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注目新刊:ハマー『アルカイダから古文書を守った図書館員』紀伊國屋書店、ほか
『新訳ベルクソン全集(7)思考と動くもの』竹内信夫訳、白水社、2017年6月、本体4,100円、4-6判上製368頁、ISBN978-4-560-09307-8
『西洋の没落(Ⅰ)(Ⅱ)』シュペングラー著、村松正俊訳、2017年6月、本体1,800円/1,600円、新書判並製384頁/288頁、ISBN978-4-12-160174-2/ISBN978-4-12-160175-9
『なぞ怪奇 超科学ミステリー 復刻版』斎藤守弘著、復刊ドットコム、2017年6月、本体3,700円、B6判上製218頁、ISBN978-4-8354-5492-4
★『ハイデガー『存在と時間』を読む』の原書は『On Heidegger's Being and Time』(Routledge, 2008)。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。ニュー・スクール・フォー・ソーシャル・リサーチにおけるクリッチリーとシュールマンの講義をレヴィンがまとめて、まえがきを付したものです。何と言ってもシュールマン(Reiner Schürmann, 1941-1993)のハイデガー講義(1978年、1982年、1986年)をまとめて読めるようになったことが嬉しいです。シュールマンには主著であるハイデガー論『アナーキーの原理』やエックハルト論、大部の遺稿集などがあり、いずれも未訳ですが、これをきっかけに日本語でもいずれ読めるようになればと願わずにいられません。
★『西洋の没落(Ⅰ)(Ⅱ)』は、五月書房の縮約版の再刊。巻末の編集付記によれば「1976年に五月書房さから刊行された『西洋の没落』(縮約版)を底本とし、新たな解説を作品の前に付した。割注は訳者に拠る」と。新たな解説というのは第1巻巻頭に掲載された板橋拓己(成蹊大学教授)による「時代が生んだ奇書」のこと。訳者は1981年に死去されています。本文の改訂の有無についてですが、同付記によれば「明らかな誤字・脱字は訂正した。固有名詞や用字・用語については初版の表記に拠った」とあります。縮約版ではなく完全版が再刊されたらよかったのに(五月書房が廃業されているため新本での入手はできません)とも思いますが、親本は46判上下巻で1200頁を超える大冊なので、中公クラシックスに入れるには大きすぎたでしょうか。
★『なぞ怪奇 超科学ミステリー 復刻版』は「ジャガーバックス」に続いて復刊ドットコムが再刊に着手した「ジュニアチャンピオンコース」の第一弾。初版は1974年。個人的には「ジャガー」よりこちらのシリーズの方が好きで、しかも一番印象に残っている本書が復刻され、嬉しくてたまりません。頁をめくると脳裏の深い場所から記憶がまざまざと蘇ってくるのを感じます。どのイラストも写真もくっきりと思い出に一致して、どれほど自分がこの本に強い印象を抱いていたのかが分かります。送料も含めると4000円超えにはなりますが、満足です。強いて言えば、原本とは製本に差があって、ノドの開きに物足りなさを感じます。これは以後、何とか改善されればと願うばかりです。それにしても子供時代の本を大学生の頃に一挙に廃棄してしまったのは失敗だったなと今さらながらつくづく悔やまれます。
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★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。
『人類はなぜ肉食をやめられないのか――250万年の愛と妄想のはてに』マルタ・ザラスカ著、小野木明恵訳、インターシフト発行、合同出版発売、2017年6月、本体2,200円、46判並製320頁、ISBN978-4-7726-9556-5
『現代思想2017年7月臨時増刊号 総特集=築地市場』青土社、2017年6月、本体1,600円、A5判並製254頁、ISBN978-4-7917-1347-9
★『アルカイダから古文書を守った図書館員』の原書は『The Bad-Ass Librarians of Timbuktu: And Their Race to Save the World's Most Precious Manuscripts』(Simon & Schuster, 2016)です。イスラム原理主義者はこれまで他宗教や多文化の遺跡や歴史的遺物の破壊を繰り返してきましたが、彼らのターゲットには古文書も含まれています。本書は西アフリカ・マリ共和国で37万点もの貴重書をアルカイダ系組織から守った図書館員アブデル・カデル・ハイダラの活躍を伝えるノンフィクションです。危険を察知したハイダラの機転により、トンブクトゥの図書館から1000キロ離れた首都バマコまで古文書が移されたお蔭で、被害は拡大せずに済んだと言います。イスラム原理主義者の行動範囲がイギリスやフランスまで広がりつつあるこんにち、この先に起こるかもしれない新たな悲劇のことを強く危惧せざるをえません。
★『人類はなぜ肉食をやめられないのか』の原書は『MEATHOOKED: The History and Science of Our 2.5-Million-Year Obsession with Meat』(Basic Books, 2016)です。目次および解説は書名のリンク先をご覧ください。肉食の長い長い歴史をひもとき、なぜ人類は肉を食べるのか好きなのかを解き明かします。それは「古代の細菌が他の細菌の「肉」の味のとりこになったときから始まっている」(14頁)というのです。そして「肉食は、人類がアフリカから外に出るのを後押ししただけでなく、(人類の親戚であるチンパンジーに比べて)体毛が薄くなり大量の汗をかくようになったことにもかかわっているのだ」(同)そうです。本書ではさらに食肉不足が予想される近未来を展望し、「肉のない世界」(296頁)での栄養転換について説明しています。「肉の消費を大幅に減らさなければ、地球温暖化や水不足、環境汚染に直面する可能性が著しく高くなる」(301頁)と著者は警告しています。
★『現代思想2017年7月臨時増刊号 総特集=築地市場』は中沢新一さんによる責任編集。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。中沢さんご本人は、伊東豊雄さんとの徹底討論「「みんなの市場」をめざす」「夢にあふれた近代建築――『東京市中央卸売市場築地本場・建築図集』を読む」を行い、仲卸業者の中澤誠さんへのインタヴュー「天才的な築地市場」を手掛けられているほか、巻頭言や論考2篇「築地市場の「富」」「築地アースダイバー」(図版協力=深澤晃平)を寄稿しておられます。「築地アースダイバー」で中沢さんはこう書いておられます。「築地市場のユニークさは、物流センターとしての機能だけに限定されない。仲卸の中心にしてかたちづくられてきた「中間機構」の中に、味覚をめぐる莫大な量の身体的暗黙知が蓄積され、それがいまも健全な活動を続けている。〔・・・〕築地市場は我々の宝物である。そしてなによりも築地市場には未来がある。この未来を絶ってしまってはならない」(39-40頁)。これがノスタルジーなどではないことは本特集号の内容がよく示しています。
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