2024年9月1日日曜日

銀河団の衝突で「ダークマター」が通常物質から分離したことが判明、ダークマターと通常物質の速度差が初観測される - GIGAZINE

銀河団の衝突で「ダークマター」が通常物質から分離したことが判明、ダークマターと通常物質の速度差が初観測される - GIGAZINE

銀河団の衝突で「ダークマター」が通常物質から分離したことが判明、ダークマターと通常物質の速度差が初観測される

2台のトラックが衝突すると、荷台に固定されていなかった貨物はトラックから離れて飛んでいってしまいます。同様に、巨大な銀河団同士が衝突した際に、普通の方法では観測できないダークマターが通常の物質から分離された現象を捉えることに成功したと、天文学者らが発表しました。

ICM-SHOX. I. Methodology Overview and Discovery of a Gas–Dark Matter Velocity Decoupling in the MACS J0018.5+1626 Merger - IOPscience
https://iopscience.iop.org/article/10.3847/1538-4357/ad3fb5

Dark Matter Flies Ahead of Normal Matter in Mega Galaxy Cluster Collision - www.caltech.edu
https://www.caltech.edu/about/news/dark-matter-flies-ahead-of-normal-matter-in-mega-galaxy-cluster-collision

Astronomers Witness Dark Matter Go Rogue in Epic Galaxy Cluster Collision : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/astronomers-witness-dark-matter-go-rogue-in-epic-galaxy-cluster-collision

アメリカ・カリフォルニア工科大学で天文学を研究しているエミリー・シリッチ氏らの研究チームは、アメリカ天文学会が発行する学術誌「The Astrophysical Journal」に掲載された論文で、「MACS J0018.5+1626」と呼ばれる天文現象の中で通常の物質とダークマターが異なる速度で移動したことを突き止めたと発表しました。

研究チームによると、ダークマターと通常物質の速度差が直接解析されたのはこれが初めてとのことです。

MACS J0018.5+1626では2つの巨大な銀河団が衝突しており、それぞれの銀河団に存在していた大量の星間ガスがぶつかりあって、過熱状態の乱流が形成されました。その影響で通常物質は減速しましたが、各銀河団のダークマターはほとんど減速せずにすり抜けていったので、通常物質とダークマターが引き離されることになりました。

以下の動画を再生すると、MACS J0018.5+1626で通常の物質とダークマターが分離する様子を描写したアニメーションを見ることができます。

Dark Matter and Normal Matter Decouple - YouTube

接近中の2つの銀河団では、ダークマターと通常の物質がまとまって動いています。

距離が近づくにつれて、ダークマター(青色)が通常物質(オレンジ色)に先行していきます。

ついに銀河団が衝突しました。このとき、ダークマターと通常物質は両方とも重力の影響を受けますが、通常物質は電磁相互作用などの影響でさらに速度が遅くなるため、この速度の違いによりダークマターと通常物質が離ればなれになりました。

この現象について、論文の筆頭筆者であるシリッチ氏は「砂を運搬していた2台のダンプが衝突する大事故を思い浮かべてください。ダークマターは、ちょうどダンプが積んでいた砂のように前方に飛んでいきます」と説明しました。

このような現象が観測されたのは今回が初めてではなく、特に有名なものとしては大小の銀河団が衝突してできた「弾丸銀河団」が知られています。

弾丸銀河団では、重力レンズ効果を利用して捉えた質量の分布(青色で着色)とX線を放つガス(赤色で着色)との位置にズレが生じており、これは「重力は作用するが観測は不可能な何らかの物質」、つまりダークマターの存在を示す直接的な証拠とされています。

弾丸銀河団とは異なり、今回の研究の対象となったMACS J0018.5+1626では衝突する銀河団のうち片方は地球の方向に、もう片方は地球から離れていく方向に動いています。

論文の共著者で、今回の研究の主任研究者であるカリフォルニア工科大学のジャック・セイヤーズ氏は、「弾丸銀河団を観測するのは、まるでカーレースを観戦しているようなもので、スタンドからは観客の目の前を横切るレーシングカーのスナップショットを撮影することができます。一方、MACS J0018.5+1626の観測はスピードガンを持ってコースにいるようなもので、こちらに向かってくる車の前に立ってそのスピードを測定できるわけです」と話しました。

銀河団のスピードを測るために、研究チームはスニヤエフ-ゼルドビッチ(SZ)効果と呼ばれる現象を利用しました。これは、宇宙マイクロ波背景放射の光が銀河団を通過する際に、高エネルギーの電子によって散乱する現象のことです。

銀河団が運動することによるドップラー効果を利用した運動的SZ効果を使うことで、研究チームは銀河団にある通常物質の質量の大半を占める高温のガス雲の速度を割り出すことができました。

一方、銀河団は巨大なので、銀河団同士が衝突してもほとんどの星々は相手の銀河団の天体と衝突したり、速度を変えたりせず、難なくすり抜けていきます。これは、ちょうど他の物体と物理的な相互作用をほとんど起こさないダークマターの動きと似ています。

これを利用することで、研究チームはMACS J0018.5+1626の通常物質とダークマターの速度の差を割り出すことができました。

by W.M. Keck Observatory/Adam Makarenko

今回の研究で得られた知見は、今後ダークマターの正体を調べていく上で強力なツールになると期待されています。シリッチ氏は「この研究は、ダークマターの性質についてのより詳細な研究の出発点です。つまり、私たちはダークマターの挙動が通常の物質とどのように異なるのかを直接的に調べる新しい探査装置を手に入れたわけです」と話しました。

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