2022年6月21日火曜日

愛媛の真珠生産 なぜ2位に転落したか | NHK | WEB特集

愛媛の真珠生産 なぜ2位に転落したか | NHK | WEB特集

WEB 特集 愛媛の真珠生産 なぜ2位に転落したか

愛媛の真珠生産 なぜ2位に転落したか

真珠の産地と言えば、真珠養殖発祥の地として有名な三重県をイメージする人も多いと思いますが、実は生産量では愛媛県の方がずっと多いのです。
全国のシェアは4割で、長年1位の座を保っていましたが、去年の生産量で長崎県に抜かれてしまいました。地元ではショックが広がっています。
穏やかな愛媛の海で何が起きているのでしょうか。
(松山放送局記者 後藤駿介)

長崎に抜かれた

愛媛県の真珠養殖の歴史は100年以上前にさかのぼります。

明治後期、全国で初めて養殖に成功した三重県の関係者の協力を得て、愛媛県南部の海で養殖が始まりました。

宇和海での真珠養殖

リアス式海岸で養殖に適していたことや、母貝として使うアコヤガイの生産が盛んなことなどから、昭和中期に生産量が飛躍的に増えました。

1974年に初めて三重県を抜いて全国1位となって以降、上位をキープして2009年からおととしまで12年連続で日本一でした。

2020年の全国のシェアは42%、産出額は57億円で地域経済になくてはならない重要な産業になっています。

しかし、農林水産省が公表した2021年の水産統計の速報値によると、愛媛県は4300キログラム(前年比36%減少)。

真珠の生産量(2021年)

これに対して長崎県は5100キログラム(前年比10%減少)で愛媛県を上回り1位になりました。

なお、三重県は2000キログラムで3位でした。

宇和島の人たちは

宇和島の人たちは
宇和島市の道の駅

まさかの2位転落に、地元の宇和島市民は衝撃を受けていました。

40代女性
「とても悔しい。愛媛の真珠はすばらしいので、生産量も2位じゃなく1位を取り戻してほしい」

70代女性
「県外の友達も宇和島と言えば真珠とみかんが代表的よねと言ってくれています。2位転落は悲しい」

観光客などに人気の道の駅「うわじま きさいや広場」にある真珠店を訪ねてみると、真珠の商品の横には「日本一の真珠の産地」と誇らしげに書かれた文字がありました。

店の支配人は「これからこの売り文句は使えなくなる」と寂しげに話していました。

真珠店 松廣大士支配人

真珠店 松廣支配人
「県外から来た客などに、なぜ宇和島で真珠を販売しているのかと聞かれると、生産量が日本一だからと説明してきました。
そうしたPRができなくなるのはとてもさみしく感じます。
ただ、品質は日本一だと思っているので、これからはそれを伝えていきたいです」

減少の原因はアコヤガイの大量死

生産量を大きく減らした原因は、養殖に使われるアコヤガイの稚貝の大量死です。

死んだ状態のアコヤガイの稚貝(2019年)

真珠の養殖は真珠のもとになる核をアコヤガイの体内に入れて行います。

すると、核の周りに真珠層と呼ばれる膜ができて最終的に真珠となります。

ところが、宇和海ではそのアコヤガイの稚貝が2019年以降3年連続して大量に死ぬ被害が出ているのです。

なぜ稚貝が死ぬのか、その理由は謎でしたが、国と県の研究機関の調査によって「ビルナウイルス科の新種」という新型ウイルスが原因であることが、ことし初めて特定されました。

このウイルスに感染した貝は、身が萎縮する症状が出ます。

このウイルスはPCR検査によって検出することができ、感染対策としてまず考えられるのがワクチンですが、貝にはワクチンが効かないといいます。

人間がワクチンを接種すると体に抗体ができて発症を防ぐ効果が期待でき、家畜や養殖の魚も同様の対策を打つことができます。

しかし、アコヤガイのような二枚貝には抗原抗体反応という防御機能がないため、効果は期待できないそうです。

ウイルスの感染を確かめる方法はPCR検査が確実ですが、貝の裏側から光を当てて透かして見る方法も有効です。

容器の下面から懐中電灯やLEDライトなどで強い光を当てる

影になって映る貝の身が萎縮している場合、感染している疑いがあります。

では、どうすればよいのか。

対策として愛媛県で今シーズンから始まったのが、養殖場所の変更です。

宇和海の中でも北部の海域は水温が比較的低くウイルスが少ないことがわかってきたため、その海域に貝を移動させる飼育試験を行っています。

もう1つわかったことがあります。

それは、ウイルスに感染してもすべての貝が死ぬわけではないということです。

もし、感染してしまった場合、ダメージを与えないことが重要になります。

愛媛県水産研究センター 桧垣俊司センター長

愛媛県水産研究センター 桧垣センター長
「ウイルスに感染して弱っている状態の貝にダメージを与える作業をすると、大量死が発生しやすくなります。
身の萎縮が観察された場合は、貝が網に付着するための足糸(糸状の繊維)を切って、網あげや網替えをするといった作業を控えてほしいと考えています。
今回始めた養殖場所の変更は、稚貝を一時的に避難させることでより多くの貝を残そうという試みです。
対症療法的なことをできるだけ多く見つけて広く普及していきたい」

ことしは防げるか

2019年から続くアコヤガイの稚貝の大量死は、毎年6月から7月に発生が確認されています。

ことし5月、宇和島の隣町、愛南町の養殖場の稚貝から問題のウイルスの遺伝子が検出されました。

まだ稚貝の大量死は確認されていませんが、海水の温度が上がってくるこの時期からは注意が必要で、異常を早期に発見することが重要になります。

ことし生産量全国1位を奪還するためには、被害を最小限に食い止めなければなりません。

生産者は海の変化に目を凝らしています。

愛媛県漁業協同組合 平井義則 組合長

愛媛県漁業協同組合 平井組合長
「海水の温度はいま(6月)は22度ですが、20度から24度の温度帯が、ウイルスがいちばん危険なことが研究データからわかってきています。
これからの時期は油断ができないので、何かおかしいなと思ったらPCR検査をするなどして、気をつけて作業をしたいと思います。
厳しい状況は続いていますが、愛媛は生産に関わる人数など生産力は全国トップレベルだと思うので、アコヤガイの稚貝の大量死を少しでも食い止め、ことしは日本一を目指したいです」

取材を終えて

取材を終えて

今回取材していていちばん印象に残っているのは、真珠の生産量が全国2位に転じたことを地元の住民のみなさんが悔しがっている姿です。

それほどまでに多くの愛媛県民が真珠産業を誇りに思っていることを強く感じました。

生産量は2位に転落しましたが、品質や生産力は日本一だという力強い言葉も聞きました。

アコヤガイの大量死の対策が進み、生産者が通常どおりの養殖ができるようになることを願いながら、引き続き取材を通じて応援していきたいと思います。

松山放送局記者
後藤 駿介
2016年入局
前任地は福島県の南相馬支局、震災と原発事故について取材してきた
これまでの取材でいちばんほれたのは逆境の中、大漁を目指す相馬の漁師 愛媛でも大漁目指して取材にまい進中

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