2023年4月25日火曜日

荒姫様: Cafe OPAL 店主の日記

荒姫様: Cafe OPAL 店主の日記

荒姫様

 Diary 2004・3月30日(TUE.)

 DVD で『荒姫様』(1945 年・黒澤明監督)を観る。これは戦時下に国威発揚の意味も込めて発案・撮影されたもので、ジャンヌ・ダルクの話の翻案ものである。戦争が激しさを増したため結局完成するには至らず、断片的なフィルムだけが残された幻の作品として黒澤ファンの間では有名だつたのだが、昨年発売された黒澤明 DVD ボックスの特別付録として、抽選で何人かにこの残されたフィルムを収めた DVD が配布されたのだ。それを何と、ババさんがゲット! 私はババさんから借りて観た、といふ訳だ。

 時間的には 30 分にも満たないもので、ストーリーもなにもあつたものではないが、ジャンヌ・ダルク=荒姫様を演じる原節子の神々しさは抜群で、もしこの映画が完成されて公開されてゐたならば、日本は戦争に負けなかつたんぢやないか、などと妄想してしまう。後に東宝の 1000 本制作記念映画『日本誕生』で天照大御神を演じる原節子だが、その時は映画自体もどうしようもないものであつたし、いささか上滑りの感があつたが、この『荒姫様』では違ふ。『東京物語』のラストシーンに匹敵するほどの、異様な磁力をあたりに発散してゐる。やはり本当に祖国が危機に瀕してゐた時だし、原節子も神懸かつてゐたのかもしれない。結果としてこの作品は日の目を見ることはなかつたのだが、それ故に原節子は戦後、民主主義の女神としてスクリーンに君臨することが出来たのではないだらうか。結局、彼女は救国の女神であつたのだ。などと、単純に締めくくれる問題ではないのだらうが。

 ところでオパール的には、かなり笑へるところがこの映画にはあつて、それは荒姫様=原節子に終始つきしたがふ従者が二人ゐるのだけれど(それは『隠し砦の三悪人』の道化役である二人の百姓の原型かと思はれる)、その二人の名前が「ハシモト」と「タカハシ」なのだ! まァ、道化といふのは境界線上を行つたり来たりするトリックスターなので、民俗学的にも「橋」と縁が深く、それで「橋」にちなんだ名前をたまたまつけただけなのかもしれない。それにしても、ハシモトとタカハシのデコボココンビが、字も満足に読めず愛国心のなんたるかも分からず、絶へずあたりを引つかき回してゐる様は、妙に納得できるものがあるのであつた。ハッシーとタカハシくんも、オパールのワイズフール(かしこいばか)なのかもしれない。

 ようやく櫻が咲き始めました!

小川顕太郎 Original: 2004-Apr-1;

4月30日「革手袋で飯」

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