2020年6月25日木曜日

シャウプ使節団日本税制報告書

シャウプ使節団日本税制報告書(序文、目次)
http://www.rsl.waikei.jp/shoup/shoupj00.html

シャウプ使節団日本税制報告書

この E-text (html) は 底本:「シャウプ使節団日本税制報告書」をもとにしています。
底本:シヤウプ使節団日本税制報告書 巻1-4 、連合国最高司令官本部
   1949年 刊   総合司令部民間情報教育局 訳

シャウプ使節団日本税制報告書

序文 (FOREWORD)

 税制使節団は、連合国最高司令官の要請によって編成されたものであるが、日本の租税制度に関する本報告書を右連合国最高司令官に提出するものである。
 本使節団は、日本における恒久的な租税制度を立案することをその主要な目的としている。従って、本年度および明年度における財政的な問題を超えて考慮されるべき諸問題に重点がおかれている。 しかしながら、われわれの勧告が1949-50会計年度および1950-51会計年度の予算にどのような影響をおよぼすかについては、細部にわたってこれを具体的に論ずる必要があった。長期の計画は1949年の春、ドッジ使節団の勧告の助成によって最近達せられた経済安定を阻害することなく、実施され得るようなものでなければならない。
 この長期の計画自体は、二者の中のいずれかのものになりうるものであった。すなわち、われわれは、周到に保存された資料および困難な問題の聡明な分析によらないで、所得、富、および事業活動の外形標準に依存する多少幼稚な租税制度を勧告することもできたのであるが、かかる租税制度によって必要な収入は確保することができるとしても、それは納税者間の甚しい不公平を永続せしめ、公民の責任観を鈍化し、地方団体をして不安な国家財政依存を継続せしめ、ひいては生産および分配に好ましからざる経済的影響をもたらすものである。加えるに、われわれは、租税法規の公平且つ能率的な施行および日本の納税者の高度な納税に対する協力を得るための困難は必ずしも不可避なものでないとの確信を得たのである。従って、われわれの目的は、商工業者および相当な生計を営むすべての納税者が記帳を励行し、公平に関連するかなり複雑な問題を慎重に論究することを辞さないということに依存する近代的な制度を勧告するにある。同時に、また、小さな納税者には、申告および納税の手続を簡単なものにしておくべきである。このような方向で問題を検討すれば、日本が今後数年のうちに、もしそれを欲するならば、恐らく世界で最もすぐれた租税制度をもてないという理由はなんら認められないのである。いずれにせよ、本報告の一貫した狙いは、かかる目標に通ずる途を開放しておくことにある。
 ここにわれわれが勧告しているのは、租税制度であって、相互に関連のない多くの別個の措置ではない。一切の重要な勧告事項および細かい勧告事項の多くは、相互に関連をもっている。もし重要な勧告事項の一部が排除されるとすれば、他の部分は、その結果価値を減じ、場合によっては有害のものともなろう。従って、われわれは、勧告の一部のみを取入れることに伴う結果については責任を負わない。例えば、われわれは、所得税において法人税との二重課税を避け、同時に常習の脱税を防止するような租税制度を立案した。このような制度のうちでも重要な部分とされているのは、譲渡所得を全額課税し、譲渡損失を全額控除することである。但し、その所得を数年にわたって繰越し、単に貨幣価値の変動に基く尨大な譲渡所得を控除することは認められる。もし現在実施されているように譲渡所得と損失が全額ではなく、何%しか算入されないものとすれば、われわれの勧告による法人税および所得税は大巾な改正を要するであろう。
 われわれ使節団の構成員は、米国における先約の許す範囲でこの仕事に多大の時間を捧げ、1949年4月から9月の間に随時日本に到着し日本から立ち去った。全体として使節団はこの研究に四カ月間を費した。5月と6月の大部分は、納税者、税務職員(国、都道府県および市町村)または他の者との談合に充てられた。北海道から九州までの日本全土にまたがる実地調査によって、東京以外の多くの情報を入手した。限られた紙面はこれらの談合でわれわれに資料や思いつきを惜しみなく提供した多数の人々に謝意を表すること許さない。しかし、ここに、G・H・Q経済科学局局長ウィリアム・F・マーカット少将、経済科学局歳入課長ハロルト・モス氏、大蔵大臣池田勇人氏および同氏の補佐官、特に、平田敬一郎氏と原純夫氏、また財政学の教授であり本使節団の公式の顧問を勤めた東京商科大学の井藤半弥教授、京都大学の汐見三郎教授および東京商科大学の都留重人教授ならびに日本政府外務省の赤谷源一氏等の多大の恩恵に浴したことを特に記しておきたい。更にわれわれは、租税制度の欠点を記入するのに役立つ手紙を送られた多くの納税者を含めて、われわれを援助した他のすべての方々に感謝するものである。
 本報告における勧告は本使節団のものであって総司令部、第八軍または日本政府はこれに対していかなる責任をも負わない。われわれは、この勧告が、総司令部の各局各課の担当官があらゆる点において妥当と見られる解決策を探求するにあたって重ねてきた幾多の努力にもかかわらず、なお、かれらが直面している特定の困難な諸問題から生ずる諸要請に適応するよう努力した。しかしこの報告に対する責任はわれわれのみが負うべきところのものである。
税制使節団の各構成員は、本報告の主要な結論においては大体意見は一致している。しかし、日本を立ち去る時期が各自異っていたため、報告の最終的なものはシャウプ、ヴィツクリー、ウオレンだけが眼を通した、従って勧告の全文に対して他の構成員は同じ程度の責任を負うべきではない。
 税制使節団の各委員の氏名および職名は左のとおりである。
ハワード・R・ボーエン=イリノイ大学、商業および経営経済学部長
ヂェローム・B・コーエン=ニューヨーク市立単科大学、経済学部教授
ローランド・F・ハットフィールド=ミネソタ州、セント・ポール収税庁、税制調査局長
カール・S・シャウプ=コロムビヤ大学、商学部教授兼政治学部大学院教授(税制使節団長)
スタンレー・S・サリー=カリホルニヤ洲、バークレー市、カリホルニヤ大学法学部教授
ウィリアム・C・ヴィツクリー=コロムビヤ大学、政治学部、大学院教授
ウィリアム・C・ウオレン=コロムビヤ大学、法学部教授
 日本語の訳文は、原文の最終的修正が行われている最中に、極端な時間の制限のもとになされたものである。対照上相違が生じた場合は、英文によるべきである。
東京において
C S シャウプ
1949年8月27日
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  • [ # この章の目次 --- e-text 版のみ ]
  • A節  租税収入総額
  • B節  租税収入と国民所得
  • C節  国、都道府県および市町村の財政関係
  • D節  直接税および間接税
  • E節  直接税の形態
  • F節  間接税の形態
  • G節  税務行政
  • H節  公平
  • I節  経済安定
 この章は、日本の現行租税制度を概説したものであって、第二章以下に述べる本使節団の勧告にかかる改正案の理解を容易ならしめようとするものである。

A  租税収入総額 (Total Tax Yield)

 国、都道府県および市町村を含む日本の租税制度は、本会計年度末、すなわち1950年3月31日までの十二カ月間に約七千八百億円の収入を見込んでいる。これは男、女、子供を問わず一人当り約九千五百円の負担である。標準世帯に近い一世帯五人の家族は直接に、または間接に、平均四万七千五百円の税金を納めることになる。工業労務者男子の平均賃銀月収入は、九千円を少し上回っている。従って、このような標準労務者がその税金を納めるには、彼の給料のほぼ五カ月半分を要する。しかし、この比較は、税金を誇張した見方であって、一般には、一家族には一人以上の所得者がいる場合が多い。のみならず、このような「平均税額」を納める者はほとんどいない。すなわち税制は、全般的に見て、標準家族が平均税額より低い税額を納める程度に累進的であると考えられる。一家族の平均税額が四万七千五百円であることは、別の見方からすれば一家族の煙草に充てる平均支出と比較することからもうかがうことができる。煙草特に巻煙草に対する消費の総支出額は、年千六百億円よりも若干少い。これは、かりに日本における煙草を消費する世帯総数が約千六百万戸とすれば一世帯当り年平均ほとんど一万円となる。もちろん、その支出の大部分は、政府収入すなわち政府の専売益金として徴収される。しかしながら、これらの消費者がかれらの選出した議員をとおして国会で可決することを欲する四万七千五百円の税負担に比して煙草の消費のために、一世帯当り年ほとんど一万円を消費することを欲し、またそれをなしうるということは注目すべきところである。
 本年度の政府歳出に比して、この税収総額はある意味においては大きいが、別の意味においてはそれ程大きくはない。政府の一般会計の歳出は、地方団体が消費するようにこれに対して与えるための交付金も債務償還のための支出も含まないで、本年度は五千億円を若干上回ることになる。地方歳出は、起債および国からの交付金を含めて約三千八百億円となる。したがって政府の歳出総額は、政府の特別会計及び債務償還の支出を除いて、約八千八百億円となる。これは税収総額より一千億円多い。しかし、この差額は税以外の他の普通歳入すなわち国及び地方の手数料収入、地代および雑収入ならびに貧困の地方団体がその住民から徴収した約四百億円のいわゆる自発的な寄付金によって十二分に補填されている。これらの収入を勘定に入れると、国の一般会計は約六百億円の黒字を生じ、これは債務償還に充てられるが、他方、地方予算において生ずる百八十億円の赤字は起債によって賄われる。したがって、全体としては、今春編成された予算における本年度の歳入は、歳出を約四百億円程度上回ることとなる。
 しかし、説明はこれでつきるわけではない。見返り資金は、政府の特別会計の一つであって、その収入は、米国の対日援助計画に基いて輸入される物資の日本消費者および商工業者への売却から得られるものである。この資金から、債務償還に少くとも六百億円が、また鉄道、電話および資本設備を改良、拡張しようとしているその他の経済分野の整備に恐らく八百億円程度が充当されるであろう。
 本年度の予算のみを考えるとき、税収総額は十分であるが、本年度の歳出と比較すれば特に大きいとはいえない。尤も過去数年間に亘る政策が変更されたことを考え合わせると、税収総額は非常に大きいものになっている。歳入が歳出に遥かに及ばなかった過去のインフレーションの時代に続いて超均衡予算時代が出現した。この突然の変化は、経済安定計画の重要な要素であったが、経済安定史にも未だ類例のない特筆すべき成果といわなければならない。これは、もちろん本年度の歳入が多すぎるということではない。将来日本においてインフレーションが昂進する虞れは今なお去ったわけではない。さらに前記の黒字を一部相殺する赤字が、特別会計のうちに発見されるかもしれない。
 国債の殆んど全部は、日本の金融機関が保有している。課税による債務の償還は、貨幣が一般大衆から取りあげられて、商業銀行または日本銀行の手中に入ることを意味し日本の現状において、債務償還のもたらす結果は、まず貨幣が流通過程から取りあげられることである。もちろん、金融機関は営業または消費部門に対して更に貸出することもあるが、しかしかような結果になることについては、債務償還の機構自体にはなんらの保証もない。それ故に、租税による国債償還は、デフレ的性質をもっているし、またそのような意図があるわけであるが、これまた経済安定計画の主要な要素である。見返資金による債務償還についても、また同様である。
 将来に残された問題は、どのような速度で債務償還が行わるべきかにある。余りに急速な債務償還は、デフレ的な加重によって経済を阻害する虞れがある。
 その限界が数字的にいってどの辺にあるかということは本報告の論ずる限りではない。しかし、この部門の研究は、いかなる時期においても良識ある判断が下せるように恒久的基礎の上に着手され、持続されるべきものである。
 右に述べたところは、インフレーション政策の努力を直ちに緩和すべきことを容認したものと解すべきではない。将来インフレーションが昂進することを抑制することがなお現在の急務である。

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