケン・サザーランド(Ken Sutherland)氏は「歴史的な巨匠たちがどのような材料を使ったかを理解することで、創作過程や最終の完成品をより正しく評価できるでしょう」と指摘。

その上で「美術品そのものの理解を深めるだけでなく、オールド・マスターの芸術作品の保護に役立つ可能性がある」と述べました。

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