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野毛のレコード喫茶「ちぐさ」、創業者の遺志継ぎ開業80年/横浜
レコードは時を超え、旅をする。横浜随一の飲み屋街・野毛で生まれたジャズ・レコード喫茶「ちぐさ」。現存では日本最古の歴史を誇り、今年が開業80年、創業者の故・吉田衛さんの生誕100年に当たる。節目の年にまた新たな一ページが紡がれる。店を愛する有志らが専門レーベル「Chigusa Records」を設立し、新人を発掘する「ちぐさ賞」を制定。来春にも初代受賞者のレコードを発売する。
コーヒーが香り、大音量のジャズが紫煙を揺らす。じっと目をつむり、協奏の世界に浸る。日本ジャズの重鎮、ピアニストの秋吉敏子さん、サックスプレーヤーの渡辺貞夫さんも、ここで耳を澄ませ、巣立っていった。
マスターの吉田さんは、「オヤジ」の愛称で親しまれた。昭和初期の1933年に店を開いた。戦争、徴兵、終戦。何があってもジャズから離れなかった。夢があった。
日本のジャズを育てたい、若いミュージシャンを育てたい-。
ちぐさ賞はマスターの遺志を継ぐ形で、有志が立ち上げた。発案者の一人、藤澤智晴さんは生まれた野毛の街で「村田家」という店を営む。「コーヒー1杯で何時間でもいられるし、商売にはならない。でも金がたまるとレコードを買ってしまう。そんなオヤジの生き方を、夢を引き継ぎたかった」と話す。
受賞者は選定委員会が選び、「Chigusa Records」がプロデュースする。とはいえ初めてのレコード作り。録音から発売までハードルは高い。藤澤さんが笑う。「でも各分野のエキスパートが続々、手弁当で駆けつけてくれてどうにかなった。これもオヤジがつくった縁。金もうけはだめでも、"人もうけ"はした人だった」
第1回受賞者に岩手県盛岡市の金本麻里さんが選ばれたのにも、やはり縁があった。
東日本大震災後、同じ有志らは被災した同県大船渡市のジャズ喫茶を支援し、再起につなげた。その中で、盛岡市のジャズ喫茶で歌う金本さんと出会った。「歌声が素直で、うまい人のまねをしていないのがよかった。『この子だ』って思った」と藤澤さん。「ジャズ愛」があふれる声だからこそ、最初の受賞者にふさわしいと考えた。
金本さんは障害者施設で働く。時間の許す限りジャズを学び、歌う。「私でいいのかなとも思うけど、やるからにはちぐさにとっても恥ずかしくないものにする」。好きな曲は秋吉さん作曲の「HOPE 希望」。知人は津波に襲われ、行方不明のままだ。だからこそ「未来に向かい、力を与える歌を歌いたい」とレコーディングを待ちわびる。
50年来のジャズファンで、評論も手掛けるカップヌードルミュージアム館長の筒井之隆さんは「結局、みんなに共通しているのはジャズとちぐさが好きだということ」と話す。その筒井さんも有志の一人だ。「ちぐさは横浜が誇る文化財。横浜ブランドの一つとして日本中に知らしめたい。ちぐさ賞がその一つの形になればうれしい」。発売は、来年3月11日を目指している。
◆ジャズ・レコード喫茶「ちぐさ」
1933年、吉田衛さんが20歳で野毛に開業。横浜大空襲で消失するも46年に再開。吉田さんは86年に横浜文化賞を受賞。店は2007年に一度幕を閉じたが、12年に有志らの手によって復活。現在も野毛で営業を続けている。
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