「失敗学講演の旅」 第10回: 御巣鷹山慰霊登山(Part 3)
先ほどの124号線を長野方面に少し戻ると、道路標識が左"御巣鷹の尾根"と示していてすこぶるわかりやすい。 群馬県側124号線よりもこちらの枝道の方がよく整備されており、片側一車線ながらも通りやすい。 ただしやたらトンネルが多く、それも結構曲がったものもあった。中で道が曲がったトンネルも珍しい。 運転の緊張レベルが少し上がった。後で調べると、尾根に向かって下から、"三岐トンネル"、 "浜平トンネル"、"虎王トンネル"、"長岩トンネル"、"手水トンネル"、"琴音トンネル"とそれぞれユニークな命名がされていた。
目的の駐車場が近くなると、カーブの途中や道のここそこで路駐の自動車に出くわして驚いた。 なるほど、早朝到着して駐車場からあぶれた車だなとわかった。それほど混雑していたのかと思うと、 時間を外して遅く到着して良かったと改めて思った。やがて、第1駐車場に到着。標識のT字路から10キロほどのところである。 慰霊登山当日の8月12日だけだろうか、係員が駐車場内の交通整理を行っていた。誘導に従い、車を停めて我ら一行9名が勢ぞろいした。
そこから登山が始まるのかと思うとそうではなく、その日だけは人が多いので、 無料送迎バスで第1駐車場と第2駐車場の間をピストン輸送をしているのだという。既に1台ドアを開けて待っていたので、 とりあえず乗れるだけ乗った。先に乗ってバスがいっぱいになるのを待っていた人たちもいたので、自然2台に分乗の形になった。
"暑いね。ご苦労さんです"と奥に座席を陣取っていたねじり鉢巻の御仁が話しかけてきた。
"まったくよお。ジャルが屋外用エスカレーターでも作ってくれりゃあいいのによ。 これじゃあ、上にたどり着く前にこっちが怪我しちまうよ"
と僕らに話しかけるでもなく、でも聞こえるようにしゃべっていたかと思うと、今度はこちらを向いて、
"前は上の駐車場がなくって大変だったんだからあ。この道も山に登るためではできなかったんだ。 道つけるために、わざわざこのダムを造ったんだ。ダムがありゃあ道をつけていいんだとよ。まったくどうなってんだかね"
僕らも運がいい。話し好きのこのおじさんと乗り合わせて思わぬ情報を仕入れることができた。 慰霊の園にあった古い地図では、登山口から昇魂の碑まで2キロとあったのは、下の第1駐車場からのこと。
やがて到着した第2駐車場は一回り小さく、明らかにわかる登山口が見えた。
"ほんとにこの山道は危ないから気をつけてくださいよ"と先ほどのおじさん、
"はい、ありがとうございます"とこの時までには僕らも幾分打ち解けていた。後からわかったのだが、このおじさん、 お揃いのT-シャツを着た子供達を10人ばかりだろうか、引き連れた遺族の方だった。 事故当時は生まれてもいなかったと思われる世代に、忘れてはならないことを伝えていく。 それを実践されていた姿に思わず脱帽した。


登山口の両脇には、登山者用に杖がたくさん置いてあった。僕が手にしたのには、 その杖を作ってくれたのだろう、作者のメッセージと名前が書いてあった。全く見ず知らずの小学生の女の子に力づけられた。 案内図には、その第2駐車場は標高1359メートル、昇魂の碑までおよそ800メートル、標高差180メートルとあった。 東京駅、新丸ビルくらいの高さを登ることになる。
登山口からほぼ平坦な道をしばらく行くと、山の清流が顔をのぞかせる。行きに水を飲むと行程がきつくなる。 ここは我慢して帰りに飲んでみたら、冷たくておいしい。小学生の時訪れた、伊賀地方の赤目四十八滝を思い出した。
やがて山道はつづら折れになり、容赦ない傾斜を見せ始めた。 学生時代、体育会系で山登りをしていた上田さんと、日頃から歩くことが趣味の児玉さんは健脚に物を言わせていつの間にか見えなくなっていた。 始めのうちは、時折休憩しながらゆっくり組を待ったりしたが、その余裕もなくなり、マイペースでひたすら昇魂の碑を目指すことになった。 2週間前からエクササイズマシンで鍛えたと思ったのに、付け刃はもろくも崩れ、視界が広がった碑の前の広場に着いたときは顎が出てベンチに座り込んでしまった。


しばらく休憩していたら、少し離れたところで人垣ができていた。後から聞いたところによると、 日航の社長さんがインタビューを受けていたらしい。そういえば、その日は福知山線事故、明石市歩道橋事故の犠牲者のご遺族もこの慰霊登山をされていたとのこと。 いろんな人がいろんな動機を持ってその日、御巣鷹山の尾根に集結した。僕らはなぜこの慰霊登山に参加したくなったのだろうと改めて考えをめぐらせた。 山崎豊子さんの 『沈まぬ太陽』第3巻御巣鷹山編、今年の失敗学会大阪夏の大会 (


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