2022年9月14日水曜日

中村元 (哲学者) - Wikipedia

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中村元 (哲学者)

Camera-photo Upload.svg 画像提供依頼中村元画像提供をお願いします。2018年7月
中村 元
(なかむら はじめ)
人物情報
生誕 1912年11月28日
大日本帝国の旗 大日本帝国
島根県松江市殿町
死没 1999年10月10日(86歳没)
日本の旗 日本
東京都杉並区久我山
急性腎不全
国籍 日本の旗 日本
出身校 東京帝国大学
学問
研究分野 哲学
仏教学
歴史学
論理学
倫理学
比較思想
研究機関 東京大学
東方学院
学位 文学博士
称号 松江市名誉市民
東京大学名誉教授
文化功労者
文化勲章受章者
勲一等瑞宝章受章者
紫綬褒章受章者
日本学士院会員
主な業績 『初期ヴェーダーンタ哲学史』
『東洋人の思惟方法』
『佛教語大辞典』
『中村元選集』
影響を
受けた人物
宇井伯壽
亀井高孝
ゴータマ・ブッダ
須藤新吉
ブルーノ・ペツォルトドイツ語版
和辻哲郎
影響を
与えた人物
植木雅俊
上村勝彦
釈悟震
末木文美士
副島隆彦
奈良康明
早島鏡正
藤田宏達
前田專學
学会 比較思想学会
主な受賞歴 日本学士院恩賜賞(1957年)
毎日出版文化賞特別賞(1975年)
仏教伝道文化賞(1975年)
日本翻訳文化賞(1992年)
NHK放送文化賞(1999年)
脚注
公益財団法人中村元東方研究所を設立
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中村 元(なかむら はじめ、1912年大正元年)11月28日 - 1999年平成11年)10月10日)は、日本インド哲学者、仏教学者、比較思想学者[1]東京大学名誉教授日本学士院会員勲一等瑞宝章文化勲章紫綬褒章受章[2]

略歴

1912年大正元年) 11月28日、島根県松江市殿町にて生まれる[2][3]。元年生まれだったことから、元と名付けられた[3]

1925年 (大正14年)、東京市立誠之小学校(現・文京区立誠之小学校)を卒業。1930年昭和5年)、東京高等師範学校附属中学校(現・筑波大学附属中学校・高等学校)を腎臓病により1年間休学後[3]、4年で修了。1933年 (昭和8年)旧制第一高等学校を卒業。在学中、須藤新吉亀井高孝から学問の基本を学び、ブルーノ・ペツォルトドイツ語版から仏教の話を聞く[3]1936年 (昭和11年)、東京帝国大学文学部印度哲学文(ぼんぶん)学科を卒業[2]1941年 (昭和16年) 、同大学大学院博士課程を修了。宇井伯壽文献学としての仏教学を学ぶほか、倫理学和辻哲郎の知遇も得る。

1942年、博士論文「初期ヴエーダーンタ哲学史」を提出[4]1943年 (昭和18年) 東京帝国大学助教授に就任[3][4]。同年5月6日、東京帝国大学から文学博士号を授与される[4]。論文の題は「初期ヴエーダーンタ哲学史」[5]1954年 (昭和29年)、東京大学1947年 (昭和22年) に東京帝国大学から改称)教授に就任(~1973年[2][4]1957年 (昭和32年)『初期ヴェーダーンタ哲学史』(岩波書店)で、日本学士院恩賜賞を受賞[4]1964年 (昭和39年) 東京大学文学部長に就任(~1966年[4]。この時期に春秋社で最初の『中村元選集』が刊行開始。

1970年 (昭和45年) 財団法人東方研究会(没後に中村元東方研究所へ改称)を設立、初代理事長に就任[4]

1973年 (昭和48年)東京大学を定年退官、同大学名誉教授[4]。最終講義『インド思想文化への視角』と『インド思想と仏教 中村元博士還暦記念論集』(春秋社)が刊行される。定年後は、東方研究会の活動の一環として東方学院を開設し、学院長に就任した(1999年の没時まで)[4]。同年、デリー大学名誉文学博士、ベトナム・バンハン大学名誉文学博士[4]

1974年 (昭和49年) 比較思想学の先駆者として比較思想学会も創設し、初代会長に就任(~1983年[4][6]。同年、紫綬褒章受章[4]1975年 (昭和50年)『佛教語大辞典』が刊行(東京書籍 全3巻、1981年に縮刷版全1巻)され[3]毎日出版文化賞特別賞と仏教伝道文化賞を受賞[4]1977年(昭和52年) 文化勲章受章[4]文化功労者1984年 (昭和59年)勲一等瑞宝章受章、日本学士院会員になる[4]

1988年 (昭和63年)12月、『決定版 中村元選集』(春秋社)が刊行開始。1989年 (昭和64年・平成元年) 1月7日、8名の有識者委員の一人として「元号に関する懇談会」に列席。同年、松江市より名誉市民の称号と市民章が贈られる[3]

1992年 (平成4年)『ジャータカ全集』で 日本翻訳文化賞を受賞。1994年 (平成6年) 第24代足利学校庠主(初代史跡足利学校庠主)に就任(1999年の没時まで)[4]1995年 (平成7年) 『東方学』第九十号で、門下生の奈良康明前田専學らと、座談会での回想「學問の思い出」を行う[7]

1999年 (平成11年)NHK放送文化賞受賞[4]。同年7月、『中村元選集』全40巻(32巻+別巻8巻)が完結[4]。同年、10月10日午前10時45分、急性腎不全のため東京都杉並区久我山の自宅にて死去(満86歳)[4]。墓所は多磨霊園戒名は自身が付けた「自誓院向学創元居士」[4]

没後、2001年 (平成13年) 6月に『広説 佛教語大辞典』が刊行(全4巻、東京書籍、縮刷版全2巻が2010年7月に刊行)された。2012年 (平成24年) 10月10日、生誕100年を記念して、松江市八束町に中村元記念館が開設される[3]。同年10月、『中村元博士著作論文目録』が刊行された(ハーベスト出版、公益財団法人中村元東方研究所編集)。

エピソード

  • 博士論文は7年がかりで完成させた[3]。その原稿はリヤカーで弟に手伝ってもらって運び込んだ。指導教授の宇井伯壽も「読むのが大変だ」と悲鳴をあげたという[3][8]
  • サンスクリット語・パーリ語に精通し、初期仏教仏典などの解説や翻訳に代表される著作は多数にのぼる。「人々の役に立つ、生きた学問でなければならない」が持論で、訳書に極力やさしい言葉を使うことを企図していた[4]。その最も端的な例として、サンスクリットのニルヴァーナ(Nirvāṇa)およびパーリ語のニッバーナ(Nibbāna)を「涅槃」と訳さず「安らぎ」と訳したことがあげられる。訳注において「ここでいうニルヴァーナは後代の教義学者たちの言うようなうるさいものではなくて、心の安らぎ、心の平和によって得られる楽しい境地というほどの意味であろう。」としている。
  • 中村が20年かけ1人で執筆していた『佛教語大辞典』が完成間近になった時、ある出版社が原稿を紛失してしまった[3][4]。中村は「怒ったら原稿が見付かるわけでもないでしょう」と怒りもせず、翌日から再び最初から書き直して8年かけて完結させ、別の出版社(東京書籍)から全3巻で刊行した[3][4][9]。完成版は4万5000項目の大辞典であり、改訂版である『広説佛教語大辞典』では更に8000項目が追加され、没後に全4巻が刊行がされた。
  • 日本以外にも、国際的な仏教学者の権威としてアメリカヨーロッパなど各地で講義・講演した[4]。音声録音が多数残されている。NHKこころの時代』など放送番組にも度々出演した。

著作

翻訳

著書(主に改訂新版)

『中村元選集』(新版 春秋社、1988年〈第1巻〉~1999年〈別巻4〉)[編集]

  • 第1巻 『インド人の思惟方法 東洋人の思惟方法 I
  • 第2巻 『シナ人の思惟方法 東洋人の思惟方法 II
  • 第3巻 『日本人の思惟方法 東洋人の思惟方法 III
  • 第4巻 『チベット人・韓国人の思惟方法 東洋人の思惟方法 IV
  • 第5巻 『インド史 I』
  • 第6巻 『インド史 II』
  • 第7巻 『インド史 III』
  • 第8巻 『ヴェーダの思想』
  • 第9巻 『ウパニシャッドの思想』
  • 第10巻 『思想の自由とジャイナ教
  • 第11巻 『ゴータマ・ブッダ I 原始仏教 I
  • 第12巻 『ゴータマ・ブッダ II 原始仏教 II
  • 第13巻 『仏弟子の生涯 原始仏教 III
  • 第14巻 『原始仏教の成立 原始仏教 IV
  • 第15巻 『原始仏教の思想 I 原始仏教 V
  • 第16巻 『原始仏教の思想 II 原始仏教 VI
  • 第17巻 『原始仏教の生活倫理 原始仏教 VII
  • 第18巻 『原始仏教の社会思想 原始仏教 VIII
  • 第19巻 『インドと西洋の思想交流』
  • 第20巻 『原始仏教から大乗仏教へ 大乗仏教 I
  • 第21巻 『大乗仏教の思想 大乗仏教 II
  • 第22巻 『空の論理 大乗仏教 III
  • 第23巻 『仏教美術に生きる理想 大乗仏教 IV
  • 第24巻 『ヨーガサーンキヤの思想 インド六派哲学 I
  • 第25巻 『ニヤーヤとヴァイシェーシカの思想 インド六派哲学 II
  • 第26巻 『ミーマーンサーと文法学の思想 インド六派哲学 III
  • 第27巻 『ヴェーダーンタ思想の展開 インド六派哲学 IV
  • 第28巻 『インドの哲学体系 I 『全哲学綱要』訳註 I
  • 第29巻 『インドの哲学体系 II 『全哲学綱要』訳註 II
  • 第30巻 『ヒンドゥー教叙事詩
  • 第31巻 『近代インドの思想』
  • 第32巻 『現代インドの思想』
  • 別巻1 『古代思想 世界思想史 I
  • 別巻2 『普遍思想 世界思想史 II
  • 別巻3 『中世思想 世界思想史 III
  • 別巻4 『近代思想 世界思想史 IV
  • 別巻5 『東西文化の交流 日本の思想 I
  • 別巻6 『聖徳太子 日本の思想 II
  • 別巻7 『近世日本の批判的精神 日本の思想 III
  • 別巻8 『日本宗教の近代性 日本の思想 IV

辞典[編集]

  • 『広説佛教語大辞典』(東京書籍[10]、2001年、新版2010年)
  • 『新・佛教辞典』(監修)(誠信書房、第三版2006年)
  • 『岩波 仏教辞典』(編集委員)(岩波書店、1989年、第二版2002年)

CD・カセット[編集]

  • 中村元講演選集 『ゴータマ・ブッダの心を語る カセット全12巻』(アートデイズ
    • 『ゴータマ・ブッダの心を語る CD版』(アートデイズ(全11巻) 2010年、新版(上下)、2015年)
  • ブッダの言葉』『ブッダの生涯』(新潮社、新潮CD 2007年/新潮カセット 1992年)

論文[編集]

評伝・伝記[編集]

  • 『中村元の世界』 青土社、1985年。論考集
  • 『中村元―仏教の教え 人生の知恵』(河出書房新社KAWADE道の手帖」、2005年9月、新装版2012年9月)。門下生・関係者の紹介を収録
  • 植木雅俊『仏教学者 中村元 ―求道のことばと思想』 角川学芸出版〈角川選書〉、2014年7月
  • 中村元記念館編『東洋思想の巨星 「中村元物語」――世界平和を願った慈しみの思想家』、同館、2016年9月
  • 『はじめのはじまり 中村元博士少年時代の作文集』 中村元記念館東洋思想文化研究所企画・編、中村元記念館、2022年3月

脚注[編集]

  1. ^ "中村元記念館 - 中村元博士について". www.nakamura-hajime-memorialhall.or.jp. 2021年2月14日閲覧。
  2. ^ a b c d 中村元 2005「著者紹介」
  3. ^ a b c d e f g h i j k l 笠原愛古「中村元博士の生涯と思想」『淞雲』第22巻、島根大学附属図書館、2020年3月、 4-16頁。
  4. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x "中村元 略歴". www.toho.or.jp. 公益財団法人中村元東方研究所. 2021年12月14日閲覧。
  5. ^ 博士論文書誌データベースによる
  6. ^ 『比較思想論』(岩波全書)と、東京書籍刊で『比較思想事典』(監修)、『比較思想の軌跡』がある。
  7. ^ 『東方学回想 Ⅷ 学問の思い出〈3〉』(刀水書房、2000年)に収録(年譜・書誌入りで177~208頁)。
  8. ^ 植木雅俊 2014, p. 31.
  9. ^ 1999年10月11日の朝日新聞および日経新聞の追悼記事
  10. ^ 編著『仏教語源散策』(シリーズ全8冊)。内3冊が角川ソフィア文庫で新版。他に東京書籍で『中村元対談集』全4巻、および弟子奈良康明と『仏教の道を語る』がある。

参考文献[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]

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