http://www.news-digest.co.uk/news/features/13547-comparing-political-system-in-the-uk-and-japan.html
「1票の格差問題」は英国にはない?首相の給与はどちらが高い? 英日の総選挙・ 国会議員を徹底比較
いよいよ5月7日に英国の総選挙が実施される。今回の選挙では保守党と労働党のどちらも過半数を獲得できない可能性が高いことから、英国の二大政党制は終焉を迎えつつあるとの見方も示されている。英国の政治制度はもはや機能不全に陥っているのか。議会政治の発祥国から日本が見習うべき点はもうないのだろうか。英国政治学者の菊川智文氏の解説と合わせて、英日の選挙制度及び政治家を徹底比較する。
英国政治研究者。1956年生まれ、愛媛県出身、京都大学法学部卒。スターリング大学で国際関係論・ネゴシエーション論の博士号を取得。著書に「イギリス政治はおもしろい(PHP研究所)」など。今年4月に発表された、英国政府機関に勤務する夫人が執筆した「なおみ(Kindle書籍)」の翻訳も手掛けている。この小説は、日本の首相に就任した英国人女性を主人公とするもの。
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*本稿記載のデータは、2010年5月に英国で実施された総選挙及び2014年12月に日本で実施された総選挙の結果を中心に、2015年5月7日以前に公開された情報に基づいています。また為替レートは1ポンド=175円で計算。
Sources: 英議会ホームページ(www.parliament.uk)、英国選挙管理委員会(www.electoralcommission.org.uk)e-Gov (http://law.e-gov.go.jp)、内閣官房ホームページ(www.cas.go.jp)、BBC Online News、The Economistほか
選挙制度
小選挙区制
小選挙区比例 代表並立制
英国の総選挙は小選挙区制を採用。有権者は、各選挙区の立候補者の中から下院議員として最も相応しいと思われる者を1名選ぶ。最多票を得た者が当選。候補者は最多票を得ない限り、どれだけトップと僅差であっても落選となるため、いわゆる「死票」が多い。一方で仕組みは単純明快。また小選挙区制度の下では、二大政党制が形成されやすいと言われている。そこで第三政党である自由民主党は、投票者が複数の候補者に対して順位付けを行い、この順位に応じて票を分配する「優先順位付き連記投票制」への変更を希望。2011年に導入の是非をめぐって国民投票が行われた結果、否決された。
一方の日本は、小選挙区制と比例代表制の並立制。投票者は、小選挙区で候補者を1名、比例代表では支持政党名を1つ選び、計2票を投じる。後者では得票数に「比例」するよう各政党に議席を配分。各党が事前に提出した名簿に記載されている候補者の中から当選者が決まる。
日本の衆院選ではこの小選挙区比例代表並立制を1996年から採用。長らく続いた自由民主党の一党優位や派閥争いを解消し、英国のような二大政党制を実現することなどを目的として、各選挙区から複数の当選者が選ばれる中選挙区制度から移行した。
* 最多得票者が過半数を得れば当選が決定。過半数以下の場合はいずれかの候補者が過半数を占めるまで第2順位以下の票を加算していく。
首相・国会議員の年収
首相 14万2500ポンド(約2500万円)
議員 6万7060ポンド(約1200万円)首相 3961万8000円
議員 約2134万8000円キャメロン首相の年俸は14万2500ポンド。円換算すると約2500万円となる。一方の安部首相の給与は月額205万円。205万円×12カ月=2460万円でキャメロン首相の給与とほぼ同額だが、安倍首相にはさらに地域手当18%が加算され、月額は241万9000円となる。加えて、ボーナスに相当する期末手当が年2回にわたり支給。この期末手当が、2014年6月期は478万円、同12月期には581万円支払われた。総計すると、3961万8000円(ただし、東日本大震災からの復興のための財源確保を目的として、2012年~2014年にかけては給与・期末手当の3割を自主返納)。つまり、安倍首相の給与は、キャメロン首相の約1.6倍。
そのほかの国会議員に対しては、英国では6万7060ポンド(約1200万円)が給与として支払われている。日本は月額129万4000円、期末手当は2014年6月期が263万円、同12月期が319万円で、総計2134万8000円。英国と比べて日本の議員はほぼ倍額の給与を受け取っていることになる。ちなみに東日本大震災からの復興財源の確保などを目的として、2012年10月から国会議員も給与と期末手当ともに20%を削減していたため、同期間中の受取額は1707万8400円だった。2014年5月より通常額が支給されている。
供託金
500ポンド(約9万円)
300万円
「日本の選挙にはお金がかかる」と言われる際によく引き合いに出されるのが、供託金の金額の高さ。選挙に出馬する際に、立候補者は「供託金」と呼ばれるお金を選挙管理委員会などに預け入れなければならない。この供託金は一定以上の得票をすれば返金されるが、そうでなければ没収。没収金は、選挙ポスターの立て看板設置などの費用に充てられる。
英国の総選挙における供託金は500ポンド(約9万円)。各選挙区で5%以上の票を得れば、返金される。一方の日本の小選挙区は驚きの30倍以上となる300万円。返金されるためには10%以上の得票が必要となる。さらに比例区に出馬する際の供託金は、その倍額となる600万円。日本の選挙は、実にお金がかかる。
議員数
650人(下院)
475人(衆議院)
最近の日本では、議員定数削減の必要性が盛んに論じられている。しかし、意外にも議員数は英国の方が175人も多い。しかも日本の人口は英国の約2倍。つまり、全人口に対する議員数の割合は英国の方が圧倒的に高いことになる。ちなみに、2010年の総選挙で保守党が議員数の削減を掲げていたが、この公約は現政権においては実現しなかった。議員定数削減についての議論は次期国会でも続けられる予定となっている。
議員・閣僚の平均年齢
国会議員*1 50歳 / 閣僚 *3 49歳
国会議員*2 53歳 / 閣僚 *3 61歳
英国には若い政治家がそろっているかと思いきや、国会議員の平均年齢に関しては英日でさほど大きな違いがない。ちなみに英国の最年長議員は保守党のピーター・タプセル氏で齢85歳、最年少は労働党のパメラ・ナッシュ氏で30歳。日本の最年長は無所属の亀井静香氏で78歳、最年少は民主党の鈴木貴子氏で28歳。
ところが、内閣閣僚に限定すると、英国の政治家は一気に若返る。キャメロン首相は48歳、オズボーン財務相は43歳、閣僚の平均年齢は49歳。一方の日本は、安部首相が60歳、麻生財務相が74歳、閣僚の平均年齢は61歳。その差は歴然としている。
*1: 英国は2010年実施の総選挙直後の下院議員
*2: 日本は2014年実施の総選挙直後の衆議院議員の年齢を基に算出
*3: 首相を含む。最新の内閣組閣直後の時点での年齢を基に算出
女性議員の割合
23%
9%
英国は全議員の2割強に相当する148人が女性。一方の日本は45人で、全体に占める割合は9%。2014年3月に発表された女性の国会議員の割合をまとめたランキングでは、日本は先進国で最低レベルとなる世界127位に位置している。またかつて英国では「鉄の女」と呼ばれたサッチャー首相が長期政権を築いたのは広く知られるところ。日本には女性の首相はいまだ誕生していない。
投票率
65.1%
52.66%
2010年に実施された英国の総選挙の投票率は65.1%。ブレア首相が3期目の政権を確保した2005年の選挙から約4%増となった。ちなみに英国の戦後最低記録は、ブレア政権が2選を果たした2001年総選挙の59.4%。一方の日本は「アベノミクス解散」と名付けられた2014年12月の選挙で戦後最低となる52.66%を記録している。
一票の最大格差
5.059倍
2.131倍
各地域で投票者数にばらつきがあるにも関わらず、当選する人数が予め一定数に定められていれば、選挙区によって一票の重みが異なる。この違いが大き過ぎると不平等であるとの考えから、一票の重みをできるだけ均等にすべきとする「一票の格差」問題。日本ではこの「一票の格差」がなかなか思うように是正できず、選挙が行われる度に論争に。裁判所が一票の格差が是正されない状況に対して違憲判決を出したこともある。
前回の総選挙で最も登録者数が多かったのは、東京都第1区(千代田区・港区・新宿区)の49万3811人。最少は宮城県第5区(石巻市・東松島市・大崎市ほか)で23万1660人。最大で2倍強の格差が生まれた。一方の英国では、最多となるイングランド南部ワイト島の有権者数が11万177人、最少はスコットランド北部にある諸島アウター・ヘブリディーズ諸島の2万1780人。実に5倍以上の格差があるのだ。
全議員中に世襲議員*1 が占める割合
9%
26% *2
*1: 現役または元議員と親子ないし親戚関係がある議員と定義
*2: 2014年11月29日時点の数字
日本の政治家に世襲議員が多いことはつとに有名。「エコノミスト」誌によると、衆議院議員全体に占める世襲議員の割合は実に4分の1を超える。さらに現内閣閣僚に絞ると19人中10人と、なんと5割強が世襲議員。また安倍首相の一族が岸信介元首相を始めとする多数の政治家を輩出していることはあまりにも有名。
ただ英国においても世襲議員は決して珍しくはない。現役または元議員と親子ないし親戚関係がある英下院議員は57人で、全体の約9%を占める。さらには4代目の国会議員となる「4世議員」が3名も存在。ブラウン政権で環境・食料・農村問題相を務めたヒラリー・ベン議員は、そんな4世議員の一人だ。
菊川氏に聞く英日の政治の違い
「日本は国民主権、英国は議会主権」
英国と日本では、政治家に求められる役割が異なります。日本において有権者が国会議員とコミュニケーションを図る場合は、特定の役所に働き掛けて何かをしてほしいという陳情がほとんどです。違う言い方をするならば、日本の政治は各地域・業界団体などへの利益誘導型。日本では政治家は有権者の希望を叶え、不満を解消するために働くのです。
一方、英国民は国会議員に対して公平に振る舞うことを求めます。そのため、議員が自分の影響力を使って特定の個人や組織のために非公式に動くということはあり得ません。(メディアのおとり捜査などで発覚した場合は大問題となります)議員は「サージェリー」と呼ばれる面会時間を通じて有権者との個人相談を定期的に行い、それぞれの依頼者のために最大の努力をしますが、その際には関係当局に手紙を書くなど、公式な経路を使います。だから、英国には政党選挙区支部の資金集めや政党本部の献金集めのためのパーティーはあっても、日本のような政治家の後援会や、多額の政治資金集めを目的としたパーティーは見られません。総選挙にしても、それぞれの選挙区で選挙活動の中心を担うのは基本的に各党の支部であって、議員がお金を出して選挙活動を行うのではない。そして各政党には、この国をいかに変えたいのかという展望を示すことが求められます。
この違いはどこから生まれるのか。政治風土に加えて、私は特に国民主権と議会主権の違いにあると思います。日本には成文憲法がありますよね。そしてその憲法には、日本は国民主権の国であると定められています。一方の英国は議会主権の国。国民から負託を受けた議会が主権を持ちます。不文憲法なので、国会で法律が決まれば、それは憲法の一部となる。議会がそれだけ大きな権限を持っているのです。英国の首相を「選挙で選ばれた独裁」と呼ぶこともあります。だから有権者たちは、政権や首相が変われば、自身の選挙区を超えて、国全体の制度が一変するという感覚を持つのです。例えば政権を握れば、消費税を始めとする税額を変えるのは非常に簡単。この国では突然「今日の午後6時から燃料税が下がります」なんて発表が頻繁に行われているわけですから。この「首相が交代すれば、国が一変する」という感覚は、概して日本の政治に欠けているものではないかと思います。
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