★『破壊 ― HAPAX6』は15日頃発売。収録テクスト10篇については誌名のリンク先をご覧ください。今回もエッジの効いた粒揃いの内容で、鈴木創士さんの詩篇「帝国は滅ぶ」に始まり、フランスにおける労働法改悪反対運動をめぐる『ランディマタン』誌の二つのテクスト、さらに、ティクーン、ライナー・シュールマン、ジョン・クレッグらの翻訳や、『大学生詩を撒く』鎧ヶ淵支部、森元斎、友常勉、鼠研究会の各氏の寄稿が読めます。特にライナー・シュールマン(Reiner Schürmann, 1941-1993)の「アナーキーな主体として自己を自律的に形成する(抄)」(HAPAX訳、93-107頁)は思いがけない年末の贈り物でした。底本はおそらく、『PRAXIS International』誌第3号(1986年、294~310頁)かと思われます。
https://urag.exblog.jp/23458722/
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まもなく発売:篠原雅武『複数性のエコロジー』、稲葉振一郎『宇宙倫理学入門』、など
★まもなく発売となる、注目の近刊書を列記します。年の瀬だけあって、注目作が目白押しです。毎年恒例の「紀伊國屋じんぶん大賞2017」は、2015年12月~2016年11月末までに刊行された人文書が対象ですでに12月6日(火)で投票を締め切っていますので(発表は2月上旬予定)、以下の書籍は2018年の選考対象となるのですね。12月刊行分が次年度の選考対象になるのは「新書大賞」と同じで仕方ないことですが、率直な感想を言うと、編集者も書き手も年内刊行を目指して頑張るわけなので、年末にはそれなりに力作が揃うようになります。賞をあげるなら、12月で締めて、翌年1~2月でじっくり投票・選考して3月下旬に発表、新年度である4月からフェア展開、という方が望ましいような気もします。まあ新年度は何かと書店さんは忙しいので去年のことなんざもう構っているヒマはない、となるのが現実でしょうけれど、以下にご紹介する篠原さんや稲葉さんの新刊は大賞候補になっても不思議ではない本なので、翌々年に発表される頃には「けっこう前に発売した本」という印象を抱かれがちではあります。どの時期で区切ろうと同じような問題は起きうるとはいえ、年末の注目作を見逃すな、という作り手の側の思いは残るところです。『複数性のエコロジー――人間ならざるものの環境哲学』篠原雅武著、以文社、2016年12月、本体2,600円、四六判上製320頁、ISBN978-4-7531-0335-5
『宇宙倫理学入門――人工知能はスペース・コロニーの夢を見るか?』稲葉振一郎著、ナカニシヤ出版、2016年12月、本体2,500円、4-6判上製272頁、ISBN978-4-7795-1122-6
『破壊 ― HAPAX6』夜光社、2016年12月、本体1,300円、四六判変形並製204頁、ISBN978-4-906944-11-8
『吉本隆明と『共同幻想論』』山本哲士著、晶文社、2016年12月、本体4,500円、A5判上製546頁、ISBN978-4-7949-6947-7
★篠原雅武『複数性のエコロジー』は12日頃発売。篠原雅武(しのはら・まさたけ:1975-)さんは大阪大学大学院特任准教授(2017年3月まで)。本書はイギリスの哲学者ティモシー・モートン(Timothy Bloxam Morton, 1968-)のエコロジー思考と環境哲学を紹介する入門書でもありつつ、篠原さんの日常生活から生まれた問題意識の来歴および現在がそこにどう交差しているかが窺えて、お勉強臭くない、思わず惹きこまれるアクチュアルな五冊となっています。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。巻末には2016年8月18日から20日にかけてライス大学のモートン研究室で行われたインタヴューの記録が「ティモシー・モートン・インタビュー2016」(277~304頁)が併載されています。今後翻訳も増えていくであろうモートンさんについては、ブログ「Ecology without nature」やYouTubeでの彼の公式チャンネルをご参照ください。
★なお、篠原さんがモートンさんをはじめ、中村隆之さん、小泉義之さん、藤原辰史さん、千葉雅也さんらと対談した新著『現代思想の転換2017――知のエッジをめぐる五つの対話』が人文書院から来月下旬に刊行される予定だそうです。『複数性のエコロジー』とともに、要チェックではないかと思います。
★稲葉振一郎『宇宙倫理学入門』は23日頃発売。稲葉振一郎(いなば・しんいちろう:1963-)さんは明治学院大学教授。帯文を借りると本書は「宇宙開発は公的に行われるべきか、倫理的に許容されるスペース・コロニーとはどのようなものか、自律型宇宙探査ロボットは正当化できるか――宇宙開発のもたらす哲学的倫理的インパクトについて考察する、初の宇宙倫理学入門!」。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。宇宙植民を考えることは、それを支える技術(生命医療技術、ヒューマン・エンハンスメント、ロボット、人工知能)の考察とも切り離せないことを本書は教えてくれます。テレビ番組「やりすぎ都市伝説」での関暁夫さんの予告的紹介により思いがけず今後読者層を広げる可能性があるかもしれないスウェーデン出身の哲学者ニック・ボストロム(Nick Bostrom, 1973-)についても幾度となく言及されており、哲学や倫理学とは縁がなかった読者層でもこの分野(ポストヒューマン/トランスヒューマン)への関心が高まってほしいと期待するばかりです。
★『破壊 ― HAPAX6』は15日頃発売。収録テクスト10篇については誌名のリンク先をご覧ください。今回もエッジの効いた粒揃いの内容で、鈴木創士さんの詩篇「帝国は滅ぶ」に始まり、フランスにおける労働法改悪反対運動をめぐる『ランディマタン』誌の二つのテクスト、さらに、ティクーン、ライナー・シュールマン、ジョン・クレッグらの翻訳や、『大学生詩を撒く』鎧ヶ淵支部、森元斎、友常勉、鼠研究会の各氏の寄稿が読めます。特にライナー・シュールマン(Reiner Schürmann, 1941-1993)の「アナーキーな主体として自己を自律的に形成する(抄)」(HAPAX訳、93-107頁)は思いがけない年末の贈り物でした。底本はおそらく、『PRAXIS International』誌第3号(1986年、294~310頁)かと思われます。
★シュールマンと言えば、卓抜なエックハルト論『マイスター・エックハルトと彷徨の喜悦』(1972年)やハイデガー論『アナーキーの原理――ハイデガーと行為の問い』(1982年)、ジェラール・グラネル編の遺作『破壊されたヘゲモニー』などの著書で知られ、アムステルダムに生まれフランスや米国で活躍し、惜しくもエイズで早世した神父であり、ドイツ系哲学者です。翻訳を久しぶりに読めることは驚きですらあります。既訳テクストには以下のものがあったかと記憶しています。「道の大家、マイスター・エックハルト」(「神学ダイジェスト」23号、上智大学神学部神学ダイジェスト研究会、1971年9月、4~12頁)、「ハイデッガーをいかに読むか」(「創文」256号、創文社、1985年6月、18~20頁)、「自然法則と裸の自然――マイスター・エックハルトにおける思惟の経験について」(『明日への提言――京都禅シンポ論集』天竜寺国際総合研修所、1999年3月、369~408頁)。
★山本哲士『吉本隆明と『共同幻想論』』は17日頃発売。山本さんは先月、600頁を超える大著『フーコー国家論――統治性と権力/真理』(文化科学高等研究院出版局、2016年11月)を上梓されたばかり。山本さんが編集長を務めておられると聞く文化科学高等研究院出版局ではご承知の通り、吉本さんの『心的現象論』(愛蔵版:序説+本論、文化科学高等研究院出版局、2008年;普及版:本論、文化科学高等研究院出版局、2008年)、『思想の機軸とわが軌跡』(文化科学高等研究院出版局、2015年)などを刊行されており、吉本さんと山本さんの対談集『思想を読む 世界を読む』(文化科学高等研究院出版局、2015年)もあります。
★『吉本隆明と『共同幻想論』』の帯文はこうです、「なぜ今、吉本隆明の思想が必要なのか? 主著のひとつである『共同幻想論』を手がかりに、高度資本主義の変貌をつかみとり、「吉本思想」のエッセンスと現在性を伝える渾身の一冊。共同幻想国家論の構築へ――」。あとがきの最後で山本さんはこう述べておられます。「吉本思想の深みは、あらためて直面してみるとやはり並大抵ではないということです。同時に、『フーコー国家論』、『ブルデュー国家論』を共同幻想概念をもちこんで、明証化しました。この三部作で、マルクス主義的国家論を脱出する閾と通道が明示しえたとおもいます」(543頁)。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。『ブルデュー国家論』は続刊書かと思われます。なお、晶文社版『吉本隆明全集』は来月刊行予定の第3巻(1951-1953:日時計篇(下)/「日時計篇」以後/ほか)でもって第Ⅰ期全12巻完結とのことです。山本さんが詳細に論じられた『共同幻想論』は第10巻に収められています。
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★次に発売済の注目新刊をご紹介します。
『十年後のこと』東浩紀ほか著、河出書房新社、2016年11月、本体1,600円、46判上製224頁、ISBN978-4-309-02519-3
『現代思想2017年1月臨時増刊号 総特集=九鬼周造 -偶然・いき・時間-』青土社、2016年12月、本体1,800円、A5判並製246頁、ISBN978-4-7917-1334-9
『渡辺崋山書簡集』渡辺崋山著、別所興一訳注、東洋文庫、2016年12月、本体3,300円、B6変判上製函入496頁、ISBN978-4-582-80878-0
『地獄大図鑑 復刻版』木谷恭介著、復刊ドットコム、2016年12月、本体4,250円、B6判上製176頁、ISBN978-4-8354-5437-5
★『十年後のこと』は「文藝」誌2014年秋号と2016年秋号からまとめられた掌篇小説アンソロジー。帯文に曰く「明日を想像する人へ、35人の作家が想像する35の物語」と。収録作品については書名のリンク先をご覧ください。漫画家の方の作品も収められていますが、漫画ではなく活字ものです。人文系の書き手では東浩紀さんの「時よ止まれ」(初出「文藝」2014年秋号)を収録。封筒の中身、確かに読むのは辛いですけれど、読まずにはいられない気もします。
★『現代思想2017年1月臨時増刊号 総特集=九鬼周造』では、松岡正剛「面影と偶然性」、山内志朗「九鬼周造とスコラ哲学」、千葉雅也「此性をもつ無――メイヤスーから九鬼周造へ」、檜垣立哉「偶然性と永遠の今――現在性をめぐる九鬼と西田」、合田正人「九鬼周造の戦争――民族(フォルク)幻想とリズム」、ほか9篇の論考と討議1本を収録し、巻末には主要著作ガイドを配しています。九鬼の文庫新刊は今年、岩波文庫から2月に『時間論 他二篇』、8月に『人間と実存』が出ました。
★『渡辺崋山書簡集』は東洋文庫の第878番。年代順に、1831年9月~1837年12月「田原藩政復興と画作の抱負」、1836年12月~1839年3月「西洋事情への開眼と藩政改革の構想」、1839年5月~9月「蛮社の獄中期の苦悩」、1840年1月~12月「田原蟄居と新生の決意」、1841年1月~10月および遺書「再起の断念と自死への道」の全五部で、各書簡の現代語訳のあと部末に訳注と解説、原文は巻末にまとめるという構成。凡例によれば、底本は日本図書センター版『渡辺崋山集』の第3巻と4巻(1999年)。底本にない田原市博物館所蔵の書簡一通が新たに加えられています。訳注者の別所さんは巻頭の「はじめに」で「一国の利害を超えた"人の道"の尊重を訴えた崋山の言説は、今日も見直す価値がある」(8頁)としたためておられます。東洋文庫次回配本は1月、『乾浄筆譚2』と『徂徠集 序類2』とのことです。
★木谷恭介『地獄大図鑑 復刻版』は、復刊ドットコムによるジャガーバックスシリーズ復刻の第5弾です。1975年当時の値段に比べれば恐ろしく高いですが、それでも古書を買うよりかはお得です。主要目次は以下の通り。「日本八大地獄――地獄のきわめつけ」「地獄への道――死者のたどる道は?」「死者の国――昔の人はこう考えた」「東洋の地獄――日本の地獄のみなもと」「キリスト教の地獄――ダンテによる集大成」「世界の地獄――各国の地獄をめぐる」「大ゆかいまんが 地獄に落ちた三人」「巻末特別ふろく 最新版地獄案内」。ページサンプルは書名のリンク先でご覧になれます。予約特典はオリジナル「2017地獄カレンダー」(A3サイズ・四つ折)で、おどろおどろしい赤黒い絵に「まさに地獄。」という文字が躍るシュールなものとなっています。
★なお、復刊ドットコムによるジャガーバックスシリーズ復刻の次弾は2月中旬刊、中西立太著/小林源文イラスト『壮烈! ドイツ機甲軍団 復刻版』だそうです。本体3,700円、予約特典はオリジナルポストカード。今までのラインナップとジャンルが違いますから売れ方も異なるのだろうと思われます。
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