2021年11月3日水曜日

ピエール・ジャネ (Pierre Janet、1859~1947)



…フロイトは学説の優先権争いに関しては複雑なものがあり必ずしも率直に語ってはいない。
たとえば『ヒステリー研究』はピエール・ジャネ(Pierre Janet、1859年5月30日 - 1947年2月24日)との争いだったし(フロイド選集版に詳しい)、それだけでなく、例えば、「マゾヒズムの経済的問題」(1924)に関しては、ジャネの『心理学的医療』 (1919)や『心理学的医学』(1923,邦訳あり)に似た発想(心理的経済)が既にある。また、後期フロイトはリビドーに代表される生理学から離れ、心理学を社会的に位置づけるようになるが、これもジャネがすでに行っていたことだ。しかもフロイトは『モーゼと一神教』で心的外傷モデルというジャネの理論を援用している。

「快感原則の彼岸」1920に代表されるフロイトの経済論的なメタ心理学は、1915年「欲動とその運命」「抑圧」から始まる。
ただしジャネの『心理学的自動症 ― 人間行動の低次の諸形式に関する実験心理学試論』L'automatisme psychologique(松本雅彦訳, みすず書房, 2013)はそもそも原著が1889年だ。

心理学的自動症―― 人間行動の低次の諸形式に関する実験心理学試論 単行本 – 2013/4/20

P・ジャネはフロイトと同時代に活躍し、下意識、解離などの概念を発見して精神医学の基礎を築いた。
20世紀後半、心的外傷とPTSDの関係が注目されてからその仕事が見直され、北米を中心に深い影響を与えることになる。
本書はジャネの主著で、「新しい力動精神医学の体系を打ち立てた記念碑的著作」(エランベルジェ)。
精神医学の「最後の古典」だ。
「自動症」とは、私たちの意思のコントロールを離れて、観念や行動がひとりでに立ち現れてくる心理現象のこと。
おもにヒステリー患者に現れるこれらの病態を分析し、ジャネは意識の下層にある「無意識の存在」に辿りつく。
症例分析が「心理学」に結実していく過程がまざまざと記述される。
心理学があくまで個々の症例の上にあることを実証する本書は、精神病が「症状」ではなく、人間全体の病であることを教えてくれる。
心理学の誕生を告げる基本文献、待望の翻訳。


ピエール・ジャネ - Wikipedia

ピエール・ジャネ

ピエール・ジャネ

ピエール・ジャネ(Pierre Janet、1859年5月30日 - 1947年2月24日)はフランス心理学者。1898年からソルボンヌ大学講師、1902年からコレージュ・ド・フランス教授を務めた。

1859年にパリリュクサンブール宮殿公園近くのマダーム街46に生まれる。ポール・ジャネの甥であり、弟にジュール・ジャネがいる。サント・バルブ・デ・シャン学院で初等教育を受ける。15歳でうつ病となる。その後うつ病と闘病となる。1878年バカロレア(大学入学資格試験)に合格、1880年に文学士。1881年、科学系の大学入学資格者の資格を得て1882年に哲学教授資格試験に合格(2位)、ジャン=マルタン・シャルコーの下で催眠療法の研究に従事する。解離について研究。1887年心的外傷の意味で : traumaトラウマ)という術語を造語しトラウマ記憶の感覚、知覚、感情、再上演行動(reenactment)なども研究。ジークムント・フロイトより先に無意識を発見したとも言われる。またカール・グスタフ・ユングにも講義し影響を与えたとされる。1947年、パリで死去。

主な著書

  • 『心理自動現象』(L'Automatisme psychologique)(1889年
  • 『ヒステリー患者における精神障害の研究への寄与』(Contribution à l'étude des accidents mentaux chez les hystériques)(1893年
  • 『神経症と固定観念』(Névroses et idées fixes)(1898年
  • 『強迫観念と精神衰弱』(Les Obsessions et la psychasthénie)(1903年
  • 『神経症』(Les Névroses)(1909年
  • 『心理学的医療』(Les médications psychologiques)(1919年
  • 『心理学的医学』(La médecine psychologique)(1923年
  • 『不安から恍惚へ』(De l'angoisse à l'extase)(第1巻 1926年、第2巻 1928年
  • 『心理発達の諸段階』(Les stades de l'évolution psychologique)(1926年
  • 『内的思考とその障害』(La pensée intérieure et ses troubles)(1927年
  • 『記憶の進化と時間観念』(L'évolution de la mémoire et la notion du temps)(1928年)
  • 『人格の心理発達』(L'évolution psychologique de la personnalité)(1929年
  • 『心理的強さと弱さ』(La force et la faiblesse psychologique)(1932年
  • 『愛と憎しみ』(L'Amour et la haine)(1932年)
  • 『知性のはじまり』(Les débuts de l'intelligence)(1935年
  • 『ことば以前にある知性』(L'intelligence avant le langage)(1936年

近年の邦訳書・再版

  • 『心理学的医学』La medicine psychologique (松本雅彦訳, みすず書房, 1982)
  • 『症例マドレーヌ ― 苦悶から恍惚へ』De l'Angoisse à l'extase. Études sur les croyances et les sentiments (松本雅彦訳, みすず書房, 2007)
  • 『被害妄想 ― その背景の諸感情』Les sentiments dans le délire de persécution (松本雅彦訳, みすず書房, 2010)
  • 『解離の病歴』Cinq observations qui présentent la 'dissociation' (松本雅彦訳, みすず書房, 2011)
  • 『心理学的自動症 ― 人間行動の低次の諸形式に関する実験心理学試論』L'automatisme psychologique (松本雅彦訳, みすず書房, 2013)

関連項目

外部リンク

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