エアコンを発明した天才とは? 最初の用途は人のためではなかった
真夏の猛暑においては、もはやエアコンなしで生活することは考えられません。
エアコンのある時代に生まれて神に感謝… いや、発明した人に感謝したくなります。
では、夏にも冬にも重宝する「エアコン(AC、air conditioning)」を発明した天才とは、一体誰なのでしょうか?
身近でありながら意外と知られていない、エアコン誕生の秘密に迫りましょう。
"エアコン第一号機の発明者"として記録されているのは、アメリカのエンジニア、ウィリス・キャリア(Willis Carrier、1876〜1950)です。
キャリアは1876年に、ニューヨークで生を受け、若い頃から時計やミシンの修理など、機械いじりを得意としていました。
1895年にコーネル大学に進学し、1901年に機械工学の学士号を取得。
卒業後は、換気システムの開発を手がける企業「バッファロー・フォージ・カンパニー(Buffalo Forge Company)」に入社し、コーヒー豆や材木を乾燥させるためのヒーターシステムの設計に務めました。
そして1902年に、キャリアは技術者として大きな転機を迎えます。
ブルックリンにあった印刷会社「サケット・ウィルヘルム・リトグラフ&パブリッシング・カンパニー(Sackett-Wilhelms Lithographing & Publishing Company)」から、室内の湿度を抑える機械を作ってほしい、との依頼を受けたのです。
というのも、印刷工場内が高温多湿の状態になると、印刷紙が水分を吸ってしまい、収縮して平滑性が失われ、思うようにインクがプリントできなくなるのです。
そこでキャリアは、この問題を解決するため、ベルト駆動の機械システムを開発しました。
仕組みは以下の通りです。
まず、機械が室内の熱気を取り込み、チリやホコリを取り除くフィルターに通しながら、水のスプレー(噴霧器)をかけます。
処理された空気は、化学物質(冷媒)の入ったコイルパイプに通され、空気中の水分を飛ばして湿度を下げていきます。
あとは、この除湿された空気を工場内に送り出すだけです。
(ちなみに、この機械は化学物質を変えることで「加湿」も可能でした。それゆえ、クーラーではなく、あくまで「エアコン:空気調節器」なのです)
キャリアの画期的な発明は、印刷工場の難題を完璧に解決しました。
ただ、この機械は、他の革命的な発明品の例にもれず、かなり巨大だったようです。
(携帯は当初、ショルダーバッグくらいありましたし、パソコンも大型の本棚と同等のサイズでした)
キャリアの開発した機械は、"世界初のスプレー式空調機器"として認定され、1906年に、これを「Apparatus for Treating Air(空気を取り扱う装置)」と命名して、特許を取得しました。
このように、世界最初のエアコンは、人が涼むためではなく、印刷工場の湿気を取り除くために作られたのです。
ところが、これを工場内に設置してから、非常に面白いことが起こりました。
お昼休憩になると、工場員たちがこぞって機械の近くに集まるようになったのです。
それもそのはず、除湿された空気は冷却されてもいますから、ヒンヤリした空気が蒸し暑い肌に心地よかったのでしょう。
こうして、エアコンは、室内を冷やすクーラーとしても使われるようになりました。
キャリアは、一粒で二度おいしい機械を作り上げたのです。
キャリアはその後、1914年の第一次大戦を機に、12年勤めた同社を辞め、数名の技術者とともに、新たな会社を設立。
この会社は現在も「キャリア・グローバル・コーポレーション(Carrier Global Corporation)」として存在し、世界150カ国以上でエアコンや冷凍庫の販売を手がけています。
もちろん、キャリアの作ったエアコンは完全無欠だったわけではありませんし(冷却用の化学物質には有害なものも含まれていた)、のちの時代で、サイズや形状、機能の大幅な改良がなされました。
(冷却用の化学物質も現在は、ハイドロフルオロカーボン:HFCという塩素ガスを含まない、安全なものを使っている)
しかし、キャリアの発明がなければ、エアコンの登場は今よりずっと遅れていたかもしれません。
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