2021年8月20日金曜日

森と空と湖に溶け込む サウナで味わう最高のぜいたく | 朝日新聞デジタルマガジン&[and]

森と空と湖に溶け込む サウナで味わう最高のぜいたく | 朝日新聞デジタルマガジン&[and]

森と空と湖に溶け込む サウナで味わう最高のぜいたく

フィンランドの人たちが大好きなサウナ。自然のなかで楽しむサウナの真骨頂は、体を温めた後に待っているのだそうです。

四季の美しい自然、アートやデザインを楽しむ暮らし。ライターの内山さつきさんが、フィンランドで日々を豊かにするヒントを見つけ、"幸せ"を感じたスポットや人々の営みを紹介します。

フィンランドの生活に欠かせないサウナ

フィンランドと言えば「サウナ大国」で、フィンランド人は自他共に認めるサウナ好きの人々だ。フィンランドに通うようになったきっかけがトーベ・ヤンソンの小説だった私は、正直に言うと最初のうちは、サウナに対してそれほど関心があったわけではなかった。

けれど、フィンランドには人口約540万人に対し300万ものサウナがあると推定されていて、個人宅や集合住宅、ホテルはもちろん、国会議事堂や、時には観覧車の中にまでサウナが作られているということを知るにつれ、どんどん興味をそそられていった。

薪サウナ
薪(まき)サウナの内部。木のおけに入っているのはシラカバの枝で作ったヴィヒタ。これで体をたたくと血行促進の効果があると言われている

まず、フィンランドの人は、サウナの話をするとき、みんなとてもうれしそうだ。トーベ・ヤンソンの島の滞在取材をサポートしてくれたフィンランド人の友人に、小屋の地下室にあったサウナに入った話をすると、途端に目をキラキラさせて、「よくやったね!」とほめてくれた。「自分たちでサウナをたいたのね! もちろん海にも入ったよね? やったわね!」と、まるで自分のことのように喜んでくれたのだった。

島のサウナも気持ちが良かったが、その時はまだビギナー中のビギナー。「フィンランドのサウナ」の本当の良さを分かってはいなかったと思う。フィンランドのサウナの真骨頂は、サウナで温まった後に湖や海で泳ぐ時間にあるのだと、通ううちに知るようになった。そしてそれは、これ以上ないくらいにぜいたくなひとときだということも。

煙
薪サウナの煙突から立ち上る煙

夏になると、湖畔(こはん)のサマーコテージで過ごすことの多いフィンランドの人たちだが、サマーコテージにはもれなく(と言っていいと思う)サウナがある。フィンランドではかつて家を建てるときには、まずサウナから始めたという。サウナではストーブで料理したり、お湯を沸かしたりすることができ、着替えのための部屋で眠ることもできる。つまりそこで簡単な暮らしができてしまうというわけで、前述の友人もサマーハウスを作るときにはまずサウナ小屋を建て、そこに滞在しながら母屋をゆっくり整えていったそうだ。

サウナには大きく分けて電気加熱式サウナ、薪サウナ、スモークサウナがある。スモークサウナは最も伝統的でフィンランドらしいと言われるサウナだけれど、ストーブの煙を屋外に逃さずにいったん閉じ込めてサウナを温めるので、時間とテクニックが必要だ。室内が十分温まったら、煙を排出してようやく人が入れるようになるのだが、大きなストーブに薪をくべる時間は、場合によっては半日以上にも及ぶという。

スモークサウナ
こちらはスモークサウナ。扉の内側が黒くすすけている
スモークサウナ
スモークサウナの内部。スモークサウナはフィンランドでも貴重な存在

対して薪サウナは、ストーブを温める際に煙突から煙を排出するので、スモークサウナよりは手間がかからない。また近年では、都市部を中心に実際に火をおこす必要のない、電気式のサウナが普及している。

頻度は人によって異なるけれど、週に何回かはサウナに入ってあたたまることは、フィンランドの暮らしで欠かせないもののようだ。興味深いのは、夏至祭やクリスマスなど、お祝いの日にも体を清めたり、リラックスしたりするためにサウナに入る人が多いこと。

ヴィスタ
ヴィヒタは常に使うものではなく、ちょっとしたぜいたく&おもてなし品。地方によってはヴァスタとも呼ばれている

ちなみに三つのサウナの違いを個人的に比較すると、スモークサウナはやはり格別だと思う。すすけた壁でサウナの中は薄暗く、窓から淡く差し込む光で人の顔がうっすらわかる程度。この暗さが、不思議な安心感を生む。熱気はしっとりとやわらかく、ほのかに炭の匂いがする。

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