21世紀は人に優しい新たな戦争の時代~戦場のAI化が進み「死傷ゼロ」
中国軍の現役将校が縦横に展開するAI戦略の未来の驚くべき中身
AI兵器の七つの優位性
無人のAI兵器がなぜ優れているのか。本書では7点にわたる優位性を挙げている。1 自由な設計が可能で、これまでの兵器システムの応用だけでなく、新規の兵器装備を作り出すこともできる。
2 小さくすることやステルス機能の強化が可能。壁を上りパイプを通り抜けることもでき、無人水中航走体は潜行接近も可能だ。
3 人間の能力を超える超長時間の行動持続能力。英国キネティク社の太陽電池式無人機は14日間の連続飛行記録を樹立した。
4 超絶機動性能。無人航空機であれば有人の耐G能力の2倍を超える20G前後の負荷に耐え、毎秒3回の360度ロールも可能。
5 命令への正確な服従。特殊な危険環境に置かれた戦場では人間は生存本能に従うが、AIは過酷な環境に恐れも萎縮もせず行動。
6 訓練時間の短縮。飛行経験のない操縦士でも1年以内の訓練で無人機を操縦。数分間の訓練で無人ヘリの着陸に成功した事例も。
7 コスト削減。無人機は小型化が可能で安全装置も不要。オペレーターの給与や医療費、住宅手配などは操縦士より格段に低廉。
これらの優位点を備えたAI兵器は、今後まちがいなく世界の戦略兵器の中心になっていく。その結果、どのようなことが起こるのか。
戦場で死傷者がゼロになる?
著者の中国人民軍上級大佐は、戦場における「死傷ゼロ」が実現する可能性があると見ている。
「将来、知能化戦場では無人機、地上ロボット、水上・水中の艦艇、宇宙船などのさまざまな知能無人化プラットフォームが大量に使用され、戦場の有人操縦システムは大幅に減少する。(略)知能化無人システムを主戦力とする軍隊は、人員の死傷を最小にとどめ、場合によっては戦闘死者を出さない状況も実現させる」
さらにその結果、世論の動向は強く「死傷ゼロ」を求めるようになる。「なぜわれわれの子供と冷酷なロボットを戦わせなければならないのか」「なぜわれわれの子供の代わりにロボットを使わないのか」「戦争は機械同士が行うものであるべきである」という考え方が世論の主流となり、政府は限定的な戦争において常に「死傷ゼロ」を目指さなければならなくなる。
今後、戦場のAI化が進み、人間の戦闘員数は減少し続ける。政権維持を狙う政府は人間の戦闘員起用に慎重になり、人類の戦争形態はまさに「死傷ゼロ」の時代に突入していく。これが、21世紀の戦争形態に対する著者の見通しだ。
『中国軍人が観る「人に優しい」新たな戦争』という本書の副題の意味は、この見通しに由来している。
しかし、その反面「死傷ゼロ」がもたらす結果として、戦争への引き金を引きやすくなるという側面も指摘されている。古代ローマで戦闘士同士の戦いを市民が楽しんだように、ロボットやAI兵器による限定戦争が弄ばれる恐れもある、という心配だ。
戦争の形態が劇的に変わる可能性
もうひとつ本書の中で指摘されているAI時代の戦争の変化は、まさに「ゲームのルール」が変わるのではないか、ということだ。
近い未来において、AIの進化と並んでマイクロ飛行体やマイクロ機器、ナノテクノロジーの技術が発展し、AI兵器は鳥や蚊、トンボ、蜂、蜘蛛など小さい昆虫の形態を取る。これら昆虫大のAI兵器は、自分自身で配管や穴、隙間、窓などの間隙空間から室内に入り込み、敵国の政府首脳や要人、指揮官などを至近距離から殺害する。
しかし、昆虫ヒットマンは相手国の激しい反発や怒りを招く可能性があるために、この方法を採る前には「世論戦」を仕掛けて、相手政権への国内世論の反発を高めておくことが必要だ。
いずれにしても、AI兵器が中心になることで戦争の形態は劇的に変わっていく可能性がある。まさにホメロスの描いた『イリアス』の時代、トロイ戦争でしばしば見られた大将同士の戦いに発想としては近づいていく可能性もある。
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