2022年6月17日金曜日

【全文】対ロシアでNATO加盟申請フィンランド首相単独取材 | NHK国際ニュースナビ

【全文】対ロシアでNATO加盟申請フィンランド首相単独取材 | NHK国際ニュースナビ

【全文】対ロシアでNATO加盟申請フィンランド首相単独取材

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受けて、NATOへの加盟申請している北欧フィンランド。

そのフィンランドを率いるのが36歳のリーダー、マリン首相です。

5月11日、来日中だったマリン首相に、単独インタビューをすることができました。

何を語ったのか。全文でお伝えします。
(国際部記者 松田伸子)

マリン首相とは?

フィンランドのサンナ・マリン首相は、ヘルシンキ出身の36歳で、中道左派、社会民主党の党首を務めています。

南部の工業都市タンペレの市議会議員などを経て、2015年に国会議員に初当選したあと、社会民主党が率いる連立政権で、運輸・通信相などを歴任。

そして、2019年にフィンランドで最年少の首相に就任しました。環境問題に関心が高く、温室効果ガスの排出量を、EU全体の目標よりも15年早い2035年までにゼロにする政策を推し進めてきました。

また、幼いころに両親が離婚した後、母親と女性のパートナーの家庭で育ったということです。

岸田総理と首脳会談を行うマリン首相

マリン首相は、5月15日にNATO=北大西洋条約機構への加盟申請を正式に表明する直前、5月10日に初めて日本を訪れて、岸田総理大臣と首脳会談を行いました。

インタビューは、このタイミングにあわせて5月11日に行いました。

NATOに加盟申請を出しますか?

まさに私たちは今、NATOに参加するかどうか議論しています。議会でも、政府でも、もちろん大統領も議会と"加盟するか、加盟することが必要か"どうかについて考え、議論しているのです。

私たちは早急に結論を出します、この1週間の間に。とても短い期間で、結論を出そうとしていて、さまざまな角度からこの問題について検討しているところです。

これを議論している理由はもちろん、ロシアがウクライナに対してとった行動です。ロシアのウクライナでの戦争は、ヨーロッパの安全保障の状況を全て変えたため、フィンランドとスウェーデンはNATO加盟の可能性について議論を始めたのです。

5月15日の週にも決めますか?

私たちはこの1週間以内に結論を出すということです。

私たちは、隣国のスウェーデンと一緒に全ての詳細、全ての工程とその時期について、緊密に連携しながら議論しています。同じ方向に向かって同じ早さで進むことがとても重要です。

国民はNATO加盟を支持していますか?

フィンランド人の大多数が、そして国会議員の大多数が、NATO加盟に賛成しています。以前にこのようなことはありませんでした。

しかし、ウクライナに対するロシアの行動が全ての安全保障環境を変え、フィンランド人の考え方も変えました。

私たちの隣国ロシアは、その隣国であるウクライナを攻撃しています。もちろん私たちはとても心配していますし、ウクライナで起きたようなことがフィンランドで起きないようにしないといけません。

フィンランドは、ロシアと戦争をした歴史があります。そんな未来は、子どもたちにはいらない。ですから、私たちはNATO加盟を議論していますし、国民の中でもそういった議論になっているのです。

軍事的な中立という立場からの転換になりますが?

私たちは、長い期間をかけて作り上げてきた自分たちの軍隊、防衛能力を持っています。私たちは最悪の事態にさえ備えができているのです。

私たちはNATOの緊密なパートナー国で、長い間協力をしてきました。次の段階は、加盟申請をするかどうかです。今の状況を鑑みて、すぐにも決断をしないといけない。1週間以内には結論を出します。

何が伝統的な軍事的中立の立場を変えさせたのですか?

ロシアの行動です。ロシアの行動こそが、私たち、フィンランドとスウェーデンの根幹を変えた、最も大きな要因です。ロシアの行動、ウクライナにおけるロシアの戦争が、フィンランドとスウェーデンが議論を始めた理由です。

ロシアは、国際法を守らず、守るべきルールを無視し、それぞれの国に課せられた全ての義務を果たさない国だということを示したのです。これが、私たちがNATO加盟の可能性について検討している理由です。

ヨーロッパの全ての安全保障環境は変わってしまいました。ロシアに油断してはならないのです。ロシアがどのようにふるまうかを目の当たりにしました。それが、私たちが議論をしている理由です。

加盟までに長い時間がかかると言われています

お話したように、私たちには防衛能力の高い部隊があります。小さな国にもかかわらず、大きな軍隊を持っているのです。多くの投資もしてきました。最近の大きな投資は、戦闘機です。去年の12月に決めたものですが、100億ユーロでした。私たちはすでに最悪の事態に備えてきたのです。

そして、私たちにはパートナーがいます。それらの国々の多くはウクライナで起きたようなことがフィンランドに起きた場合には、支援を約束してくれています。

そして、フィンランドはEU=ヨーロッパ連合にも入っています。EU加盟国はそれぞれを支援する義務があります。例えばどこかの国が攻撃された場合にも。ですから、私たちは守られていないのではなくて、しっかり守られているのです。

しかし、大きな防衛力となるのは、加盟の批准をできるだけ早く行うことです。そのために私たちはNATO加盟国と話していますし、先取りした形になりますが、批准の期間についても話し合っています。申請から批准までの期間をできるだけ短くすることがとても重要だと思います。

隣国ロシアはどんな存在ですか?

地理的な位置を変えることはできません。国の場所を変えることはできませんが、外交政策、防衛政策は自分たちで決めることができます。

ですから、私たちはNATO加盟について検討しているのです。スウェーデンとともに、加盟申請をすべきか、それともこのままの状況でいるべきかを議論しているのです。

日本も日本のパートナーとともに未来について考えていると思います。安全保障政策や外交政策について考えていると思いますが、その決断は自ら下さないといけないものです。私たちは未来のためのその選択を支持します。

NATOの加盟の意義をどう考えていますか?

もちろん、フィンランドとスウェーデンが入れば、NATOは以前よりも増強されます。2か国が入ることで、北欧の国が全て入ることになり、より強くなり、もちろん私たちの防衛能力にも大きな影響があるでしょう。

最も大きな意義は、最悪の事態が起きることを避けられるということです。NATOの第5条には、加盟国が攻撃されたら、守ると書かれています。これは私たちが最も深く考えていることです。

「ウクライナで起きたようなことがフィンランドで起きるのを避けるため」という要素が大きいのです。

リーダーシップの秘訣(ひけつ)は何ですか?

秘訣は協力することです。

フィンランドは連立政権で、いつも違う党と政府内で仕事をします。今は5つの党からなり、全て女性がリーダー、多くは若い女性リーダーたちです。私たちにとって、結論を出すときにみんなで協力することが大事で、すべての人が関わっていることが大事です。

私のリーダーシップということではなくて、それはみんなの努力、みんなのリーダーシップで、それに私はとても感謝しています。

どのように実現しているのですか?

私たちは政府内でたくさんの議論をします。例えば新型コロナウイルスの感染拡大のさなかも、政府全体としてどのように対処するかの大きな決断をします。

今議論しているNATOの加盟申請についてもそうです。なるべく多くのコンセンサスが取れるように政府内で議論し、反対する党とも議論をしています。全ての人の意見を聞くことが大事です。

リーダーシップというより、全ての人が参加しているか、全ての人の意見が聞かれているかを確認することです。

そして、これまでの決断を改めることも大事です。異なった情報があったときには、それを検討し直すことが大事です。科学者など、得られる全ての意見を聞く。それが、感染拡大であっても、安全保障の問題であっても。

これは、現代的なリーダーシップだと思います。耳を傾け、できるだけ多くの党を、社会の中のできるだけ多くの人を巻き込むのです。

日本では女性の衆議院議員は1割以下です

状況はよくなると思います。若い世代が入ってくれば変わるでしょう。

鍵となるのは、全ての人が参加できる社会をつくることです。例えば、女性がキャリアも家庭も持てることです。どちらかを選ぶのではなく、どちらも持てること。それは彼女たちの権利です。

すべての人がそれぞれの人生の夢を叶えられるために最も大切なのは教育です。性別やバックグラウンドも関係なく、全ての人が人生に同じ可能性を持っていると認識することが大事です。

そして、幼少期から大学までの教育が大事です。私たちはこの間、教育制度、育児休業制度、保育制度にもたくさんの改革を行いました。今よりももっと多くの女性が社会に参加できるように。

日本へのメッセージはありますか?

日本の若者を勇気づけたいです。皆さん夢を持っていて、資質があり、したいことを何でもできる力もある。みなさんとても教育水準が高く、とても賢い人たちです。

でも、社会が彼らを支えることが必要です。それぞれがキャリアを追求するというのは、個人の選択というだけではなく、社会が一人ひとりみんな違う人生の可能性を持っていることを認識することです。社会が変わらなければなりません。

例えば、フィンランドでは家族に優しい社会を作ろうとしています。母親も父親も子どもに関わり、そしてキャリアも積む。そのためには家族に優しい社会にしないといけないのです。

日本もフィンランドと似たような課題を抱えています。高齢化です。ですから、より多くの子どもが生まれるようにしたい。だからこそ、家族に優しい社会が大事です。

高齢者も安心して暮らせるようにするには、何が必要ですか?

高齢の世代にも、物事を決める過程に参加してもらうことが必要です。若い世代も高齢の世代も、働いている世代も、さまざまなジェンダー、さまざまなバックグラウンドを持つ人が社会には必要です。

最も大切な決定をする際は、いろんなバックグラウンドの人が集まり話し合うことで、未来にとって十分な情報を得た上での決断になるのです。

高齢の世代を無視してもよいとは思いませんし、私自身、高齢の世代にとても感謝しています。たくさんの友だちがいますし、彼・彼女らをとても尊敬しています。

マリン首相と撮影する記者(左)とニュースウォッチ9の田中キャスター(右)

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