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- まず見るならこの1本
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プロフィール
森英恵
Hanae Mori
1926-
- 職種:
- 衣裳デザイナー
解説
まず観るならこの1本:『街燈』(中平康監督、1957年)
森英恵による衣裳の美しさが際立った作品として、先に挙げた『太陽の季節』や『狂った果実』があるものの、今回は『街燈』(1957年)をおすすめしたい。本作は「衣裳デザイン 森英恵」とクレジットされた貴重な1本であり、2021年ようやくオンラインでの視聴が可能になった。
『街燈』は1953年出版の永井龍男による新聞連載小説『外燈』を原作とし、監督は『狂った果実』の中平康である。主人公は銀座の洋装店GINのオーナーであるドレスメーカー吟子(月丘夢路)で、その友人千鶴子(南田洋子)もナルシス洋装店を経営する。物語は、能瀬(葉山良二)というサラリーマンが千鶴子を訪ねるところから始まる。彼は、千鶴子がたまたま拾って送付した定期券の持ち主の兄で、彼によれば、弟は故意に定期券を落としたという。理由は、先輩学生の小出(岡田眞澄)が同じ行為をした結果、現在銀座のある洋裁店で働き、しかもそこのオーナーと交際にまで発展したからであるという。そのオーナーこそ、千鶴子の友人吟子だった。森はこの、吟子と千鶴子の衣裳をデザインした。
映像美への強いこだわりを持った監督中平にとって、森英恵は彼が思い描く世界観の実現に必要不可欠であった。森は「…中平康監督は、特に映画の中のファッション表現を重視して衣裳の話題が尽きなかった」【4】と振り返る。腕のあるオーナーとして仕事をこなし、恋愛もする吟子のスタイルは、ファッショナブルなスーツやワンピースにハイヒールと都会的。一方、恋愛に奥手な千鶴子は、プルオーバーやカーディガン、パンツにフラットシューズといった、よりカジュアルなスタイル。こうして、互いに異なるふたりは友情を深め、衣裳はその雰囲気作りに一役買っている。
この作品には原作からの大胆な翻案箇所がある。まずはファッションショーの存在。これは原作に一切登場せず、台本にも、ひと言「ファッションショウ」という記述があるのみである。従って中平監督と森が話し合って創造された、新しいシーンではないかと推測される。こうして、観客に対してショーの会場にいるかのようなファンタジーを呼び起こす、ふたりによる協働ならではの映像表現が生まれたと考えられる。
もう1点は最終章。吟子は大久保というパトロンから支援を得てGINの開店を叶える上、若い小出を囲う役どころだが、原作において小出とは縁を切るものの、大久保と別れることはない。一方の映画では、小出と大久保の両者に自ら別れを切り出す。ここに、男性に頼らない女性像を打ち出す中平の狙いが見え隠れする。吟子と千鶴子。映画が製作された当時の森にも通じる女性たちの前向きに生きる姿と着こなしは、現代にも訴えかける力を十分に持つ。その古びることのない魅力は衣裳の貢献によるのではないだろうか。(執筆:辰巳知広)
フィルモグラフィー
注
※1 詳しい職務内容は用語集の「衣裳部」を参照。https://wpjc.h.kyoto-u.ac.jp/resource/
※2 詳しくは用語集の「五社協定」を参照。https://wpjc.h.kyoto-u.ac.jp/resource/
※3 森英恵「映画衣裳という名の学校」『グッドバイ バタフライ』文藝春秋、2010年、51-52頁。
※4 森英恵、前掲書、55頁。
公開日:2022.02.22 最終更新日:2022.02.27
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