2021年12月22日水曜日

グリーン・ニューディールを勝ち取れ (気候危機、貧困、差別に立ち向かうサンライズ・ムーブメント) | ヴァルシニ・プラカシュ, ギド・ジルジェンティ, 朴勝俊, 山崎一郎, 長谷川羽衣子, 大石あきこ, cargo, 青木嵩, ヒル・ダリア・エイミー |本 | 通販 | Amazon

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アメリカのグリーン・ニューディール政策が導入された経緯を知りたくて、この本を買いました。
読んでみて、今、バイデン政権が進めているグリーン・ニューディール政策が、実は、1981年から2000年に生まれたミレニアル世代の若者たちの政治運動によって実現されたものであることが分かりました。
グリーン・ニューディール政策について詳しく知りたい方は、ジェレミーリフキン氏の「グローバル・グリーン・ニューディール」を読んでください。

1930年代、アメリカの大恐慌時に、ルーズベルト大統領は、大量の国債を発行し、失業者を雇用し、公共事業を行なって、アメリカに繁栄をもたらしました。

今日、世界は、CO2の排出による地球温暖化によって、記録的な大型ハリケーン、豪雨、山林火災などの異常気象。北極や南極の氷が溶け、海水面が上昇し、低地の浸水、高潮などが起きています。このままだと、地球の生態系が破壊されるなど、大変なことになる。その対策は待ったなしです。

そこで、CO2の排出量を、2030年までに半減。2050年までにゼロにする取り決めが世界で結ばれました。
そのためには、火力発電を太陽光発電、風力発電に切り替え、内燃自動車を電気自動車に置き換え、住宅、建物を断熱化するなど、CO2の排出量を抑えねばならない。

そのためには、アメリカはニューディール政策や、第二次世界大戦のような戦時経済体制によって、火力発電、原発、石油採掘などを縮小、廃止して、失業者を、国が国債などを財源として雇用。太陽光パネルの設置、風力発電設備の設置、送電網の設置、住宅、建物などの断熱化、などの公共事業を行なって、CO2の排出を抑え、雇用を生み出し、アメリカ経済を発展させ、地球温暖化を回避するという、グリーン・ニューディール政策を導入することになった。
ミレニアル世代の政治活動がバイデン政権を生み出し、グリーン・ニューディール政策は、現実のものとなった。

2018年のアメリカ下院選挙での民主党の勝利について、サンライズ・ムーブメントのリーダー、ヴァルシニ・ブラカシュは、次のように述べています。

「2018年11月7日、選挙日の翌朝、私が目を覚ますと、ひとつのニュースが目に飛び込んできました。中間選挙で勝利したばかりのナンシー・ロペスが、下院議長としての新しい権限を使って「頻発する異常気象について国民を教育する」ための委員会を設立するというのです。

これは私個人に関わるニュースでした。「サンライズ・ムーブメント」という名の若者の運動は、2017年半ばに設立され、この時の選挙にむけて発展してきました。私はその共同設立者であり、常務理事です。気候変動を[2018年の]中間選挙の重要な争点にすることが私たちの使命でした。それは、何百万もの良質な雇用を創出するための包括的な政策を実現させるという、最終的な目標に向けた重要なステップでした。

私たちは選挙戦略の焦点を二つに絞りました。一つは、民主党と共和党の両方の政治家たちと、気候変動で利益を得ている化石燃料企業の経営者たちとの金銭的なつながりを暴露することで、もう一つは、化石燃料関連の資金提供を断り、野心的な気候政策を支持してくれる民主党の政治家を応援することでした。……

全国の「サンライザー」たちが6月から11月まで、民主党の候補者の宣伝や、有権者の登録のために奔走していたのは、そのためです。前回の中間選挙と比べて400万人も多くの若者が投票に訪れ、民主党が下院を取り戻すのに貢献しました。私たちの世代は迷わず民主党を支持しました。何としてもドナルド・トランプを牽制する必要があったからです。」
(15ページから16ページ)

「カリフォルニア州では山火事が次々と都市を焼き尽くしています。最新の国連報告書によると、人類がいまのような文明を守るために、経済と社会を急いで変革させようとしても、時間の猶予は12年しかありません。そういうことですから、そういう話がしたいのです。しかし、支配層の民主党員は化石燃料関連企業の経営者やロビイストから数十万ドル(数千万円)を受け取って、2021年までに本当の温暖化対策を打ち出すつもりなどないと言っています。これは私たちの世代にとっては、死刑宣告にひとしいものです。」
(18ページ)

リアナ・グン=ライトは、経済的総動員について、次のように述べています。

「時間枠を考えれば、気候危機は巨大かつ存亡に関わるもので、しかも日に日に悪化しており、経済全体のエネルギー転換によってのみ解決可能であり、それには経済的総動員が必要である。クリーンなエネルギーインフラの生産を早急に拡大し、排出量を急速に削減できるのは、調整のとれた国を挙げての取り組みだけだ。

エネルギー部門を考えてみよう。2018年にはアメリカで消費されたエネルギーのうち、再生可能エネルギー源によるものはわずか11%に過ぎなかった。電気自動車は、販売されている全自動車の2%に満たなかった。建物は、アメリカの二酸化炭素排出量の40%を占めた。ある調査によると、100%再生可能エネルギーに移行するためには、アメリカでは7800万枚の太陽光パネルや、48万5000台の風力発電機、4万8000箇所の太陽光発電所が必要だと見積もられている。これらは風力と太陽光によって全エネルギーの約95%(約150万メガワット)を発電するために、新規に必要となるものだ。実用規模の風力タービンには約8000個の部品があり、その多くは設置場所の近くで現地製造する必要がある。これはエネルギー分野に限ったことではない。住宅や輸送、農業、製造業など、アメリカ経済のほぼすべての分野で同様の変革が必要とされている。そして、第二次世界大戦と同様に、アメリカは自国の装備を整えるだけでなく、他国のためにも低炭素製品を開発・生産しなければならない。

産業総動員の例にもれず、これは必要な技術を生み出すだけでは不十分だ。それを支えるインフラを構築し、管理しなければならないのだ。それには、再生可能エネルギーを統合できる「スマート」な電力網を支えるための何百万マイルもの新しい通信ケーブルや、電気自動車のための何千もの新しい充電ステーション、そして家庭や企業に設置する電気炉やヒーター、ストーブなどを生産するための、新しい製造施設が必要となる。これはまだ始まりに過ぎない。炭素集約的な工業、農業の工程を転換するための、新しい慣行も必要だ。排出量をゼロにするために私たちは再生農業や養殖場、さらには電気分解のようなものを全て、早急に必要としているのだ。」
(103ページから104ページ)

「…バーニー・サンダース上院議員のグリーン・ニューディール計画は、16兆ドル〔1760兆円〕の投資を行うとしている。その内訳は、再生可能エネルギーと送電網の近代化に2兆ドル〔220兆円〕、低・中所得者の住宅や中小企業のための断熱及び改修に約3兆ドル〔330兆円〕、労働者層の家庭が電気自動車を購入できるようにするための約2.7兆ドル〔297兆円〕などである。またこの計画は気候正義回復基金に対して400億ドル〔4兆4000億円〕を投資するとしている。これは確実なバックアップ電源を備えたコミュニティ・センターやシェルター、それに「最前線」のコミュニティのための湿地修復や気候適応など、様々なプロジェクトに使用される。」
(111ページ)

経済学者の、ジョゼフ・スティグリッツは、次のように述べています。

「米国はすでに、気候変動を無視することによって金銭的な代償を支払っている。近年では洪水やハリケーン、森林火災などの気象関連災害でGDPのほぼ2%を失っている。「1オンスの予防策は1ポンドの治療に値する」という格言があるが、我々は気候変動に対して何らかの形でツケを払わされることになるだろう。

何もしないことのコストは、気候変動を抑制するために温室効果ガスの排出を抑制することに伴うコストよりも大きい。」
(115ページ)

「…政府には借り入れが必要だという意見もあるだろう。財政赤字フェティシズムがついに打ち破られたらしいことは、もちろん良いニュースである〔財政赤字フェティシズムとは、財政赤字や「国の借金」が恐ろしい問題だと思い込むこと〕……
バランスシートが企業のものであろうと政府のものであろうと、その負債の側だけに注目すべきではない。生産性の高い投資に対する資金調達のために負債が増加するのであれば、企業や政府の状態は改善する。そして、経済成長率が実質金利よりも高ければ(明らかに現在の状況はそうなっている)、債務返済の負担は時間が経つにつれて軽減されることは自明である。第二次世界大戦末期の米国の債務対GDP比は約118%であったが、これは何の問題もなかった。投資が続いたため、経済は成長を続け、やがて債務対GDP比は1955年には約55%となり、1964年には40%以下にまで低下したのだ。」
(121ページから122ページ)

アメリカの連邦議会のグリーン・ニューディール決議には以下の5つの目標がある。(94ページ)

「1、全てのコミュニティと労働者のための公平で公正な移行…を通じて、温室効果ガスの差し引きゼロ排出…を達成する。

2、何百万もの良質で高賃金の雇用を創出し、米国のすべての人々のための繁栄と経済的安全保障を確保する。

3、米国のインフラと産業に投資し、21世紀の課題に持続可能な形で対応する。

4、きれいな空気や水と、気候とコミュニティの回復力、健康的な食糧、自然へのアクセス、そして持続可能な環境を、全ての人々に保障する。

5、最前線の脆弱なコミュニティに対する現在の抑圧を止め、未来の抑圧を防ぎ、歴史的な抑圧を補償して、正義と公平性を促進する。そこには、先住民や有色人種、移民、脱工業化地域、貧困層、低所得労働者、女性、高齢者、家を失った人々、障害者、若者たちのコミュニティが含まれる。」

最後に、アレクサンドリア・ロハスとワリード・シャヒドは、議会とホワイトハウスを制覇するプロセスをこう述べています。(266ページから267ページ)

「1、運動が始まる
オキュパイ・ウオールストリート運動や、キーストーン・ダコタ・アクセス・パイプラインに対する反対運動をへて、経済問題や気候変動問題に対する民主党の立場に対して民主党支持者の多くが不満を抱いていることを受けて、サンライズ運動が始まる。

2、運動は問題に対する関心を呼び起こす
サンライズは組織化と抗議運動を通じて気候危機への関心を高め、ミレニアル世代の人々の物語を広める。彼らは、選挙で選ばれた議員たちが、自分たちから住みよい安全な未来を略奪するのを目の当たりした人たちである。

3、派閥が運動の大義を採用して中間選挙に勝利する
正義民主党はオカシオ=コルテスを候補に立てて、クラウリー下院議員を倒す。民主党内で新派閥が成長する。オカシオ=コルテスは11月の座り込みで、サンライズと手を組み、まもなく決議案を提出して、ナンシー・ロペスや民主党指導者に対し、党内の新勢力や新思想に応えるよう要求する。

4、サンライズ運動の要求が民主党の優先事項となる
サンライズと正義民主党が、グリーン・ニューディールを支持するように民主党に圧力をかける。多くの議員は予備選挙で挑戦を受けることを恐れ、党の支持基盤からズレないようにする。気候変動は、民主党予備選挙の関心事のトップ3に浮上する。民主党の主な大統領候補はほぼ全員がグリーン・ニューディールを支持していると述べ、100人以上の連邦議会議員がその決議に賛同する。

5、勝利する
派閥は新たな支持者たちにエネルギーを与え、民主党は共和党を倒し、議会とホワイトハウスを制覇する。……」

ミレニアル世代の若者たちが、どのような政治活動によって、グリーン・ニューディール政策を実現したかが良く分かる本だと思います。日本のミレニアル世代の若者たちに読んでもらいたい本だと思います。

鈴木敦雄(公認会計士)

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