2021年9月9日木曜日

大発見!日本語にも冠詞があった。「お」

大発見!日本語にも冠詞があった。「お」

大発見!日本語にも冠詞があった。「お」

2014/06/03

こんにちは。「お」を研究しています。

用件はタイトルのとおりです。

この記事で言いたいこと

日本語にも冠詞がありました。

接頭辞の「お」です。

もう「日本語には冠詞がない」などと言ってほしくないぐらいです。

前回までのあらすじ

従来の「お」の解釈に不満だらけでした。

1)「お」と「御」の使い分けルールへの不満

「お+和語」「御+漢語」が原則である。

としながらも

ただし,美化語の場合は 「お料理」「お化粧」など,漢語の前でも「お」が好まれる。また,美化語の場合以外にも 「お加減」「お元気」(いずれも尊敬語で 「お+漢語」の例)など,変則的な場合もあるので,注意を要する。

としている文化審議会答申「敬語の指針(PDF)」(2007)では例外となる領域が大きすぎました。

そこで、こちらの記事で決定モデルを再構築しました。

2)すべて敬語扱いされていることへの不満

「敬語の指針」では「お」の分類に失敗しているように思えます。思うにその原因は、「お」を敬語としか考えていないからです。

「美化語」への不満

「お酒」は 「酒」という言い方と比較して「ものごとを,美化して述べている」のだと見られる。

賛成できません。

「便所」「小便」に「お」を伴っても、美化されているとは言いがたいからです。

「尊敬語」「謙譲語」への不満

「先生のお名前」は尊敬語、「先生へのお手紙」は、謙譲語に相当するのだそうです。

しかし

  • 「お」を取ると意味が変わってしまう「おさわりバー」の「おさわり」
  • 子供向けの歌や話に出てくる「おふね」「お麦」

これらを敬語へは分類しきれません。

敬語の向こう側へ

こちらの記事で、「お」をすべて敬語の文脈で取り扱うと、取りこぼしてしまう領域があることを指摘しました。

そして考察により、「お」の根源的な機能とは、あとに続くことばの具体性を高めることにあるとの結論に至りました。

ここからがそのつづきです。

「お」=冠詞説の誕生

具体性を高めることが根源的なはたらきであるならば、「お」とは日本語の冠詞ではないか。

との発想が浮かび上がってきました。

マーク・ピーターセンさんの『日本人の英語』(1988)から。

日本語で考えるときにも「a+名詞」と「名詞」とは異なる単語であることを認めるのがもっとも現実的だと思われる.(p.19)

これにならい、日本語で食事がらみの「お」を例に考えてみます。

  • お食事-食事
  • お弁当-弁当

では違いを認めがたいですが、

  • おめざ-めざ(め)
  • お昼-昼
  • おやつ-やつ(どき)
  • おにぎり-にぎり

は異なる単語とした方がよさそうです。

「お」が「付く」という発想への不満

『日本人の英語』での不定冠詞aに関する記述は、そのまま「お」に当てはまるように思えます。

区切りながら引用します。

日本の英文法書では"a(an)"の「用法と不使用」を論じるとき「名詞にaがつくかつかないか」あるいは「名詞にaをつけるかつけないか」の問題として取り上げるのが普通である.(pp.11-12)

「お」でもまったく同じです。「付ける」という発想です。「お~~」を事後的に、後ろ向きに見ています。

ところが,これは非現実的で,とても誤解を招く言い方である.ネイティブ・スピーカーにとって,「名詞にaをつける」という表現は無意味である.(p.12)

同じく日本語ネイティブ・スピーカーにとって、名詞や用言の活用形に「お」を付けるという表現は無意味であるととらえられないでしょうか。

英語で話すとき――ものを書くときも,考えるときも――先行して意味的カテゴリーを決めるのは名詞でなく,aの有無である.そのカテゴリーに適切な名詞が選ばれるのはその次である.もし「つける」で表現すれば,「aに名詞をつける」としかいいようがない.「名詞にaをつける」という考え方は,実際には英語の世界には存在しないからである.(p.12)

…本当は逆である.すでにあった,ちゃんとした意味をもっていたのは,"a second glass of the old Madeira"のglassではなく,そのaである.そして,glassという名詞の意味は不定冠詞のaに「つけられた」ことによって決まってくる.(p.13)

「お」に続く名詞も、「お」に「つけられた」ことによって決まってきます。

  • おしゃか
  • おじゃん
  • おでん
  • おはこ

など、日本語でも同様に、意味的カテゴリーを決める「お」に名詞がついていると考えてはどうでしょうか。

「お」が意味的カテゴリーを決める

「お」の後に、用言を名詞化する活用形を続ける場合でも同じです。

    <例>
  • (さわる) さわり → おさわり
  • (しぼる) しぼり → おしぼり
  • (出かける) 出かけ → お出かけ
  • (願う) 願い → お願い
  • (はらう) はらい → おはらい
  • (ひねる) ひねり → おひねり
  • (開く) 開き → お開き
  • (笑う) 笑い → お笑い

程度の差こそあれ、どの用例でも、名詞形と「お+名詞形」とでは意味が異なってきます。

「名詞形」と比べると、「お+名詞形」の方が特定のより具体的な事物を指しています。「お」が意味的カテゴリーを決めています。

まとめ

細かく考えていけば、「お」を完全には冠詞と同一視しきれない部分が出てきます。

「祈り」「お+祈り」のように意味の差が大きくない例、「お+のぼり+さん」のように、「お」単体では意味的カテゴリーを決めきれていない例があるためです。

それでもほぼ、「お」とは日本語の冠詞ととらえれば、だいたいうまくいきます。

「お」は敬語表現とセットで生まれたことばに違いないでしょうが、「お」の本質とは「具体化」「具体性を高めること」です。

お疲れした

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