坂本龍一さんが語った 音楽、がん、人生 (1月放送のインタビューから)
先月28日、71歳で亡くなった、音楽家の坂本龍一さん。
NHKではことし1月5日、特別番組を放送しました。がんとの闘病のため、しばらく表舞台から遠ざかっていた坂本さんがピアノソロの収録を行ったのは、自身がその響きをこよなく愛するNHKの「509スタジオ」。収録の舞台裏やインタビューとともに、こん身の演奏をお伝えしました。
この記事では、その番組で坂本さんが語った内容を、ほぼ放送に忠実にまとめました。
◆1月5日に放送した特別番組「坂本龍一 Playing the Piano in NHK」を、4日(火)よる11時45分から再放送します。ぜひご覧ください。
NHKプラスでは4月12日(水)午前0時30分まで見逃し配信します。
番組冒頭あいさつ
どうも、坂本龍一です。
2020年6月に、がんであることが分かりましてですね、それ以来あまり表立った活動はしていなくて、現在も治療を続けています。なので、かなり体力も落ちてしまって、1時間とか1時間半の、通常のコンサートというのは、もう難しいんですよね。
なので、今回はですね、1曲ずつここで撮影して、それを編集して、ひとつながりのコンサートになるようにして、それを発表しようということになりました。
今回は特別に、NHKの「509」というスタジオをお借りしています。僕はね、それこそもう40年前かな、NHKの番組を担当していたこともあって、毎週のように来ていたんですけども、こんな大きなスタジオは特別な時にしか使えませんでした。
(509スタジオは)NHKの中では大きいスタジオで、とっても音がいいんですね。何度も録音したことあるんですけど。
それでは、エンジョイ!
ピアノソロでの録音
今回、ピアノ一本で録音しているんです。今までライブではちょっとやったこともあるけども、正式にピアノソロとして録音したことのない曲を、ずいぶんたくさん取り入れて、また昔の曲も引っ張り出して、新たにピアノソロとしてアレンジして編曲しました。
例えば「東風(Tong Poo)」なんていうのは、YMOの最初のアルバムに書いた曲ですけども、やっぱりバンドでやるというか、打ち込みでやる音楽という先入観が僕も強くて。もともとシンセサイザーやバンドありきで作ったものを、ピアノソロでまとめるっていうと、まぁ1人しかいない、手(指)も10本しかないので、結構難しい時もあるわけですね。そのアレンジにちょっと時間をかけて今回弾いたわけですけど、楽しかったですね、その作業は。
「これはピアノソロでは無理だよな~」なんて思っていた曲を、わざと無理して編曲してみて、「意外といいかも・・・」
みたいな、そういう感じもあって楽しい作業でした。
日記のようなスケッチ
特に2021年は、何度も何度も手術で入院して、また出てきて、また・・・と何回もやっていたね。
もちろん入院している間は、病室では曲は作れないんですけど、雨の音を聞いたり、景色を眺めたりしながら。
で、退院して帰ってきて、その度に体力がガクッと落ちて、少し回復してきて、「ちょっと作ってみたいな」というような気持ちにまで回復したら、たくさんスケッチをね、書いていました。(音楽を)作っていました。ピアノだったり、シンセサイザーだったり。あと、やらなきゃいけない仕事も抱えていたんです、その間も。だから、退院してすぐそっちの仕事もやりつつ、やっぱり自分のための日記のようなスケッチをしたのが、とても自分としては薬になっているというか、よかったなと思いますね。
それで、ちょこちょこ日記のように書いていたスケッチがだいぶたまってきたので、そこから好きなもの12曲を選んで、もうあまり化粧も何も施さないで、その日作ったスケッチのほぼ「そのまんま」をね、12曲集めて「12」というタイトルで(アルバムを)出す予定です。これ、まぁ選んだらたまたま12個になったんですけど。
で、思わせぶりな(曲の)タイトルなんていうのをやめちゃって。作った日ですね、「20210312」とか、記録のためもあって、そういう日付を入れていたわけですけど、それをそのまま(曲の)タイトルにしました。
それはだから、本当に病気との闘いの合間に、自分の心の平安を求めて書いていたスケッチなので。
まぁそれまで大きな病気をしたこともないから、初めての試みといえば初めての試みですね。どのようにみんなに聞こえるのか、楽しみでもあります。
自分の音楽を表すピアノ
まあ、年とともにどんどん下手になってくるんで、それが味といえば味なのかもしれないけど。まあ現時点での最良の演奏になるように一生懸命努力したつもりですけども、やっぱり至らないところがたくさんありますね、いつになっても。
もともと僕はピアニストになろうと思ったことは一度もないんですよね、人生で、子どもの時から。ピアニストだとも思っていないし。
ただ自分の曲を自分で表すには、まあピアノぐらいしか弾けないので。もちろん鍵盤があればシンセとか、そういうのも弾けますけど、ピアノが一番身近に、ダイレクトに表現ができる楽器なので、それを弾いているというだけなので。う~ん・・・、まあピアノニストとしては、本当にひどいですよ。ひどいレベル。ただ、自分の音楽を表しているので・・・、というエクスキューズがあるかな。
がんとパンデミックで人生観が変わった
あの、人生観っていうのかな、古くさい言葉だけど。確かに大きく変わりましたね。パンデミックもあるし、自分の病気のこともあるし。世界的なパンデミックと、とても個人的な病気、それがほぼ重なって起きたので、まあ随分と、揺さぶられっていうのかな、自我が。そういう感じはあって。
きらびやかな世界じゃなくて、枯れた世界にいよいよもっとひかれるようになってきた。私生活でいうと、雨が降り出すと必ず窓を開けて、雨の音をじっくり静かに聞いていたり、竹林に行って、その中を風が通っていく、竹が揺れる音なんかをじっと聞いたりすることがとても好きで。それだけでも音楽としても十分だなと感じるんですが、そこに自分が何を足せるか、あるいはどうやってその自然の音と共演できるか、コラボレーションできるかみたいなことを、よく考えますね。
生きているうちは音楽を作り続けて
まああの、生きているうちは音楽をね、作り続けて。その日記のようなスケッチも折々に作っていくと思うし。
大きな作品を作る予定があって、オーケストラの曲なんですが、まだなかなか難しくて、構想段階で。
ただ、なんていうのかな、例えば今回録音したピアノの曲の中で、僕は本当にゆっくり弾きながら、その音と音の間の、「わ~ん」と響いている響きが、ものすごく好きだし味わいたいということで、わざとゆっくり弾いている面があるんです。そういう響きの音楽を、オーケストラでもやってみたいとは思っているんだけど、僕の技量ではそういうものが書けるかどうか、ちょっと自信がないですね。
まぁ努力してみますけど。
このインタビューは2022年9月に収録されました。
関連番組:クローズアップ現代(4月11日までNHKプラスで配信)
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