2022年10月4日火曜日

米供与「ハイマース」とは ロシア軍侵攻食い止め 大きな効果か | NHK | ウクライナ情勢

米供与「ハイマース」とは ロシア軍侵攻食い止め 大きな効果か | NHK | ウクライナ情勢

米供与「ハイマース」とは ロシア軍侵攻食い止め 大きな効果か

南部で反転攻勢に出ているウクライナ軍は、29日にロシア軍兵士100人以上を殺害し、戦車7両を破壊したなどと主張し、反撃をさらに強める構えを示しています。ウクライナの東部や南部で激しい戦闘が続くなか、ウクライナ側がロシア軍の侵攻を食い止めるのに大きな効果を上げていると指摘されているのがアメリカが供与している高機動ロケット砲システム=ハイマースです。

ハイマースは、軍事車両にロケット弾の発射システムを搭載した兵器です。

1台の車両に6発のロケット弾を搭載することが可能ですが再び装填(そうてん)するのにも時間がかからず、少人数で稼働させることができる機動性を兼ね備えています。

さらにGPSによる誘導ロケット弾を発射できるため、高い精度で標的を攻撃できるのも特徴となっています。

アメリカが供与しているハイマース用の誘導ロケット弾は射程がおよそ70キロで、ことし4月からアメリカが供与してきた砲撃に使うりゅう弾砲の2倍以上に及びます。

アメリカは、ウクライナ東部で激しい砲撃の応酬が続いている状況を踏まえ、ことし6月、新たな軍事支援としてハイマースの供与に踏み切り、これまでに合わせて16基を順次現地に送っています。

アメリカ国防総省の高官は、ウクライナ軍がハイマースを使ってロシア軍の弾薬や物資の供給網のほか指揮所などの軍事拠点を長距離から攻撃しているとして「ロシア軍の前線での作戦遂行能力に影響を与えている」と指摘しています。

アメリカのオースティン国防長官は7月20日、記者会見で、ハイマースが戦況に与える影響について「ハイマースだけで戦闘の勝敗が変わる訳ではないが、司令塔や弾薬補給の拠点などを破壊することで戦いのリズムに影響を与え、そこにチャンスが生まれる可能性がある」と述べました。

ハイマースをめぐる戦況は

ウクライナ軍は、アメリカが供与している高機動ロケット砲システム=ハイマースを使って攻勢を強める一方、ロシア側は、こうした動きを警戒しているとみられます。

射程が長く、精密な攻撃が可能だとされるハイマースは、アメリカが6月1日、ウクライナに4基を供与すると発表して以降、これまでに合わせて16基が供与されています。

ウクライナのレズニコフ国防相は25日、6月ハイマースを受け取って以降、ロシア軍の弾薬庫合わせて50か所を破壊したと強調しました。

ゼレンスキー大統領は、ロシア軍が攻勢を強める東部ドンバス地域では、ハイマースなどによってロシア軍の攻撃の勢いを鈍らせているという見方を示し、一定の成果が出ているとしています。

また、ウクライナのポドリャク大統領府顧問は21日、「ロシア軍が自発的にヘルソンを去る時だ。そうでなければハイマースの恐怖が待っている」と述べ、ウクライナ軍は、南部ヘルソン州などの奪還を目指してハイマースなどを使って反撃を強める姿勢を示しました。

一方、ロシア軍は、こうした動きを警戒しているとみられます。

ロシア国防省は22日、ロシア軍が7月5日から20日までの間に、ウクライナ各地を攻撃し、ハイマース4基を破壊したと主張しています。

また、東部ドネツク州の親ロシア派が支配する地域にある捕虜の収容施設で攻撃があり、多くのウクライナ側の捕虜が死亡したことについてロシア国防省は29日、ウクライナ側がハイマースを使って攻撃したと主張し、ハイマースを使うウクライナ側をけん制しています。

専門家「戦況を大きく転換」

アメリカから供与された高機動ロケット砲システム=ハイマースについて、各国の軍事情勢に詳しい元陸上自衛隊東部方面総監の渡部悦和さんは、「ウクライナ軍が劣勢だった状況を大転換することになったゲームチェンジャーの1つだ」と述べ、ハイマースが戦況に大きな変化をもたらしたと指摘しています。

ハイマースの特徴について、渡部氏は▽機動性が高く、陣地に入って数分後には射撃を行うことができ、敵の反撃を受ける前に離脱することができる点や▽GPSによる精密誘導で、目標を正確にピンポイントで攻撃できる点などを挙げ、ロシア軍に効果的な打撃を与えているとしています。

ハイマースは、敵の弾薬庫を破壊するのに活用されているということで「ロシア軍は、りゅう弾砲やロケット砲を数多く持っているが、弾薬がなければ意味がない。こうした弾薬をハイマースを使って徹底的に破壊することで、ウクライナ軍にとって大きな脅威だった、ロシア軍の長射程火力の威力をなくすことに成功した」と指摘しました。

また、「ウクライナ軍は、弾薬庫に限らず燃料の集積所や司令部、それにS400などの対空火器や高性能レーダーといった作戦上重要な目標をうまく攻撃している。米軍の将校たちも称賛している」と述べ、ウクライナ軍がハイマースを使いこなし、ウクライナ側の被害を抑えることにもつなげているという見方を示しました。

一方、ロシア側の受け止めについて渡部氏は「ハイマースを相当な脅威とみている。ロシアの国防相が『とにかくハイマースを破壊しろ』と指示を出しているほどで、手の打ちようがないというのが実態だろう」と指摘しています。

そして、ロシア軍が民間施設への攻撃を相次いで行っている背景として「ハイマースのようなピンポイントの攻撃ができない兵器しか残っていないのが大きな理由だろう」と分析しています。

ただ、渡部氏は、ハイマースについて「これだけではロシア側が掌握した南部地域を奪還するのは難しい」とも指摘し、戦車やりゅう弾砲、戦闘機、それにドローンなど、ハイマース以外の兵器も含めた戦闘力を高めることが、ウクライナ軍にとっては必要だとしています。

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