あのナイチンゲールが、じつは「インフォグラフィックの達人」だったことをご存知ですか?
「データをビジネスに役立てましょう」
「数字を読めるようになりましょう」
「妙なグラフにダマされないようにしましょう」
データや数字を適切に読み解き、さまざまな局面で役立てることは、現代人にとって「必修」とも呼ぶべきスキルになりつつあります。
しかし実際のところ、どのようにデータを活用すればいいか、明確にわかっているという人は少ないのではないでしょうか。
以下では、Googleのニュース部門であるGoogle News Labで活躍し、「データの可視化」のエキスパートと言われる荻原和樹氏が、適切なデータの扱い方、データにもとづいた思考法について解説します。
(本記事は、荻原和樹『データ思考入門』を抜粋、編集したものです)
ナイチンゲールが作った画期的なグラフ
現代においてデータ可視化が必要となるのは、何といっても人にデータを伝える場面、特にデータを使って人を説得する場面でしょう。データを集めて適切に可視化をすることで、自分の主張に強い説得力をもたらすことができます。
歴史的に、そのようなデータ可視化の「名作」を作った人物として、まず最初に名前が挙がるのがフローレンス・ナイチンゲールです。「クリミアの天使」「ランプの貴婦人」とも呼ばれ、一般的には看護師・看護教育におけるパイオニアとして知られたナイチンゲールですが、同時に統計学者としてもめざましい功績を残しました。むしろ本人は自身につけられたニックネームをあまり好んでいなかったようです。
あのナイチンゲールが、じつは「インフォグラフィックの達人」だったことをご存知ですか?
1820年、ナイチンゲールはイギリスの裕福な家庭に生まれました。「フローレンス」という名前は、ナイチンゲールが生まれたときに両親が新婚旅行で訪れていた都市フィレンツェの英語読みです。姉と共に歴史や数学など高度な教育を受けたナイチンゲールは、看護師としてロンドンで働きますが、クリミア戦争が勃発すると従軍看護師として現在のトルコ・ユスキュダルにある野戦病院に配属されます。
そこで劣悪な衛生状況によって兵士が死亡するのを目の当たりにしたナイチンゲールは、軍部を説得するため独自のインフォグラフィックを制作します(図1-3)。
このダイアグラムが集計しているのは兵士の死亡原因です。1年間を月別に12の扇形に分け、右側の円が1854年の4月から翌年3月、左側がその翌年を示しています。右側の円の最も内側部分が負傷、中間がその他、外側が感染症による死亡を表しています。この特徴的な扇形を集めた図表はナイチンゲールが自ら考案した視覚表現です。現在ではその形から「ローズ・ダイアグラム」「鶏頭図」「鶏のとさか」といった名称で呼ばれます。
右側の扇形から読み取れる最も重要なメッセージは「兵士の死亡原因は負傷そのものではなく感染症の方が圧倒的に多い」というものです。感染症による死亡を示す外側の部分が極端に大きいことが見て取れます。図表左下の文章でも、外側の部分は「予防・軽減可能な感染症によるものである」と強調されています。
ナイチンゲールはこのデータをもとに軍部と交渉し、野戦病院の衛生状態を改善することで、死亡率を劇的に低減させました。左側の円において後半(円の下部分、時期でいうと1855年の10月以降)の扇形が急激に小さくなっているのがそれを示しています。
あのナイチンゲールが、じつは「インフォグラフィックの達人」だったことをご存知ですか?
ナイチンゲールは「医学統計の創始者」と呼ばれる疫学者ウィリアム・ファーの助言を受けてこのインフォグラフィックを作成し、病院の食事や設計など様々な点を変更するようにイギリス政府に対して働きかけました。「データをもとに仮説を立て、視覚的に理解しやすい表現を考案して周囲を説得し、状況の改善を図る」というデータ活用のお手本のような一連のプロセスです。
この他にも、19世紀半ばには医療や貿易などの分野で現代でも語り継がれる著名なデータ可視化の傑作が生まれました。それらは現代の「グラフ」よりも複雑な視覚表現を用いており、見ていて飽きない美麗な作品も多いので、興味のある方はぜひ調べてみてください。
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