2023年2月15日水曜日

ロシア軍が「少しずつ優勢に」 ウクライナ東部バフムート周辺で徐々に支配地域を拡大 - BBCニュース

ロシア軍が「少しずつ優勢に」 ウクライナ東部バフムート周辺で徐々に支配地域を拡大 - BBCニュース

ロシア軍が「少しずつ優勢に」 ウクライナ東部バフムート周辺で徐々に支配地域を拡大

Ukrainian troops in Bakhmut

BBC/Goktay Koraltan

ロシア軍の激しい攻撃の中、ウクライナ部隊は辛抱強く東部バフムートを守り続けている

「壁のそばから離れないで。素早く動いて。一列で。一度に数人ずつ」

戦闘で荒廃したウクライナ東部バフムートの軍事拠点へ私たちを案内するウクライナ軍の護衛兵から、細切れの指示が飛んだ。ここはかつて、スパークリングワインで有名な街だった。

ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領はこの東部の街を「我々の要塞(ようさい)」と呼んでいる。ロシア軍はこの6カ月、バフムートを占領しようとしてきた。そしていま、侵攻開始から丸1年となる今月24日を前に、ロシア軍はバフムートは破壊すべく猛攻を強めていると、ウクライナ側はみている。

私たちはウクライナ兵の指示に従い、がれきが散乱する凍った通りを急ぎ足で進んだ。頭上には澄んだ青空。ロシア軍の無人ドローンにとって、理想的な天候だ。

私たちが道路を横断した直後、背後にロシア軍の砲弾が2発落ちてきた。振り返ると黒煙が上がっていた。私たちは進み続けた。

無差別なのか、それとも私たちを狙ったものかは分からない。バフムートでは動くものすべてが標的だ。兵士だろうが、民間人だろうが。

何時間たっても砲撃の音は止まない。上空ではロシアの戦闘機が轟音(ごうおん)を立てている。私たちから最も近い場所にいるロシア軍との距離はわずか2キロだ。

市内の一部では市街戦も起きている。気温が氷点下にまで落ち込み、弾薬が少なくなっている中、ウクライナ軍はこの街をまだ維持している。

「あらゆる種類の弾薬、特に砲弾が不足している」と、ウクライナ陸軍第93機械化旅団のミハイロ大尉は言う。大尉のコールサインは、「多言語を話す者」などを意味する「Polyglot」だ。

「西側同盟国の暗号化された通信機器や、部隊移動用の装甲兵員輸送車も必要だ。それでもこちらは何とかやっている。限られた資源でいかに戦うか。これがこの戦争で得た大きな教訓のひとつだ」

弾薬をめぐる問題は、ウクライナ軍が60ミリ迫撃砲でロシア軍の陣地を狙う場面で明らかになった。1発目は大きな音を立てて飛び出したが、2発目は発射されなかった。

煙がシューシューと音を立てながら立ち上った。兵士が「不発だ」と叫び、迫撃砲部隊は避難場所に逃げ込んだ。この弾薬は外国から送られてきた古いものなのだと、兵士は私たちに説明した。

バフムートの戦いは、大きい戦争の一部であると同時に、それ自体がひとつの戦争だ。ロシアの侵攻開始以来、特に激しい戦闘の多くがここで起きている。ロシア軍は1メートル、また1メートルと前進している。1人、また1人と犠牲者を出しながら。ロシアの悪名高い民間雇い兵組織「ワグネル・グループ」の戦闘員が次々とこの戦地へ送り込まれている。ロシア人の遺体が散乱しているとの報告もある。

ロシア側は現在、バフムートに通じる主要道路を実質的に支配しており、残されている裏ルートは細い補給線のみだ。

「(ロシアは)昨年7月からこの街を奪おうとしている」と、第93機械化旅団の広報担当イリナ氏は言う。

「いま、少しずつ向こうが勝ちつつある。向こうの方が資材が豊富なので、長期戦になれば向こうが勝つだろう。いつまでかかるかは言えないが」

「それまでに、向こうが資源を使い果たすかもしれない。頼むからそうなってもらいたい」

私たちは、敵に見つからないよう慎重に隠された発射拠点から、バンカーへと移動した。ここでは発電機がうなり、ストーブが温かい。兵士たちは居場所が察知されないよう、煙が外へもれないように気を配っている。戦争という日常の一部だ。ここで出会った兵士たちの間には、この先も戦い続けるという、静かな決意が漂っていた。

「(ロシアは)我々を街から撤退させるために包囲しようとしているが、うまくいっていない」と、迷彩服姿のイホル指揮官は話す。

「街は我々の支配下にある。砲撃を受け続けても、輸送手段は機能している。当然こちら側も損失を被っているが、何とか持ちこたえている。勝利に向かって進み続けるという、その選択肢しかこちらにはない」

しかし、選択肢はほかにもある。手遅れになる前にバフムートから撤退することだ。しかし、現場で街を防衛する兵は、この案を歓迎しない。

「本部からそうした命令があれば、仕方ない、命令は命令だ」と、ミハイロ大尉は言う。

「だが街から撤退する必要があるなら、何のためにこの数カ月持ちこたえたんだ? いや、撤退はしたくない」

ミハイロ大尉は、バフムートのために命を落とした人々についても語った。「ただウクライナを愛していた、勇敢で善良な男たちが大勢いた」と。

何より、バフムートを防衛してきた部隊が撤退した場合、ロシアにクラマトルスクやスロヴィヤンスクといったウクライナ東部の大都市への進攻の道を与えてしまう。

ロシアは、東部ドンバス地方や南部の前線地帯で攻撃の手を強めている。ウクライナ当局は、すでにロシアの新攻勢が始まっていると指摘する。

ロシア政府は侵攻開始1周年となる2月24日に向けて、歩を進めている。「ロシアは日付や、いわゆる『戦勝記念日』というものに強くこだわっているので」と、ミハイロ大尉は言った。

しかしバフムートをめぐる消耗戦はロシアを疲弊させるかもしれないと、ウクライナのヴィクトル司令官は話す。長身で細身のヴィクトル司令官はバンカーで、ロシア製の弾倉を手に取った。

「ロシアは今、防戦しないで、ひたすら攻撃していくる。数メートルずつ進んではいるが、こちらは極力、領土を奪われないようにしている。敵をここに引き留めて、ここで疲弊させる」

行くところに行けば、バフムートにもまだ人々の暮らしが残っている。

寄付された食料を通り過ぎ、「不屈センター」と呼ばれる避難所の扉をくぐると、強い熱と光に包まれる。かつてボクシングクラブだった場所を生活支援センターに作り替えたもので、地元住民が携帯電話を充電したり、温かな食べ物や、他人との交流でひと息をつくために使われている。

バフムートの一角で高齢女性がお茶を飲んでいる。背後では別の女性が携帯電話を充電している

BBC/Goktay Koraltan

私たちが訪れた時、「不屈センター」は混雑していた。ストーブの周りには高齢の女性たちが集まり、若い男の子が2人、リングに座ってテレビ画面にくぎ付けになり、戦闘ゲームをしていた。

水も電気もないバフムートに、約5000人が残っている。多くが高齢で、貧しい境遇だ。ウクライナ人の同僚が暗い表情で、「一部は親ロシア派で、ロシア人が来るのを待っている」とつぶやいた。

かつてはワインが名物……9割が避難したウクライナ東部バフムートに残る住民(2023年1月動画)

心理学者のテティアナさん(23)は、弟妹の面倒を見ながら、ここでは誰もが自分自身の闘いをしていると話した。テティアナさん自身は、86歳の祖母が移動できず、自分を頼りにしているため、バフムートに残っているという。

「多くの人が神に祈ることでどうにかやっている」とテティアナさんは話す。

「信仰は助けになる。人間であることを忘れた人も、攻撃的な人もいる。動物よりもひどいふるまいをし始める

外界では、この壊れた街をめぐる闘いが激化しており、爆撃の音がドラムのように鳴り響く中、私たちはバフムートをあとにした。

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