カラスは「0」を数字として扱っていた
研究では、2羽のオスのハシボソガラス(Corvus corone)を用いて、スクリーンのタッチテストを行いました。
実験では、0〜4個の黒いドットを打った灰色の円図形を示し、そのサンプル画像に続いて、同じ数または異なる数のドットが打たれたテスト画像を表示します。
カラスは、2つの画像のドット数が一致した場合はスクリーンをつつき、一致しなかった場合はじっとしているように訓練されました。
以前に行われた同様の実験(PNAS,2015)では、カラスは約75%の確率で画像ペアの正しい識別に成功しています。
興味深い点は、2つのドット数の差が大きいほど、より正確に反応したことです。
反対に、1と4のように離れた数よりも、2と3のように近い数の場合に誤答率が上がっていました。
この現象は「数的距離効果(numerical distance effect)」として知られており、サルやヒトでも観察されます。
一方で、当時の実験は「0」を示すドットなし画像を取り入れていません。
そこで今回は、0〜4個のドット数で実験。
結果、カラスは、0と他の整数を識別できることが示されたのです。
しかし、最も注目すべきは、カラスが0に対しても数的距離効果を示したことでした。
つまり、ドット数2、3、4の画像より、ドット数0と1の画像を混同することが多かったのです。
「これはカラスが、0を単に『何もない』か『何かある』の違いではなく、実際に数量として捉えていることを示唆する」とニーダー氏は指摘します。
それでは、カラスの脳は数字を認識する際、どのように反応しているのでしょうか。
研究チームは、脳活動をより深く理解するために、小さなワイヤーをカラスの脳に埋め込み、テスト中の電気的活動を記録しました。
対象にした神経細胞は、カラスの脳の後部に位置する「脳外套(pallium)」という領域で、高度な認知機能を司ることで知られます。
この状態で先と同じテストを行い、1羽のカラスから233個、もう1羽から268個、計500個以上の神経細胞から記録を取りました。
その結果、特定のドット数に対応して、特定のサブグループの神経細胞が活性化していたのです。
例えば、ドット数2に反応して急に発火し始めるものもあれば、4に反応して発火するものもありました。
面白いことに、特定の数とスクリーン上の数の差が大きくなるほど、神経細胞の活動量が低下していたのです。
ニーダー氏は、これについて「カラスが数値をお互いに関連づけて認識していることを示す」と指摘。
「1の次は2、2の次は3というように、数列に沿って順番に並んでいるという、数の秩序性を理解している」と説明します。
さらに、特定の神経細胞の発火は「0」に対しても見られました。
これらの神経細胞は、スクリーン上のドット数が増えるほど、あるいは0から離れるほど、活動量が低下したのです。
「以上の結果をまとめると、カラスは確かに0の概念を理解していることが分かる」と研究チームは結論します。
その一方で、0を理解することで、カラスにどんなメリットがあるのかは分かりません。
ニーダー氏は「1個のリンゴと2個のリンゴを区別できることは生存に役立つでしょう。しかし、何もないことを量として理解することが、カラスにとってすぐに役立つとは思えない」と話します。
今のところ、0を理解できることで知られる動物は、ヒトを除いて、カラスとアカゲザル、それからミツバチのみです。
日常生活で高度な数学を使わないはずの彼らが、なぜ0を理解しているのか、一体どんな有用性があるのか?
研究チームは今後、この点に焦点を当てて、調査を続けていく予定です。
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