限界集落に「世界一美しいコンビニ」 国際的デザイン賞をW受賞
拡大する 黄色いY字形の鉄骨が印象的な未来コンビニ。地元特産のユズ畑をイメージしている=徳島県那賀町木頭北川、吉田博行撮影
徳島県の山あいの「限界集落」にあるコンビニエンスストアが、国際的なデザイン賞を相次いで受賞し、注目を集めている。その名は「未来コンビニ」。買い物支援を目的に設置されたが、ガラス張りの外観やY字形の黄色い鉄骨が映える斬新なデザインが特徴で、「世界一美しいコンビニ」と、観光客も多く立ち寄る。
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未来コンビニがあるのは徳島県那賀町木頭(きとう)地区。標高千メートル級の山々に囲まれ、「四国のチベット」とも呼ばれる。
2017年に閉校となった小学校の敷地に昨年4月にオープン。地区を東西に貫く国道に面したガラス張りの店内には陽光が注ぎ、周囲の山々を見渡せる。屋外のテラス席にたたずむと、近くを流れる那賀川のせせらぎが聞こえてくる。Y字形の黄色い鉄骨は、地元特産のユズの畑を思わせる。
商品棚には、弁当やおにぎり、サンドイッチ、菓子などのコンビニ定番商品のほか、総菜や冷凍した肉や魚なども並ぶ。お年寄りや子どもも手に取りやすいよう、商品棚は低く設計されている。
店内奥にはカフェスペースもありイートインも可能。店外には水はけのよいウッドチップが敷き詰められ、自然と一体化するように工夫されている。
昼時になると地元のお年寄りや観光客らが買い物や休憩にやってくる。農作業の合間に訪れた60代と70代の女性2人組は、菓子パンやコーヒーなどを買い、カフェスペースでおしゃべりしながら昼食を取っていた。「今まで買い物は街中のスーパーまで車で片道1時間くらいかけて出かけていた。近くにきれいなコンビニができて便利になった」
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バイクでツーリング中に訪れた香川県さぬき市の調理師、宮内勇仁(はやひと)さん(52)は「前から変わった建物があるなと気になっていた。実はコンビニで、世界的なデザイン賞を受賞したと聞いて見に来た」。
今年8月、「自然との共生」をテーマにした店のデザインや持続可能性への配慮などが高く評価され、世界三大デザイン賞の一つとされる「レッド・ドット・デザイン・アワード」のリテール(小売り)デザイン部門で、最優秀賞「ベスト・オブ・ザ・ベスト」を受賞。
また同月には、広島平和記念資料館が受賞したこともある国際的な建築デザイン賞「ICONIC AWARDS 2021」の建築部門で2番手となる「Winner」にも選ばれた。
木頭地区はかつて林業で栄えた。2005年に近隣4町村と合併するまでは「木頭村」。那賀町によると、1985年当時の村の人口は2364人だったが、今年3月末時点の地区の人口は半数以下の1063人。高齢化率59%の「限界集落」だ。
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集落で暮らす「買い物難民」を支援しようと、キャンプ場の経営や特産の木頭ユズの加工販売など地方創生に取り組む企業「KITO DESIGN HOLDINGS」グループが昨春に店をオープン。地域で生まれた子どもたちが未来への刺激を受けられる場となるようにと、「未来コンビニ」と名付けられた。
店長の小畑賀史(よしふみ)さん(37)と20~50代の地元スタッフら計7人で切り盛りする。昨春のオープンから今年8月末までで、来店者数は約4万人に達した。
小畑さんは「初めは地元客が多かったが、昨秋ごろから紅葉見物の途中に立ち寄る観光客も増えた。デザイン賞の受賞を知って県外から見に来る人もいて、週末になると、店の駐車場がいっぱいになる日もある」と胸を張る。観光客には、ユズのソースをトッピングしたソフトクリームなどが人気という。
木頭地区の地域おこし協力隊などを経て、スタッフとして働く植木弥生さん(39)は、接客やおすすめ商品を住民に知らせるチラシづくりに励む。カフェスペースの本棚に、子ども向けの絵本なども用意。「コロナ禍でなかなか実現できなかったが、絵本の読み聞かせ会なども企画して、地域の子どもたちが集まれるコンビニにしたい」と意気込む。(吉田博行)
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