2022年6月8日水曜日

機事有る者は必ず機心有り(荘子)

機事有る者は必ず機心有り(荘子) : 髙岸悟の研究

機事有る者は必ず機心有り(荘子)

「『荘子』にこんな話がある。畑を作ろうと老人が苦労して井戸から水を汲んでいる。井戸の底に降りて行って瓶に水を入れ、抱きかかえて上にあがってくることを繰り返していた。そこに通りかかった人が、いい機械(はねつるべ)があるからお使いなさいと勧める。

それに対する老人の答えがすごい。機械を使ったら、使ったがゆえの仕事が必ず生じてしまう(そういう仕事を『 機事』と老人は呼ぶ)。そして機事にかかわずらっていれば、必ず心まで影響される。そうなってしまった心を老人は『機心』と呼ぶのである。(機械を有する者は必ず機事あり。機事有る者は必ず機心有り。『荘子』天地篇12)

確かにコンピュータができて便利になったけれど、仕事が減ったわけではない。こっちが真夜中でも海の向こうではマーケットが開いている。インターネットが取引ができるようになったおかげで、夜中も働かなければいけない場合も生じてくるし、向こうの相場はどうなっているだろうと、夜もおちおち眠れない事態にもなる。便利になって余裕ができ、心がゆったりするというわけではなさそうで、ますます忙しくなり、心の落ち着きさえ失われがちだ。

機械を使えば確かに機事が増える。われわれは機事にふりまわされ、すっかり機心になってしまっているなあと、われながら思い当たることが多い。それにしても、つるべ井戸の仕掛けという、今から見れば機械ともいえないようなものを見て、はやくもこういう危険性を指摘しているのだから、昔の人は偉かったと、ただただ感じ入ってしまう。」
本川達雄「おまけの人生」2005阪急コミュニケーションズP.61-63

》機械を使えば確かに機事が増える。われわれは機事にふりまわされ、すっかり機心になってしまっているなあと、われながら思い当たることが多い《  車や電気製品、携帯電話などのおかげで便利になったことは確かだが、それによって不自由になった面も確かにある。だれもが持たなければそれはそれですんでいたものを、一人が持つと羨ましく自分もということになってしまう。またほしくはないと拒否していると、人とうまく付き合えなくなってしまう。

ああ、悲しきかな人のこころ。ああ、虚しきかな人の世は。 



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