能・演目事典:三輪:あらすじ・みどころ
大和国三輪の里(今の奈良県桜井市付近)に玄賓(げんぴん)という僧がすんでいました。玄賓の庵に、樒(しきみ)を持ち、閼伽の水を汲んで毎日訪ねる女の人がいました。玄賓が不審に思い、名前を尋ねようと待っているところへ、今日もその女性がやってきました。折しも秋の寂しい日のことでした。女の人は玄賓に対して、夜も寒くなってきたので、衣を一枚くださいと頼みます。玄賓はたやすいことですと、衣を与えました。女の人が喜び、帰ろうとするので、玄賓はどこに住んでいるのかと尋ねました。女性は、三輪の麓に住んでいる、杉立てる門を目印においでください、と言い残し姿を消しました。
その日、三輪明神にお参りした里の男が、ご神木の杉に玄賓の衣が掛かっているのを見つけ、玄賓に知らせます。男の知らせを受けた玄賓が杉の立つところに来ると、自分の衣が掛かっており、歌が縫い付けてあるのを見つけます。そのとき、杉の木陰から美しい声がして、女体の三輪の神が現れました。三輪の神は玄賓に神も衆生を救うために迷い、人と同じような苦しみを持つので、罪を救ってほしいと頼みます。そして、三輪の里に残る、神と人との夫婦の昔語を語り、天の岩戸の神話を語りつつ神楽を舞い、やがて夜明けを迎えると、僧は今まで見た夢から覚め、神は消えていきました。
この能の舞台となったのは、奈良県の三輪の里です。古代神話の故郷であり、また現在の能楽の諸流儀の母体となった大和猿楽の諸座も、この里の近隣を発祥の源としています。三輪山全体をご神体に戴く三輪の里は、独特の神秘性をたたえた、非常に魅力的な土地です。能の三輪もまた、この地にふさわしく、神秘性と詩情に満ちた物語となっており、どこか懐かしく、幻想的な雰囲気がゆったりと漂っています。
観客は、玄賓僧都とともに、三輪山の麓の杉木立のなか、現実の世界から、魔法にかけられるかのように、だんだんと、不思議なあちら側の世界へ足を踏み入れていきます。気づけば、気高く美しい女体の姿を取った三輪明神に相対し、三輪の神の遠い昔の神話を聞き、夢のような神楽に浸っています。さらには、天の岩戸の神話を目撃することになります。
地謡は「覚むるや名残なるらん」と結びますが、本当に、夢から覚めるのが名残惜しくなる、そんな能です。
▼ 演目STORY PAPER:三輪
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