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コロナ狂騒録【電子特典付き】 Kindle版
特集
730日の"失敗"のメカニズム
日本政府はなぜ,パンデミック防止に失敗したのか。
政府とメディアの罪
医師·作家 海堂 尊
本稿執筆中の2021 年11月現在,東京都における新型
コロナウイルスの新規感染者は一桁に下がる日もあり,
重症者も減少している。そんな中,第194回衆議院総選
挙で政権与党の自民党は議席を減らしたものの,単独過
半数を得た。これは民意なのだろうが,自民党に投票し
た人々に忘れてほしくないことがある。自民党,そして
厚労省が実施したコロナ対策は的外れで,一時的に医療
崩壊をさせた政策だったということである。
表題の問い,「日本政府はなぜ,パンデミック防止に
海堂 尊(かいどう たける)
1961年,千葉県生まれ。千葉大学医
学部卒業。千葉大学大学院博士課程修
了。2006年,『チーム·バチスタの栄
光』(宝島社)で,第4回「このミス
テリーがすごい!」大賞を受賞しデビ
ュー。「バチスタ」シリーズは累計
1000 万部を超える。多くの作品が映
像化され,著書多数。最新刊に『コロ
ナ狂騒録」(宝島社),『医学のつばさ』
(KADOKAWA)がある。
渡航歴のある者に限定し続けた。5月17日に大阪,兵
庫県内の学生等84名の感染が確認されている。この時
に大阪,神戸などでは人流抑制が指示され,経済活動が
破綻に近い状態になった**。
問題は,その状態になっても厚労省は渡航歴のある患
者にのみ PCR を実施するとした。検疫対策の指示を撤
回していないことにある。渡航歴のない患者が発生して
いるということは新型インフルエンザが国内に入ってい
るわけだから,PCR 検査を渡航歴のある人物に限定す
るのは明白な間違いだ。こうして「PCR 適応対象を絞る」
ことにより市中感染者の発見が遅れ,感染拡大につなが
ったのである。よく「後知恵ならどうとも批判できる」
と言われるが,これは「衛生学の基本中の基本」なので、
それに適応していないという批判は「後知恵」ではなく。
「原則からの逸脱の指摘」である。
こうした対策の問題点を渦中で指摘するのは困難であ
る。筆者はこの時,フジテレビ朝の情報番組「特ダネ」
のコメンテーターをしていたが,番組でこうした問題点
を指摘できなかった。番組開始前の打ち合わせに沿って
番組は進行し,あるニュースに関しては「自由に30 秒
くらいでコメントをお願いします」等と指示されるが、
検疫問題はニュース報道に徹してコメントを言う機会が
与えられず、番組制作スタッフの一存で言説を封殺する
のは容易いと実感させられた。
こうしたマイルドな言論封殺の手法は今回のコロナ騒
動でも踏襲されている。SNSやニュース番組で菅政権
の感染症対策に対し医学的批判を重ねたインターパーク
倉持呼吸器内科の倉持仁院長が夕方の情報番組に出演し
た時,キャスターとアナウンサーが自分たちの感想を話
失敗したのか」の回答は簡単である。
「衛生学の基本を踏み外した対策を取ったから」だ。
では衛生学の基本とは何か。「疑わしき人を検査し催
患と確定し,患者を隔離する」ということである。
本稿では政府,及び厚労省が執った政策が,この基本
原則を外した点を記録しておく。詳細にすると論点がぼ
やけるので概略を記そう。詳細は筆者の最新作「コロナ
狂騒録」*1と前作『コロナ黙示録」*2 を合わせてお読み
いただけるとより深く理解可能である。この2作はフィ
クションであるが,感染症対策の医療部分に関しては事
実と学問原則に基づいて執筆しているからである。
1
2009年豚インフルエンザ騒動
始めに2009年にメキシコで発生した豚インフルエン
ザに関する衛生学的対策の間違いを指摘しておく。
筆者はその感染対策をモチーフに2010年,『週刊新潮」
で「ナニワ·モンスター」*3 を連載した。
実際の経緯は以下のようである。4月15日「豚イン
フルエンザ」が米国とメキシコで発生し,4月28日に
WHO がフェーズ 4,4月29日にフェーズ5へ引き上げた。
5月9日,海外の修学旅行から帰国した高校生に3名の
感染者(後に1名発症)が発見され隔離,濃厚接触者を
5月15日まで停留している。ここで国は成田空港に発
熱探知のためのモニタを設置する等,水際防衛をしたが、
対策がされたのは成田空港だけだった。
海外からの入国者を全てモニタしなければ無意味なの
は,小学生でもわかるだろう。
5月15日,渡航歴のない高校生の催患が判明し,国
内感染例1例目となる。ところが厚労省は PCR検査を
22
月刊/保険診療·2022年1月
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